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九十四話 愛牙犯鎖鋤/アガパンサス

閲覧感謝です!

貴重なお時間にお邪魔します……

 外で暴れていたディーノを引き戻すと、取り敢えず人目のつかない所まで逃げてきたアキラ達一向は廃墟となった教会に逃げ込んだ。


「マスター、大丈夫かな?」


 面倒事を丸投げしてしまった罪悪感からかマスターを気にかけるシズカ。


「マスターの事だ、心配する事もないだろう。それに忘れたのか?あの人ああ見えても少し前まではSランク冒険者として一線で戦って人なんだぞ。あのくらいどうって事ないって」

「そういえばそうね。マスターって普段はああだからその事をいっつも忘れちゃうのよね…」


「とにかく今はマスターを信じよう。俺達はその間に葵って女を止める方法を考えるんだ」

「そうね。だけどどうすんのよ?考えるたって何も思いつく気なんかこれっぽっちもしないんだけど」


「偶然だな。俺も同じ気持ちだ。やっぱり俺達相性いいんだな!」

「冗談やめてよ!こんな事で揃ったって全然嬉しくなんかないわよ!」


「俺は別に冗談なんか……」

「だからそれよ!それを言ってんの、もう……どうすればいいのよ」


「ねぇ、もしかしたら本当は考える必要なんてないのかも」


「え?」


 突然発したコハルの一言に戸惑いを隠せないシズカ達。 


「どういう事だよ?」

「答えは出てるって事」


「だからどういう事なわけ!?」 


 コハルに疑問を浴びせ続けるアキラとシズカ。それをいなすように淡々とコハルは答えていく。


「蘇生魔法を使うって事よ」

「いや、どうしてそうなんだよ。それが無理だから俺達はこうして慣れない頭使って考えてんだろ?」


「私をアキラと一緒にしないで」

「なんだよそれ!」


 自らの逆鱗に触れられたアキラはコハルに食ってかかろうとする。


「はいはい、アンタも落ち着きなって。…コハル、何が言いたいわけ?」


 気持ち荒ぶるアキラを宥めるシズカ。


「ヤヨイ、今私達と一緒にいるこのモンスターって何?」

「何って言われても、そうね、簡潔に説明すると私達の仲間で遥さんの相棒かな」


「そこら辺は言われなくてもなんとなく察してるわ。そうじゃなくてこのモンスターがなんなのかって話よ」

「あーー、そういえば私ディーノに会うまでこんなモンスター見た事なかったかも。言われてみればなんなのかしら?見た目が恐竜っぽいからなんとなくそういうものだって認識で不思議に思わなかった」


