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九十八話 駆狼婆/クローバー

閲覧感謝です!

貴重なお時間にお邪魔します……

「ここは、痛っ……」


 ハレルヤ女学園保健室で目覚めた葵。


「そっか……思い出した。俺、負けたんだったんだな。どうりで身体中が悲鳴をあげてるわけだ」


 治りかけの体に鞭を打ち葵はベッドから降りる。


「………あっちか」


 保健室を出ると葵は慣れない校内を勘を頼りに歩いていく。

 そして階段を登りきり扉を開けた先は屋上だった。


「あ、おはよう。ようやく起きたのね?」

「遥」


 物音に気づいた遥は葵を出迎える。


「お寝坊さんね。アンタ寝過ぎなのよ」

「寝過ぎって、そんなには寝てないだろ」


「一週間よ。あれから1週間経ってんの。色々と大変だったんだから後でヤヨイに礼ぐらい言っときなさいよ。寝ている間の世話は全部あの子がしてくれたんだから」

「フン…別に頼んでなんかない」


「葵。素直になって」

「……分かったよ。後で一言言っておくよ。それでいいだろ」


「よろしい」

「そういう遥はいつ起きたんだよ?」


「……1日前」

「そんな変わらないじゃん」


「変わるわよ。1日の差は結構大きいんだから。って、こういう会話もなんだか久々な感じね」

「そうだな。昔は無駄話だらけだった。でもプロデビューして、私がヤンキーも初めてそこからは余計な会話なんかなかったからね」


「なら葵に感謝しなきゃ」

「なんでだ?」


「アナタが私達を異世界に転移させなきゃこんな無駄話も2度と出来やしなかったんだから。過程はどうであれね……」

「…………」


「ところでここまでどうやって来たのよ?葵、ハレ女来るの初めてでしょう。よく私がここにいるって分かったわね?」

「直勘だよ」


「じゃっ、偶々歩いてたら辿り着いたって事ね」

「違う。直勘と偶然で巡り会えるほど俺とお前の関係は親密だって事だよ。ずっと昔から一緒にいたんだ。そのくらい出来たって不思議はねぇだろ」


「そうね。それにここは異世界だしその位普通か」

「ああ」


「直勘と偶然で私に会いに来た理由は何?ただ会いたかったってわけでもないでしょ」

「聞きたいことがあるんだ」


「何よ?」

「日本に帰れる方法があるって言ったらどうする?」


「!!帰れるの…」


 遥は驚きながら葵に問いかける。


「どうする」


 質問を質問で返す葵。


「どうするって…まぁ、そうね。私としては別にどうしても日本に帰りたいって訳じゃないのよね。日本に帰った所で私の居場所なんか無いだろうし、帰りを待ってる家族もいない。だからどっちでもいいと思ってたんだけどさ。今はちょっと違うかな」

「なんでだ」


「私がハレ女の頂点で皆と一緒に戦ったから。みんなには私と違ってきっと居場所があって、帰りを待って心配している家族がいる。皆がそれを望んでるかなんて私には分かりやしないけど、私は皆が生きた証を此処じゃなくて日本に残したい。それであの子達が報われるだなんて都合のいい事をいうつもりはないけど、それが私の出来る唯一残ってる責任の取り方だと思うから」

「遥が取る必要のある責任なんて一個もないだろうが……全部俺の」


「あるわよ。確かに葵が始めた全てがこうなった原因なのは間違いない。だけど始めるきっかけを作って、関係の無い彼女達を巻き込んだのも全部私。私だってね、何もかも他人任せにして楽に生きるつもりはないのよ」

「…………」


「だけどさ結局は日本に帰る方法なんかないんでしょ。だから今のはただの理想で私の逃げでもあるのよ。アンタが和葉達を唆す為に吊るした日本を帰れるって餌も、どうせ言うことを聞かすためについた嘘なんでしょ?」

