十五話 勇賻愛流美逢/ユーフォルビア
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そして、時系列は2人の戦いに戻る。
バイラスは再び姿を消して遥の背後に現れる。と思ったら背後にはおらず目の前に。
そう思ったら今度は遥の横に。
「……ちょこちょこと面倒な奴。いい加減ウザイわね……」
バイラスは姿を消しながら悠々と語る。
「随分余裕のようだな。本当は俺の姿を反射的に追いつくのが精一杯のくせによく言うもんだ。事実、俺は無傷だが、お前は結構ボロボロじゃないか」
「服がね。……替えなら何着も持ってる」
「だったら今度は分かりやすく直接体を狙ってやるよ。女の顔面だけは傷つけたくなかったんだがな…後悔するなよ」
「そっちこそよく言うわ。さっきから私の顔面ばっか狙ってるくせに。でも一度も当てられてないみたいだけど。フフッ」
「…だったら今回もかわしてみろよっ!!!」
バイラスは何度も姿を消し、タイミングをずらして遥の不意を突いて顔面を切り付けようとする。
「いい加減それも見飽きたからさ、もう慣れちゃったわ。だから正々堂々受け止めてあげる」
遥の顔面を襲う筈の斧が直前で遥の手で受け止められて押さえられる。
「ぐっ…ガァッ……!」
バイラスは力で強引に斧を遥に押し込もうとするがびくともしない。
遥は斧を思いっきり振り払うとバイラスも思わず態勢を崩してしまう。
これによりバイラスに思いっきり隙ができる。
正にそれは絶好の攻撃のチャンスだ。
だが、遥は立ち尽くしたまま動こうとしなかった。それどころか、
「飽〜きた!」
は?
周囲が一斉にそんな声を発した。
もちろん、遥の事をよく知っているはずのエプロンさえ疑問の声を発した。
バイラスはここぞとばかりに態勢立て直し遥に問いかける。
「お前、正気か!やっぱり舐めてるのか!?この俺を!!」
「別に。そうじゃないけど、飽きたのよ。単純に」
「そうか。そういうことか。お前、自分の負けを認めたんだな。このまま戦っても俺には勝てない。そう悟ったんだろ?だから飽きたと言って戦いを止めたんだろ」
「それこそ、は?よ。勘違いしないで。私はただこの喧嘩に飽きただけ。勝負を放棄したわけでも、オジョウを救うのを諦めたわけでもないわ」
「だったら何故止める!俺を倒さずに仲間が救えるとでも甘ったれた事を思っているのか!?」
「そんなワケないでしょ。アンタは強いわ。それは認めてあげる。そんなアンタを放っておいてオジョウを救えるほどこの勝負は甘くない。それも分かってる。そして私の方がアンタより強いってこともね」
「強い?お前の方が?……笑わせるな!!」
「だったら笑わなければいいじゃない。こっちは面白い事なんて何も言ってないんだから」
「そこまで言うなら正々堂々戦って証明してみろよ!お前は俺より強いんだろう?だったら問題ないだろうが!」
「私にとってはそういう問題じゃないのよ。言ったでしょ。飽きたって。私がこれ以上アンタと戦いたくないのよ。つまらないから」
「仲間を救いたいんじゃないのか?」
「だから救うに決まってるでしょ?その為に私はアンタと戦う事をやめたのよ。そんな事も分からないの?呆れたヤツね……」
「だったら誰が俺と戦う?一緒に来たもう1人の仲間にでも代わりを任せるのか?」
「違うわよ」
「だったら他に誰がいるんだ!?お前はバカなのか?他に頼れる奴なんていないだろう!」
「いるわよ。頼れるなら仲間ならたくさん」
「何処にもいないじゃないか!!」
「ここにはいない。だけど私にはいるのよ。でもそう思えたのはアンタのお陰かもね。アンタと戦ってるとさ、どれだけ仲間が私にとって大事だったか分かった気がしたのよ。アンタの戦い方は独りよがりで周りを意識せず、常に勝つ事だけを目的としてる。その為には仲間なんか必要ない。必要なのは自分が勝つための手段だけ。そう思ってるんでしょ?」
