五十一話 賀茂美伊琉/カモミール
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「やらせるかいな!!(しゃあない、だったら先にウチがヤツを沈めたる。それで全部解決や!)」
勢いよく飛び出したエプロンは飛び上がり、手が振り下がるよりも速く、奴の後頭部付近を狙って片足で蹴りを当てる延髄斬りをお見舞いする。
だが、エプロンの蹴りが後頭部に当たった瞬間だった。
エプロンの体に電撃が走るような痛みと衝撃が襲う。
本来なら特攻服の効果で電撃自体は無効化されるはず。だが今回の場合蹴りを放った片足部分には特攻服が身に纏われてはおらず効果の対象にはならなかったのだ。
「ぅぅっ!!がああっ!!」
エプロンは気合いで衝撃と痛みに耐え、逃げるように狭い室内を駆け回りカウンターの裏側に身を忍ばせ態勢を整えようとする。
「おいおい、それで逃げたつもりかよ。隠れられてもいないじゃないか」
「…(クッソ!アイツの体はどうなってんてねん!!まるで奴の体自体にも電気が流れてるみたいやった。あれじゃあ、ウチが攻撃すればするほどウチもそれ以上のダメージを喰らうって事や。そんなん繰り返したら間違いなくウチの方が先に負ける。つうか、死ぬ。というか男は攻撃魔法が打てるほど魔力がないってヤヨイが言ってなかったか?あああ!!今はどうでもいい!このままじゃジリ貧や!どうにかしてこっちが一方的に殴れる方法を探さんとウチに勝ちはない……)」
「出てこいよ!ほら!お前って強いんだろ!?」
ガナリは挑発する。
「……(ムカつく!ダメや、耳を貸したらアカン!このまま出ても何も変えられへん。考えるんや、このちょっとの知識しか入ってないウチの頭で必死に考えるしかない。その為に少しでも時間を稼ぐんや!)」
「お前な……」
「そんなにヒマならコレでも喰らっとき!!」
エプロンがカウンターの裏からひょっこり姿を見せると、カウンター側の棚に置いてあったワイン瓶をガナリに投げつける。
ワイン瓶はガナリに直撃して粉々に砕け散り、ガナリはワイン塗れになる。
尚、この程度の衝撃じゃダメージは与えられないようだ。
「おいお前!そのワイン高いんだぞ!大体な、ここにある酒は全部俺が自腹で集めたヤツなんだからな!もっと大事に扱えよ!!」
「チッ(期待してへんかったけどこの程度じゃ時間稼ぎにもならんか……)」
「そっちが来ないならこっちから行くぞ。場所は分かってるんだ。見えてなくても当てられる!耐えれるもんならもう一度耐えてみな?」
ガナリはエプロンのいる方向に指を指し振り下ろす。
だが何も起こらない。
「なんだ……どうした?なんで俺の体に電気が走らない……」
「ん?…」
エプロンはカウンターの裏から少しだけ顔を出して様子を伺う。
「……ハァッ!!」
ガナリが気合いを入れるとガナリの体にはいつも通り電気が走り出す。
「今のはなんだったんだ?……」
初めての出来事に戸惑いを見せたガナリ。
そしてそれを見ていたエプロンもまた、戸惑いを見せる。
「(ホンマやで!一体今のはなんやったんや?……明らかに奴の様子がおかしくなってた。どうしてや、どうしてなんや?きっとコレは何かのヒントに決まってる!何かが起きたから奴の動きに異変が生じたんや!思いだ出せ、今に至るまでに一体何があった……思い出せ!そして考えるんや!!)」
エプロンは必死に頭を回転させ考える。
「まぁいい。……出て来る気がないなのらさせればいいだけ。もう一度痛い目にでも合えば考えも変わるだろ?」
ガナリは今度こそエプロンの方に指を指し振り下ろそうとする。
「(ぐっ!時間切れか!こうなったらしゃあない、さっきみたいな奇跡を祈って片っ端からそこらへんの酒でも投げるか!そしたらまた同じような事が起こるかもしれへんし……あれ?どうしてウチはそう思ったんや?どうせ投げるなら別になんでも良かった筈なのに。なんで酒を投げようと思った?くそっ、自分のどこかじゃその答えがわかってる筈なのにはっきりしない!なんだ、何が原因なんや!落ち着け…ウチが投げたのはワイン。で、ワインは酒。酒はアルコール……。そうか!もしかしてそういうことかいな!だったら試してみるか!)」
ガナリの手が振り下ろされ雷が落ちる瞬間、エプロンはカウンターから飛び出し、それを避ける。
「お、痛い目に合わなくても分かったようだなぁ……」
するとエプロンは何も言わずにただただ、ガナリの全身を目掛けて事前に口に含んでいたテキーラらしき強い酒を奴に吹きかける毒霧を放つ。
「、!!おおいっ!」
「ウッサイ!オマケや。コレもついでに喰らっとき!!」
エプロンは追撃とばかりに棚に置いてあった酒類を片っ端から投げつける。
ありとあらゆる酒瓶がガナリに命中する。
「お前なぁ!!さっきも言っただろうが!!ここにある酒は全部俺の自前で高いんだよー!!折角の酒が無駄になるようなマネすんじゃねーー!!」
怒り心頭なガナリはすぐさまエプロンを狙って手を振り下ろす。
だが!!