「遥が言った通りだ。仮にアイツらが言うことを聞き俺の思い通り動いたとしても俺はアイツらを日本に返すつもりなんて最初からこれっぽっちも無かった」


「ほら」

「だけど、日本に帰る方法が無いわけじゃないんだよ」


「え…」

「ただ単に使うつもりが無かっただけだ。俺が彼女達に吐いた言葉が全て嘘だってわけじゃない」


「マジで?……」

「うん。だから聞いたんだ。遥の気持ちは分かった。遥がその気なら私はその方法を教えるよ」


「本当に帰れるのよね?いや、答えなくていい。今の葵の言葉に嘘はないって信じてるから」

「ありがと。ならついでに私の昔話も聞いてくれるかな?」


「それって、長くなるやつ?」

「長くならないようにするからさ」


「分かったわ」

「……日本で俺は死んで転生して生まれ変わった。そのついでに神を殺して今の力を手に入れたわけなんだけど、そこまではいいよね?」


「ええ。死んでたついでに色々と長話聞かせてもらったわよ」

「で、神殺しの力を手に入れた俺はいよいよ新たな異世界へ旅立った。だけどそこは今の転生者達のように今のこの世界じゃないんだよ。私はこの国が生まれるよりもずっと前、文明と呼べる生物も発展していない、ただあるだけで何もない世界に転生したんだ」


「なんかさ、えらく壮大な話になってきたわね……」

「なあなあでいいからもうちょっと付き合って。この世界に来て暫くの間俺は何する事も必要も無かった。だって何もないんだから。俺は世界の変わって行くだろうと思いながら世界の変貌する様子をただただ見守ってきた。やる事なんてそのくらいしかなかったから。そんな生活を続け何百年と経った頃、気づいた頃にはいつの間にか生物が生まれて文明を発展しようとしていたんだ。その生物は長き時間の中で人間へと近づいていった。そしてきっかけは訪れた」


「あ、ちょっと待った!」

「何?…」


 話を途中で止められた葵は不服そうな表情で遥に問う。


「葵がこの世界に来てどうのって話に興味がないわけじゃないんだけどさ、その話って日本に帰る方法と関係あんのよね?」

「…聞いてればその内分かるよ」


「(大丈夫かしら)」


「大雨が降り風が吹き荒れ雷の音が鳴り響くそんな日。何も無かったこの世界に初めて人間がやって来たのさ。彼は俺と違って転生者では無く、奇跡と偶然によってこの世界にたまたまやってきた哀れな転移者だった。何も無いこの世界に最初は戸惑い絶望していた彼だったが彼は次第にこの世界を発展させていったんだ」

「葵も一緒に?」


「いーや、彼は俺の事を知らない。俺が一方的に彼を知っていて見守ってきていたんだ。正直この世界がどうなろうと興味はなかったからね。世界が変貌していく様子は何も無いこの世界で暇つぶしには丁度良かったんだよ」

「暇つぶしなら、ちょっとは手伝ってあげても良かったんじゃないの?」


「言ったろ。そもそも俺に手伝う理由なんか無いんだよ。当時はその気になればこの世界を好きに作り変えるほどの力は残っていたんだから」

「そ。そういうところは世界が変わっても変わってないわね。自分しか見えてないその感じは特に」


「まぁな」

「別に褒めてないわよ」


「そして彼は長きに渡る発展を続けた結果、文明が生まれ人が増え国が生まれた。1番初めに生まれた国の名がバルキュリア」

「ここって事ね…」


「ああ。それがきっかけでこの国は世界の中心となった。そんな世界の中心、バルキュリアには今も代々受け継がれし伝説の力と呼べる物が存在する」

「なんかこれまた一気にファンタジーらしくなってきたわね」


「その力は代々王族のみに受け継がれ知ることが許された。その力はこの世界の次元を歪め別世界の扉をこじ開ける」

「それってさ、」


「そうだよ。俺が利用したこの国に伝わる召喚魔法の事だ」

「じゃあ、それを使って日本へ帰るって事ね?でもあれは」


「焦るな。もうすぐ結論だからさ。それに召喚魔法は一方通行で行き来出来るほど便利な魔法じゃない」

「ならどうすんの」


「因みにだけど、今の俺の力でも日本に帰るだけの力を持った魔法は作れないし、そもそもこの世界にそれを可能とする魔法は存在しないんだよ」

「はぁ!?」


「驚くなよ」

「いや驚くでしょ。もしかしてそれが結論?今まで全部それを話したかった為だけのフリじゃないでしょうね」


「なわけないだろ。俺でもそこまで自分勝手には話さない」

「ねぇ、結論が近いならそろそろそれを教えてくれる?焦ったい……」


「結論なら簡単だよ。この世界で召喚魔法を作った人間は始まりの男で、その人間はこことは違う世界で生まれたからこそ別世界という概念知っていたからこそ、召喚魔法なんて物が生まれたんだ。だけどこの世界に別世界との行き来が出来るようなそんな都合のいい魔法は存在しない。だからもう一度奇跡を起こすんだよ」