「それの何が悪い?勝つ為に必要な事をだけを選択し実践する。俺は間違ってなどいない!現にそうして俺は今まで勝ってきた!これこそが正義だ!」
「だから、分かってるって。間違ってなんかないわよ。ちょっと前までの私も似たような事を考えてたから。……どの世界も勝負の後に残るのは勝ちが全て。それ以外は必要ない。だけどさ、私がハレ女の頂点に立って考え方が変わった。勝つのは嬉しいし、勝ちたいのも当然。皆、負けたくなんかないんだから。でも、結果だけが全てじゃない。そう思わされたのよ。今の仲間のお陰でね」
「だからなんなんだ!!」
我慢が出来なくなったバイラスは攻撃を仕掛けようとする。
「聞きなさいよ!人の話は最後まで!」
遥の叫びは周囲をまでも一喝する。
バイラスも思わず足を止めてしまい、攻撃のタイミングを見失ってしまう。
「だから、私はそんな仲間をこれ以上失いたくなかった。みんなのお陰で私は少し変われたから。私がハレ女の頂点としてみんなを守らなきゃって。勝手に判断して強引に仲間を説得して勝手にこうしてやって来たわ。……でもさ、それじゃダメなのよ。そんな戦い方じゃハレ女らしくないのよ。今までを見てきたあいつならきっとそう言うから!」
「何が言いたいんだ?さっきから!今は戦いの最中だぞ!」
「だからこそ言ってるんでしょ?!」
「?」
バイラスは顔を歪ませる。
「戦いにはいつだってドラマが必要なの。その為にはマイクパフォーマンスが必要不可欠なのよ!……でもちょっと、話が長くなっちゃったのは反省ね。…とにかく、私が言いたかった事をまとめるとアンタを倒すのは私じゃない。アンタの相手に相応しい私の仲間が、失った仲間の仇を討つ。そういう事よ!」
「だからぁ、ソイツはどこにいるんだぁぁっーーーーー!!?」
「ソイツを今から呼ぶんじゃない。大丈夫。あの子はアンタより速いから」
そう言うと遥は腕を高く上げ空に向かって思いっきり指を鳴らす。
パチンッ!………
「……部長、呼んだ?」
遥の隣にはさっきまで学園に居たはずのサシミの姿が。
「なっ!……ど、どうなってる?」
突然の出来事に周囲も動揺している。
「流石の速さね。思ってたより早くてこっちも助かったわ」
「……皆、部長達の事を見てたから。それに、アシュラ達が気づかせてくれて、準備してた」
「見てたって…どういう事よ、ソレ?」
「……実は、ここの様子が学校のテレビで何故か中継されてるの。皆それを見て部長達の事を応援してたの」
「何それ……じゃあさっきのセリフも全部聞かれてる訳?」
「……うん」
「ああ。そうですか……」
遥は軽く頭をかかえて恥ずかしそうな表情を見せる。
「……でも、それが聞けて皆嬉しいと思う。私もそうだから。特にアシュラなんてめちゃくちゃ喜んでると思う」
「アシュラがね…そんなでもないでしょ」
「……いや、アシュラは超弩級の天然ツン…、だから。とにかく間違いない。賭けてもいい」
「よく分からないけどそこまで言う?」
「……それだけ私達の事を頼ってくれて嬉しいって事です」
「そ。じゃあ今の私の判断は間違ってなかったって事だ。それならあの時、柄でもなくワガママなんかするんじゃなかった。もっと早く自分に正直になればよかったのね」
状況についていけていないバイラスだったが何とか喰らい付いていく。
「お前一体いつの間に……どこから現れた!どこに隠れてた!お前は一体なんなんだ!」
「……さっきからうるさい。今は私と部長の時間。黙ってて」
「なっ!……なんなんだその態度は!いいから質問に答えろ」
バイラスがサシミに対してヤジを飛ばした。バイラスが喋るのをやめ口を閉じた瞬間、目の前にはサシミの姿があった。
「!!!」
「……お口チャック」
サシミは手に持っていたガムテープでバイラスの口を塞ぐようにもの凄いスピードでぐるぐるに巻く。
用が済んだサシミは満足そうに遥の横に一瞬で戻る。
サシミは笑顔でピースサインを遥に向ける。
「よくやったわね〜」
サシミの頭を優しく撫で撫でする。
「でも、良い子は真似しちゃ駄目だぞ。悪い子は……んーー、勝手にしな」
