二十話 螺難輝羅蘇/ラナンキュラス
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広場にて
動揺を隠せないカイゼルは問いかける。
「何故だ!何でお前は生きてるんだ!?普通、あの量の魔法をくらえば誰だって即死だぞ!まさかお前には魔法が効かないのか……そんな、あ、あり得ない」
「なわけないでしょ。次くらったら私だって即お陀仏よ」
ヤヨイから貰ったネックレスは輝きを失いチリとなる。
「これでも私は現役のか弱いJKなんだから。そこのところ忘れないでよね、オッサン!」
「フンッ!冗談言うな!お前のどこがか弱いんだ!」
「はぁ?どこからどう見てもか弱い女の子でしょうが!喧嘩売ってんの!?」
「……ふふ。JKはともかく、か弱い女の子はそんな言葉遣いはしないよ、部長」
見ていたサシミが呟く。
「それもそうね。ゴメンナサイっ!テヘッ」
カイゼルを慣れない仕草とあざとい表情で見つめる。
「やめろ!気持ち悪い……でも、助かったぞ。これでもう一度お前に魔法を撃ち込めるのだから!やれぇーーー!」
赤いローブを着た女達は再び魔法の詠唱を終え、遥に向かって一斉に魔法を放とうとする。
「ちょっと、気持ち悪いってどういう事よ!それに、同じ手が通用するわけないでしょ。いい加減学習しなさいよ…ディーノ!!」
「グアァッ!!」
呼びかけに応じたディーノは遥の後ろから飛び出すと、赤いローブの女達を魔法が放たれる直前に襲い一掃する。
「キャーーー!!」
「ッ!モンスター風情が邪魔をするとは、生意気な!」
「安心してよ、オッサンの相手は私だから。心無い悪口に傷ついた乙女の仕返しをくらいなさい!」
遥は一瞬でカイゼルの背後に回り、鎧の着脱部分の金具を狙った適格な蹴りを連続で叩き込み金具を破壊する。
「グッ……あ、」
金具が破壊された鎧は保持が出来ず、上半身や下半身を守る鎧が全て外れる。
「いい大人の男が女性を目の前に下着姿でいるなんてアンタの方が気持ち悪い……」
「お前のせいだろうがーーー!!…調子に乗るのもいい加減にしろよ」
カイゼルはすぐさま遥に近づきとっ捕まえる。
遙もそれに応えるようにカイゼルを掴み、互いに掴み合った形になる。
「どうするつもり?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそよかったのか?体格や力、女のお前が男の俺に敵うと思ってるのか。逃げる素振りも見せず、返って俺に掴みかかってくるとは正気の沙汰とは思えんぞ」
「正気で勝機よ。だって逃げる必要なんてないもの。だったら攻めるしかないでしょ?寧ろこっちの方が早く勝負を決められて都合がいい」
「言ってろ!」
カイゼルは遥を投げ飛ばそうと力を入れるが、びくともしない。
「なんでだ……ふさげるなよ、我がお前のような少女ごときを持ち上げられないわけがないんだ!うぉぉぉーーーっ!」
「駄目よ、それじゃ。単なる力任せじゃ私は上げられないわよ。こっちはそういう相手と戦うの慣れっこなんだから」
遥は表情ひとつ変えずに耐える。
「そろそろいいかしら?なら、今度は私の番よ。正しい力の使い方を私が教えてあげるわ」
遥は掴んだ手に力を入れると体全体を上手く使ってカイゼルを逆さまに持ち上げる。
「おいっ、おおいっ!嘘だろ……夢だよな。そうに決まってる。じゃなきゃなんで、なんで俺が宙に浮いてるんだ!離せっ!!!」
カイゼルは騒ぎ起こった事に動揺を隠せない。
遥は華奢な体でスタイルもいい。
対するカイゼルは兵士や冒険者らしく体は鍛え上げられ筋肉もしっかりとついている。こちらも体重差は恐らく2倍、下手したら3倍程度あってもおかしくはない。
そんな体格差のある相手を普通は持ち上げる事なんか出来るわけがない。
そもそも男性と女性には明確な体格の差が存在する事も忘れないでほしい。
それなのに実際に彼女は持ち上げた。
しかもそれをすぐ落としたり投げたりするのではなく、そ 持ち上げたままの体制をキープし続けている。それこそあり得ない事なのだ。
その時間、約15秒。
短く感じるかもしれないが体重差が3倍近くある相手を1人で持ち上げているのだからこの時間は長すぎる。
「黙ってないと舌噛むわよー」
遥はニヤッと笑う。
カイゼルは危機を察知して必死に体を動かし抵抗をするが遥は構わず後方へ投げて、垂直に近い形で思いっきりカイゼルを地面に叩きつけるブレーンバスターを放ってみせる。
カイゼルは咄嗟の出来事に受け身など出来るわけもなく頭や体に大きなダメージを受ける。
