十六話 婀呂獲/アロエ
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遥、エプロン、そして多数のモンスター達がオジョウを救いに広場の奥へと進んで行く。
そして想いと使命を託されたサシミは、全裸になって強さを増したバイラスとの一騎討ちの最中だ。
「オマエだけは許さんっ!!、、」
バイラスは得意の加速魔法を使ってサシミを襲っていく。
だが、サシミの動きは正に圧倒的で、バイラスが常に先を行くのなら、サシミはそれより先に早く進むだけ。
バイラスの攻撃を余裕にかわしていく。
「……さっきよりは速いね。でも、私の方が速い!」
バイラスがサシミを突き飛ばそうとタックルをして来たところを奴の勢いを乗せたまま、顔面を蹴り飛ばした。バイラスはそのままの衝撃で後ろに倒れるが、奴の表情は微塵も変わらない。
しかしダメージは与えている筈。
それを疑わせるかの様にバイラスはけろっと立ち上がる。
体格が圧倒的に違う2人。体重差は恐らく2倍、いや3倍近くあるバイラスの攻撃をまともに喰らえばそれは交通事故のようなもの。
一発でも受けてしまえば致命傷は間違いない。
当然そんな攻撃を耐えれるわけがない。だがそれを逆に捉えれば話は変わる。先程のように奴との体重差や攻撃を利用してこちらが攻撃していけば自分の体重がそのまま自分に返ってくる。
それなら体重差はこちらにとってチャンスになる。
それに気づいているサシミは相手の攻撃を器用にかわしながらカウンターを繰り返して的確にチャンスを利用しダメージを与えていく。
だが、バイラスは何度も地面に倒れては簡単に立ち上がる。
「まだだ、……まだ終わらんぞっ!!!」
「……はぁ、はぁ、……この変態デブゴリラ、見た目より結構しぶとい」
ハレルヤ女学園 一年 教室にて
「サシミー!、もっとよ、もっとやっちゃいなさい!」
「サシミさん、やっぱり強いな〜。こんなの私達が敵うわけないわ」
「そりゃそうだよ。だってあんな速い上に力だって持ち合わせてるんだよ。私達なんか、気づいた時には2人とも倒れてたもんねー。初見殺しをいい加減にして欲しいよね」
応援をするエンジェル。応援をしながら過去を思い出す一年達。
「すごっ、……まるで夢見てるみたい」
「夢じゃないのよ、コレが。どうしたの?分かりやすい唖然とした顔しちゃって。そうか、ヤヨイはサシミの戦いを見るの初めてだったけ?」
「あ、はい。何となく色々と速いって話は聞いてましたけどこれ程とは思いませんでした……だって、あんな速いのに魔法やスキルを使ってないなんて信じられませんよ!!どう考えたって有り得ない」
「疑う気持ちは分かるけど、サシミが速いのは元からよ。サシミは昔からとんでもないくらい速いのよ。……それが原因で家族からや周りからも嫌われるくらいね」
「え?……」
「この世界はさ、私達の世界じゃ有り得ないって事がごく平然にあり得る世界だから、サシミがとんでもないくらい速くて不思議な事とかも珍しいとかって理由で済んじゃうんだろうけど、今まではそういかなかった。速くて凄いね、じゃなくて速すぎて気持ち悪い。挙句の果てには化け物扱い。そんな日常が彼女にとっては当たり前でそれを血の繋がった親すらも見捨てた。速いって事は彼女にとってコンプレックスでしかなかったのよ」
「そんな……」
「でも、サシミがそれを受け入れた。受け入れるしかなかったのよ。生きるためにはさ。だって周りを見れば見るほどそれが身に沁みて感じてしまう。明らかに普通じゃないのは自分だけなんだから。そうやって自分に蓋をした。そうでもしなきゃとても……それからは自分のコンプレックスを隠して周りに合わせるように生きてきた。
ほら、サシミって話す時、いつもひと呼吸おいて話すでしょ?