「色々と気になることはあるんだけどね、奇跡ってさ、それって起そうとして起こせるものなのかしら」


「起こせるさ。この世界なら。奇跡でこの世界に迷い込んだ人間がいたようにそれを再現すれば必ずね」

「それだけ言うってことは確証があるって思っていいのよね?」


「当たり前だ。なんとなく今までの話で察したかもしれないけど、この世界に初めて迷い込んだ男はその奇跡の影響で普通じゃなかった。そうじゃなきゃ1人で文明なんて大それたものを気付き上げられないからね」

「ま、それはそうね」


「その男の力は、これまた長き年月の中で様々な形で受け継がれた。その受け継がれた者たちがいたのが騎士団だ」

「そこでその名前が出んのね」


「ああ。この世界が作り変えられた影響で騎士団の数は増えたり減ったりを繰り返し続けてきた。だから今では誰も最初を知る人物はいない。元々騎士団ってのは王を守り国を守る組織ではなく、1人の男と3人の仲間達が結成したパーティの名前だった。3人は共に女性だった。ま、そこからは言わなくても分かるだろうから少し端折らせてもらう。そんな彼女達の子供達は特別な力を持ちこの世界の理は通用しなかった」

「理ってなによ?」


「遥は知らないかもだけど、この世界は何故だか生まれながらにして男と女に明確な差があった。あ、変な意味じゃないから誤解しないでね」

「何も思ってないわよ……」


「そう。男と女には生まれながら魔力の差が存在する。男は少なく女は多く生まれる。それは成長したからって増えるものでも減るものでもない。だけど彼女達の子供はそうじゃなかった。男も女も同じくらいの魔力を持って産まれてきた。普通はそんな事あり得ないけど、その子供達はあり得ない存在で、その子達の子供達もまた性別関係無く魔力を持ちつづけた。3人の子供達にはそれ以外代々特徴があってね、この世界には珍しい属性を持った力を持っている」

「属性って、火とか水とかそういうやつ?」


「その通り。遥の友達のレッカって子も珍しいパターンに入る部類だ。3人の子供達とは全く関係ないけどね。おっと、ちょっと話が逸れた。3人の子供達はそれぞれ、雨、風、雷の属性を得意とした。それってさ、今の騎士団と何か似てると思わない?」

「……ごめん、さっぱりわからないや」


「あ、そっか。遥は会ってないんだったな。えっとね、遥達がレッカって子を助ける為に城へ乗り込んだ事があったろ?」

「ああ、そんな事もあったわね」


「その時、仲間達と別れて行動した筈だ。その時、仲間達がそれぞれ相手をしたのが、イカヅチ、アメ、カゼの三騎士団の団長達だ。そしてその団長達が3人の子供達の子孫にあたるわけだ」

「へぇ〜」


 遥は興味なさそうに耳を傾け頷く。


「ちょっ、遥。話が長くなってるのは謝るけどさ、結構大事なこと話してるんだからさ、もうちょっと前のめりに聞いてくれてもいいだろ?」

「ごめん、分かった」


 遥は葵の顔を見つめ執拗に頷く。


「それはそれでなんかムカつくけど、まぁいいや。でね、その3つの力はある意味がある。イカヅチ、つまりは雷。雨は大雨で風は強風。そう捉えた時1つの現象が当てはまる。勘がいい遥なら今のでピンときたんじゃないか?」

「なら当てちゃうわよ?本当に当てていいのね?」


「ああ。テレビじゃないんだ。それに早い事話終わらせたいんだろ?」

「多分だけどそれが意味するのは嵐。葵が話してた哀れな転移者がやってきた時の天候だ。違う?」


「…大正解。流石だね」

「どうも。分かったところで何も貰えやしないけどね」


「いや、それがそうでもない。…遥が言う通りこの3つの属性は嵐を起こす為の力の一部なのさ。彼らが持っているその力を使えば人為的に嵐が起こせる。嵐が起これば奇跡も起こる。奇跡が起これば日本へ帰れる。それが異世界から日本へ帰れる唯一の方法だ」