そのダメージの大きさは果てしないようでカイゼルは白目をむいて失神してしまった。
遥は倒れて失神しているカイゼルの上に乗り華麗にポーズを決める。
「フォール♪」
ハレルヤ女学園 一年教室
テレビで様子を見守っていた仲間達が息が合った掛け声をし始める。
「「ワンッ!!」」
この状況に1人だけついていけていないヤヨイ。何故、一斉に騒ぎ出したのかよく分かっていない。
「え……!」
「「「ツーっ!!」」」
ここにいるヤヨイを除く全員が一度顔を見合った後、
「「「「スリーッ!!!」」」」
「わぁーーーっ!」
「やったーーーっ!」
「部長、流石です!」
ここにいるが全員が喜び、歓喜する。
これまたヤヨイを除いて。
「コレって……」
広場
「なーんてね。…ここでこんなのしたって仕方ないのにね……」
遥はカイゼルの上を降りて、周りを見渡す。
ディーノ達のお陰もあって周りにいた兵士達は全員気絶。近くにいたクズな観衆達も巻き添えをくらい、殆ど残っていない。
「あら、随分サッパリしちゃったわね。…もしかしてやり過ぎた?いや、そんな事もないか」
ディーノは遥に駆け寄り体を擦り付ける。
「!、ありがとう。ディーノのお陰よ。アナタもきちんと約束を守ってくれたみたいだしご褒美をあげないとね」
遥はディーノの頭を撫でると頬の辺りにそっとキスをする。
「!グアァッーー!!!」
ディーノはとても喜び遥の周りをぐるぐる回る。
「分かったから、落ち着いてって。さぁ、一緒に帰るわよ。サシミ、早く来ないと置いていくわよ」
帰ろうとする遥とディーノだが、サシミだけはバイラスの側から離れない。
「……まだ、トドメが終わってない」
サシミが倒れているバイラスに最後の一撃を入れる直前に遥が動きを止める。
「やめときなさい。…これ以上したらこの変態本当に死んじゃうわよ?」
「……でも、仇は取らないと、」
「もう十分。私達が出来ることはした。もうこれ以上は私達が超えちゃいけないラインよ」
「……それでも!」
サシミは遥の制止を振り切り、もう一度トドメの一撃を与えようとするが再び遥に止められる。
「ダメだって言ってるでしょ!!…少しは落ち着きなさい」
「……部長はいいんですか?本当にそれで。…カカシと1番関係があったのは誰よりも部長の筈です。それなら分かりますよね、この気持ち。仲間を失ってどうしようもないこの感情を!どうすればいいんですか……」
「この変態を殺して自己満足で済むならとっくに私がコイツを殺してる。だけど、そうじゃないでしょ?私達はダメなのよ。人を殺しちゃ」
「……異世界なら誰も責めません。きっとそんな法律もありません。やられたらやり返す。それでいいんじゃないんですか?異世界ってそういう世界なんじゃないんですか?」
「それでもよ。異世界でも私達は人を殺しちゃダメなのよ。どんな理由があっても…」
「……なんで、なんでそこまで止めるんですか?…」
サシミは膝を落として、うっすらと涙を浮かべる。
「それは私達が日本人だからよ。日本じゃ殺しはダメでしょ。見つかったら捕まっちゃう。見つからなきゃいいかもだけど、そういう問題でもないでしょ?確かにここで私達がこの変態を殺したところで誰も責めはしないと思う。寧ろ、仇が討てたってたって皆喜ぶかも。だけどさ、それをしちゃったら自分自身を裏切ることになる。そう思わない?」
「……うら、ぎる?」
「そ。裏切る。別にそこまで日本に思入れがあったわけでも未練があるわけでもないけどさ、私達がそれを裏切ったら面白くないでしょ。日本人だから殺さない。殺しても何も罰されないこの世界でそれを貫き通したらそれが私達だけの個性になるでしょ。個性は武器よ?特に私達なんかその独特な個性で訳アリな生活を送ってきた代表みたいなものでしょ?だったらさ、とことん貫こうよ。せっかくの新しい個性ここで捨てるのは勿体無い。」
「……部長……」
「学園にいる皆も見ても聞いてもいるんでしょ?そういう事だから。いいわね?」
遥は何処となく空を見る。
「「ハイ!!」」
聞こえるはずのないそんな返事が聞こえた気がした。
「カカシには私が責任を持って話しておくわ。だから、私達はこれで帰るわよ。もう、終わりなき弔合戦は終わりにしましょ。サシミ」
遥はサシミを差し出す。
サシミは何も言わずに遥の手を掴む。だけどサシミの表情は明るかった。
こうしてダイチノ騎士団との抗争は園芸部、威薔薇ノ棘の勝利で幕を閉じたのであった。
失った花は彼女達が次の未来へ進むきっかけになったと信じて。
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