それもその1つよ。あの子は敢えてああやって喋ってる。油断すると思わず喋る時さえ早口になっちゃう癖があるのよ。それもただの早口じゃなくて何言ってるか分からないくらいの速さになっちゃうから、会話なんて成り立たない。でもま、私や部長達は余裕で聞き取れるくらいは慣れちゃってるから、それも必要ないって言ってるんだけど。これも今じゃ彼女にとっての譲れないこだわりになってる」
「…アシュラさん、サシミさんと仲がいいんですね」
「なんで?」
「随分詳しく知ってらっしゃるから」
「え、まぁ、仲がいいって言うか、ちょっとした幼馴染みたいなものよ。他のみんなよりちょっと長くサシミと知り合ってたってだけ。それだけよ」
「そういう関係が仲がいいっていうんじゃないですか?お二人のは場合なんか余計に」
「…………」
「照れてます?」
「照れてないわよ!照れるわけないでしょ?部長じゃないんだから」
「なら何でそんなに顔を赤くしてるんです?」
「それは、それは心配してるからよ!サシミや部長達の事を心配してるだけ」
「本当ですか?」
「本当よ!しつこいわね。……でも、今のサシミなら負けないとは思ってるけど」
「自信おありみたいですね」
「まぁね。私やサシミ、少なくても園芸部の奴らは全員部長と出会って色々変わったのよ。…分かりやすいぐらい生きやすくなった。めちゃくちゃね。だから、みんな部長に感謝してるし、信じてる。そんな部長に託されたんだもん。負けるわけないし、負けられないでしょ。私だったらそう思う。だからアイツも同じ風に思ってる筈」
「なんか、羨ましいです。これぞヤンキーって感じで」
「ヤヨイもその仲間になったんでしょ?その内同じ風に思える時が来るんじゃない?」
「そうですかね……」
「そうよ。そんなに心配なら吐いてる嘘をバラしたらいいんじゃない?そしたら多少は違うかもよ」
「え!?」
「何を隠してるか知らないけど、その位みんな気づいてるわよ。バレてないと思ってたなら残念ね」
「…………」
2人の中で微妙な空気が流れ出す。
そんな時それを遮るようにあの女がヤヨイに問いかける。
「ねぇ、ヤヨイ!?」
「!?わっ、ど、どうしました?」
「アイツさ、ちょっとは空気ぐらい読みなさいよ。結構深い所まで話そうとしてたんだからさ」
「何言ってんのー、アシュラ。空気には何も書いてないでしょ?見えないんだから読めるわけないじゃん!」
「あーーー、そうね…アンタはそういう奴だったわね。もう、それならそれでいいわ」
「ん?」
アイツはぽかんとした顔でアシュラを見る。
「あ、そんな事よりさ、ヤヨイに聞きたい事があるんだけどさー」
「な、何です?」
「あのさ、なんで」
ゴクン……
「何で魔法が使えるのにさ、あの変態は炎とかビームとか出さないのよーー!それじゃあ、見てる方つまらないじゃん!」
少し拍子抜けな質問に気が抜けるヤヨイ。
「そっちですか……でも良かったかな?」
「ん、何が?」
「いえ、気にしないでください。で、聞きたいのは何で相手が攻撃魔法を使わないかって話ですよね?」
「そうだよ。何で使わないのさー。絶対その方が強いし面白いのにーー」
「それは、使わないんじゃなくて、使いたくても使えないんですよ」
「使いたくても使えない?ってどういう事?」
「ご想像通りこの世界には炎や水、はたまたビームなどの攻撃魔法は確かに存在します。でも、それらの魔法を使うためには大量の魔力が必要不可欠なんです。そしてその必要な魔力が男性には足りないんです。この世界の男性は生まれもった魔力が少ない状態で生まれる事が多いんです。
だから、大人になって魔法の知識を手に入れたとしても体がついていかない。ですから世の男性達は皆、攻撃魔法ではなく魔力の消費が少なくて済む補助魔法を使う事が基本なんですよ」
「ふーーん、じゃあ女のヤヨイは使えるって事?」
「世間的には女性の方が男性より遥に魔力を所持していますけど私は例外ですね」
「何で?」
「何でって、私には魔力が殆どないからですよ。この世界に生まれた人間でそんな事は殆どないらしいんですけど。要するに私も世間的には有り得ない存在って事です」
「じゃあ、ヤヨイも私達と同じって事だ!!」
アイツは自分達と同じだと思った事が嬉しかったようだ。
「…そうです、ね」
「ねぇ、今度は私から質問していい?」
「あ、ハイ。何でしょう、アシュラさん?」
「エプロンさんから聞いたんだけどさ、ヤヨイが使ってる鑑定?ってのは補助魔法ってヤツなわけ?」
「私の場合は魔法ではなくスキル、所謂固有能力ってのですよ。でも、補助魔法の種類としては鑑定も存在はしますけどね」
「なら、例えば外部から何かを見て私達の事を判断して聞こえる筈のない外から頭に声を届ける!みたいな魔法ってあったりする?」
「あーー、あるにはありますよ。それはきっと、鑑定魔法と念話魔法の同時併用ですね。でもなんで?」
「この前、そういう経験があったのよ。それでちょっと気になってて」
「なるほど。恐らく、鑑定で強者のいる場所を判断して念話で意思を届けたそんな感じかもですね。あ、それって以前話されてたダイチノ騎士団がここに襲って来たって時ですか?」
「ええ。そうよ」
「じゃあ、魔法の発動者は男。なら間違いありませんね。ダイチノ騎士団みたいな腕に自信のある者や冒険者と呼ばれる男達は攻撃魔法が使えない分、索敵や身体能力を強化する魔法を使う事が多いんです。鑑定も念話も兵士なら誰でも使える基本魔法みたいな物ですから。出来て当然です」
「そうなんだ。お陰でスッキリしたわ。前からちょっと気になってたから」
「お役に立てて何よりです」
2人の会話が終わり数秒間沈黙の時間が流れる。
「イヤァーーーーーーー!!」
テレビを見ていたエンジェルの叫び声が2人を驚かす。
「どうしたの!!?サシミに何かあったわけ?」
「ち、ちがう。そっちじゃなくて、ぶ、部長がっ!!……」
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