四十話 檸檬ノ華/レモン
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「証拠ならありますよ」
その声のした方に全員が振り向く。
全員が振り向いた先にいた女とは……カモメだった。
「カモメ、それホンマか?」
エプロンはカモメに問う。
「勿論です。流石にこんな状況でハッタリを言う度胸なんか私にはありません」
「お前誰だ?いつからそこにいる!?」
今度はユウリが問う。
「!?いつからって最初からずっといましたよ……」
「そんなわけないだろ!」
「だからいたんですって……。まあ、昔からよく影が薄いねとか、いるのかいないのかよく分からないって散々言われてきましたけど、まさか異世界でも似た様な事を言われるなんて…私ショックです。1番ショックだったのは私が中学に進級する時私の名簿だけがごっそりと無くなっていた事です。そのおかげで私はその学校の生徒だと一時期信じて貰えなくなったんですからね!この気持ちがアナタに分かります?これでも今の私は皆さんと違う派手な制服を着て目立とうと努力してるんですからね!もう……」
「カモメ……気持ちは色々察するけど今やない。話に戻ろうか?」
「ハイ……」
少し不貞腐れながらカモメは返事をする。
「あの、そろそろ宜しいですか?」
最後にレッカがカモメに問う。
「あ、はい。どうぞ」
「証拠があると仰いましたがそれは本当なのですか?」
「ハイ。だからそう言ってます」
「ふざけるな!そんなのあるわけがない!レッカ団長!コイツはきっといい加減なことを言って時間でも稼ごうとしてるんですわ。何かしでかす前に早く罰を!……」
「だからありますって!ちょっとぐらい焦らさせてくれてもいいじゃないですか〜。もう、せっかく美味しい所だったのに……。まぁいいや。実は私ね最初からあの女の事が妙に気になってしていたことがあるんです」
そう言うとカモメはスマホを取り出す。
「!!……」
「スマホ?それはなんですか?」
レッカはその得体の知れない物体とその名前に疑問を抱く。
「これはですね……えっと、どう説明したらいいんでしょう?」
カモメは異なる世界で生まれたテクノロジーの産物をどう話せばいいのか考える。
しかし、
「魔法。分かりやすく言うと私の能力の一部みたいな物です。ハイ!」
「あいつ、スマホの事上手い風に言おうとしたけど諦めたな……」
エプロンはカモメの考えをそっと察した。
「魔法ですか。…それはどんな事ができる魔法なんですか?」
「色々出来ますよ。気になる事はなんでも調べられるし、入ってるアプリで暇を潰してみたり、色んな物を撮影して記録してみたりね」
「記録?」
「ええ。このスマホには今回の決闘の全てが映像として記録されています。ですから、それを見ればあの女が口八丁の嘘をついてることも全員まるっと丸わかりって事です!」
「それは本当なのですか!?その様な魔法が存在しているなど私は聞いた事はありませんが……」
「ある所にはあるんですよ、ある所にはね……」
「また誤魔化したな…」
エプロンがそう思ったとき、さっきまでとは違う聞いたことのない様な声でユウリが叫んだ。
「嘘つくなぁぁっ!!…大体、いたかも分からない奴の言うことなんて信じるに値しない!!大方、転移してきた時に持ってきてしまったんだろうけどな、この時代に現役で動くスマホなんてあるわけがないんだからなぁっ!!」
カモメはスマホを動かし撮影した動画を流す。(因みに動画投稿者の様な簡単な編集が施されている)
此処にいる全員がその映像に釘付けになる。
「なっ!!……」
「それが実はあるんだなぁ〜。不思議なことにね私たちの学校にはなんでか知らないけど電気が通ってる。だから、照明はつくしテレビだって見れる。テレ東だけだけど。もちろんケーブルがあればスマホの充電だってね」
