外伝 来楽/ライラック~過去から紡ぐ未来へのゴング~PART3
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回想
遥が学校からの帰り道をただただ黙って歩いていると、後ろから急に腕を掴まれる。
「ッ!…」
遥はそれに動揺することなく瞬時にその腕を逆に引き寄せて、出来た隙に拳を一発入れようとする。
だがその拳は掴まれ止められた。
「ちょっと!いきなり乱暴しないでよね?!こっちに敵意はないんだから!」
そう言うと女は掴んだ拳を放し楽な態勢をとる。
「先に触ってきたのはそっちでしょ?勝手にこっちを悪者を扱いしないでくれる?……」
遥もそれが誰かか分かると文句を言いながら手を放す。
「だから言ったでしょ、葵?いくらなんでも急に襲おうとするのはまずいって」
「遥ならこのくらいなんとか出来ると思ってたからやったんだよ。…沙莉でもこのくらいは出来るでしょ?」
「いや、無理言わないで。あんな急に反撃まで持っていこうとする芸当普通は無理だから。いい?アンタ達は2人とも以上なの!そんなものさしで人のことを測ったらダメなの!!分かった?」
「はーーい。分かりましたー!…」
葵は気だるそうに手を上げて返事をする。
「私に言わないで……」
遥は聞く耳すら持とうとしていないようだった。
そんな2人の様子に沙莉はため息を吐かずにはいられない。
「はぁ…………。もう天才って嫌!!」
「ドンマイ!」
葵は人ごとのように沙莉を励ます。
「こういう話が通じないところも天才らしい……うん。放っとこ!」
執拗に体を密着させる葵に沙莉は諦めることでそれを解決したらしい。
「そうだ、遥!この後ヒマ?ヒマならさ、ちょっとお茶しようよ!フラペチーノでもカフェラテでもなんでも奢るからさー」
「ヒマな訳ないでしょ!こっちはアンタと違ってトレーニングがあんの。普段はヤンキーで好き放題やってプロレスをいい加減にやってるアンタ達とは違う!私は本気でやってんの、それを一緒の感覚で考えないでくれる?」
遥はイラつきながら葵に正直な気持ちで悪態をつく。
「やっぱり葵、帰ろう。話したいことあるなら明日試合が終わってからでもいいじゃん、ね?とにかく今日はさ!」
遥の空気を察した沙莉は空気の読めない葵をなんとか急いで説得しようとする。
だがなかなか言うことを聞こうとしない葵。
「もういい……私は帰ります。どうせ会いたくなくても会わなきゃいけないんで。また明日……」
遥は沙莉や葵を無視して帰ろうとすると葵が声をかける。
「そうだよ。俺はどれも本気なんかでやってないよ。やるわけないじゃん」
葵のその一言が遥の歩みを止める。
「でも俺は葵とそうやって戦うのが好きなんだ。それでもしも遥が俺に本気でプロレスをやれって言うならやる。その方が遥も楽しいんでしょ?」
「舐めてんの?」
遥が振り向き答える。さっきまでより更に遥の顔は険しくなっていた。
「それだよ……その顔!俺はさ、遥のその顔が昔から好きだったんだ。遥が本気で怒ってる。自分の為なんかじゃない、自分の好きなプロレスが馬鹿にされたから遥は怒ってるんでしょ?自分のことでもない事にこんなに怒れる人を他に俺は知らないから」
「何が言いたいの」
「提案がしたかったんだ。明日の戦い。俺と遥が更に本気を出すためにね。明日の戦いには既に俺と遥が持ってるベルト両方が賭けられてる。勝った方が即両団体最強の二冠王者だ。でもさ、それだけじゃ足りないんだ……」
葵は不気味に笑う。
「だからさもう一つ賭けて戦わない?」
「!!ちょっ、何言ってんの葵!急にそんなの許されるわけないじゃん!大体これ以上何を賭けるわけ?!」
「沙莉は黙ってて」
「……っ」
「…何が欲しいの?」
「別に何も欲しくはないよ。私が欲しいのは物なんかじゃない。遥の未来だ」
「!!」
「未来?」
