五十二話 孤流血咬夢/コルチカム
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アシュラ視点
現れた別れ道を真っ直ぐに進むアシュラ。
ひたすら続く長い一本道をとにかく歩き続ける。
黙々と歩き続けると、城の中、室内とは思いないくらい自然が溢れ、先が見渡せないほど広大な場所に出た。
上を見ても屋根は無く、見えるのは雲一つない清々しい青空だけ。
「なんなのここ、本当に城の中なの?」
アシュラはとにかく歩き続ける。
この先に何かがあると信じて。
しばらく歩き続けていると、なんだか天気が徐々に天気が悪くなっているように感じる。
雲ひとつなかったはずの空は曇りへと変わり時間が経てば経つほど天気がどんどん悪くなっていく。
やがて室内の筈のこの場所にも雨が降り出す。
雨はどんどん強くなっていきアシュラを襲う。
「ウソでしょ!!…なんでこんなことになるのよー!!」
アシュラは慌てて走り出し、なんとか雨を凌げそうな場所を探す。
雨に打たれながらも進み続けると、目の前突如として傘をさしている男性が現れる。
その男の方手にはもう一本傘を使わずに持っている。
それを見たアシュラは怪しがりながらも声をかける。
「あの!、そこのお兄さん!!」
すると要件を伝えずとも男は傘をアシュラに投げ渡す。
「あ、ありがとうございます!」
受け取ろうと手を伸ばすと、投げられた傘はまるで槍のようにアシュラを狙って飛んでくる。
「ええ!?」
ヒヤッとしたアシュラは身体をブリッジのように曲げてそれをギリギリの所で回避する。
もしもアシュラが避けるのに失敗していれば、傘の鋭利に尖った先が頭に直撃にしていたことだろう。
「ちょっと!!何するんですか!!」
「あーあ。やっぱり楽は出来ないか……。まぁ、結局は僕がやるんだから全部一緒か」
「どういうこと?」
「言わなきゃ分からないのかい?君が置かれている状況とこのタイミングを考えれば自ずと答えは導き出されるはずだ」
「やっぱり敵ってことですね」
「そうだよ。ご名答。十中八九大正解だ!おめでとう。君がそのくらい最低限の頭脳は持ち合わせていたみたいで非常に助かったよ。悲しいけど話が通じないバカもこの世には実際に存在するからね」
「……別に嬉しくなんかありません。それにアナタが敵だと分かったのならこれ以上話す必要はありませんよね?」
「そうだねー。確かにそっちの方がはるかに効率的だ」
「でしたら…」
「でも別に頭が良いって訳じゃない。君がここにいる時点で既に最効率な手段は無くなってしまったのだから。本当に頭がいいのならこんな所に来る必要なんかなかった筈だ。見え見えの警備は穴だらけ。そもそも守る気なんかこっちはなかった。唯一いた兵士達は皆、外に現れ君達を襲った。その時点でこっちの戦力は殆どゼロに等しい。中に入れば別れ道。戦力は分断される。だけどこれも全部全てはアイツらの思惑通りだ。幾らでも後戻りするチャンスはあった筈なのに。君達の目的であるレッカは既に救えていたんだから、変なプライドにさえこだわらなければこんなことにもならなかったのに」
「さっきから話が長いんですよ」
勢いよく飛び込むアシュラは男の顔面目掛けて拳を一発。
だがその一発は軽々と男に片手で受け止められてしまう。
「人の話は最後まで聞くものだよ。幾ら興味が無くてもね。それが大人としての最低限の常識だ」
「……(前にも同じことをあの人にも言われたっけ)」
アシュラは拳に思いっきり力を入れて押し込もうとするが中々前へと進まない。
「…それにしても君の身体はとても魅力的だね。見た目じゃ分からないが、その身体の膨らみ…」
「ヘンタイッ!!」
アシュラはもう片方の手でもう一発、男目掛けて繰り出すがそれも掴まれてしまう。
「ああ?…おい、勘違いするなよ!俺は別にそう意味で言ったわけじゃない。俺が言いたいのは君の筋肉についてなんだ。この筋肉は決して付け焼き刃なんかじゃない。毎日の訓練とトレーニングの努力で磨きあげられてきたものだ。当たり前のようだが簡単に出来ることじゃない」
「ありがとう。でもアナタにそれを褒められても嬉しくなんかない。それに、さっきはそう意味で言ってなかったかもだけどそれ気づいた時点で立派な変態です!」
アシュラは拳を押し込むのを諦め、男に頭突きをヒットさせると一度距離をとる。
「頭も石頭なのか…。君はちゃんと自分の利点を理解して行動してるのか。素晴らしいね!」
「…アナタが言っていた事も一理はある。だから話の続きをしてくれますか?さっき言ってたアイツらって誰のことなんです?」
「そうだね。いいよ、僕は君を気に入った。だから教えてあげよう。言ってもピンとは来ないだろうけどね…。今回の作戦を考え、命令し、実行に移したのは僕ら騎士団の中でも一番偉い奴。君達はまんまと彼らの手のひらで転がってたって事さ。彼らは転移者の君達が考えるであろうパターンを計算し予想したんだ。少々鼻につくアベックな奴らだけど、常に物事を利口的に考え行動するセンスはピカイチだと僕は思うよ」
「だから誰なんです!?」
「言ったろ?言っても分からない。だったらそれはただの時間無駄遣い。僕はそういうのが1番大嫌いなんだ、分かってくれよ」
「変な方ですね。分かろうが分からなかろうがアナタは私に教えると言ったんです。だったら早く教えて下さい。そのくらい大人としての常識では?」
「ヒカリノ騎士団団長ミラルダ。陰ノ騎士団団長ヤーク。その名前を聞いて分かるのかい?」
「いいえ。全く。さっぱり分かりません」
「だから言ったんだ…。時間の無駄だって…。どうしくれるんだ!?」
「いいやそんな事はありませんよ。私にはその方達が誰かは分かりませんが、きっと私の仲間なら知っている。貴重な情報には変わりありません。というかもういいです。やめましょう。これこそ時間の無駄使い。いい加減、この体に濡れる雨にもうんざりしてきたの。…アナタが持ってるその傘。きっと私の方が似合うと思うわ」
敬語とタメ口が混ざるアシュラの口調。
彼女は無意識だが、そうなるという事は彼女の何かに火がついたという事。
「その態度やる気なのか?この状況で俺がお前に負ける事はない。バカじゃないならそのくらい察したらどうなんだ?もっと利口に頭を使ってさ!」
「生憎頭を使うのはあんまり得意な方じゃありません。空気を読むのはもっと苦手なの。だってそんなの今の私には必要ないんだから」
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