三十七話 紫闇咫武/アジアンタム
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「フフッ。これでもっと楽しくなるね!」
「冗談じゃない…なんなんだコイツは。そんなものに付き合ってられるか!!」
余りの想定外の行動に恐怖までをも感じだしたアキラは慌ててアイツから距離を取ろうとするが……
「逃さないよ。言ったじゃん!今からもっと楽しくなるって」
アイツは逃げようとしたアキラの首根っこを捕まえて引き摺るように観衆達がいる側まで近づいていく。
「じゃまじゃま!!ほら、どいてね!!」
観衆達を掻き分けながらどんどんと奥へ連れていく。
アイツは目の前に見えた飲食店らしき店のテラス席にまで連れて行く。
「おいっ!どうするつもりだ!!離せっ!!」
アイツの手から離れようと必死にもがくがアイツの手はアキラから離れない。
「どうするって。決まってるでしょ?こうするんだよー!!」
アイツはアキラを肩に担いで椅子の上に登るとそのまま自ら横に倒れこみ相手が頭部から前転する方向で放つデスバレーボムのような形でテーブルに落とす。テーブルは2人の下敷きになりテーブルは割れて粉々になり、アキラに襲った衝撃をそのまま表すようだ。
「ぐっぁ!!……」
「まだまだぁ!!」
アイツはさっきまで立っていた椅子を今度は持ち上げるとそのままそれを使ってアキラを攻撃する。
木で出来たオシャレな椅子は凶器として倒れているアキラの顔や体をこれでもかってほど痛めつける。
「…………」
「どう?最高?楽しいよね?楽しいでしょ!!」
「!!」
アイツの声に応えるようにアキラはシュパっと起き上がりアイツの顔に渾身の右ストレートを喰らわせる。
「ハァァ……舐めんなぁっ!フゥーー……」
アイツは頬をさすり己の痛みにとても喜ぶ。
「いいねぇ……。やっぱりあんな剣壊して正解だったね!!思ってたんだよ、アンタの得意武器は剣なんかじゃないって!」
「こっちとしては気づかれて迷惑だ。せっかくよくある主人公の勇者っぽく見栄えを意識してわざわざ使い慣れない剣を使ってたっていうのによ……全部お前のせいで俺の英雄プランはだいなしだ!!」
「勇者じゃないんでしょ?だったら別にいいじゃん。そんなこだわり必要いらないよ〜。それに私はこっちの方が好きだけどな〜。やっぱ得意なもんどうしで闘いたいからさ!」
「チッ。だったら今度こそ後悔するなよ?余裕見せてんのも今のうちだ。俺も正真正銘自分の特技使って本気で闘ってやるからよぉっ!!」
「最高!!こっちも望むところだっつーの!!」
「すごい……この一瞬でアキラの本気を引き出した。今まで誰かが見ている時にはイヤでも世間体気にして苦手な剣に拘ってきてたのに……」
「なぁ、ヤヨイ。ちょっといいか?」
「はい?」
「さっきの奴の動きは今までとはまるで比べ物にならんくらい鋭い攻撃やった。ヤヨイが言ってたみたいにアレが本気って事なんやろうけどだったらなんで最初から出さへんかった?もしかして今のががアキラの持つチートスキルと関係あるんか?」
「関係あるような無いような……決して無関係では無いと思いますけどアレが全てチートスキルのお陰かと聞かれればそれは違うと思います」
「どういうこっちゃ。奴の能力は一体なんなんや?」
「私や他の2人と比べてもとてもシンプルですよ。能力の名前も単純で分かり易くて効果も一つだけ」
「勿体ぶってないでさっさと教えろや」
「すみません。…能力の名は<絶対強者>効果は、自分の能力、いわば全てのステータスを無条件に1000倍する。それだけです」
「それだけか」
「ええ。本当にそれだけです。でもシンプルなだけあって分かりやすくてとても強力な能力ですよ。シズカやコハルと比べて能力を使う際の弱点や代償などの隙になりそうな物も一切ありません」
「デメリットなしで使い放題か……」
「それに元々アキラはこの世界でも屈指の強さを誇ったと言われる兵士の血筋を引くものとしてこの世界に生まれました。ですから他の人達と比べても基本能力は初めから高い上に生まれ持った戦いの才能を持ち合わせています。それだけでも十分な強さを誇っているのにアキラの能力はその才能すらも強化してしまう恐ろしい力なんです。私の鑑定でも見る事が出来たのはこのくらいが限界でしたから」
「ほぉ…。生きるシンプルイズベストやな!」
「お上手ですね」
「自分で言っといてあれやけどそんな上手くないやろ?コレ」
「でもそれだけじゃありません。これは昔、本人から聞いたんですけどね、アキラはこの世界に転生してくる前は日本で格闘技を習っていたらしくてそこそこ強かったみたいなんですよ。どんな格闘技だったかはいまいちうろ覚えで思い出せませんけど……」
「それってボクシングちゃうか?」
「それです!それですよ!言われて思い出しました!間違いありません」
「やっぱりか……」
