外伝 英奪龍湧威総/ハナコトバ PART1
この物語は本編では語られなかった狭間のお話。
そして、彼女達の過去を少しだけ紐解くきっかけになるのかも知れないそんな番外編。
これから話す物語は遥から見た彼女の生き様を描いた僅かな日常の一部でしかない。
だがそれは彼女達にとって決して小さくない、大きな出来事の一部には変わりないだろう。
ハレルヤ女学園 2年 眞澄 翔子 通称 カカシ
彼女は自由を貫き己のプライドを捨てて仲間を護り、異世界でこの世を去った。
その選択が正しかったのか。
それとももっと他の選択肢があったのかそれは誰にも分からない。
ただ、誰にでも過去はあってその過去がやがて未来に繋がっていく。
全てはきっときっかけ次第。
何が起こるかは分からない。
何かが起こったから何かが起きる。
彼女の過去はきっと間違いではない。
こんなポエムみたいな事を言ったって誰も聞いてなんかいない。
きっと意味もない。
分かってる。
こんなのを他の誰かに見つかったら変な噂がたってもおかしくない。だから念のために言っておく。
これから語るもの全てはただの独り言だ。
もしも聞いてる奴が誰かいたのならそういう事にしてそっと胸にしまっといてくれ。オネガイ。
だから、誰も聞いてないんだからそんな事を言う必要もないんだけど……
ってかそもそもこんな事をしてる事態で見られてたら言い訳のしようなんかとっくにないのにね。
……カカシの過去を語るためには必然的にとある人物の過去も思い出さなければならない。
それがなければ私とカカシとのきっかけは成立しない。
数年前。
ハレルヤ女学園 園芸部 部室
1人の女が周りの静止を無視して部室のドアをいきなり蹴り破る。
「……」
悪びれる様子もないその女は部室に入ると当時の部長に一言だけ言った。
「どいて」
このシンプルかつ簡潔に完結した一言が全員の逆鱗に触れ部長をはじめ部員全員を一瞬で敵に回した。
そして全てが片付くのもまた一瞬だった。
誰も予想だにしなかった私が全員を一撃で叩きのめし1日もかからず私がこの学園の頂点に立った。
この事は学園の中でも大きな噂となった。
今まで目立つことのなかった2年が突如として天下をとったって。
しかも私は今まで一度も喧嘩をしてはこなかった。あれが人生最初の喧嘩だ。
この事に疑問を持った者や私が部長にになった事をまぐれだと信じる者も多かったようで毎日のように生徒達が私に喧嘩を挑み疑問の真相を晴らそうとした。
まぁ、結論を言えば全員簡単に打ちのめされていった事で疑問が真実に変わったようで何よりだ。
一瞬の出来事が学園の秩序を乱し学園の常識を変えたのであった。
こうして私は園芸部の部長として学園の頂点に立った。
そして数日後、とある人物がウチに転校してきて副部長となった。
これまたこの出来事が生徒達の反乱を買ってしまう事になる。
今考えればそれも無理はない。
だっていきなり転校してきた奴がいきなり学園のナンバー2になるっていうんだ。学園の先輩はもちろん、他の自分に自信がある生徒達だってそれに納得がいくわけがない。
これも彼女は慣れない関西弁で全ての喧嘩に受けて立ち全てに勝利した事で丸く収まった。
そして私達が学園の頂点に立ってから1年が経った。
あ、いきなり話が進んだのはダラダラ話してもしょうがないので少しだけテンポアップするためだ。
許してね。
さて、私達は進級して3年生になったが園芸部に変化は起こっていなかった。
当時は四天王がおらず園芸部は私達だけ2人だけ。園芸部に入りたいって子達は結構いたけど私がそれを許さなかった。
理由は簡単で、単純にそんな気がなかったからだ。副部長もそれに気づいてたし分かってた。私達だけで約束を守るためには十分だって。
そんなある日、ついに私は彼女に出会う事になる。
昼下がり、私達は部室内でいつものようにのんびりだらけながら暇していると1人の生徒が元気よく部室に入ってくる。
「たっのもぉーーーー!」
「はぁ?」
私達は突然の出来事に少しだけ驚いたが部室内に誰かが突撃してくる事はウチでは珍しくない。
だから、私はいつものように彼女の事は副部長に丸投げした。
「えっらい、元気な子やな〜〜、その格好2年生か?」