「それよ、それ。私も同じ事を思った。だから直ぐに気付けなかった」

「何が?」


「このモンスターはとても私達の知っている恐竜に似ている。だから馴染みがあり過ぎてそうだとは思えなかったのよ。これがドラゴンだなんて」

「え!?」


「だからなんでそうなるんだよ!確かにコイツの見た目は恐竜に似てるけどだからってそれは…」

「恐れられる竜と書いて恐竜と読む」


「「あ!!」」


 ヤヨイとシズカはコハルの考えに気づいたらしい。


「なんなんだよ!?2人揃って!」

「アキラ、アンタここまで言われてまだ分かってないの!?」


「は!?いや、分かってるよ!分かってるに決まってる!だけど意味が分からないんだ!」

「分からないなら分からないって素直に言えばいいのに……。いい?コイツは恐竜は恐竜でもドラゴンって意味の恐龍なのよ!」


「え?」


 ポカンとした表情でシズカ達を見つめるアキラ。


「だから!!コイツが御伽話にしか出てこないドラゴンかもしれないって言ってんのよ!!」

「…………えーー!!?マジで!?」


「マジよ。…多分ね。そういう解釈で合ってるのよね?コハル」

「恐らく。今、ヤヨイの能力で調べてもらってる。これでハッキリする」


 ディーノを<絶対鑑定>の力で調べ終えたヤヨイ。


「どうだった?」

「ビンゴ」


「マジで!?」


 口を開けて驚くアキラ。


「ディーノの個体名はエンシェントドラゴン。名前」通り古代古から生き続ける伝説の古龍だったわ」

「でもどうしてそんなモンスターがここに?」


「きっと彼等の住処はきっとゲンマノモリの何処かにあって、遥さん達の能力に応える形でたまたま呼び寄せられたんだと思う」

「能力って?」


「分かりやすく言うと人間には嫌われてモンスターには以上に好かれるのよ」

「何よ、その逆モテ期みたいなやつは…」


「何が逆かは分からないけど、遥さんも前に似たような事を言ってたわね」

「でもこれで条件は揃った。後は私達が覚悟を決めるだけ」


 魔法の発動に取り掛かろうとするコハル。


「ねぇちょっと待って」


 ヤヨイがそれを止める。


「どうしたの?これが目的だったんでしょ。希望が叶ったんだからもっと喜んでもいいんじゃない?」

「それは、そうだけど……」


 コハルの言う通り望みが叶おうとしているのにも関わらず浮かないよう表情を見せるヤヨイ。


「どうしたの?」


 様子が変なヤヨイを心配し寄り添うシズカ。


「確かに、コハルが言う通りこのままなら遥さんは生き返るかもしれないけど、でもそれってディーノの命を使うって事でしょ?本当にそれでいいのかなって……」

「ヤヨイ…」


「大丈夫。魔法は私が必ず成功させる。それにいくらドラゴンって言ったってたかがモンスターよ。別に気に病む必要なんか」

「たかがモンスターなんかじゃない!!例えこれが能力の力だとしてもディーノは遥さんにとって相棒なの!!出会ったきっかけとか時間とかそんなの関係ない。少なくてもあの人はモンスターだからって犠牲にして喜ぶ人じゃないと思う」


「……言いたいことは分かったわ。まず、たかがモンスターって言ったのは訂正する。ごめんなさい。でもこの方法しかその人を生き返らせる方法は現状ないのよ!!…覚悟を決めた方がいいと思う」

「分かってるわよ!分かってる……分かってるけど、なんかイヤなのよ…」


「グァ」


 迷うヤヨイを励ますかのように頬をそっと舐めるディーノ。


「ディーノ……」


 ディーノは何もかも分かっているようだ。ヤヨイが迷っている理由も。自分がここにいる意味も。

 ヤヨイに決断を迫るようにディーノは自信満々に頷いて見せる。


「いいの、アナタは本当にそれで……私は」

「グァ!!」


「うん……分かった。アナタの意思を尊重するわ。だからもう私は迷わない。アナタの想いは勝手だけど私が受け継ぐ。何があってもアナタの命を無駄になんか私がさせないわ。それでもいい?」

「グアァー!!」


「うん、勿論!」


 どうやらディーノとヤヨイは通じ合えたらしい。能力の力ではなく単純に人とモンスターが信じ合えた歴史的な瞬間なのかもしれない。


「コハル!そういう事だから後は任せたわ」

「……分かったわ。なら責任持って2人の意思は私が繋いでみせる!ここで失敗なんか死んでもするもんか!!」

「よし、そうと決まったら早速取りかかるぞ!!俺達4人、いや、5人で希望を繋ぐんだ!!」


「ええ」

「うん」

「勿論」

「グアァッ!!」


 アキラの号令にそれぞれで答えを返す。揃うことはなくても思いは同じ。それだけで今の彼等にとっては十分だった。


「ヤヨイ、今から私は魔力を彼女に一点集中させる。少しでもその魔力が漏れたら魔法は成功しない。だからアナタの能力で魔法の流れを常に監視して私に支持して欲しい。私じゃ魔力の流れは目視できないから。これを成功さ