「そうだよ、未来。明日の戦い互いに未来を賭けて戦うんだ!それなら俺も遥も本気を出さない訳にはいかないでしょ?…もしも俺が明日、遥に勝って俺が望む遥の未来は、遥がヤンキーとしてハレ女の頂点に君臨することだ!」
「は?」
思ってもいなかった葵の望みに動揺を隠せない遥と沙莉。
「だから何言ってんだよ!!葵!そんなのあり得ない!」
「だから沙莉は黙ってろ!!」
「……(もうっ、なんなんだ!!今日は!)」
「別に表向きにコレを発表してやろうって言ってるわけじゃない。だから何も問題はない筈だ。俺達が勝手に同意して勝手にやってるだけなんだから」
「だからってなんで私がヤンキーになってそんな事をしなきゃいけないのよ、意味わかんない!」
「…俺や沙莉のいる不良グループと遥の通うハレ女は長い間敵対関係にある。それは遥も知ってるでしょ?そしてその関係は年を追うごとに悪くなっていってる。正直、今までから見ても今年が1番最悪だ。きっとこのまま行けば近いうちにハレ女と俺達とでの抗争が起きてもおかしくはない。そうなったら今までみたいにだだ喧嘩して怪我をするだけじゃ済まなくなる。……俺はそんな抗争みたいな事をしたくはないんだ」
「だからって私は関係ないでしょ!!……私を巻き込まないで!」
「遥がハレ女の頂点になればそれは解決出来るんだよ!ハレ女が俺達のグループと同盟を組めば抗争が未然に防げる。納得しない奴らも周りにはいるだろうけどそれくらいなら俺と遥でなんとか出来る!これなら必要以上に余計な血も流さずに済むんだよ!」
「……だからって、なんで私が……」
「もしもこのまま抗争が始まって大事になったら遥や俺達もプロレスどころじゃなくなるんだよ。それでもいいの?よくないでしょ?」
「私は……」
「そんなに嫌なら遥が勝って私の未来を決めればいい!中途半端にプロレスやってる俺のことが嫌いなんでしょ?だったら俺にそれを辞めさせればいい。関係を断ち切ればいい。私が業界に居なければ仮に抗争が起きても遥さえそこにいなければ傷は最低限で済む」
「……分かった。もういい。私が勝てばそれでいいんでしょ?」
「そうだ!」
「だったら私の望みはそれでいい。……だから本気出しなさいよ」
「分かってるよ。そうじゃなきゃ意味がない」
「なら明日」
「うん明日」
そして2人は互いにそっぽを向く。
「その時は必ず約束守りなさいよ」
「俺は守るよ。だから、遥も守ってね」
「…………」
そして2人は互いに歩き出す。
「沙莉、行くよ!そうだ、コレ重いからカバン持って!」
「葵……しゃあないな…貸せ!」
「ねぇ、なんで関西弁?」
「なんでだろ?、小さいことは気にすんな!ほら、行くんやろ。早くしないと置いてくで!」
「沙莉、それちょっとやっぱり変だってば!」
回想終了。
「みたいなことがあっていよいよ当日」
「ちょっと待ってください!」
「何?」
「いや、色々と情報量が多くてですね、まず遥さんって昔あんなんだったんですか?今となんか雰囲気違しますし」
「そう?」
「そうですよ!」
「まぁでもそんなのこの先あんまり関係ないから。それに話の途中だしね」
「それはそうですけど…」
「沙莉」
「そして遂にその日はやってきた!」
遥の声を受け強引に話の続きを進める沙莉。
「えぇぇ……」
「遥と葵がメインを務める大会<QUEEN and GODDESS"XX>。それが行われる当日。集合時刻になっても葵が会場に来る事はなかった……」
この話に入った途端先程までとは少しエプロン達の話す様子が変わる。
「??なんでですか?……」
「大会開始の少し前、運営側に1本の連絡が入った。そして私達に伝えられた。葵が死んだってね……」
「ぇぇ!……」
言葉にならない程小さな声で驚くヤヨイ。
「会場に向かっている最中に交通事故に遭ったらしい。救急車が来た時には既に手遅れな状態で病院でも手の施しが無かったみたい」
「そんな……じゃあ大会は……」