「なるほどね。言いたいことは分かったわ。なら、早速その力を貸して貰いに話をしに行かなきゃね。その騎士団の人達は一体どこにいるのかしらね?」


「そんな必要はない。既に彼らの力は俺が持ってる」

「は?なんでよ?」


「少し前に彼らがこの国から亡命しようとしていた時があってね、こんな事もあろうかと、その時力を奪っておいたんだよ」

「奪ったって、まさか……」


「反省してるよ。今とあの時じゃ考え方が変わってる。もうあんな事はしないよ」

「……そ」


「怒んないんだな」

「怒ったところで仕方ないでしょ。私が出来るのはその力を無駄にしない事よ」


「そうだね。なら俺も覚悟を決めるよ」


「……ねぇ、今の話でちょっと気になってたんだけどさ、その3つの力で日本に帰れる可能性があるならその始まりの男はなんで同じ事を試さなかったのかしら?その人が召喚魔法を作ったんでしょ。それなら日本へ帰ろうとしてた可能性もあるわけだし。それだけの力を持った人が試してないとは思えないんだけど」

「そうだね。気持ちは分かる。だけど彼は諦めざるを得なかったのさ。日本への手がかりを求めて召喚魔法を作った事で、数多の人間がその犠牲となった。だから彼はそれを禁断の魔法として封印した。そして彼はそのその過ちを償う為に蘇生魔法を作り上げ犠牲となった人間達を生き返らせようとした。でもそう上手くはいかなかった。その責任を取るように彼はこの世界で生きる事を決め、その行く末を長きに渡って見届ける事にしたのさ。多分ね」


「でもその人の挑戦のお陰で私も生き返れた。それなら、きっと空の上から見ているであろうその人に感謝しないとね」

「死んでたらな」


「え?だってその人、数十年前、数百年前下手したらもっと前の話なんでしょ?あ、でも葵みたいにその人も不老不死みたいな感じで生きてたりするわけ?」

「さぁな?…」


「何よそれ」

「いちいち1人の男が何してるかなんて把握してるわけないだろ。だけど確かなのはソイツは寿命なんかで死ぬほど弱くはないって事だ。きっと今頃、隠れ家的なカフェかなんかで不味いコーヒーでも出して迷惑がられてるんじゃないの?知らないけど」


「知らない割には意外と具体的じゃないの」

「知らないわよ。ただ思いついた事を言っただけなんだから」


「そ。ならそういうことにしておいてあ・げ・る」

「あんま茶化すなよ」

「それはこっちのセリフよ」


「…遥がその気なら今すぐにでもその力を使うつもりだけど、どうする?」

「そう言ってる葵はどうすんのよ」


「俺か?俺にそもそも選択肢なんてものはないんだよ。この力を使っている間はほぼ無防備状態で自分の事なんて考えてる暇はきっとない。それに、仮に俺も日本へ戻れたとしても意味がない。遥と違って俺は既に一回死んでこの世界の人間として生き返ってる。遥みたいに例えじゃなくて俺には正真正銘居場所も資格もないのさ」

「別にいいじゃない。居場所も資格も無くたって。アンタはそんな些細な事を気にする正確じゃないでしょうに。私だっているのよ。それでも断る理由があるの?なんとかしなさいよ」


「……ありがとう。そういうおせっかいな所も遥らしいな。だけど気持ちだけで十分だよ。俺は日本には行かない。どんな方法があってもだ。命を賭けてでも遥日本は返す」

「覚悟を決めるって、そういう意味……」


「これが俺の出来る唯一の償いだ。遥が責任取るって言うならこの位は俺にも責任取らせてくれ」

「……分かったわよ。もう何も言わないわ」


「ありがと、遥」


 2人の会話がひと段落した頃、2人は外がやけに騒がしくなっている事に気づく。


「なんの騒ぎ?」

「……」


 2人して屋上から外を見下ろすと、そこから見えたのは数百人の兵士と冒険者達の集団だった。集団はどんどんと校舎へ近づいていく。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!


いよいよ次回最終回。お楽しみに!!

次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

勝手に祈ってお待ちしております。

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