ガムテープをなんとか取り切ったバイラス。
「お前っ……その動き。どこで覚えた!……なんで転移者が加速の魔法を使えるんだ?」
「……部長。この人、変。意味が分からない」
「魔法な訳ないでしょ?アンタが言う通り私達は魔法なんか大そうなものは使えないわ」
「認めたな。なら、こんな事が出来るお前達は人じゃないって事だ!」
「そうやって自信満々に間違っちゃってさ、恥ずかしくないわけ?さっきから転移者って言ったり、化け物扱いしたり本当に忙しい人ね。言ったでしょ?この子は速いって。特に足がね」
「足?……ただ足が速い、それで納得できるわけないだろうが!!」
「出来なくてもしなさいよ。それが事実なんだから。そうよね、サシミ」
「……部長の言う通り。納得しろ」
「ありえない……あり得ない!そんな無茶苦茶あってたまるかぁ!!」
バイラスは高速で移動してサシミを襲おうとする。
このまま殴れば必ず当たる距離。
だから殴る。
なのに殴った時には既にサシミはバイラスの背後にいる。
「は?……どうして当たらない?何故だ。私は誰よりも速い。それなのに……何故当たらない!」
「……遅いからに決まってる。私より」
「私がアンタの攻撃を見切れたのは、アンタの戦い方がサシミに似てたから。だけど、速さは比べる必要もないくらいアンタの方が遅かった。サシミに慣れてる私達からしたらアンタの動きなんかどうって事ないのよ」
「どうって事ないくらい遅いだと……この俺が遅い。遅い、遅い、遅い、遅い、遅い…………」
バイラスが遅いと呟くたびに雰囲気が変わっていく。
来ていた鎧はどんどんと外れていき鍛えた体が剥き出しになる。やがて衣服までもはだけてしまい見えてはいけない部分まで丸出しに。
「……!!、変態ッ」
「フンッ。アンタ……最低ね。本ッ当にバカなヤツ!」
「遅い、遅い、遅すぎるわーーーーッ!!」
「……開き直った」
「ほんと面倒ね。何がしたいのかしらあの変態」
「許さん、この俺を脱がした事、決して許さんぞーーーっ!」
「勝手にアンタが脱いだんでしょ!!……サシミ、いきなりだけど頼ってもいいかしら?」
「……ハイ。勿論!」
2人の雰囲気もさっきとうって変わる。
「なら、威薔薇ノ棘、部長として命じるわ。私や皆、そしてカカシの分まで奴をぶちのめしなさい!遠慮は必要ない。やりたい事をやりたいだけ、全部あの変態にぶつけてやりなさい!!…負けは許さないから」
「……うん。仰せのままに」
「そこら辺の雑魚とオジョウの事は私達に任せなさい。頼んだわよ。…そういうことだから!エプロン、聞いてるわよね?」
「ハイよー。ほな、そろそろウチらも少しだけ本気出して行こうか?あんまモタモタしてるとサシミの方が早く終わってまうかも知れへんからな。紅生姜も準備はええな?」
「ギュワーーッ!」
「いい返事や。なら一気に突っ込むで!」
エプロンは紅生姜と共にオジョウを救いに周りを一掃しながら奥へ前進していく。
遙もエプロンを追うように前へ進もうとすると後ろからディーノが遥を止める。
「なに、どうしたの?あ、もしかしてディーノや皆も一緒に戦いたいの?」
ディーノ達は頷く。
「なら、思いっきり暴れちゃっていいわよ。だから、周りの雑魚達はみんなに任せるわ。いい?」
「グワァーーーッ!!」
やる気満々に返事をするディーノ達。
「でもその前にひとつだけ約束して。攻撃していいのは兵士達と処刑を楽しみに見に来たクズな奴等だけ。痛めつけるのはいいけど決して殺さない事。何があってもね。約束できるわよね?」
「グワッ!」
「うん。いい返事ね。なら、思う存分やーーっておしまい!」
「グワッ、グァーーーーッ!!」
ディーノ達はすかさず勢いよく前に飛び出して行き、遥の道を作っていく。
「なんか、今の掛け声だと私達が敵みたいね…。でも、まっいっか!ヒール役もたまには悪くない」
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