二十九話 紫楽哀/シラー
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「違う。そんなわけないだろう!ヤヨイの能力はただの鑑定。日本にあった都合のいい漫画と違って特別な力があるわけじゃない。そんなはしたない能力に頼るほど俺達は弱くない!戦力が欲しくてヤヨイを連れ戻したいわけじゃない。当たり前だろう?」
「嘘やろ……コイツらそんなことマジで言ってんのか?しかも本人がいる前で。ここまで来ると逆に哀れに思えてきたわ」
「ですね……想像以上にバカだったみたいです。流石に私もここまでだとは思いませんでしたよ。もう、昔の私ったらどうしてこんな奴らと一緒に過ごしてたんでしょう…」
「さあな……でも良かったやん。こんな見る目も聞く耳もない最悪な奴らから離れられて」
「ええ。本当ですね」
「おい、お前アキラって言ったか?随分な事言ってるけどさっき言ったのが違うんなら本当の理由はなんやねん?」
「だからそれは、俺達の身の回りの世話をさせるためにきまってるだろう!!」
「…………マジ?…嘘やろ。ホンマにコイツらバカやんけ」
「…ちょっともう本当にやめて欲しい……」
ヤヨイ達の気持ちとは裏腹にアキラは饒舌に話し出していく。
「ヤヨイがいなくなってからも俺達は更に腕を磨き強くなっていった。だが、その度に普段の生活レベルは下がっていったんだ。冒険の時に荷物も持つのも自分でやらなければならないし、帰ってからの雑用やギルドに提出する必要な手続きもわざわざ自分達がしなければならない。少し前までは雑用担当の人員もこのために雇っていたが全員数日で辞めていってしまって俺達も困っていたんだ。
その時思い出したのさ!ヤヨイなら上手くやっていけるって。だからこうやって俺たちの方から声をかけてここまで来たんだ。それなのに…」
「お前ら、バカか!」
アキラの頭を引っ叩くエプロン。
「なっ!!英雄の俺達に無礼な!」
「お前に無礼とかそんなこと言われたないわ!自分が何言ってるか分かってないんか!そんなのも気付けへん奴らに未練なんかあるわけないやろ!ホンマにお前らええ加減にせえよ!!」
「貴様ら……そうか。ヤヨイの性格が変わったのも全部お前達のせいだな!!どうしてくれるんだ!」
「お前らなぁ……分かった。そんならこうしようや」
「……?」
「どっちがヤヨイの仲間に相応しいかお前達と正々堂々と勝負で決めようやないか。そんならお前達も文句はないやろ」
「英雄でありSランクの俺達に勝てるとでも思ってるのか?どう考えてもお前達は負けるぞ。そしたらお前らめちゃくちゃ恥ずかしいぞー…」
アキラの周りも一緒に笑い出す。
「勝手に笑っとけ。そんなんウチらには関係あらへんよ。ウチらは負けへん。だから恥ずかしい思いするのはそっちちゃうか?」
「…いい度胸だな。いいだろう!だったらお望み通り相手をしてやる。異世界初心者が異世界ベテランの俺達を舐めたことを後悔させてやる!」
「ふんっ。やれるもんならやってみぃ!…そういう事やからヤヨイもそれでええな?」
エプロンはヤヨイに目配せをする。
それに応えるようにヤヨイも頷く。
「ええ。構いません。私もこれならいかなる結果でも納得できますから」
「…大した自信だな。そんなにヤヨイはコイツらの事を気に入ったのか。お前は一体その節穴の目で何を見たんだ?」
「そんなの言うわけないでしょ?でも、一つだけ元仲間のよしみで教えてあげる。この前、一つの騎士団がこの世界からいなくなったでしょ?当然貴方達はまだ覚えてるわよね?」
「ああ。詳しい事は俺もよく知らないがな。でも騎士団が一つ無くなろうが俺達には関係ない話だ」
「それがそうでもないのよ」
「どういう事だ?」
「ダイチノ騎士団を倒したのは何を隠そう、ここにいる皆さん達なのよ」
「は?」
「正確的にはウチらじゃないけど大きく見たら間違ってないな」
「コイツらが一つの騎士団を壊滅させるまでに追い込んだって言うのか?」
「あら、えらい理解が早いのね。そういう事よ。だったらその意味がわかるでしょう?」
「……嘘だな」
「嘘じゃないわよ。そんな嘘このタイミングで言ってもしょうがないでしょ?なんで敢えて不利なはずの私達がアナタ達に警戒されるような事をわざわざ言わなきゃいけないのよ?」
「…いや、ありえないだろ。魔法も固有能力すら持たない転移者がこの国の最高権力を持つ騎士団を倒した?そんな戯言信じるわけないだろう!お前達はそうやって嘘をついて逆に動揺させるつもりなんだろう!俺達は騙されないぞー!!」
「ヤヨイ。みんな、おんなじこと言うねんな…」
「ああ思うのが普通ですから。私も信じてもらえると思って話してません」
「なんかあんなにも意気揚々こっちの事を断言する様子を見てるとなんか逆にちょっと可哀想にも思えてきたな」
「そうですか?ああいう奴等ですから痛い目にあった方がこの先のためですよ」
「まぁ、だからと言ってこっちも遠慮する気はないけどな!」
「そうです。やっちゃってください!」
「おいっ!、聞いているのか!?」
「ん?ああ、もちろん聞いてるで」
「それならいい!」
「単純な奴やな…」
「なら早速始めようじゃないか!」
「それはええしウチらはかまへんけど、流石にこんな街中でドンパチやるわけにはいかんやろ。こんだけ観衆も集まってきてるわけやし、もしもの時はどうすんねん?」
「問題ない。気にするな。言ったろ?英雄の俺達がやる事には誰も文句は言わないし言わせない。それに俺達だって素人じゃない。プロの英雄なんだ。ここにいるお客さん達も楽しませてなんぼだろ?これだけ啖呵を切ったんだ。なんだ、今更観衆が見てるのが恥ずかしいからって辞めるわけじゃないだろうな?」
「プロねぇ……。分かったよ。そんならこっちもプロのヤンキーとしてアンタらと同じ土俵で戦ってやるよ」
「それでいい。それに、ここにいる観衆達は俺達の勝負の見届け人だ!これなら後のトラブルも防げる。お前らもそれなら安心だろ?みんなもそういう事だから俺達の勝つところをちゃんと目に焼き付けてくれよなー!!!」
「わぁーーーーーーっ!!」
アキラの言葉に観衆達は大きく盛り上がる。
「あと足りないのは……」
「私ですね」
声と共にギルドの中から制服を着た女性が現れる。
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