四十九話 宙律譜/チューリップ
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バルキュリア王国 城 内部 広間
遥達は城の内部に侵入した。
外には大量の兵士達かアイツの相手をしている。なのに、肝心の内部には兵士は愚か人の気配も感じられない。その違和感が逆に恐ろしくも感じる。
「さぁ、入ってきたはいいけど、えらい静かやな〜〜」
「余りにもって感じでちょっと気味悪いですよね……」
「余裕ぶっこいて舐められてるのか、それとも、ただ単に不用心なのか……どっちでしょうね?」
遥達は警戒しながらも奥へと進んでいく。
すると見えてきたのは3本の別れ道と一本の上へ続く階段が。
「どうする遥?どこから行く?」
「せっかく数がいるんだもの、有効に使わなきゃ。別れて進みましょ?」
「ま、そうなるわな!」
「エプロンは左から」
「あいよ」
「アシュラはそのまま真っ直ぐ進んで」
「了解です」
「エンジェルは右をお願い」
「オッケーです!」
「ヤヨイは私と一緒に上へ向かうわよ」
「はい、分かりました」
「進んだ先に何が待ってるかは分からない。でも道がある限りは先に進むしかない。取り敢えずの目的は王とあってケジメを付けさせる」
「それってさ、仮にウチが先に見つけたらウチの獲物ってことでええんよな?」
「勿論。先に見つけたなら、誰かを待つ必要もない。自分の判断で好きにして。いいわね?」
全員静かに頷く。
「後、もしもヤバいって思ったらいつでも逃げていい。その時は自分の命だけを考えなさい。私の許可なく死んでも死なないようにね。まぁそんなことになる前に私がさせないけどね……」
「分かっとる」
「そうですよ。こんな所じゃ死んでも死にきれませんから」
「だね、信じてるわ……」
全員は拳を突き合わせ気合いを入れる。
何か言葉があるわけじゃない、だけど彼女達にとってそれだけあれば覚悟を決めるのは十分過ぎた。
「じゃっ、解散!」
遥の号令を受け各々進むべき道へ進んで行く。
遥が階段を登り始めヤヨイも登ろうとした時、ふと人の気配を感じたヤヨイは足を止めて振り返る。
「誰!?」
ヤヨイの視線の先には黒いローブを纏った1人の人間がいた。
男なのか女なのか容姿だけでは分からない。
ただ1つだけ確かなのは怪しげなゴブリンの仮面をつけているということ。
「あや、バレちゃったか」
ヤヨイはその人間の存在に気付いたが遥はまだ気付いていない。
ヤヨイは遥に知らせようと声を出そうとする。
「はるk……!」
離れていた距離が一瞬で縮みヤヨイの口を塞ぐ。
「まだダメだよ。タイミングが悪すぎる。同じ元同郷同士少しくらい空気を読んでくれてもいいだろ?」
ヤヨイの事を知っている。その事実に驚くヤヨイ。
だがヤヨイ本人にこのような人物に心当たりなんてない。
ヤヨイはとにかく離れようと必死に踠く。
するとヤヨイの口を塞いでいる仮面の人物の手が白く光る。
「!!」
光が消えるとヤヨイの口を塞いでいた手も外され自由になる。
今何が起こったのか、そしてなんで手を外したのか?ヤヨイはさっぱり分かっていない。
しかしチャンスであることは変わらない、もう一度大声を出して遥に知らせようとする。
「!、、…………、!!」
声を出している。自分はその筈なのにその声が全く聞こえない。幾ら大声を出そうとしてもその声は全く響かない。
ヤヨイは声が出せないあり得ない状態に慌てふためく。
「無駄だよ。その声は誰にも届かない。でも安心して。5分もすればいつも通り喋れるようになるから」
「…………!!」
ヤヨイは必死に口を動かし抵抗するが意味はない。
「少しは落ち着きなよ。俺はただ君に伝言を頼みたいだけなんだ。それさえ聞いてくれればすぐ終わるからさ」
「(伝言?誰に…)」
「約束はまだ果たされてない。あの日の続きをしよう。次の試練を終えた時、その時がゴングの鳴る合図だ。……そう遥に伝えておいてくれ。忘れずに頼むよ」
「…………!!」
「あ、後、この事を伝えるのは此処を出てからだ。そうじゃないと折角のサプライズや準備が台無しになっちゃうから。約束守れるよね?」
妙なオーラがただよう仮面の人物。
仮面に隠れ表情は見えないがヤヨイには怪しげに笑うソイツの姿が目に浮かんだ。
そしてヤヨイは思った。
<鑑定>を使えばソイツの正体が分かるじゃないかと!
