外伝 英奪龍湧威総/ハナコトバ PART3
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貴重なお時間にお邪魔します……
一年後。
本来なら私達は卒業をしている筈。
なのになんでいるのか?
その疑問の答えは簡単だ。
留年したからだ。
そして留年をしたのは私とエプロンだけではない。
何故か翔子も進級を拒み2年のまま留年した。そうなるように少し前からから色々と調整していたらしい。
あの子はあの子なりに色々と考えているって事だと思う。
私もよく分かってはいないけれど……。
この一年で私達はあまり変わらなかったが、園芸部、威薔薇ノ棘には大きな変化があった。
私達2人だけだった園芸部に遂に部員が増えたのだ。
今まで頑なに部員を増やす事を拒んでいた私達だったが翔子の相手をしているうちに少しだけ考えが変わったのかもしれない。
私達を納得させる事が出来たのなら話ぐらいは聞いてあげる事にした。
こうして私達を納得させたのが現在の園芸部部員達である。
葉月と友莉亜(後のサシミとエンジェル)は園芸部入部を賭けて副部長エプロンに勝負を挑んだ。
結果としては喧嘩は負けて勝負には勝った。
こうして2人は晴れて部員として四天王として園芸部に入部した。
そして、朱美と未唯奈(後のアシュラとアイツ)は前の2人とは条件が少しだけ違った。
2人の望みは園芸部部長の座を賭けての私と1人ずつのタイマン勝負。
彼女達は最初から私の首だけをずっと狙っていたみたいだ。
断る理由も特にないので私は勝負を受け入れてまとめて返り討ちにしてやった。
だが、それだけでは勿体無いと感じた私は2人を納得させ四天王として園芸部に入部させた。
本人達も色々と思う所はあったようで最初はそれこそ拒否反応を見せていた2人だが一緒に過ごしている内にそれもなくなり2人は園芸部に欠かせないメンバーとなった。
あ、因みにこんな出来事があった時も翔子は毎日変わらず私に勝負を挑み喧嘩をしていた。
結果は……想像通りだ。
そんな毎日が続いていた。
新たに4人が入部して総勢6人となったある日の園芸部。
いつものようにノックもせず、いきなり扉を開けて部室内を見渡す翔子。
私以外の部員全員と目が合うが気にする事なくキョロキョロと部室内を見渡し続ける。
私や副部長にとってこれは慣れた光景だが4人にとっては初めての光景。
「ねぇ、アンタ。私達に用があるならノックぐらいしたらどう?それが礼儀でしょう?」
最初に声をかけたのは少し生真面目な性格の朱美だった。
だがそんなものに興味を示さない翔子は朱美を無視する。
「あれ〜〜聞こえてないの〜?ダメだよ〜〜。先輩が話しかけてるんだからちゃんと返事しなきゃ!…痛い目にあっても知らないよ」
次はお転婆で内心何を考えてるか私でも分からない優里亜。
これまた翔子は無視一択。気にも留めない。
「……噂は本当みたい。何しても興味を示さない。やられっぱなしの木偶の坊。まるでただ突っ立ってるだけで役割があるカカシみたい」
突然翔子の背後に現れて不意打ち気味に喋ったのが昔はちょっと毒舌気味だった葉月だ。
突然の出来事に少しだけ驚いた表情を見せる翔子だったが直ぐにまた辺りを見渡し何かを探し始める。
そこに正面からぶつかってきたのが何をするか分からない未唯奈だ。
「邪魔……」
ただその一言だけを言うと部室を出ていく未唯奈。
そんな4人の様子を何故か笑いを堪えながら見守る副部長。
「アンタ、黙ってないでなんか言ったらどう?ここは選ばれた私達だけの居場所なの。資格もない奴が土足で入っていい場所じゃない。さっさと帰りなさい」
再び目が合う翔子と朱美。
だがこれまた無視しようとする翔子に苛立ち掴みかかる朱美。
「自分は関係ないとでも思ってるわけ?!この全戦全敗の負け犬が!私達と違って進級すら出来なかったくせに生意気なのよ!負け犬は負け犬らしく無様に逃げたらどう?もうこの学校にアンタの居場所なんかないんだから……」
