九十二話 紫ノ譜纚晻冴/プリアンサ
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「ディーノ、急いで!!」
「グアァ!」
ディーノに乗ったヤヨイは森を抜けるとバルキュリア王国を駆け回る。
「お願いだから、前みたいにあそこにいてよね!……」
モンスターの背に乗った女が街を駆け回る。そんな異様な光景が民達を驚かせる。
他人の目も気にせずヤヨイ達が向かったのは路地裏にある隠れ家的にある小さなカフェだった。
カフェの前に着くとヤヨイはディーノを店の前で待たせる。
「直ぐ済ませるからちょっとの間だけ遥さんのことをお願い」
「グワァ」
「あ、出来るだけに目立たないようにね。って、もう無理か……しょうがない、とにかく急ぐから待ってて!」
ヤヨイはカフェへ駆け込み辺りを見回す。
「…………!やっぱりいた!!」
ヤヨイの声に反応する3人の男女。
「え、なんでアンタがここに……」
「偶然?……そんなわけないか」
「…何しにきたんだヤヨイ」
いきなり現れたヤヨイの姿に戸惑う様子を見せる、シズカ、コハル、アキラ達。
「何しに来たって決まってるだろ。ウチに来る理由は1つ。コーヒーを飲みに来た。そうだろヤヨイちゃん?」
戸惑うアキラ達を見かねて現れたのはガタイのいい年配の男だった。
「マスター。久しぶりです」
「ああ。久しぶり。また来てくれて俺は嬉しいよ」
「マスター、本当にアイツここのコーヒーを飲み来たとでも思ってるのか?縁を切った俺達がいるって分かってる場所に」
「アキラ。それとこれとは別だろ。コーヒーが飲みたかったからウチに来た。なんの不思議もない理由だろ?」
「いーや、それこそ違うわね」
「な、どうしてそう思うんだよ、シズカ」
「そんなの…」
「他の物はともかくコーヒーが不味いから…」
「こ、コハル!お前、ウチの名物になんて事を言うんだ!そんなわけないだろ!?そ、そうだよなお前ら」
「残念だったわね、マスター」
シズカは哀れみの表情を浮かべながらマスターの肩を叩く。
「嘘だろ……」
「マスターもいい加減気づけよ。毎日のように来る俺達が頑なにコーヒー以外の物を頼む理由をよ」
「……確かにいくら勧めても飲まないから多少は気になっていたが、まさかその理由が不味いからだったなんて。だけどヤヨイちゃんはこの店に来た時は毎回コーヒーを頼んでくれるんだぞ!?それなのに不味いって」
「それは、ヤヨイが味音痴だから」
「なっ……」
「アイツ食べる物のセンスもちょっと独特だからさ、ヤヨイの舌にはこのコーヒが丁度良かったんじゃないか?」
「そ、そうなのかヤヨイちゃん?君は味音痴なのか?」
「会ってばっかりで、しかも、本人目の前で言う事じゃないでしょ…」
「で、どうなんだ!」
「どうなんだって、そんな事を言われても私は分かりませんよ!自分の舌をバカ舌だなんて思ってる奴がどこにいるんですか!?少なくても私はマスターのコーヒーが好きです。それでいいじゃないですか!!もう……」
「そうだな、そうだよな!ヤヨイちゃんありがとう!アイツらはあんな事言うけどこうして俺のコーヒーのファンはちゃんといるんだ!めげることなんかねぇ!このままでいいんだ!ありがとうヤヨイちゃん!」
ヤヨイに抱きつくカフェのマスター。
「そ、そうですね…。って、こんな事してる場ない!マスター分かりましたから一回離してください!」
「あ、悪い。つい興奮して…。そうだ、俺のコーヒーが好きでいてくれるお礼に今日は俺の奢りだ!ちょっと待ってろ!」
そう言うとマスターは厨房に消える。
「で、ヤヨイ。一応聞くけど、お前は本当にここのコーヒーを飲みに来た。そんなわけないよな?」
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけないのか!?」
