二十一話 愛季乃麒麟想/アキノキリンソウ
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数日後。
バルキュリア王国 城 騎士ノ間にて
王国を代表する7騎士団の団長全員が集まったこの日。
話されたのはやはり、先日の一件について。
彼ら、7騎士団全員がこうして集まり緊急の会談をするのは稀のこと。
それだけ遥や彼女達がやった事が大事になったという事。
これが彼女達にとって新たなる戦いと新たなる出会いを示す大事なきっかけとなる。
「1、2、3、4、5、6、おい、1人足りないんじゃねぇか!?」
人を指差し数え、無駄に大きな声で怒鳴り上げる男。
イカズチノ騎士団 団長 ガナリ
「どうなってんだぁっ〜?ああ?話がちょっと違うんじゃないのか!?」
あからさまな態度でわざと騒ぎ立てるガナリ。
「煩いな…。久々に会ったが、お前は変わらず無駄に声がでかい。それに態度も品も無い。騎士として、大人としてもっとどうにかならないのか」
アメノ騎士団 団長 スコル
「お前にだけはそんな事言われたくねぇな。世間体だけ気にしてろくな成果も出せない出来損ないにはな!」
「成果や結果だけでしか人を判断出来ないとは……センスが無いね。同情するよ…」
「テメェ!舐めてんのか…!いい加減にしないと痛い目にあっても知らねぇぞ!」
「……やれるもんならやってみなよ。力だけでしか自分を表せない可哀想なお馬鹿さん」
一触即発のこの雰囲気。それを止めたのは髪の長い中性的な顔立ちの男だった。
「そろそろいい加減になさったらどうです?これ以上やっても今まで通り拉致があきませんから。それにお二人の仲は相変わらずの様ですね。どうしていつもこうなってしまうんでしょう?…本当は相性ピッタリのお二人だというのに」
カゼノ騎士団 団長 キセツ
「冗談言うな…!俺とコイツ、どこをどう捉えたらそう見えるんだ!お前の目は節穴か!」
「僕も彼みたいな野蛮な奴と同類にされるのはちょっと心外だね」
「それはこっちのセリフだ!!お前が言うなっ!!」
「だから、それも全部こっちのセリフだから」
「やれやれ……困った方達だ。あ、そうだ。ガナリ」
「なんだ、後にしろ!!」
「いやさ、さっき数が足りないって言ってたけど数はちゃんと合ってるみたいだよ」
「はぁ?…なわけねぇだろ!バイラスはやられて責任とったんだろ?!」
「だから、ちゃんと見てみなよ。ダイチノ騎士団の席をさ。ちゃんと責任とった状態でこっちを見てるんだからさ」
言われた通り改めて席の方を見てみると、それらしき人影はなかったが椅子の上を見てみるとそこには、バイラスの頭だけが置かれていた。
「ゲッ……こっちをじっと見てやがる。…アレは数に入れていいのかよ?」
「一応形だけでもね。彼を入れて私達7騎士団なんだから次が決まるまではいて貰わなきゃ」
「そんな簡単に見つかるのか?ダイチノ騎士団の後釜は。バイラスがいなくなって今の奴らは統制が取れなくなってめちゃくちゃだって話だろ。これからどうするつもりだよ。あまり放ってほくとこっちの仕事が増えちまう。そんなの俺はごめんだぞ。奴らの尻拭いをするのだけは」
「おっ、それだけは気が合うみたいだな。それは僕らアメノ騎士団もごめんだね。僕らには僕らの仕事があるんだ。本来役割が違う僕らがする仕事じゃない」
「その件は既にこちらでケリをつける事となった。少なくても君達に影響はない。安心してくれ」
ヒカリノ騎士団 団長 ミラルダ
「珍しいな。お前が何かをするなんて」
「これは俺の仕事だからね。きちんと役割くらいは果たすさ。それなりの報酬もいただいてるしね」
「で、どうするつもりなのか聞かせてもらえるかしら?」
「ああ。ダイチノ騎士団は本日を持って解散とする」
一同、驚きを表す。
「!…いいのかよ、そんな事して」
「大丈夫だ。問題ない」
「そこの兵士達はどうするつもり?こんな強引な方法じゃ暴動が起きるんじゃないの?そうなったらとんでもない数の兵士達が声をあげる事になって暴徒一直線よ」
「そうだ。そうなったら結局僕らの仕事が増えるだけじゃないか!」
「落ち着いてくれ。そうはならないから安心してくれていい。既に準備は出来ているんだから」
「何するつもり?……」
「ダイチノ騎士団の存在そのものをなかった事にするのさ。この世界の歴史からも民衆の記憶からもそんなものはいなくなる。それが1番手っ取り早いだろ?」
「結局、強引にお前の固有能力で終わらせるって事か。そりゃあ、楽で助かるわな」
「念の為、俺達だけには能力の除外をしておく」
「別にわざわざ覚えておく必要もねぇだろ」
「だから一応念の為さ。イレギュラーな事態に備えておくためにね」
「でも、ダイチノ騎士団がいなくなったら本来していた筈の治安維持の仕事とかは誰がするわけ?」
