三十話 矢吹乱/ヤブラン
閲覧感謝です!
貴重なお時間にお邪魔します……
声と共にギルドの中から制服を着た女性が現れる。
「……そういうことだからギルドとしての俺達の決闘の見届け人、よろしく頼むよ」
「もちろんです。Sランク冒険者である英雄様の頼みですから断るわけがありませんわ」
「誰や?」
「お初にお目にかかります。私、ギルドの受付権このギルドのサブマスターでもありますユウリと申します。私もここにいらっしゃる英雄様同様元日本人の転生者でもあります。以降お見知りおきを」
「ほぉ〜。そんなお偉いさんがわざわざ私達に自己紹介しに来ただけやないんやろ?」
「ええ。本来、冒険者同士が決闘する場合は…」
「ウチら冒険者ちゃうから」
「分かってます。ですから今回は特例です。本来なら決闘は冒険者同士が基本なんですが、今回だけは特例として特別に例外にさせていただきます。そして私がその決闘の代理人としてこの決闘の見届け人を担当させていただきます。これによってこの決闘は正式な決闘として認められます。
これらは全て本来ならギルドマスターの許可を得てやるべき仕事なのですが生憎マスターは席を外しておりまして、いつ戻ってこられるかは分かりません。ですからこちらも特例としてサブマスターの私が代わりに特別に努めさせていただきます。本当にいいんですか?この決闘が正式に認められた以上どんな結果になっても拒否することは出来なくなりますが」
「負けへんからなんでもええわ」
「そうですか」
「それにしても特例とか例外とか代理人とか見届け人とかなんか色々と面倒なやっちゃな〜。話も長いし説明しすぎや。頭わーーなったわ!」
「それだけの事を皆さんは私にさせようとしてるって事です。このくらい我慢してください。ここだけの話、実は色々と手続きとかもあって本当はやめていただけるなら私としてもありがたいのですが……」
「やめるわけないやろ」
「ですよね…。それでしたら全ては私にお任せください。きっと悪いようにはいたしませんから」
そんなユウリの顔には笑みが浮かぶ。
「よし!これで決闘の準備はできた。俺達は、俺そしてシズカとコハルの3人で戦う。さぁ、お前達は後2人誰が戦うんだ?」
「2人?ちゃうよ。あと3人や」
「おい、お前はこんな簡単な計算も出来ないのか!?そんなんで俺達に勝てるとか本気で思ってるのか?」
「だからちゃうって。ウチはまだ誰が戦うとは一言も言ってないやろ?」
「コイツ、話が通じてるのか?」
「ハハっ。本当ね!」
「おバカさん」
アキラ達は高笑う。
「あのな、だからそれを俺達は聞いてるんだ!お前と後、誰が戦うんだ?おい、ちゃんと分かってるか?」
明らかに舐めた態度を見せてくるアキラ達。
そんな様子をニヤけながら見ているエプロン。
「……何笑ってるんだ?まさか、おかしくなったのか?それとも元からか?」
「ホンマ、アンタらはバッカやな〜。こんな言葉の違いも分からへんのか。ええか?ウチはまだ誰が戦うかとは言ってないんやで。つまりウチが戦うとは限らへんの。そしてウチはこの勝負に出ない!そういうこっちゃ。アンタら早とちりしすぎなんよ〜。だからもう一度言わせてもらうわ、ホンマバッカやな〜」
「え?!」
ヤヨイが思わず声を出してしまう。
「……じゃあ、誰が戦うんだ?お前がソイツらの代表じゃないのか?」
「そうですよ。エプロンさん戦わないんですか?私はてっきりエプロンさんが先陣を切るのかと思ってましたけど」
「いやいや、ウチは最初からコイツらと戦う気なんかあらへん」
「そうなんですか!?」
「そうや。ウチはな、今日初めてコイツらと出会ってめちゃくちゃ嫌いになったわ」
「それならよっぽどご自分が戦った方がいいんじゃ?」
「ウチはな、ホンマに嫌いなヤツとは直接手は出したくないねん。そういう奴と仕方なく相手をする時はな、口でねじ伏せるって決めてるんや!!」
「なんですかそれ!!」
「ウチのプライドや。それだけは曲げられへん。…大丈夫や、ウチはこうやって外から口で奴らを煽ってねじ伏せる。中はウチが選んだ奴が文字通り奴らを張り倒す。これで奴らは完全に再起不能になる。間違いないわ!」
「…心配してるわけじゃないですけど、本当にそれで大丈夫ですか?」
