十四話 螺辨蛇亜/ラベンダー
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遥とエプロンは互いに顔を見合わせ、何かを感じ取ったかの様に頷く。
すると、エプロンはカカシを救いにいきなり前に飛び出て行く。
「……行かせると思っているのか?」
バイラスは飛び出たエプロンの前に立ち塞がろうとする。
が、
「行かせるのよ。私がね」
遙も同時にエプロンの前に飛び出して来ると、エプロンは遥の体を踏み台にしてバイラスの巨体を飛び越える。
「なっ……!」
「沙莉、オジョウの事は任せた!私は1番偉そうなコイツを片付ける」
「あいよ!任しとき!」
エプロンは邪魔する兵士達や観衆達を掻き分けながらオジョウの下へ急ぐ。
「だから、行かせるわけがないだろうがっ!!」
バイラスは奥に進もうとするエプロンを止めようと動き出す。
「今度は私が言う番ね。行かせるわけないでしょ、バーカ!」
今度はバイラスの行手を塞ぐ遥。
そのまま遥はバイラスの体に強力な蹴りを一発叩き込む。バイラスは僅かに態勢を崩す。
遥の蹴りはバイラスの鎧にヒビを入れた。
「あれ…今度は割れなかったわね、その鎧。思いのほか頑丈みたいねーソレ。やっぱりお偉いさんの鎧は使ってる素材もお偉いさんって訳か。副団長のとは違って当然って事かしら」
「聞いてた通り桁外れな馬鹿力のようだなぁ、お前」
カチンッ。
「アンタもかぁ……。あのさ、初対面の女の子相手に馬鹿力とか化け物とか随分ないい草だこと。上がそんなんだから部下もみんな真似してモテなくなるのよーーっ!」
遥は飛び上がり鎧のひび割れた部分を狙ってドロップキックを放つ。
バイラスの体に蹴りが当たる瞬間、バイラスの姿が目の前からいなくなる。
遥は受け身を取りながら着地する。
「…………」
「こっちだ、化け物。流石にこの俺でもあんな蹴りを何度も喰らいたくはないんでね。避けさせてもらったよ」
遥の後ろに少し距離をとった場所にバイラスがいる。
距離自体は離れた場所ではないが、遥の蹴りをかわしてすぐに来れる距離でもない。
じゃあどうやって…
「順番どおり今度は俺からやらせて貰おうか。次はないと思うがな!……」
バイラスが再び姿を消す。
遥が瞬きをした一瞬の瞬間にバイラスは遥の目の前に現れる。
バイラスは自分の背丈程長い巨大な斧を片手に持ち、遥を切りつける。
遥は瞬時に一歩下がって残り僅かな距離で斧をかわした。
「ほう……今のを避けるか。だが、そんな何度も上手くかわせるか?」
「聞いた通りの動けるデブだこと。ダイエットでもするつもり?」
バイラスは再び姿を消して、今度は遥の背後に現れる。
「…まだ減らず口が聞けるのか…舐めるなよぉっ!小娘がぁっ!今度こそ終わりにしてやるよ、この化け物めぇっ!!」
完全に不意をついた一撃が遥を襲う。
だがこれまた遥は一撃を残り僅かの距離でかわして斧を持つ片手を連続で器用に蹴り叩く。
バイラスは衝撃に耐えられず思わず斧を落とすがそれでは終わらない。
斧がなければ拳でと、遥の首元を思いっきり殴り飛ばす。
遥はそれを喰らって後方に吹き飛ぶが何とか受け身を取り威力を最小限に抑える。
「なかなかやるじゃないか!口だけじゃなくて安心したよ!…この前の奴とは大違いみたいだしな」
「アンタみたいなバカに褒められても全然嬉しくないっつーの……」
ハレルヤ女学園 一年教室
2人の戦いを見ながら盛り上がる生徒達。
しかし、それを不安な表情で見つめる者も。
「部長…」
「大丈夫よ、アシュラ。部長は強い。それは私よりアンタの方が知ってるはずでしょ?……」
「でも、部長が誰かに吹き飛ばされるのを初めて見たから。いつもは一撃も喰らわず圧勝する事が多いのに……」
「だけど部長だってやられっぱなしって訳じゃない。それに素手の部長に対して相手は凶器を持って暴れてるのよ?こっちはハンデ背負って戦ってるみたいなものなんだから、若干不利なのは仕方ないわよ。それでも部長は負けない。そうでしょ?」
