五十三話 破魔成涼/ハマナス
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アシュラは踏み込みもう一度奴の顔面を狙って攻撃を仕掛ける。
だが簡単に攻撃はいなされ、後方に回られる。
「力もある。努力も伝わる。だが圧倒的に実戦経験が足りなすぎる……。これじゃあ、当たる攻撃も当たらないぞ?」
「うっさい!分かった気になって喋らないでください!」
アシュラはめげずに攻撃を繰り出し続け攻め続ける。
だがそれも全てを避けられ何も変わらない。
「分かった気になってるんじゃない。分かるんだよ。僕にはな。そういうヤツらを僕は沢山見てきた。そしてそういうヤツらは全員僕が叩き潰してきたんだから。君もその内の1人になるんだよ」
「だから、黙ってて!!」
スコルの安っぽい挑発に乗りむきになったアシュラはさっきよりも勢いのある一発を繰り出す。
その拳は見事にスコルの顔面を捉えた。
と思われた。
アシュラの拳が当たる瞬間、スコルの体は水のように溶けてなくなったのだ。
「!?」
まさかの出来事に驚くアシュラ。
「だから無駄だよ。この位で驚いてるようじゃ、この世界じゃ生きてはいけない。つまり僕にも勝てないって事だよ。分かっただろ?」
スコルの声がどこからか聞こえてくる。
アシュラは辺りを見渡すがそれらしい姿は見つけられない。
しかも大雨の影響で辺りを見回す事さえろくにままならない状況が続く。
アシュラを襲う雨は次第に強なっていくばかり。
「諦めたらどうだい?君がそうやって負けを認めるなら僕はこれ以上君を攻撃はしない。君を襲うこの大雨も直ぐに止めてあげよう。気づいてるかもしれないがこの雨も僕の魔法の一部なんだ。この雨に力はない。だけどね雨が降り続ける限り僕は殆ど無敵な状態でいられるんだ。それにただの雨だって長い間濡れ続ければ体力だって奪われる。このまま悩んでいたって君にいい状況は訪れないんだ。君に残された選択肢は1つだけ。もう悩む必要なんかこれっぽっちもないだろ!」
「……最初から悩んでなんていません」
「そうか…ならば」
「私の選択肢はいつも1つだけ。やれる事をやれるだけやる。それしかないの。そのために私は目の前のアナタから逃げはしない」
「言うじゃないか。一応君にもプライドってものがあったみたいだ。だったらそのプライドを守った事僕が後悔させてあげるよ!」
水溜りだらけの足元から突如としてスコルは姿を現す。
アシュラは驚き僅かに反応が遅れる。
スコルはアシュラの足を引っ張り地面に倒すと、倒れたアシュラの顔を蹴っ飛ばす。
そのまま倒れたアシュラに目掛けてスコルが手を銃のような形で構える。
「バイバイだ」
銃のように構えられた手からは、降り注ぐ雨が一つの弾のように形を変えて放たれる。
ドンッ!!
アシュラの心臓目掛けて放たれた水の弾は体に触れた途端弾け飛ぶ。
「おおっ!?」
思わぬ弾道を見せる雨の弾。散弾のように弾け飛ぶ雨の弾をスコルは急いでただの雨に戻し難を逃れる。
「なんだ今のは?あんな動きは想定外だ……」
その隙にアシュラは立ち上がり一度距離をとる。
当たった部分は特攻服の一部分。
特攻服にはあらゆる魔法攻撃を無効化する能力があるので、その能力を受けた魔法で作られた雨の弾に変化が起こりあのような状態になったと考えられる。
アシュラは当たった部分を摩り怪我の状態を確認する。
「僕の攻撃を受けて怪我で済むとはね…驚きだよ。それにあの動き。僕の魔法が何かに関与されたとしか考えられない。そうじゃなきゃ今の動きに説明がつかないからね。…例えば君が着ているその派手な服。もしかしてそれに秘密があるんじゃない?気になるな〜、僕に見せてくれよ」
「…イヤです、お断りよ。(だけどこの雨のせいで特攻服が水を吸って大分重くなってきてる。このままじゃ動きづらいから脱げるなら脱ぎたいけど、脱いだらあの攻撃は耐えられない…)」
「だったら力づくで奪わせてもらう!!」
再びスコルは水のような液状になり雨に溶け込む。
アシュラを襲う雨粒のように、様々な箇所から雨に擬態してアシュラを攻撃し続ける。
アシュラはとにかくスコルからの攻撃を耐え続ける。
そのおかげもあってか攻撃時僅かにスコルの体が実体化する瞬間が目視はできた。だからといってどうする事もできないのだが……。
「ぐっ……(特攻服のお陰で耐えられてるけど、もうヤバいかも……やっぱり私って……弱いな)」
アシュラの体がふらついた瞬間、スコルがアシュラの目の前で姿を見せる。
アシュラの体に手を銃の形で突きつけるとそのままゼロ距離で魔法を放つ。
特攻服に染みて溜まった雨が一つの衝撃としてアシュラを襲う。
「うわぁぁぁっ!!……」
もろに喰らってしまったアシュラは倒れ込む。なんとか特攻服の僅かに残った能力がアシュラを死からは救った。
だが、大ダメージに変わりはなくアシュラは立つことができない。
アシュラの上に乗っかったスコルは額に手を銃のように突きつける。
絶体絶命のピンチが訪れるアシュラ。覚悟なんかとっくに決まっている。
だが……
「よく頑張った方じゃないか?…面白みはあった。だけどそれだけだね…もっとなんかさ、僕みたいに個性ってのが足りないんじゃないかなぁ?」
「……(そんなのは自分が1番よく分かってる!遥さんみたいに強いわけでも、サシミみたいに特別足が速いってわけでもない。かといってアイツのように性格が変わってるってわけじゃない。この男が言う通り、私は天才でもなければ、変人でもないし、凡人でもない。全部が中途半端で可はないが不可はある。そんな人間なんだ、私は……)」
「何か言い残したい事はあるかい?最初で最後の機会なんだ、無駄にしない方がいい」
「……別に」
「そうか。なら終わりにしようか?安心しろ、これ以上痛みは感じさせない」
「……(あ、私、本当に死ぬんだな……。この世界に来て活躍といった活躍はなかった。何も変わらない。異世界に来てもそんな私らしさは変わらなかった。結局、全部無駄だったんだ……。こんな自分が嫌で、何かに変わりたくてこうやってこの道を選んだはずなのに……これで本当に終わりなのか?私……)」
死の淵に立たされたアシュラ。
その時、走馬灯のように自分のやってきた事が流れるように思い出される。
それを思い出してる間だけはまるで時間が止まっているかのようだった。
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