「その事も考えている。これからはダイチノ騎士団に変わってホムラノ騎士団に治安維持の仕事を任せたいと思う」
「ホムラねぇ……」
「でもちょうどいいんじゃねぇか?ホムラなら元々冒険者ギルドとの繋がりがあるからな。街の連中とも上手くやれるだろ」
「そういう事だ。ダイチノ騎士団はバイラスの性格や方針もあって無茶苦茶だったからね。街に住む人達からの好感度は常に最悪。だけどホムラノ騎士団ならそうはならない。つまり打ってつけの役割って事さ。…そういう事だからこの役目受けてくれるかい?」
「…命令というのなら我らホムラノ騎士団が謹んでお受け致しますわ」
ホムラノ騎士団 団長 レッカ
「ありがとう。そう言ってくれて助かるよ。みんなもこれで構わないね?」
「異議なしだっ!」
「私も」
「僕も文句はないよ」
「ヤーク、君はどうだい?」
「………異議なし」
カゲノ騎士団 団長 ヤーク
ヤークはミラルダに聞こえるだけの声の大きさで答える。
「よし。ならこれで話は決まりだね」
「ヤークは本当に声が小さいなぁ!それでも男かぁ?」
「それセクハラよ」
「はぁ?お前も男のくせにガタガタ言ってんじゃねぇよ」
「だからそれもセクハラ。…ヤークはただの恥ずかしがり屋でミラルダにしか心を許してないんだから仕方ないでしょ?」
「仕方ないのかそれ?」
「別に僕はどっちでもいいけどね。声が大きかろうが小さかろうがコミュニケーションが取れるのだから何も問題はない」
「スコル。…アンタはやっぱ違うわね。あのバカとは」
「当たり前だ。あんな堅物バカと一緒されては困る」
「お前らなぁ!!」
その中で1人だけ浮かない表情を浮かべる女が1人。
「……レッカ。どうしたの、アンタだけそんな顔して。なんか言いたい事でもあるわけ?」
「皆さんはなんとも思わないんですか……」
「何の話?」
「バイラスさんの事ですよ」
「ああ……アレ」
「確かにあの人のやった事は騎士として許されるべき事ではない。でも責任をとらせてその命を奪い、しかもこうして我々の前に首を晒すなんて正気とは思えませんわ。死者にはそれなりの供養をすべきです」
「あんたの言う騎士として許されるべき事ではない事って何の事を言ってるの?」
「そんなの決まってます。何故この世界に現れたか理由も不明な転移者に対して十分な対話や調査をせず処刑という愚行に走った事ですわ!」
「……それ本気で言ってる?」
「は?」
「レッカ、だからお前は甘いって言われんだよ!いいか?バイラスのした事は別に間違った事じゃねえ。方法はどうであれ、アレが奴らのやり方だからだ。奴らは奴らなりにこの国を守ろうとしてた。それのどこが間違いなんだ?立派じゃねぇか!仮に間違いがあるとすればそれは、負けた事。ただそれだけだ」
「そっちこそそんな事を本気で言ってるんです?」
「アイツと意見が一緒になるのは少々不服だがこの件に関しては間違ってるのはレッカ。君の方だと僕も思うよ。彼はね騎士団の名を使って勝負を挑んで負けたんだ。こうやって晒されても仕方ないさ」
常識が通じない、話が通じない。それが普通だと言われるこの状態。
彼女だけがこの違和感に気づいていた。
「そこまでだよ。みんな。そろそろ今日はお開きにしよう。レッカ、君には手間をかけるが新しい仕事宜しく頼むよ」
「……ハイ。分かりましたわ」
「じゃあ、これでお開きって事で解散!」
こうして7騎士団による話し合いは終わった。
彼らは部屋を去り残ったミラルダとヤーク。
「これでよかったのかい?ヤーク」
「ああ。予定通りだ」
さっきとは打って変わって大きな声で普通に話すヤーク。
「でも、あのバイラスがやられるとはちょっと驚きだよなぁ。お陰でこれからは7騎士団じゃなくて6騎士団に生まれ変わってしまうんだから」
「…数なんか関係ない」
「それはそうだけど、でも、ちょっと警戒しないとね。例の転生者。どう考えても普通じゃないみたいだし」
「その為にレッカをこの役割に任せることにしたんだ。アイツならそんなイレギュラーとも上手くやれるだろうからな」
「そうだといいんだけど……」
「上手くやって貰わなければ困る。これ以上王に迷惑をかける訳にはいかないからな。この国のためにも」
「だね……」
そして翌日、この世界からダイチノ騎士団は存在を消し記憶や歴史すらこの世界から無くなった。
彼女達を除いては。
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そして第一部はこれにて完結。次回からは第二部の始まり…
その前にとある人物に注目した番外編を掲載致します。お楽しみに!
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