三十九話 素敵流雲鐘戯荒/ステルンべギア
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「お黙りっ!!」
1人の女の声が街に鳴り響く。
全員がその声に驚きここにある全てのものが沈黙する。
コツ、コツ、コツ。
ヒールの音だけが聞こえ徐々にその音は近くなっていく。
そして女はエプロン達の側にまでやってきた。
「?(誰やこの女?雰囲気からしてただ者じゃなさそうやけど)」
「アナタ。彼女からその物騒で穢らわしいその手を離しなさい。私はこの方達とお話があるんです。申し訳ありませんがご協力願えますか?」
女はエプロンを捕まえている代表格のような男に告げる。
「…………」
だが男は聞く耳を持たずその手を離そうとはしない。
「そうですか……ならば仕方ありませんね。あまりこのような強引な方法は好きではないのですが…しょうがない」
女は渋々何かの覚悟を決めたようで。
「では失礼して…」
突然女は男に対して強烈なビンタをお見舞いする。
心地よい衝撃音が街に響き渡りここにいる者達の肝を冷やした。
すると、そんな衝撃を受けた男が突然我に帰ったように慌て出す。
「な、なんだ?俺は今まで何を…て、うわぁ!あ、アナタは!…もしかして俺なんかやっちゃいました!?」
男は女の顔を見た途端恐れた表情を見せる。
「ええ」
「そんな……罰だけを勘弁を!」
「やってしまったのはアナタだけではありませんし故意でないのも分かっています。ですから今回は多めに見ましょう」
「本当ですか?」
「本当です。そのかわり今日はこれで何処にも寄り道をせず直ぐに家に帰ること。そして今日の事はその日の夢と共に忘れ去る事。約束できますね?」
「は、ハイ!勿論です!約束通り直ぐに家に帰って美味しい物食べて直ぐに寝ます!」
「ふふっ。ならよろしい。だったらお帰りくださって結構ですよ。道中お気をつけて」
「はい。あの、よく分かりませんが色々とすみませんでした。そしてありがとうございました!」
そして男は逃げるようにその場を去っていく。
「ほら、ここにいる他の皆さんも一緒ですよ!私の約束ちゃんと守ってさっさとお帰りください…じゃなきゃどうなるか分かってますよねー?」
女は観衆達に呼びかけるが先程の男同様返事もなければ動きも無い。
「はぁ……」
女はため息をつく。
「流石にこれだけの方達全員の頬を叩いて回るのは腕も疲れますし面倒ですね……ですから分かってますよね?!」
女は誰か特定の人物に呼びかける。
だがその人物からリアクションはない。
「あらダンマリですか。よくありませんね〜、いるのは分かっているんですから返事くらいして下さいよ……ユウリッ!!返事は!!」
「ひゃっ!は、ハイっ!!」
先程とは打って変わった女の荒げた声はユウリを飛び立たせる。
「そこにいましたか。ユウリ、話があります。こっちに来なさい」
「い、いや――それはちょっと……」
嫌がるユウリは助けを求めようとアキラ達の方を見たがアキラ達は無関係を装うように目を合わせようとはしなかった。
「!!そんな〜……」
ユウリが小声で不満を呟く。
「ユウリ!」
「ハイ!ただ今ぁっ!!」
ユウリは駆け足で女のもとへ急ぐ。
そして。
「お待たせしました…あの、どうしてここに?今日は王との謁見でここには戻られなかったはずじゃ?」
「早く終わったんですよ。それに私の仕事はそれだけではありませんから。それとも何か問題でも?」
「いえ、とんでもありません…」
「ユウリ。私がアナタを呼んでまで言いたかったことはお分かりですよね?」
「はい……<全てを忘れてここから帰りなさい!>」
ユウリは観衆達にそう宣言すると続々とこの場から去っていく。
「これでよろしいでしょうか?……ギルドマスター、いや、レッカ団長とお呼びした方がいいでしょうか」
「どちらでも構いませんよ。どっちの仕事もするつもりで来ましたから」
「団長ね……」
「しかもギルドマスター。これは厄介になりましたね」
「ホンマ今日は面倒ごとだらけでツイてへんわ……」
突如として現れたギルドマスター兼ホムラノ騎士団団長の存在に驚きを隠せないエプロン達。
「ではユウリ。これがどんな状況でどうなっているのか私に教えてくださるかしら?」
「はい。…あの、色々話すと長くなりますので端的に話させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ええ。構いません」
