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外伝 英奪龍湧威総/ハナコトバ PART4

閲覧感謝です!

貴重なお時間にお邪魔します……

 ハレルヤ女学園 屋上


 ようやく翔子が遥の元へやって来た。


「今日は随分遅かったわね」

「ごめん」


「初めて逃げたと思ったわ。そんなことなくて安心したけど」

「逃げるわけないじゃん」


「そうよね。分かってる。でもどうしたわけ?いつもびっくりするくらい同じ時間にくるアナタが珍しい」

「副部長さんに止められてた」


「はぁ?!何それ?どういうこと?」

「園芸部に入ってくれってまた言われちゃった。私って結構モテるんだね」


「冗談。何よその話、私そんなの聞いてないんだけど……何勝手にまた話進めようとしてんのよー」

「だと思った」


「当たり前でしょ?私がそんな事する訳ないじゃない。で、どうしたわけ?」

「断ったよ。分かってるくせに」


「そ。ならいいけど。でも、ごめんなさいね。私の知らない所でそんな事があったなんて沙莉には私からキツく言っとくから」

「いや、そんなのいいよ。ちゃんと分かってくれたみたいだしもう大丈夫」


「……沙莉は結構頑固な女よ。しつこさには案外定評があるから」

「頑固な汚れは私が落としちゃったから大丈夫」


「ふふっ。なら安心ね。それにしても、今日はなんか沙莉の様子がおかしいとは思ってたのよねー、まさかそんな事を企んでたとは思いもしなかったけど」

「そうなの?」


「そうよ。いつも通り部室にいてあなた事を待ってたら沙莉がさ、どうせ必ず来るんだからたまには先に屋上行って待っててあげたら、なんて言うもんだから行ってみたら……いつもと違う事はやらない方がいいわねーー……」

「2人とも似たような事をするんだね」


「?」

「自分のせいでもないのに先に自分が謝る感じ。それって誰でもが出来る事じゃないよ」


「沙莉とそんな所が似てるって言われてもちっとも嬉しくないわよ」

「でも私はちょっと嬉しいかも」


「は?何が嬉しいのよ?」

「いやさ、この喧嘩は私のワガママにいつも付き合ってもらってるだけで遥にはメリットなんか何もないじゃん。それなのに毎日こうやって私のワガママに振り回しちゃって。謝るのは私の方だよ」


「ちょっとやめてよ。別にメリットなんて必要ないのよ。アナタも好きにやってるみたいに私もそれを好きでやってるの。謝られたらどっちらけよ。しかもね、こんな事を毎日やり過ぎて喧嘩をしないって事がもう私にとっては普通の出来事じゃなくなっちゃったのよ。それどうしてくれるわけ?」

「知らないよー。遥ももう好きでやってるんでしょ?それならそれは私のせいじゃないよーー」


「そうね。もうこれが当たり前になっちゃったから、仕方ないか」

「だけどお礼は言わせて。付き合ってくれてありがとう、遥」


「いいわよ、別に…」

「言っちゃうとね、実は私、来年は進級してもいいかなぁって思ってるんだよね〜」


「そ、いいんじゃない?私は歓迎するわよ」

「遥は卒業しないの?」


「しないわよ。今の所はする気もないし、出来もしないでしょ。私にとってはこれが好都合なの」

「ふーん。でもよかった。遥がいなくなったら進級する気も無くなる予定だったから」


「何んなのそれ」

「今まではさ、遥を倒したら進級しようかなって勝手に思ってたんだけど、最近になってそれも違うかなーってなんか感じてきて」


「そうなの?」

「うん。進級自体に興味はあまりないんだけど、遥と一緒ならそれも面白いかなーって。やれる事も色々と増えそうじゃん!?あ、だけど、進級したからって毎日の喧嘩をしないってわけじゃないからね?そこのところ誤解しないでよ!」


「分かってるわよ。進級したらその分いつもより多めに痛めつけてあげるから楽しみにしてなさい。それでいいんでしょ?このドMさん」

「ドMじゃないよーーただのMだよ」


「変わらないじゃない」

「変わるよーー」


「分かった。もうどっちでもいいわよ、別に」

「……じゃあ、そろそろする?いつものヤツ」


「そうね。やりましょうかいつものヤツ。今日は遅刻した分、覚悟しなさいよー」

「私のせいじゃないんだけど。でもいいよ。思いっきり楽しめるならそれで!」


 その日の喧嘩はいつもより長く続いた。


 こんな日常がこれからもずっと続いていく。


 そうなる筈だった……。


 そして現在。


 学校の屋上から異世界の景色を見渡す遥。


 見えるのは一面木々の森だけだが……。


「はーるか!どうしちゃったのよ、独り言片手に黄昏ちゃってさ!」


 後ろから突然声をかけてきたエプロンに驚く。


「わっ!…驚いた。いたの?……いつから見てた?」

「多分初めから?ハレルヤ女学園 2年 眞澄 翔子 通称 カカシってところから」


「思いっきり最初じゃない……なんでそんな時からいるのよ。いるならもうちょっと早く声を掛けてくれてもいいんじゃない?……恥ずかしい思いさせないでよね」

「いやな、最初は直ぐに声をかけようと思ったんやけど、遥が自分でもしもこれを聞いている奴がいたのならそっと胸にしまっておいてくれって言ってたから黙ってた方がいいのかなーって思ってタイミングを探してたんよ」