声なんか出せなくても能力は使える。しかもこの能力が相手にバレることはない。このまま好きなようにされくらいなら悪あがきぐらいしてやる!
そう思ったヤヨイはいつもより気合いを入れて<鑑定の能力を発動させる。
だがヤヨイの瞳の先には何も映らなかった。
幾らソイツを睨んでも何も見えない、何も出てこない。まるで見られるのを分かっていて対策していように。
「(どうして、なんで?遥さん達とはまた違う感じだし…元同郷だって言ってたけどまさか!)」
「その表情、どうやら鑑定の能力を使ったみたいだね。でも残念、想像通り対策済みだよ。ヒントならともかくここで徐に正体がバレたら面白くないだろ?」
「!!(そんな、なんで私が能力を使った事がバレてるの?そんなに顔に出てた?だとしてもそれだけじゃ説明がつかない!)」
「君は面白いくらい表情が豊かだね〜。見ていて退屈しないよ。でも、能力を使った事が俺にバレたのは表情に出ていたからなんて曖昧なものじゃないよ」
「(!!なんで……。声は出てない。なのになんで会話が成立してるのよ!これじゃまるで心が読まれてるみたいじゃない!!)」
「フフフッ……どうだろうねー」
「(やっぱり…。だから能力の事を分かっていたって事ね。でもならどうして?それだけじゃ説明がつかない事がある……)」
「そうだね。能力のことが分かっても詳細が分からない以上対策のしようがない。それが君の疑問なんだろ?」
「(分かってるならさっさと教えて!)」
「そんなに知りたいなら教えてあげるよ。でもコレは全部じゃない。…俺も君と同じ<鑑定>の能力を持っているから。しかも君より俺の方が上手く使える。心を読むのもそれの応用さ」
「(嘘をつかないで!!)」
「嘘じゃないよ」
「(だったらなんで私と同じ能力を使えるのよ!アナタが転生者だとしても、この世界で同じ固有能力は存在しない!それがこの世界の理の筈!だからそれはあり得ないのよ!)」
「……いい?理とかルールってのは破るために存在するのよ。守ってるだけじゃ何も意味は成さないんだから」
「(答えになってない!!)」
「言ったろ?全部ここで明かしちゃったら意味がないって。……そろそろ時間だ。俺との談笑の時間もそろそろ終わりにしよう。ほら、遥が待ってる……」
仮面の人物は今まで以上に強大なオーラを出しながらヤヨイの側から離れていく。
「(待って!!まだ話は終わってない!!)」
「ヤヨイ?どうしたの?さっさとしないと置いてくわよ」
後ろから遥の声が聞こえてくる。
「…………!っ遥さん!!」
ようやく声が出るようになった。
「何、どうしたのよ?そんなに声を荒げて、はしたない…」
「そんな事言ってる場合じゃないんです!ほら、アレ!!」
ヤヨイは仮面の人物の方を指す。
「アレ?……何が?なんかある?」
「え、……なんで、さっきまでいた筈なのに…」
ヤヨイがもう一度振り返った時には既に仮面の人物を姿を消していた。
「どうしたのよ?」
「……あ、……いいえ、なんでもないです。スミマセン……さぁ、行きましょう!!(今はダメだ。今話したらヤバい気がする……)」
「…ええ、そうね」
ヤヨイの挙動を少し不審に思った遥だったが、ヤヨイのいう通りそのまま先へ進む事になった。
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