「だから心配すんなって!何故ならこの勝負はアイツに任せようと思ってる。アイツは強いで〜。それはヤヨイも知ってるやろ?」
「ええ、まあ。アイツさんには助けられましたから…」
「そういう事やからアイツ!ウチの分とヤヨイの分までやってくれるな?」
「…いいよ!!まっかせてー!」
親指を立てて笑顔で応えるアイツ。
「なら、これ渡しとくわ。前にアレを見てた時これをやってみたいって言ってたやろ?」
「!え、いいの!?アレやっても怒られない!?」
「怒らん怒らん。この際や。思いっきりこれやって奴らの度肝を抜いたれ!」
「うん……」
アイツは何かを受け取ると不敵な笑みを浮かべる。
その様子を輪から少し離れて見ていたマケガオとドヤガオ達。
「ねぇ、聞いた?」
「うん。聞こえた」
「アイツさんが戦うって。大丈夫かな?」
「大丈夫って、アイツさんが?もしかして心配してるの?」
「違うよ!心配してるのはアイツさんじゃなくて相手の方だよ!」
「ああ。そっちね…。でも、そりゃそうね」
「そうだよ。だってアイツさんと言えば前に他校の生徒達をむやみやたらに襲って警察の世話になってったって噂でしょ?」
「しかも全員病院送りって奴ね。それは私も知ってる。でもあれって噂でしょ?」
「噂だけど、でも本当にあったからそういう噂になってるんでしょ?だってね、今の部長が学校に来る前までは話は通じないしさっき見せてた笑顔なんかこれっぽっちも見せなかったくらいの怖い人でめちゃくちゃ荒れてたって話だよー」
「そうなの?私は初めて聞いたよ、その噂。それって誰から聞いたわけ?」
「ウチの近所の一軒家の向かいのアパートに住んでる叔父さんの隣の部屋の主婦の新宿さん」
「誰よそれ?」
「え〜知らないのー?新宿さん」
「そんなの知るわけないでしょ!なんで私が赤の他人の奥さんの名前を知ってると思ったのよ!」
「新宿さん優しいしとても物知りなんだよ〜。なんかね、この街のことだったら知らない事はないって自分で言ってたよ〜」
「そんなのただの噂話が好きなよくいるおばさんじゃない!ってなんなのよこの話は!!今、そんな事言って笑ってる場合じゃないのよ〜!!」
するとその話を聞いていたカモメが少し恥ずかしながら話しかけてくる。
「ねぇ、ちょっといい?」
「…あ、はい。どうしましたカモメさん?」
「あのさ、さっきの人の事なんだけど…」
「さっき?ああ、マケガオが言ってた新宿さん?のことですか?」
「うん。それなんだけど多分私のお母さん……」
「ええ!!そうなんですか!!」
「……ほぼ間違いないと思う。ごめんね、うちのお母さんそういう噂話とか大好きな人で色々言って回る人なの…」
「いや、別にいいですけど……。ねぇ、それマケガオは知ってたの?」
「なんとなく?だってカモメさんと苗字が同じだからもしかしたらそうかなーって。なんとなく雰囲気も似てるし」
「なるほど。でもよく覚えてたわね、カモメさんの本名。」
「自己紹介で言ってたもん。忘れるわけないじゃん」
「そうかもしれないけど、私達ってあだ名で呼んで喋る事の方が多いでしょ?だから本名をわざわざ覚えてるのって結構凄いなーって思って」
「そんなの関係ないよ!あ、もしかして私の本名も覚えてないのー?そんなわけないよねー?砂岡 瞳さん!」
「え!……んな、わけないじゃない!!私達いつも一緒にいるのよ。分からないわけないでしょ?!何言ってんのよ……」
明らかに動揺しているドヤガオ。
「そうだよね〜。分かってる。なら、私の名前って……」
「え?」
徐々に近づいてくるマケガオ。
ドヤガオは悟られないようになんとかその場をやり過ごそうと頭を必死に使って考えるが良いアイデアが浮かばない。
するとそれを遮るようにエプロンがやってくる。
「話してるところすまんな。お2人さんそろそろ出番やで?」
エプロンが来た事で話が変わりホッとした様子を見せるドヤガオ。
「あの、すみません。全然話について行けてないんですけど、出番ってどういう事です?」
「そんなん決まってるやろ。後の2人はお前ら2人がやるってことや。そういうことやから急いで準備運動でも軽くしとき。いきなり動いて怪我でもしたら嫌やろ?」
「なるほど、そういう意味ですか……。ってええ!私達が出るんですかー?!」
「そうや。さっきからずっとそう言ってるやろ」