厨房からこちらに顔だけ出すマスター。
「いや、飲みますよ!勿論!でも急いでくれると有難いかもです」
「おう、分かった」
そう言うと再びマスターは厨房へ姿を消した。
「じゃあなんなんだ。何しにここに来た?」
「アンタ達に会いに来たのよ」
「俺達に?本気かよ」
「本気よ」
「俺達はお前に会いたくなんかねぇけどな。分かってるだろ?お前らのせいで俺達はSランクの冒険者から格下げ。周りの連中からも白い目で見られて居場所すらなくなった。だからこうしてこんな所ぐらいにいるしかねぇんだ」
「私だって出来るならアンタ達と会いたくなんて無かったわよ……だけど、今の私達にはアンタ達の力が必要なの。その為ならプライドなんて捨ててやるわよ。私は多くの人間の想いを背負ってる。繋げなきゃなんないのよ!こんな所でバトンを落とすわけにはいかないから」
「……本当に変わったんだな、ヤヨイ」
「アンタ達も変わりなさいよ、いや変わってるんでしょ?」
「俺達が?」
「私知ってるのよ。アキラ達が今は自分達の為だけじゃなくて皆の為に活躍してる事。そうだよね、マスター?」
「ああ。お待たせ」
マスターはアイスコーヒーをヤヨイに渡す。
「ヤヨイちゃんが言う通り今コイツらは再び変わろうとしてる。一回目はヤヨイちゃんを仲間外れにした時。あの時のコイツらは自分良がりで他人の事なんか見下す存在としか思ってないクズ野郎だった。ヤヨイちゃんもそうだけど、コイツらの事は昔からよく知ってる。その中でもあの頃が一番最悪だった」
「…………」
「だけど、少し前にヤヨイちゃんがこの街に戻ってきた。新しい仲間と共に。そしてその仲間にコイツらはコテンパンにやられた。正直その話を聞いた時はめちゃくちゃスカッとしたよ。それに嬉しかった。ヤヨイちゃん達のお陰でコイツらがまた変われるきっかけが出来たんだからな。今コイツらは努力してる。自分達が再び変わるために。能力を持て余さない為に。それは自分の為であって誰かの為でも皆の為でもある。ヤヨイちゃん」
「はい」
「俺が断言するよ。コイツらはまだ途中だ。だけど確実に変わってる。そしてやがて初めて文字通り皆に誇れるSランクになる。信じていい」
「分かってますよ。私も信じてる。私が信じた仲間達も」
「本当にヤヨイちゃんは人を見る目があるな」
「知ってます」
「ヤヨイ……もう一度信じてくれるのか、俺達の事を」
「いいの?ヤヨイ」
「ヤヨイ……」
「うん。信じるよ。私の目とアナタ達の強さを信じる。だから力を貸して」
「当たり前だろ。いいよな、シズカ、コハル」
「勿論だわ。ここまでヤヨイが信じてくれたんだもん。それに応えなきゃ今までと同じだもん」
「私が出来ることなら何でもやるよ。役に立てるか分からないけど」
「大丈夫、ありがとう」
「で、何をすればいい?」
「アキラとシズカは取り敢えずいいや」
「え」
「ウソ!?」
「コハル」
「私だけ?」
ヤヨイはコハルの手を掴む。
「アナタの能力で頼みたい事がある。きっとアナタにしか出来ない事だから」
「私に頼るってことはそれ相応の魔法が必要って事でしょ?なら私がやるしかないじゃん。いいよ、なんでも言って」
「本当になんでも!?」
「う、うん」
ヤヨイは少し躊躇いが見えながらも想いを口にする。
「なら蘇生して!」
「え、」
「蘇生って…ヤヨイ、何があった?」
アキラは問いかける。
「…………」
ヤヨイはアキラ達に今までの事を話した。
自分達が転生してきた理由、葵の存在、そしてその葵がきっかけで王が死に沢山の人間が死んだこと。
その女を止めれるのは遥しかいないということも。
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