「なんで?…なんでそんな事が出来るのよ!?」
「なんでって私に言われても…エプロンさん!なんでですか〜?」
「それはな……そういうもんや!」
「だそうです」
「……馬鹿にするなぁっ!」
ユウリは怒りに任せてスマホを壊そうと飛びかかってくる。
「大バカ娘が謹みなさい!!」
寸前でレッカが現れユウリを言葉と共に吹き飛ばす。
「団長!?どういうつもりですか?……」
「どういうつもり、それはこっちのセリフですよ。やってくれましたねぇ…ユウリ」
「私は別に……やましい事など何ひとつしておりません!」
「隠し立てはもう必要ないと言うのに、まだ言いますか……」
「私はただ団長の力になろうと……」
「私が何かそんな事をアナタに頼みましたか?」
「いえそれは……」
「それを勝手にした挙句私の為だから仕方ないとでも言いたいのでしょうね?」
「そんな事は!……」
「だとしてもそういう事なんですよ。アナタがした事は、ギルドの秩序を乱し騎士団の品位を下げた愚かな行為です。そんなアナタの勝手な行為が私の美学を汚したのですよ!…どんな事でも目的達成の為には手段を選ばない。それがアナタの美学と言うのなら私はそれを否定しません。勝手にすればいい。ただ私の側には要りません。なにせ考えが私とは真逆ですからね……」
「そんな……あの、申し訳ございませんでしたーー!」
憧れのレッカに見捨てられそうになったユウリは慌てて土下座をして頼み込む。
「私のした事は愚かで下品な行為だと自覚もしております。相応の罰もお受けします。ですからどうか、私はこれから先もお側に置いてください!お願いします!」
「おいっ!話が違うじゃないか!」
先程とは正反対な事を喋り謝罪するユウリにアキラは驚きを隠せない。
「……その様な謝罪をされたの初めてですわね。しかし。ユウリ!」
「はい!…」
「アナタの思いは分かりました。だけどそもそも謝る相手が間違っています」
「え?」
「それすらも分からなくなってしまったのですか!?」
「…………」
ユウリは渋々だがエプロン達の元へ行く。
「………この度は…私の嘘や言動により、皆様に多大なご迷惑をお掛けしてしまい…申し訳、ありませんでした…」
所々言葉を詰まらせながらも頭だけ下げて謝罪を口にした。
それに対しエプロン達は彼女を見つめるばかりで返事をすることはなかった。
そしてユウリは再びレッカの元まで駆け足で急ぐ。
「これで宜しいでしょうか?!」
ユウリのそんなあからさまな態度を見て呆れるレッカ。
「(こうなってしまったのも私の責任ですかね…)もういいですわ……後でアナタには今回の行動に相応しい罰を受けていただきます。覚悟しておくように…」
「ハイ!分かりました!」
何故かユウリは嬉しそうに返事をする。
そんな態度のユウリを無視してレッカはエプロン達の元へ駆けつける。
「今回はわたしの部下が大変申し訳ございませんでした。これも全て上司である私の責任でございます。本来正当で厳正である筈の決闘が1人のギルド職員によってそれを汚される事などあってはなりません。しかし起こってしまったこともまた事実。この街のギルドマスター、そしてこの街を護る騎士団のトップとしてお詫びいたします。申し訳ございませんでした!」
そしてレッカはギルドを背にエプロン達に土下座をして謝罪をする。
「ちょっ……。別にアンタが悪いわけやない。だからここまでしてもらう必要もない。逆にそんなんされたらこっちが気まずいわ。早く頭あげてくれ……」
「そうですよ!レッカ団長がここまでする必要ありません!それに私がさっき謝ったじゃないですかー。だからもう十分ですよ!」
「ユウリは黙ってなさい!!」
レッカの怒声がユウリに響く。
「そんな訳にもまいりません。私には私なりの美学があります。でも今はこうすことでしか伝えられない」