「そうそう。私もそう思う〜。自分の強さも分からないやつはさっさと消えたほうが身のためだと私も思うな〜?ね、カカシさん!あなたもそう思ってるわよね〜?」
「……思ってる訳ない。思ってたらここに来ないよ。バカはバカ。何があってもそれは変わらない」
「そっか〜。バカだから分からないんだ〜。ごめんね〜私、あなたの事あんまり分かってなくて。バカにでも分かりやすく言うとね〜〜、んーーー……ごめん!私、バカじゃないからバカに説明出来るようなバカみたいな言葉分からないや!!」
堂々とした表情を変えない翔子……。
笑えなくなったこの様子を見て流石に間に入る副部長。
「はいはい。そこまでや!もういいやろ。皆も流石に言葉を選ばず言い過ぎや。分かったら朱美もその手離し!もう満足やろ?」
「でも……!」
「でもやない。聞こえへんのか?……離せ」
普段では珍しいドスの効いた副部長の声が部室内に響く。
それを受け朱美も渋々翔子から手を離す。
「いい子や。それでいい……。皆には言ってへんかったけどコイツ、翔子は特別や。皆も少しすれば慣れて何もおもわなくなると思うから気にせんどいて。ええな?……翔子にも悪いことしたなぁ。ウチが代表として謝るわ。ホンマに申し訳なかった」
「そんな、沙莉さんが謝ることじゃ!……」
「ええから黙っときぃ。今はウチの番や。勝手なことすんな」
周囲の空気が一気に冷たく感じる。
「初めて会った奴らに好き放題言われていい気分なわけないもんな。全部、ウチの責任や」
頭を下げる副部長。
そしてようやく口を開く翔子。
「別に全く気にしてないから大丈夫。だから顔上げて。それに彼女達と会うのは初めてじゃないから」
「え、そうなん?」
「元々は同級生で同じクラス。ま、今じゃクラスも違えば学年も違う先輩って関係になっちゃったけどね…」
「なるほどな……それはちょっと微妙やな」
「そんな顔しないでよ。別になんともないから。…そんな事よりさ、遥いないみたいだけどどこにいるの?」
「ちょっと、何勝手にあの人の事呼び捨てにしてんのよ!なに様のつもり!!」
「おい朱美!……ウチ、黙ってろって言わんかったか?」
「…ハイ。……スミマセン」
「ふぅ……。遥ならな、今日は先にいつもの場所で待ってるて言ってたで」
「そう。分かった。ありがとう」
用が済んだ翔子は部室を出ようとするが、声が掛かり足を止める。
「ちょっと待ちい」
「…なに?」
「行く前にもうちょっとだけウチの話に付き合ってくれ。そんな顔せんでもすぐ終わるから。な!」
「……分かった」
開けた扉をゆっくりと閉める翔子。
「悪いな。手間かけて」
「いいよ。でも早く終わるんだよね?」
「ああ。返答次第ではあっという間や!心配すんな」
「で、用って?」
「時間もないようやからいきなり本題行こか。…翔子、オマエやっぱウチの部員になれや!」
「…………」
「ちょっと待ってください!沙莉さんいきなりなに言ってるんですか?!」
「そうですよ〜。部室も副部長もいて四天王も足りてる。後、何になるって言うんですか〜?それとも私達の誰かと交代?」
「……そうなったら平部員に降格かな?…そんなの園芸部史上初めてだと思う」
「そうです。こんな無茶苦茶あり得ませんよ!こんな事を許したら我が園芸部の気品に関わります!!」
「皆、落ち着き!大丈夫や。交代も降格もあり得へんから」
「じゃあ、どうするつもりなんです?園芸部の部員人数は昔から6人と決まってる筈です」
「そんなん関係あらへんやろ」
「え!?」
「過去がないからやっちゃいけませんなんて言ったらなんもでけへんやろ?過去がないならウチらがその過去を作ればええだけの話や。どうとでもなる」
「そんな無茶苦茶な……」
「無茶苦茶くらいな事をしてようやく初めて新しい未来が生まれるんや!!ウチらが時代を変えるんや!」
「……部長は知ってるんですか?そこまで仰るってことは部長も賛成してるって事ですよね?」
