外伝 来楽/ライラック~過去から紡ぐ未来へのゴング~PART4
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「葵。ヤンキーの真似事なんてしてなんのつもり?こんなの業界や団体にバレたら面倒事になるのは間違いないわよ。ノリに乗ってるアンタのプロレス人生に傷がついてもいいの?」
「遥」
「何よ?」
「俺にはさ、野望があるんだよ」
「なんなのそれ?」
「ここら辺のヤンキー達の頂点になって、全てを一つに纏めあげる。そしてソイツら全員で焼き肉パーティをしたいんだ!!」
「はぁ?」
「あ、勿論、バーベキューて方ね」
「バカじゃないの?」
「バカだよ。知ってるだろ。幼馴染なんだから」
「そういうことじゃなくて……現実を見ろって言ってんのよ」
「だからそれを見て言ってんだろ?」
「見てたらそんな夢みたいなこと言わないわよ。大体そんなの無理に決まってるでしょ。……そんな事よりアンタはプロなんだからもっとそっちに集中したらどうなの?」
「プロだからこそ、どっちも本気でやるんだよ。プロレスラーになるためには団体によって一定の基準がある。それをクリアして初めてプロとしてリングに立てる」
「?そんなの知ってるわよ。誰に言ってんの」
「でもさ、他の競技と違って明確にプロとしての基準があるわけでもない。だから俺達みたいな未成年でもプロとして活躍出来るわけだ」
「だから……知ってるてば!」
「ヤンキーも一緒なんだよ。ヤンキーにプロなんていない。だけどそのくらいの誇りを持って現在を生きてる奴がここら辺にはいっぱいいる。そんな奴らと俺は仲良くなりたいんだよ!!」
「なに少年漫画の主人公みたいなセリフを言ってんのよ!カッコつけても似合わないわよ」
「変なこと言ってるのは分かってる。これが友達100人作るぐらい難しいのも承知の上。だけどカッコくらいつけたもんが勝ちでしょ!」
「意味わからない……呆れた。好きにしなさい…私は関係ないんだから」
「葵はそうやって言い切ったの」
「らしいと言ったららしいわね……」
「正直さ、今でも意味分かんないけど、ずっとその時の言葉が頭から離れなかったのよ。特に葵が死んでからはよりね。だからさ、私が代わりにその野望に挑んでみようかと思って」
「バカね。そうやって遥が葵に言ったんじゃないの?」
「バカよね?本当にそうよ。分かってる。でもさ、よく言うじゃない。人生は一度きり、好きなことをしたもん勝ちだって。だったらアイツの分まで好きにやってみようかな〜って思っちゃった。アイツが言ってたみたいに、これで正真正銘私もバカの仲間入りね……」
「遥のプロレスラーとしての夢はいいの?」
「いいよ。もう私の夢は叶え終わったから」
「そうなんだ……(ウソつけ…)」
「だからまず私は葵との約束を果たす。私がハレ女の頂点になって抗争を未然に防ぐ。……私は葵みたいに器用じゃないから、どっち本気でプロとして振る舞うのは無理。中途半端な気持ちでプロレスやるくらいだったらもう辞めるわ。どっちにしろ、もう手を汚した時点で私にそんな資格は無くなるんだから…」
「……そこまでの気持ちがあるなら止めないけど、あんなこと言われちゃったら私もプロとしていていいのか自信を無くすわ……自業自得だけども」
「それは私のせいじゃない。私も別にだからってアンタにプロレスを辞めろとも言わないしヤンキーをするなとも言わないわ。どっちの判断も好きにすればいいわ」
「どっちでもいいが1番困るんだけどねー……まぁ、しょうがないか…」
「だったらさ、私から一つお願いがあるの」
「だったらも何もないでしょ。お願いって?」
「さっきも言ったけど私は器用じゃない。仮に私がハレ女の頂点に立ったとしてもそれを纏められるほど統率力もないしコミュニケーションを取れる自信もない。だから、それを私の代わりにアナタにお願いしたいの」
「随分無茶な願い事ね……私は一応、ヤンキーとしてもプロレスラーとしても遥とは敵側の立ち位置のつもりなんだけど?」
「分かってる。だけど学生としてなら立場は対等で変われるでしょ?」
「私に転校しろって言ってるの?」
「そう」
「それを本気で言ってるの?」
「本気だよ。私がハレ女の頂点になってその仲間に敵対グループの幹部がいるってなったら同盟も組みやすいし信頼されやすい。それが一番葵との約束を果たすための最短ルートだと私は思ってる」
「(遥も似てきたな)……分かった。その願いごと叶えてあげる。学校側も親も何とかする。不良仲間にも私から事前に話は通しておく。それでいいんでしょ?」
「ありがとう。助かる」
「でも勘違いしないで。別に葵の為でも遥の為でもない」
「だったら何の為?」
「自分の為に決まってるでしょ。私も2人みたいに好き放題生きてみるわ。丁度いいから私もプロレスは辞める!」
「別にそこまでは頼んでない」
「だから私の為だから。……いいのよ。遥や葵と違って私は派手な結果を残してるわけじゃない。全部ソコソコ。正直、今が1番のピークなんじゃないかと思ってる。だからこれでいいの。私もプロとしてその手を汚してケジメはつけないと…」