「もうええから……アンタの美学はイヤなくらい伝わったわ。それで分かったことはアンタは強いヤツやって事や。別に物理的どうこうって意味ちゃうで?どんな時でも自分の芯を大切に出来る奴はそう多くない。ウチはな、そういう奴のことを強者って呼ぶことにしてるんや。だから立ちいな…」
エプロンは頭を下げ続けるユウリに手を差し伸べる。
「…………」
だが中々その手を掴もうとはしない。
「これを拒否する程アンタは弱くないやろ。それにアンタが言うところの…」
エプロンが言いかけた瞬間。
「美しくない」
「そうや。好意を足蹴にする奴は他人に好意をあげることも出来へんからな」
「…いいんですか?私がその手を本当に掴んでも?」
「ええよ」
「一度立てば私がもうこの様な態度を取ることはありませんよ。そこからはもう美しいいつもの私に戻りますからね」
「ふんっ。普通は自分のこと自分で美しいなんて言うもんやないんけどな〜なんかアンタが言うと納得出来る気がするわ。だから、さっさとたっても私にその美しさを見せてくれや」
「お望み通りに」
そう言うとレッカはエプロンの手を掴み立ち上がる。
「では!ここからはいつも通り私なりにやらせていただきます!」
レッカはいつもの調子を取り戻しハキハキと喋り出す。
「まずは決闘結果の訂正からですね。…私の権限において以前の決闘結果を訂正。証拠により明らかになった事実を基にこれより正しい決闘結果を発表致します。……今回の決闘、勝者は!………あの、名前教えていただけますか?」
「そうやなぁ。なら、<アイツと愉快な仲間達>で頼むわ!」
「承知しました。…では改めて。今回の決闘、勝者は<アイツと愉快な仲間達>の勝利とここに宣言させて頂きます!」
ギルドマスターによる勝利宣言、それは覆す事のない絶対論。誰もそれは否定する言葉できない。当然、ギルドマスター自身でも。
「ようやくか…ようやくウチらの勝利やーー!」
「最初はどうなるかと思いましたけどどうにかなるもんですね〜。私、本当に感謝してます。だってこれで皆さんの元に隠し事無しでいれるんですから!」
「ホンマか?」
「本当です!今度こそ本当ですよー!信じて下さい!」
「分かった、分かった。信じるから、あんまりくっつくなって…恥ずかしいやろ?」
ようやく掴んだ勝利の約束。それを文字通り体と体で喜ぶエプロン達。
「あれ?ヤヨイったら何楽しそうな事やってんのよーー!私も混ぜてー!」
戦い疲れ倒れていた筈のアイツが飛びついてくる。
「うぉっ。驚いた…思ったより元気みたいやな?」
「うん。元気だよーー!」
「そうか。それなら良かったんやけど、ひとつだけいいか?血塗れの状態でウチらに抱きつくなやーー!一枚しかない制服が汚れてまうやろ」
「えぇーー。いいじゃん。せっかくなんだからさ!」
「何がせっかくや!いいから離れんかーい!」
「ねぇ、私達どうする?」
「さぁ、どうしようか?」
倒れていたマケガオとドヤガオも起きてエプロン達の様子を伺っている。
「でも今回くらいは…ね?」
「まぁ、それもそうね。今回くらいは怒られないか」
「うん。だって私達気に入られてるんでしょ?じゃあいいじゃん!しよっ!」
「うん。じゃあ行こっか!」
今度の2人は合図もなしに顔を見ただけで、息を合わせてエプロン達に抱きつきに行く。
「お!お前らもか!」
「いいですよね?今日くらい」
「私達2人とも頑張りましたよ〜!エプロンさんの期待に答えるために!」
「見てたで。言ったやろ?お前らならやれば出来るって!」
「そんな言い方はしましたっけ?」
「細かい事はええねん。言ったって事にしとき」
「ふふっ。はい。分かりました」
「はーい!」
「でもな、そろそろええやろ?もう一度言うで!お前らええ加減離れんかーーい!」
エプロンの心からの叫びは街中に響き渡った。
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