二十三話 要雌望/カナメモチ
閲覧感謝です!
貴重なお時間にお邪魔します……
全員、ヤヨイの答えに想像がついていたせいかリアクションは薄かった。
1人を除いては。
「ええぇぇーー!!そうだったの。ヤヨイって私達と同じ日本人なの!?…そうは見えないのに。あ、もしかしてハーフ?」
アイツがそう答えた瞬間、どこからともなくアイツの頭を巨大なハリセンが襲う。
「いったぁーい!!何するんですか〜エプロンさん!!」
「ツッコむに決まってるやろ!転生者って言ってんのにハーフなわけあるかい!!この世界の住民なんだから日本人と同じ顔立ちのわけないやろ!!」
「そっかー……納得!!」
「そうですね、エプロンさんが言った通り正しく言えば元日本人。もっと分かりやすく言えば前世が日本人だったってところでしょうか?」
「なるほどなぁ。分かりやすくて助かるわ。なぁ、アイツ」
「うん!分かりやすい!」
「私は日本で不慮の事故に遭い、気づいた時にはこの世界に転生。前世の記憶を持ったまま赤ちゃんとして生まれ変わりこの世界で生きてきました」
「あれ?…それっていわゆる?」
「ええ。マンガやアニメでよくある異世界転生ってやつです。転生した理由も転生した後の生活もこの手のものが好きな方なら簡単に予想できる筈です」
「まさか、神様の手違いとかそんな事言わんよな?」
「……そうですよ。その通りですよ!自分でも驚きましたよー。こんなバカみたいな理由で本当に人って転生できるんだなぁーってある意味感心したくらいですよ!」
「これがヤヨイの本音か……」
「もう……聞いてくれます?私の愚痴」
「いいよ。聞いてあげる」
「そやな。ウチらも結構気になるし、なかなか実際に異世界転生した人の話なんて聞けるもんちゃうからなー」
一応彼女達も現在、異世界にいるのだがそんな事は関係ないらしい。
「本当ですか?いいんですか?ちょっと長くなるかもですよ。色々溜まってるんで……」
「ええよ」
「なら、お言葉に甘えまして。…バカな神様による不慮な事故のせい異世界に転生した私はバカな神様からお詫びの印に貰った所謂チートスキルを使って今までこうして生きてきました」
「えらくバカを強調するなぁ…」
「溜まってたんじゃない?こんな事なかなか話せないだろうし…」
「そうやな。それにしてもほんま何から何まで異世界転生のアニメみたいな話やな。どうせこの後は現代の知識とかも使って成り上がって行くんやろ?」
「それが現実と創造物の違いですよ。いいですか?人間、成長すればするほど過去の事は忘れていくんですよ。つまり私は成長するにつれて日本での前世の記憶が徐々に忘れていってしまったんです。自分の中で印象の強い出来事や当たり前のように知ってる事なんかは今でも覚えてますが、興味が薄かったものの記憶などはありません。でも忘れてしまっただけなので何かの拍子に再び思い出す事もあるかもしれませんが」
「それってさ、外国人が日本での生活に慣れすぎて英語が喋れなくなるってのと同じか」
「そうです、そうですよ!私はそれが言いたかったんです!助かりましたー。思い出しましたよ」
「そ、よかったわ」
「それにですよ、仮に現代の知識が今も沢山残っていたとしてもです、現代の道具を再現したりも出来ませんよ。だって仕組みも分からなければ部品の種類も分からない。そもそもそも基礎知識がないんですよ!アイデアが浮かんでも作れるわけがない!だって私はただのどこにでもいる普通の女子高生だったんですから!そんなプロじゃなきゃ分からないような事知るわけがないじゃないですか!無理ですよ、あんなの!都合が良すぎなんですーー」
「ま、言われてみれば確かにって感じやな。ウチが見たマンガでは異世界に転生した普通の男子高校生が村で仕組みを説明しながら水を汲み上げるポンプとか作ってたけど、そんな知識普通に生きてたら知るよしもないもんな」