「いやいや、なんでよりにもよって1番後輩の私達がやるんですかー?冗談ですよね?…冗談って言ってください!」
「仕方ないやろ。ここにいるメンバーでウチを除いたら戦えそうなのは2人しかいないんやから」
「そんな事ありません。周りをよーく見てくださいよ。先輩のカモメさんだっていますし、新しく入ったヤヨイさんだっているんですよ〜。それなのになんで私達なんですか?せめてもうちょっと相談くらいしましょうよ」
「そんな事言ったってカモメもヤヨイも喧嘩は不得意なほうや。そんな奴にこの戦いを任せるなんて無責任な事できるわけない」
「それなら私達だって喧嘩なんて得意じゃないですしこれといった特技もない私達に大事な戦いを任せちゃだめですよ!」
「大丈夫や。アイツという心強い先輩も一緒なんやから心配無用や!いい加減しのごの言ってないで覚悟決めて思いっきり暴れてこんかい!」
「ええ……。(いや、無理だよ。だって私達いまだに一度も喧嘩で人に勝ったことないんだから!しかも喧嘩って言うけどこれは喧嘩ほど生優しいものじゃない。そんな奴らがいきなりなんて無理に決まってる。それに一緒に戦うのがアイツさんと一緒なんて何が起こるか予想なんて出来たもんじゃない!……もう、こんな時になんでマケガオは黙ってるのよ!)」
ヤヨイの心配は不安に変わりその不安が頭の中を支配する。
そんな状況の中、ふとマケガオの方を見てみる。
「ちょっと!、何真顔で浸った気分になってるのよ!今私達が置かれてる状況が分かってるの?!ねぇ、なんでもいいから黙ってないでなんか言いなさいよ!」
それでもマケガオの返事はなく、痺れを切らしたドヤガオはマケガオの体を前後に思いっきり揺らす。
「ちょっと!…ちょっとてば!聞いてんの!?」
それでも返事はない。
「あれ?…もしかして久しぶりにやっちゃった感じですか?嘘でしょ……しかもこのタイミングって。…でもこのタイミングだからですか」
「どうしたお前ら、さっさと準備しないと大変なことになるで」
「いや、それどころじゃないかもです……」
「?……もしかして、まだ渋ってるんか?あのな、心配せんでも大丈夫やから。お前らなら出来る!」
「そうじゃなくて……」
「ほらマケガオを見てみ?こんな真顔で怯える様子も見せずに堂々としてるやないか。そうや。すまんがマケガオの方からドヤガオになんかビシッと言って気合い入れてやってよ?」
エプロンから声をかけてもマケガオからの返事はない。
「今は何言っても駄目ですよ……」
「はあ?」
「この子。立ったまま気絶してますから。今言ったことも聞こえてません」
「気絶?嘘やろ?コントちゃうんやからそりゃあ、大袈裟やって。現実でそんなオモロイ事起きるわけないやろ」
「嘘じゃないですって。よく見てください。息はしてるし目も開いてるけど何をしても反応がないでしょ?マケガオとは昔からの馴染みですけど、この子異常に緊張したりストレスがかかると、まるで機械がフリーズしたみたいに急に動かなくなっちゃうんです。最近はそういうのも少なくなってきてたんですけど……」
「ええやん!めっちゃおもろい!!」
「は?」
「特徴ないって言ってたけどめちゃくちゃあるやん!この戦いお前らに任せて正解だったわ!こんな個性持ってるんやからもっと自信持ちって!」
「役に立つものじゃないですから……こんなのただのコンプレックスです。しかも私なんてコンプレックスと呼べるものすら何もないんですから」
「それはちゃう。役に立つ物全てが個性なわけないやろ。個性ってのは人それぞれで当たり前。コンプレックスだってそのうちのひとつや。もしも、自分にそんなのないって思ってるんならそれはまだ気づいてないだけや。だから断言したる!お前はこの戦いでそれに気づく!無理なら自分で勝手に作ったったらええねん」
「いや……」
「そういうことやからマケガオ起こしてさっさと行き!後ろで応援しといたるから。キバって行けや!!」
「……」
ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!
次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。
勝手に祈ってお待ちしております。