「いいや、遥にはまだ何も話してへんよ」
「えぇ………!!」
「当たり前やろ。遥に先に言ったら反対されるに決まってるからな!大丈夫やって。遥はウチが責任持って納得させるから。問題ないわ!」
「それ、本当に大丈夫なんですか?……」
「勿論、大丈夫や。多分な……。とにかくそういうことやから今度は納得してくれるよな?翔子」
翔子は意味深に副部長に近づく。
「イヤ。丁重にお断りします!」
「理由は?」
「別に。興味がないから。それだけだよ」
「園芸部に入ればさっきみたいに他の奴らにバカにされる事もない。ウチがそんなんさせへん!…それでも断るって言うんか?」
「………」
何も言わずに首を縦に振る。
「ホンマにそれでええんか?……」
「うん。私は別に園芸部に入りたいとか誰かに認められたいとかそんな理由で遥と喧嘩をしてる訳じゃないから。じゃあ、今度こそ私行くね」
部室を出ようと振り向く。
「いくら頑張った所で今のままじゃ翔子は遥には絶対に勝てへんよ」
その一言が翔子の足を再び止める。
「自分でもホンマは分かってるんやろ?翔子と遥じゃどうしても埋められない差があるってことぐらい。このまま続けたってそれは変えられない。そんな事も分からないほどバカちゃうやろ」
「……そんなの、始めて遥と喧嘩をした日にはもう分かってる」
「分かってるならその変なプライドはさっさと捨てろ。翔子は十分頑張ったしめちゃくちゃ強くなった。もうそろそろ次のステップに行く頃や。強くなりたいんやったらもっと先に行かんと。…望むならウチがもっと翔子を強くしたる」
「だから、別に私は強くなりたいとかそんなんじゃないんだってば……」
「だったらなんでいつもこんな怪我してまで頑張る必要がある?それは遥に追いつきたいから、遥より強くなりたいから。それしかないんやろ!」
「違う…。私はただ翔子と喧嘩をしてたいだけなんだよ!……私が遥に勝てないことなんて関係ない。遥がいて遥が私の相手をしてくれる限り私は喧嘩をし続ける。無駄でもなんでもいいの。私にとってはその無駄が必要なんだ」
「……無駄って分かっててもやるんやな?」
「やるよ。これが私のプライドで生き様なんだから。それに無駄ってわかってる物でもないよりはあるだけいくらかマシでしょ」
「……なーんや。分かった。ぜんぶただのウチの見込み違いって事やったんや。もういいわ、ウチの言いたいことはそれだけや。さっさと遥のとこに行っていつも通りボコられてこい!」
「うん。今日はいつもより盛大にね!」
そう言うと笑顔で翔子は部室を後にする。
「あいつ、無茶苦茶ですね。あんな奴、…あの子は園芸部には相応しくなかった。それだけの話ですよ。こんなに沙莉さんが気を遣って下さったのに……」
朱美は言葉を選びながら話す。
「ええんよ。翔子は遥と一緒って分かったから。それが知れただけでも収穫や。そもそもウチが心配する必要なんて最初から無かったって事やな」
「え!?あの負け…あの子と部長が一緒?どこがですか?性格も違えば顔も似てない。一緒どころか似てるところもないですよー」
「そういうことちゃうよ。よくバカと天才は紙一重って言うやろ?」
「ええ」
「でもなウチ思うねん。本物はバカと天才は両面にくっついていて自分でも気付いてない奴だって。要するににバカでも天才でもあってそれ以外の別物でもある。ウチら凡人にはそう理解する事が精一杯。これがただしい表現なのかもウチらには分からんから理解しようとした時点でウチはの負けやねん」
「え……」
「だから、こうして言葉にして説明してる時点でウチらは既に天才やないって事や。残念やけど」
「…………」
「やめとき、考えても時間の無駄や。翔子や遥はそういう人って事や。それ以上でもそれ以下でもない。それでいいんよ」
「はぁ……」
「あんまり興味ない顔せんといてよ……」
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