「大会開始直前に中止が決まったわ。当然っちゃ当然よね。この時にファンや取材に来ていたメディアにも同時に伝えられて直ぐにこの事は話題になった。中止の理由が理由だからクレームやバッシングもなくて穏やかに事が済んだのがせめてもの救いだったのかもしれない」
気がつくとエプロンの喋り方はなんちゃって関西弁から普通に戻っていた。
この事にヤヨイは気づいたがそのままやり過ごす事にした。
「それは大変でしたね……」
どんどん重くなっていく内容にヤヨイは言葉を選びながら慎重に喋っていくが上手くいかない。
「そりゃ悲しかったけどウチと比べたら遥の方が辛いに決まってる。周りにいた他の子達もその事をなんとなく分かってたらあんまりね……」
「別に……悲しくなんかなかったわよ」
「遥……」
「そもそも悲しむ必要なんかなかったでしょ。ただ一つあるのなら文句を言いたかった。「なに試合する前に勝手に死んでんだ!」ってね。どうせ死ぬなら私が殺したかったくらいよ…」
「遥さん……」
「そして後日。葵の葬儀が行われた。数多くの業界関係者や著名人が訪れ葵の死を弔った。ウチやその仲間も含めてな。でもいつになっても今度はそこに遥が来なかった。正直、周りは最悪の事態を考えたね。負の連鎖は続くんじゃないかって。……だけど、葬儀が終わる頃、ようやく遥は姿を現した。でもな、遥の姿を見てみんな驚いたんや」
「何があったんです?」
「普通、葬式の時に着てく格好っていったら喪服に決まっている。普段からどんなに派手な格好をしてる奴でもそん時はみんなとお揃いが当たり前。でもあろうことか遥は喪服とは程遠い、いつも着ている派手なプロレス衣装で式に参列しようとしたんや」
「え!?……」
「当然、周りに居たみんなも一度はその格好をしている遥に引いた。そして直ぐに遥を止めた。流石に服を着替えて来いってね。……だけどこの場に遥を止められる奴なんておるわけがない。遥は制止を振り切り、やがて葵の眠る場所までたどり着いた」
回想
葵の側にまで来た遥は涙を見せることも感情を見せることも全くなかった。
しかし、一言だけ。
「私の負けよ……」
遥は自分の持っていたベルトをそのままそこに置いていった。
周囲の人間が遥の奇行に戸惑い、式に来ていたメディアなどの対応に急がしかった。
そんな事態に沙莉だけが遥を追いかけた。
「遥!」
沙莉が追いついた時には遥は近くの公園でブランコに乗っていた。
「…………」
沙莉もそのまま隣のブランコに乗って漕ぎ出す。
「ねぇ、遥?」
「……案外あっけないよね。試合の決着も人の死も」
「そうかもね……どうするの?遥はこれから…。皆、さっきの遥の行動の事でてんてこまいだよ。「一体アイツは何を考えてるんだっ!!」ってね。きっと戻ったら団体のお偉いさんから怒られるだろうね……」
「……私はもうプロレスを辞めるわ」
「やっぱり。…なんとなくさっきの行動でそんな気もしてた。だけどいいの?本当に?」
「約束は守らないとね……」
「約束?もしかして昨日のアレ?…結果はどうであれ遥は負けてないじゃん。それに約束だって別にプロレスを辞めるとかどうこうってわけじゃなかったよね?だったらこんな決断しなくても。……それに葵もこんなの多分望んでないよ」
「だからよ」
「?」
「葵は死んで約束は白紙。だから守る必要なんかない。だって結果はどうであれ葵の願いがもう叶うことはないんだから……それじゃあつまらないでしょ。私の願いは葵にプロレスを辞めさせること。それこそ結果はどうであれその願いは叶ったの。だったら今度は私が葵の願いを叶えないと。私なりの嫌がらせよ……」
「…………」
「ねぇ、葵の野望が何か知ってる?」
「いや知らない。何、それってプロレスラーとして?」
「いや、ヤンキーとしての方」
「じゃあ、分からないや。そんな話聞いたことも無い」
「なら教えてあげる。葵が昔、ヤンキーとして活躍し始めた頃私に言ったの」
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