 せる為にはアナタの力が絶対不可欠。力を貸して」

「わざわざ頼まないで。断るわけないんだから」


「そうだね…じゃ、そっちは任せた」

「任されたわ」


 コハルは精神統一を済ませると直ぐに魔法の発動に取りかかる。

 遥の体にコハルの莫大な魔力が少しずつ満たされいていく。


「…………」


 コハルは静かに神経を研ぎ澄ませ集中する。


「(流石はコハル。魔力の流れに一切の乱れもない。これならきっと!!)」


 その時、外から1人の足音が聞こえる。

 その音は次第に大きくなっていき人が歩いてるだけとは思えない程の物音が鳴り響く。


「なんなのよ!?」


 不審に思ったシズカとアキラが教会の窓越しからそっと外を覗くと、そこには鬼のような形相をした葵が近づいてきていた。


「ウソ……誰かがこっち向かって来てる!それにどうなってんのよ…異世界でもこんなめちゃくちゃはあり得ない!」

「誰かってアイツ誰なんだよ!?ってか本当にアイツは人間なのか。どう考えたって人間が来る雰囲気じゃないって!!魔王がやってきたって言われても今なら信じるぞ」


 葵がいる外は大雨が降り、強風が吹き荒れる。それはまるで葵の心情を具現化したようだった。


「きっと葵さんだ!下手したら魔王なんかより今は怖いかも…」


 ヤヨイは遥を目視し続けながら考えを伝える。


「マジかよ、アイツが葵。ヤベェ奴だとは聞いてたけど想像以上だぞ!…俺達こんな奴と戦う為に転生させられたのかよ」

「でも私達のチート能力はあの女を倒す為の力なんでしょう?とは言ってもやっぱりあんなの相手に通用するとは思えないけどさ……」


「くそッ!コハル、ヤヨイまだか!!早くしないと奴が来るぞ!!」

「…………」


「ちょっと静かにしてよ!今ので少し魔力の流れが乱れた……コハル!」

「うん……」


 コハルは直ぐにヤヨイの指示通り魔力の乱れを修正する。


「そんな無茶言わないで。さっき始めたばっかりなんだからそんな直ぐに出来るわけないでしょ」

「だけどよ…」


「落ち着いてアキラ。私達がやる事なんて決まってる。コハルとヤヨイの為に時間を稼げばいいのよ」


 シズカは直ぐに装備を揃え戦闘体制を整える。


「そうか、そうだよな!ヨシ!」


 自身の役目に気づいたアキラも急いで戦闘体制を整えると、直ぐに立ち向かおうとするがシズカがそれを止める。


「だから落ち着きなさいよアキラ。まだ話は終わってない」

「なんでだよ!早くしないと来ちまうぞ!」


「分かってるわよ。だからまずは私だけで行く。アンタはここで待ってて」

「は!?なんでだ!?1人じゃ敵うわけがない」


「だから分かってるって!時間を稼ぐために決まってるでしょ。今戦えるのは私達2人しかいないのよ。一気に2人行ってやられでもしたら意味がないでしょ」

「分かった。なら最初は俺が行く!」


「ダメよ、最初は私が行く」

「なんでだ!!」


「アキラが私より強いからよ。アナタは切り札で希望なの。それを簡単に失うわけにはいかないわ」

「いや、でもよ」 


「それに私の能力の方が盾となって時間を稼ぐには向いてんのよ。ま、だからって私が無駄にやられに行くつもりなんてないわ」

「シズカ……」


「大丈夫。アンタはもっと自信満々に堂々とバカやってればいいのよ!それがアンタの強さなんだから……そんなアンタに惚れたバカな私を信じなさい」


 アキラはシズカに抱きつく。


「バカ!他にも人がいるんだからちょっとは空気を読みなさいよ……」

「俺なりに空気を読んだんだ」


「……ったく、しょうがないわね」


 シズカはアキラに口づけを交わす。


「これで信じてくれる?」

「頼むから、死ないでくれ…」


「…死ぬ気で努力するわ」


 シズカはヤヨイの方を振り向き頷く。

 ヤヨイはそれをチラッと見ると親指だけ立てて意思を伝えると直ぐに自分の役割に戻るとシズカも直ぐに葵を迎撃に向かった。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!



次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

勝手に祈ってお待ちしております。

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