「そうは言ったけどさ……そういう事じゃないじゃない。こっちはまさか本当にいると思っては話してないんだからさ、だったら聞いてないフリぐらいしてたってよかったんじゃない」

「そうはいかんよ。だってウチも関係無い話ちゃうしな」


「……」

「本来なら丁度今頃やな…」


 沙莉は自分がしていた腕時計を見る。


「……そうだね」


 遥は手に持っていた一輪の花を見つめる。


「どうしたんそれ?」

「ウチの学校の裏庭には花壇があるでしょ?」


「ああ、あるな。園芸部のウチらが何もせえへんかったから殆ど枯れてしまったあの花壇な」

「そうそれ」


「でも全部枯れて咲いてる花なんてなかった筈やろ?」

「そう思ってたんだけど、さっきたまたま見かけたら何故かこの花が一輪だけ咲いてたんだよ」


「へぇ、そりゃ珍しいなぁ。てか遥、花なんかに興味あったけ?」

「ないよ、別に。でもなんか無性にその花の事見たらそれだけが気になっちゃってさ調べてみたのよ。ウチら一応園芸部でしょ?気になったものくらいは知っておこうかと思って。部室に行けば埃被った植物図鑑だってあるしさ、丁度いいじゃん」


「まぁ、それもそうやなウチらまがいなりにも園芸部やからな。で、その花なんて名前だったん?」

「エーデルワイス。なんでこの花がどうしてあってどうやって咲いたのかまでは分からなかったけどね。…ねえ、エーデルワイスの花言葉って知ってる?」


「知るわけないやろ。でも、これは勘やけど悪い意味じゃなさそうやな」

「大切な思い出だってさ」


「……これまたえっらいタイミングに咲いた花やな」

「まるで運命か奇跡か何かが惹かれあって偶然を装って咲かせたみたいだよね」


「ロマンチックってこの事を言うんやろな」

「まぁ、どっちにしても私はそれをただの思い出にするつもりはないけどね……」


「なぁ、変な質問かもしれへんけど、これから先ウチらはどうすればいいんやろうな?」

「知らないわよそんなの。聞いても誰も教えてなんてくれないんだから。今を嫌がりながらでもいまを好きに生きてくしかないんじゃない。ここで逃げたり私達が変わろうとしたら、それこそ翔子に怒られる気がする。住んでる世界が変わっても翔子は翔子でい続けた。だから私達もこのまま今まで通り前に進むしかないのよ」


「そうやな……」

「翔子。今までの件、全部聞いてても聞いてなくてもどっちでもいいけど私はそう思っていこれからも生きていくから。翔子もそういうことにしておいて……」


「これも独り言か?……」

「そう見えるならそうなんじゃない?」


「なら違うって事やな。分かりやすい」

「さぁ?」


 外の日が暮れ始める。


 そんな様子をじっと見ている2人。


 5分程の短い間だったがその間の会話は何も無く、そこから聞こえる自然の音だけを2人は同時に感じていた。


 手に持ったエーデルワイスだけがそよ風に吹かれしっとりと靡いている。


「もういっか。このくらいで。……じゃあ、私いい感じに眠くなったから先に戻るね」

「おい、また寝るん?ここに来るまでも散々寝てたやろ?」


「しょうがないでしょ。眠いんだから。寝ないとどうしようもない事もあるのよ。じゃっ、おやすみ」


 そう言うといち早く屋上から出ていく遥。


「寝る子はよく育つって言うけど遥は育ちすぎや!これ以上強くなってどうすんねん!!もう……」

 

 沙莉の叫びは屋上から夕方をお知らせする時報のような鳴り響いた。





 その後、真澄翔子のいた席には一輪のエーデルワイスがただ置いてあったという。


 そしてそのエーデルワイスはいつ見ても枯れていることはなかったらしい。 


 これが偶然なのかそれとも必然に起きた意味のある奇跡なのかそれは今の私にはわからない。


 ただ1つ言えるのは、枯れ果てた花壇で見つけたこの一輪の花が造花ではない事を私は必死に祈っている事だけだ。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!


次回より第二部がスタート!!

分かるようで分からなかったあの女の過去が遂に分かるかも?

次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

勝手に祈ってお待ちしております。

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