「エンジェルさんの言う通りです」
「ヤヨイ…」
「正直私はこれを見て驚いてます。常識で考えたら遥さんが勝てるわけがないんですよ。それどころかまともに闘いあってる事自体が本来あり得ない事なんですよ。だって体格も違えば、性別だって違う。それなのにです!まともな戦いどころか遥さんの方が積極的に相手を追い詰めようとしている。それってめちゃくちゃすごい事なんですよ!だから信じてあげてください」
「分かってるわよ…部長の凄さぐらい。そのくらい私だって。だけど不安なのよ!もしもの事があったらって……」
「それなら尚更アシュラさんが信じてあげられなくてどうするんですか!遥さんだって皆さんに信じて欲しいって思ってる筈です。遥さんが皆さんを信じているように」
「そんなの新入りのアンタに言われる前から私は信じてるわよ!ここが日本だったらそんな心配しないわよ。だけどここは何でもありの異世界で、現に普通じゃ有り得ない動きをする相手と戦っている。そんなの不安になって当然でしょ!?」
「あれ??…」
突然、何かに気づいたような表情を見せるエンジェル。
「どうしたの?エンジェル?……ニヤニヤしちゃってさ、」
その様子を不思議に思うアイツ。
「ふふっ。気づかない?勘のいいアンタなら気付くでしょ?ほら、さっきまでの様子を思い出してみてよ?」
アイツは頭の中の記憶を辿り始める。すると、
「え?……あれ?あ、本当だーー!」
「気づいた?」
「うん!」
「やっぱ、あの戦い方って似てるよね?」
「うん。似てる!ってより殆ど同じだよ!」
「だよねー!そうなんだよ。同じなんだよ!……何で気づかなかったんだろう?こんな近くにいるのにさー」
「私達にとってはもう、普通の日常で当たり前の事みたいになっちゃってるからじゃない?」
2人で何かに納得して会話が盛り上がる。
それに疑問を持ったのがアシュラだ。
「ちょっと。2人とも!!アンタ達は部長の事、心配じゃないの!?ねぇ聞いてる!?」
「聞いてるよー。私達だって心配だよ。……さっきまではね」
「さっきまでは…ってどういう事よ!?」
「やっぱアシュラは気づいてないんだ。ま、無理はないか。私達だってさっき気づいて驚いたぐらいだし」
「気づいた?何の事よ!?どういう事!?」
「落ち着いてって。ちゃんと教えてあげるから。……アシュラはさ、相手が普通じゃあり得ない動きをしてるから、部長にもしもの事があるかもしれないって不安なんだよね?」
「そうよ…当たり前でしょ?相手は瞬間移動みたいな事を平然とするのよ。不安になったって仕方ないじゃない!アンタ達は私に何度同じことを言わせるのよ」
「うんうん。気持ちは分かる。でもさ、その不安要素はもはや私達にとっては当たり前に起こってる事じゃない?それならさ、驚く事ないじゃん」
「はあぁ?何が言いたいの?」
「よく思い出してみてよ?落ち着いて周りを見渡してみなよ?瞬間移動みたいな事をする奴を私達はもう1人知ってるはずよ。それも、異世界に来る前から。とんでもなく足が早い奴をさ!」
アシュラは疑念を抱きながらも言われた通りに周りを見渡すと、口を大きく開けて、らしくない程大きな声で驚く。
「あっーーーーーー!そうか、そういうことね、なるほど……」
「やっと気づいた?」
「うん……。私としたことがうっかりしてたわ。慣れって恐ろしいーーーーっ!」
「ほんとそうよね」
「そうそう」
アシュラは笑顔でサシミの方を見る。
「……何?」
「サシミーーーー!」
「…えっ、どうしたの、急に」
アシュラはサシミを抱きしめる。その様子をエンジェルとアイツはニヤニヤと見つめていて他の者達は何が起こっているかよく分かっていないようだ。
「ありがとう!サシミのお陰で私も自身がもてた。これで思いっきり部長の事を応援できる!サシミのお陰で部長は必ず勝てるんだから!!」
「……ごめん。ちょっとよく分からない」
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