「真澄翔子。あだ名は特にない!」
「いや、誰もそんなん聞いてへんから……で、そんな翔子ちゃんは何しに来たん?」
「決まってる!私を園芸部に入れろ!」
ほら来た。みんなこうやってやってくる。
そしてそんなままあっさりやられて逃げるようにみんな帰っていく。
そんな毎日が続いているからもう慣れた。
「やろうなぁ。そう思ってたわ。でも、悪いけど今は誰も部員を募集してへんねん。気持ちは嬉しいねんけど帰ってくれるか?それが嫌って言うなら、力づくで説得してもウチは構わへんけど……」
副部長は立ち上がり上着を脱ぐ。これが副部長なりの戦闘体制みたいなものだ。
だけど、
「私は部員になりたいんじゃない!」
「?…じゃあ、何しに来たん?」
ほんとだよ。
「私がなりたいのは園芸部の部長だぁっ!!部員じゃない!」
「え……」
私達は結構この発言に驚いた。
今まで園芸部に入りたいって奴はいっぱい来たけど私が部長になって以来部長の座を狙って来た奴は誰もいなかった。
あの時の噂が根強いらしく誰も怖がって勝負に来ないのだ。私にとっては余計な喧嘩をして体力を使わずに済みとても都合が良かった。
だからこそ、余計彼女の発言には驚いた。
「それホンマに言ってるん?」
「当たり前だ!そのために私は来たんだからな!」
「そうか……分かった。そんな翔子ちゃんの気持ちはよう分かったわ。…アンタ、舐めんのもいい加減にせえよ」
副部長の顔は強張りドスの聞いた声で彼女を追い詰める。
「いきなり来てテッペンのイスが獲れる訳ないやろ!!でもどうしてもって言うんならまずはウチを倒してからってのが礼儀ちゃうんか!!」
「舐めてなんかない。私は今の部長がとんでもないくらい強いってのは知ってる。だから戦いたいんだ!」
「だから、アンタの相手はウチが先だって、言ってるやろうが!!このアホンダラっ!!」
「私が興味があるのは部長の遥だけ。それ以外に興味はない。分かったらさっさと私をアイツと戦わせてくれ」
「…分かってへんのはお前や!!」
話の通じない真澄に我慢が出来なくなり副部長は真澄の首元辺りを思いっきり殴る。
真澄は衝撃に耐えられず思わず膝をついてしまう。
「こんな攻撃も耐えれなくてよくそんな大層な口が聞けたもんやなぁ?…これに懲りたら一昨日来やがれ!!……今日のところはこれで特別に見逃したる。分かったか?分かったならさっさと消えな!」
今まで通りならここで全員尻尾を巻いて逃げ出す。
「一昨日は来れない!!だから今日相手をして貰うまでは何があっても私は帰らない!!」
凄いよね。こんなバカみたいな事を当たり前のように真顔で言ってのけるんだから。
しかも結構苦しそうな顔してさ……無理してイキがっちゃって。
でもこれって誰にでも出来る事じゃない。
この女はちょっとどころか大分イカれてる。
「オマエ、バカか?こんなんでも一応は学生やろ?こんな簡単な言葉も知らへんのか。……さっさと帰りなさい!」
「だから帰らない!」
「オマエな……帰れって言ってるやろが!!」
副部長の拳が再び首元を襲う瞬間!
「待って!」
声が聞こえて副部長の拳は首元スレスレで止まる。
「いいよ。そんなに言うならお望み通り私がアナタと戦ってあげる。それで満足でしょ?」
「…ええんか?遥」
「うん。私が決めた事だから。それとも何か文句でも?」
「いいや、とんでもない。遥自身が決めた事ならこっちが言う事なんて何もないわ。せっかくや、久しぶりの喧嘩楽しんでき」
「楽しめるかはあの子次第だけどね…。その前にここじゃなんだからさ移動しようか。ここで暴れたら片付けとか色々面倒そうだし」
「遥と戦えるなら私はどこでもいい。アンタに従う」
「……なら、付いて来て。沙莉、私の留守の間留守番よろしくね。時間はあんまりかからないと思うけど」
「あいよ。行ってらっしゃい」
私は彼女を連れて屋上へ移動した。
正直私がなんで彼女と戦う事を選んだのか理由を聞かれても答えられる気はしない。
珍しさからなのか、それともただの気まぐれなのか。
これといった理由があった訳じゃないがこの出会いがなければ私が彼女の強さを知る事もなかっただろう。
だから、後悔はしていない。
そんな喧嘩の結果はというと…………