「それでは端的に話させていただきます。要するにですね、ここにいる彼女達がこの街の英雄でもあるアキラ様達一向にたてついた挙句、ギルド公認の決闘を挑み、負けたのにも関わらずその結果を受け入れずにワガママを言っているんです。本当に困ったものですよ……」
「ほう。なるほど……」
「おい!ちょっと待った!嘘つくなや。いくらなんでもそれはないやろ!!都合の良いところだけ切り抜いといてよく言えたな!1番大事やなところが抜けてるやろが!」
声を荒げユウリ達に抗議するエプロン。
「おや、アナタは皆様の代表でいらっしゃる方ですか?」
「そう思ってくれて構わへん。そんな事よりな……」
「…。何か色々と言いたそうですね」
「当たり前やろ。アンタんとこの部下が嘘ついてこんな事になってるんやからな」
「嘘ですか……ユウリ、この方はそう仰ってますがアナタは嘘をついてらっしゃるのですか?」
「そんな事するわけないじゃありませんか!そもそもなんで私がそんな事の為に嘘なんてつかなければいけないのですか!?私は嘘など一切ついてはおりません。こんな得体の知れない下品な女の言う事など信じてはなりません!」
「下品なのはお前の方がやろうが!大体なこの決闘に勝ったのはウチらの方なんや。いい加減な屁理屈をぶら下げてワガママ言ってるのは全部そっちやないか。この負け犬が!」
「あらま!よくもまぁ、そんな下品な言葉を使えた物ですね〜。でもその言葉そのままアナタにお返ししますわ。だってよく言うじゃありませんか?負け犬ほどよく吠えるって。まさにアナタの事ですわね」
「!いい加減にしろよ。団長かなんか知らへんけどな、ソイツが出てきた瞬間から言い方も変になりやがって、言い方くらい一つに決めたらどうなんや!」
「何を言ってるか私はよく分かりませんわ〜。私は最初からいつも通りでいただけですわ。美しさを求めるレッカ団長の部下である私がそんなような変な所があるわけありません!何故なら私は完璧なのですからぁ!!」
「ッ!なんなんコイツ……さっきからペラペラとムカつく事ばっか言いたい放題言いやがって…。もういい。ウチが力任せでコイツらに分からせたるわ。それで全部丸く解決や!」
「だからダメですって!気持ちは分かりますけど落ち着いてください!」
「離せヤヨイ!アイツやウチの後輩達が命懸けで勝ち取った勝利を無駄にするわけには行かないやろ!」
我慢ができなくなったエプロンを必死に寸前の所で止めるヤヨイ。
「あら怖い!団長見てください!自分の思う通りに行かないからって暴力で解決しようとするこの野蛮な性格!そんな奴らに騙されてはいけません!そうですわ!もうこの際ですから団長の力で彼女達に嘘をつき私達を貶めようとした罰を与えるべきではないでしょうか!」
「……確かにユウリの言う事が全て本当で彼女達が嘘をつきこの様なトラブルを起こしたと言うのなら、それはきっちりとした罰を与えるべきですね。それが美しい終わり方と言えるでしょう……」
「その通りです!では早速……」
「だからふざけんなって!!さっきからずっと言ってるやろうが!勝ったのはウチらだ!そこにいる都合の良い権力者に隠れて笑ってる奴やない!」
エプロンはアキラ達の方を指差す。
だがアキラ達は構わずざまぁみろと言わんばかりの笑顔でこちらを見ている。
「往生際の悪い下品な奴らですわね。いい加減最後くらい私や団長の様な美しさを見習って黙って罰を受けるくらいの覚悟を見せたらいかが!そうしたらアナタ達の様な下品な方達でもいささか格好がつくんじゃありません?」
「余計なお世話。そっちの方こそいい加減そのウザったい口を閉じたらどうや?」
「黙りなさい!そんなに言うのならアナタ達が言うようにこの私が決闘の結果を偽り嘘をついた証拠でも出してみたらどうですか?」
「くそっ!………あったらとっくに出してるっつーの…」
「アハハッ。ないんですか?……そりゃあるわけありませんわよねー。だって私は嘘なんてついていないんですから」
「エプロンさん…最後の頼みでもあった観衆は役にも立ちませんし、もうここにもいません。どうしましょう?……」
「……ホンマにここまでなんか?……遥、悪い…」
ヤヨイやエプロン達がこの異様な状況に諦めかけたその時だった。
1人だけまだ諦めてはいなかった女が声を発したのだ。
「証拠ならありますよ?」
その声のした方に全員が振り向く。
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