「おいっ!!……なんで、なんでまた電気が走らねぇっ!!どうなってんだ!!」
「やっぱりなぁ……」
ほくそ笑むエプロン。
「あぁ?まさか、お前の仕業か?」
「どうやらそうみたいやな〜」
「とぼけんな!!お前、俺に何をしやがった!!」
「分からんか?なら折角や、教えたるわ。ウチも頭は賢い方やないけど、この位の知識ぐらいはあるんやで?」
「どういことか説明しろ!!」
「アンタの体には内側にも外にも電気が通っとるようやな。だからウチは好き勝手にアンタを攻撃をすることが出来なかった…」
「そうだ。だったらなんだと言うんだ!!」
「そして!!今ウチがアンタに投げつけてぶっかけたのは全て酒や。銘柄も味も違うが酒は酒や。そしてその酒には必ず存在する共通点がある。何か分かるか?」
「共通点?そんなの決まってる!!全部美味い!!それだけだ!!」
「そうやな。それもきっと間違いやない。でもここでの答えはそういう意味やない。酒に共通するもの、それはアルコールや。アルコールがない酒は酒やない。そうやろ?」
「当たり前だ!!てかそんなのはどうでもいい!!さっさと質問に答えやがれ!」
「慌てんでもそんなに知りたいなら教えたるわ!理解出来るかどうかは知らんけどな。アルコールってのは非電解質。つまり酒は電気を通さない。イコール、酒でずぶ濡れになった今のお前には攻撃が通るって事や!!…中学3年生レベルの知識でお前はウチに負けるんや」
「ふざけるな!!さっきからなんなんだ!イコール?中学?訳のわからない言葉を並べるな!!そんなデタラメで俺を無効化したつもりか!!」
「そりゃあ、真面目に考えたらだからってこんな事はあり得ないことやろうけどここは異世界や。自分でもデタラメな事を言ってるのは分かっとる。だけど時としてデタラメが唯一デタラメじゃなくなる。それが異世界ってもんやろが!それでもまだ、理解できないって言うなら試してみるか?」
「フンっ!臨むところだ!!お前なんかに俺のイカヅチは止められねぇっ!!」
ガナリは体に力を入れ渾身の思いで能力を発動させようとするが、やはり上手く行かない。
エプロンはその隙に近づき、ガナリの胸元部分を狙って思いっきり掌を叩きつける逆水平チョップを喰らわせる。
「ぐおぉっ……!!」
衝撃の高い音が鳴り響き、シンプルに強い衝撃がガナリを襲う。
「ほらな、言った通りやろ?(よしっ!こっちに刺激は無い。作戦成功や!これなら一方的に奴を攻められる)」
「……だからって俺に勝てるとでも思ってんのか!女のお前が肉弾戦なら勝てるとでも?笑わせんな!!」
「性別なんかなんも関係あらへん!!強い奴は強い、それだけの話や!こっちはな……プロとしてリングに立って肉弾戦だけで表舞台に立ってきたんや!!勝つのはウチに決まっとる!!」
「だったらやって見ろよぉぉ!!」
「言われなくても見せたるわっ!!」
エプロンは勢いをつけて走りだし、ガナリに向かって脛を叩きつけるラリアットを打ちだす。
強力なその一発は体格も全く違うガナリを一回転させる程強大で凶悪的だった。
ガナリはその勢いに負けて地面に沈み込む。
「!!っぅ……」
エプロンはその勢いのまま瞬時に側にあったカウンターの上へ登り、飛び上がりガナリを強く踏みつけるフットスタンプで追撃する。
「ぐあっ!、」
「まだや、さっさと立たんかい!!(このまま一気に勝負をつけたる!)」
ガナリを抱え込み持ち上げてそのまま再びカウンターまで登る。
だが流石のエプロンも疲れが溜まっていて少しだけ手間取ってしまう。
その間にガナリの体に変化が起きる。
「ぐっぅ……お前の体のどこに!!これだけの力があると言うんだぁっ!!!」
ガナリの体に再び電気が走り出した事でその衝撃がエプロンを襲う。特攻服の効果でダメージは抑えられているが、肌と肌が触れ合うこの距離ではそう長くは持たないであろう。
「(チッ!!流石に時間をかけ過ぎたか!でもここまで来たら、強引にでも終わらせたる!!今ならまだダメージも通るはずや!その為なら多少の痛みなんか知ったことかぁ!!)……フンっ、見た目で人を判断しちゃいけませんって親に教わったやろぉっ!!」
エプロンは瞬時にガナリをコウモリ吊りの要領で逆さ吊りにするとそのまま勢いをつけて、カウンターから飛び降り奴の脳天を地面に叩きつけるコウモリ吊り落としを見事に成功させる。
「グアァッっ!!……」
高さのある場所から勢いよく落とされたガナリが立ち上がれるばすもなかった。
その際エプロンも無傷というわけにはいかなかったが、この位は彼女にとって日常茶飯事でもあった。
「俺の、負けか……」
「ウチの勝ちや。…文句ないやろ?」
「ああ……ここまでやられればな…完敗だ……。まさか俺が女に負けるなんてな…」
「おい」
「いや、関係なかったな…」
「分かればええ」
「お前も強いんだな……」
「当たり前や。いい時やから言わせてもらうわ。…日本にいた時もそうやった。遥や葵基準で比べるからおかしくなるねん…大体なアイツらが異常なだけでウチが別に弱い訳ちゃうからなーーー!!聞いてるか!某プロレス週刊誌ぃ!!」
「フンっ、おもしれぇ女だ……」
エプロンの魂の愚痴は部屋中に響いた。賛同なんか必要ない。ただ、言いたかったのだろう。
異世界なら炎上する心配もないのだから……
○麻戈 沙莉 VS ●ガナリ
フィニッシュ技 コウモリ吊り落とし(シュガー⭐︎ドーナッツ)
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