「そうね……なら勝手にして」
「他人事みたいに言わないでよ。これでも一大決心なんだから」
「だって他人事ですから」
この時が初めて遥と沙莉が2人きりで話した初めての時間。
このぎこちなさが結果的に功を成したのかもしれない。
「それから数日後、私達はプロレスラーを辞めてプロのヤンキーとして生きていく事にしたんや」
「なんか色々と凄かったですね……」
「それから学園は大きく変わった。ヤヨイが言ってたやろ?ウチらの戦い方は独特だって」
「はい。でもそれはお二人がプロレスをやってたからですよね?」
「そうや。でもそれはウチらだけに限っての話。ウチと遥は闘いの基本がプロレスで出来てる。だから自然と体がそういう風に動く。それを見て周りの子達が勝手に真似し出したのが今のみんなの形になってるんや」
「独学でですか?」
「うん。アシュラ達が率先してウチや遥の出てるプロレス映像を軸に各々好きな試合を見て色々と研究したらしい。でもな、いくら詳しくなって見たからって誰でもかんでもプロレスが出来るようになるってわけじゃない」
「それはそうですよ……だって素人なんですから」
「だからこそ怖いのよ、色々な意味でね。基本が出来てる私達ならどんな技を受けてもそれを知ってるからそれなりの対応が出来る。だけど、基本もなってない、受け身も出来ず技も知らない相手にそれを使ったら相手は怪我をしてしまう危険性が高いでしょ?だから幾ら自分がそれを出来ても出来ない相手にはそれをやっちゃいけないのがプロレスなの。真のプロレスラーはね、相手の力量に合わせて戦うものなのよ」
「なるほどですね……(遥さんの言葉数が急に多くなった。それだけプロレスが好きってことなのかも)」
「だけど、今の私や彼女達がするのはプロレスじゃなくてただの喧嘩。それにルールなんて存在しない。強ければそれでいい。どんな手を使っても相手を倒せばそれでいい。遠慮なんか必要ない喧嘩の世界で素人が放つプロレス技ほど怖いものなんてないのよ。だって基本がなってないんだから。だからこそ武器になるんだけどね……」
「プロと素人の差ってやつですか」
「でもあの子達にはそれでいいの。埋まっちゃいけない差もあるってことよ。後、元プロね。そこ大事だから」
「そんな気にします、それ?いいじゃないですか?理由がなんであれプロだったことには変わりないんですし……」
「駄目なのよそれじゃ!!私達は違うんだから……」
ヤヨイが聞いたことないような大きな声を出して否定する遥。
「遥さん?……」
「…………ごめんなさい。今のは忘れて」
「ヤヨイ。これは遥だけやなくてウチにも言えるけど、ウチらはもうプロやない。それは辞めたからとかそういう意味じゃない。プロとしてあるまじき行為をしたからや。一回でもプロレス技を喧嘩という形で使った時点でウチらにプロを名乗る資格も語る資格もないんやからな……遥にそれを言われてウチもプロを辞めた。遥だってそれを分かっていたからプロレスラーであることを辞めたんや」
遥と沙莉、2人とも表情は暗くなり、さっきまでスラスラと流れていた会話も忽然となくなってしまった。
「…………」
2人の過去や覚悟を聞いたヤヨイは何か2人に声をかけるべきか迷ったが、丁度いい言葉が浮かばない。何を言っても間違ってるような気がしてならなかった。
たったひと言言えれば良かったのかもしれないが……
「なんか最終的にしんみりしてもうたな……別にこんなつもりもなかったんやけど。悪いな、ヤヨイ」
「え?」
「ウチらから色々話しといて最後はこのザマや。興味ない話を長々とホンマすまんかったな」
「いえ!そんな事はありません!お二人のことを色々と知れて良かったです。プロレスの事も勉強になりましたし」
「そっか……なら良かったわ」
「はい。なので、あの、今日はこれで失礼します……色々とありがとうございました」
「おう、またな」
「…………」
遥だけは一言も発さなかった。
「はい」
ヤヨイは部室から出ると逃げるようにその場から去っていく。
そんな行動や様子とは裏腹にヤヨイの表情は笑顔そのものだった。
「色々といい事思いついちゃった!早く戻って取り掛からないときっと間に合わない!!こりゃあ、色々と忙しくなるぞー!!」
ヤヨイは独り言とは思えないほど大きな声を出しながら廊下を走り去っていった。
そしてその日の夜。
遥は今日も変な夢を見た。
辺り一帯は真っ暗闇に覆われている。
そこにいるのは真っ暗闇の世界に真っ黒なローブとフードを被った人が1人だけ。
顔は見えないが姿だけははっきりと見える。
ソイツは一言も話さずただただ、私のことを観察しているようだった。
私の姿は私には見えず声も発せない。
当然といえば当然だがなんか不思議な感じがする。
きっとそれはこれが夢だから。
これが夢なのは分かってる。
だって目の前にいるのは……
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