「そうなんですよ。だから現代の知識なんてあっても私じゃどうしようもないんです。なのでそこは開き直ってここでの生活に全力を注いだってわけです。私はそうして成長していく過程でとある3人と出会ったんです。彼らは私と同じバカな神によって生まれ変わった日本での記憶を持つ転生者で、そして彼らもまた私と同じように分かりやすい程のチートスキルを持っていました。私なんかくすむ程の強力なスキルをね」
「ほぉ…なんか段々とおもろくなってきたぞ」
「そう?」
イマイチ遥のテンションは上がっていない。
「だって聞いてくださいよ。他の転生者は皆私より少し先に転生してきた人達なんです!って事はですよ!私の前にあのバカ神は同じようなミスを何度もしてたって事なんですよ!本当にいい加減にしてほしい!」
「随分、ご立腹な様子ね」
「そりゃそうやろ。防げたかも知れないミスで自分は死んでしまったんやから。そんな神は恨まれても当然やろ」
「分かってくれます?」
「ああ。分かるで!」
互いに手を組み2人の中で何かが通じ合う。
「ねえ、それでどうなったわけ?」
気を取り直しヤヨイは再び話し始める。
「…その後私達は色々あった結果、共にパーティーを組み冒険者として生きていく事になったんです」
「急に話が進んだわね…」
「間も話すともっと長くなっちゃうんで。…」
「でも、これでようやく物語っぽくなったんちゃう?」
「ええ。本当に。何から何までって感じですよ…。だってここから起きる話はまさに王道異世界物語、そのまんまなんですから」
「というと?」
「能力は違えど私達は全員、卑怯極まりないチートスキルを持ってるわけですから冒険者の仕事は正直楽なくらいとっても上手くいきました。
攻撃の要でありそしてリーダーを務めるアキラ。
女性ながら前衛を支える防御の要、シズカ。
後衛として回復などの援護もしながら後方からの攻撃も得意とする支援の要、コハル。
そして、鑑定の力であらゆるモンスターの弱点を瞬時に暴き仲間に指示をする頭脳の要、私ヤヨイ。
それらの役割を上手にこなし冒険者として成果を上げる度にこのように噂は広がり遂に私達は冒険者の中でもトップの強さを表すSランクの称号を手に入れるまでに成長しました…ここまで言えば勘のいい皆さんなら分かりますよね?その後の未来がどうなったか」
遥を除いた全員が静かに頷く。
「一時期、流行ったからなぁ、その設定。飽きるぐらいよく見たわ」
「ですよね。私もそうです。転生する前は私もその手のマンガやアニメがめちゃくちゃ大好きでしたから。今でもそれは忘れません。それは私以外の転生者もきっと同じで歳もそんなに変わらない。ですから見てきたものはみんな同じ。
だったら分かる筈なんです。
地味な能力を持った奴ほど追放してはいけないっ事くらい。なのに彼らはしたんですよ。どんなに知識があってもいざ自分が同じ立場に立つと人は考えられなくなる。あれは現実じゃない。物語だから大丈夫だってそう思っちゃったんでしょうね」
「でも、そんなら追放した奴らは今じゃ後悔してるんちゃうか?それが王道パターンなら追放した途端パーティーは弱体化ってのがよくあるやつやろ」
「それがこれまた現実じゃそうはならない。おかしいですよね。確かに普段の生活ではパーティーの雑用をこなし、モンスターと出会えば仲間達の支援をひっそりとしていた私がいなくなったんですから多少の影響はあったと思います。でもただそれだけ。それ程彼らのチートスキルが強力だって事です。私がいなくなったところでそれが弱くなるわけじゃない。今じゃ彼らはこの国唯一のSランクパーティーとして3人で大活躍してますよ。この国の人達にとって彼らはまるでヒーローであり憧れの存在です。対して私は、昼はガラクタ呼ばわりの魔道具を作り、夜は生活の為に酒場で男達の相手をする毎日。分かりやすいくらいの差がありますよ」
自分で話しながら気を落とすヤヨイに対して遥は問いかける。
ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!
次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。
勝手に祈ってお待ちしております。