「でもどうして分かったんですか?」
「さっきの右ストレートや。アレは素人がまぐれで出せるようなもんやない。転生者ってのは知ってたからもしかしてとは思っとったけどまさかホンマに当たるとはな…これはちょっとオモロくなってきたかもな」
「どういう事ですか?」
「よーく見とき。これから本格的に始まるんやからな。異世界での異種格闘技戦が!」
再びアキラのストレートがアイツの顔面を襲い、それを畳み掛けるように次々と拳を体や顔面に様々な角度からリズムよく叩き込まれていく。
アイツは避けようとも防ごうともせず、ただただ喜びながら攻撃を受け続けている。
「もっともっとぉっ!!」
「うぜぇ…この変態が!さっさとくたばれ!!」
さっきよりも勢いが増した一撃がアイツを襲った。
アイツはその衝撃でそのまま後ろに倒れ込むが、すぐさま体を反らせながら立ち上がる。
「よーし……今度は私のバンッ!!」
アイツは一心不乱にアキラに襲いかかるといきなり奴の首元付近を狙って噛み付く。
「!!うぐあっ、、はっなせっ!!」
アキラはなんとか体を動かしアイツを振り払う。
だがアイツはそれに怯む事なく再びアキラを襲い、さっきのお返しだって言うように笑いながらアキラを殴り続ける。
アキラもそれをガードしながら次の攻撃のタイミングを窺っているようだがアイツに押されてそれもままならない。
やがてアイツの拳はアキラのガードを押し切りアキラを退け反らせる。アキラもたまらず一歩引いて態勢を立て直す。
アイツはまだやりたりなさそうな顔をしているが仕方なく一度息を整える。
「はぁはぁはぁ……お前、最初からずっとめちゃくちゃだな」
「何言ってるの?……めちゃくちゃだから楽しいんじゃん…」
「そうだな。確かにめちゃくちゃだがつまらなくはない。これっきりにはしたいがな。でもそう思うのはきっと俺たちに共通点があるからかもな…」
「共通点…何それ?」
「お前、俺と同じで昔格闘技やってただろ?それも恐らく、お前の動きから考えてプロレスだろ?」
「…………」
「だんまりって事は図星か。俺も学生時代、アマチュアだったがボクシングの大会で全国トップになるぐらいは強かったんだぜ。まぁ、プロになる前にこうして異世界に来ちまったがな……でも今ではそれも後悔してない。こうして俺の夢だった異世界転生も実現してこうやってこの世界でジャンルは違えど同じ格闘技を嗜んでいた奴と闘えるんだからな」
「黙ってたからって勝手に一緒にしないでよね。私は別にアナタのように格闘技を習ってたとかそんなんじゃない。私は尊敬する人を見て、見よう見まねで勝手に真似してるだけのただのファンだよ。だから一緒にしちゃ本気でやってたその人達に失礼でしょ」
「やってた?……」
「そんな事よりさ!そろそろ続きしようよ!!喋ってないでさ決着つけようよ…」
「分かった。細かい事はもう気にしない。そうだなぁ、互いにいい加減白黒つけようか!」
「ねぇ、どっちが白か聞いてもいい?」
「そんなの決まってる。…俺様だ!!」
「勝手に決めるなんてさ…何様だ!!」
互いに飛び出し同時にぶつかる。
アキラの勝負をかけた素早い渾身の一発はアイツの顔面を狙って襲いかかった。
アイツは笑顔でそれを大きく開けた口で受け止める。
「これで俺の勝ちだ!!」
強い衝撃でアイツの歯は折れて出血する。
この一撃でアキラの勝ちは決まったかと思われた。
だがしかし、さっきまで勝ち誇っていたアキラの様子が徐々におかしくなる。
「!!……おいっ、くっ!なんで離れないんだ……!!」
アキラの拳はアイツが強く噛みついた為に口から抜けなかったのだ。
アイツはそのままニヤリと微笑むとアキラの膝や脛を思いっきり蹴り上げる。
「つっ!!」
アキラは突然の痛みと動揺で思わず態勢を崩してしまう。
それによりアイツの口からはアキラの拳も抜けてアイツの動きに制限は無くなった。
「あーーー、楽しかった!!」
アイツが今日1番の笑顔を見せると自分の頭を使った強烈な頭突きをアキラにお見舞いする。
頭突きは相手に受け身をさせずに的確に大ダメージを与えられる技で見た目はシンプルだが派手な技よりよっぽど効く。まさに単純明快な性格のアイツに相応しい技と言えるだろう。
互いの頭がぶつかり合い微かな鈍い音が鳴るとアキラだけが崩れるように地面に倒れた。
その瞬間。
「そこまでっ!!勝負あり!」
ユウリの掛け声が決闘の終わりを知らせる。
「終わった……」
「ってことはウチらの…」
「勝ちって事ですよーーっ!!!」
「うぉぉぉ〜!やったやん!やってやった!!」
「凄い……この人達本当に凄い!!」
「当たり前やろ!ウチらは凄いに決まってる!そんなの分かってるわ!!」
見ていたヤヨイやエプロン達は結果に喜び合う。
「勝者、アキラ様御一行!!」
「「「は???」」」
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