表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/107

一話 抜華璃蘇/バッカリス〜初回拡大SP〜

閲覧感謝です!

貴重なお時間にお邪魔します……

 時は現代。


 県内随一の広大な敷地と大きさを兼ね備える城のような建物。そして高い学力と淡麗な容姿を持った者が多く集まる学校。


 その名は私立ハレルヤ女学園。


 通う者は皆、有名企業のご令嬢など所謂金持ちが殆どの超お嬢様学校。県内でこの学校の事を知らない人間はきっといないだろう。


 それがいい意味でも、悪い意味でも。


 設立から20年経った今、県内随一のお嬢様学校だった面影はそこから微塵も感じられない。純白を基調として建てられた建物は生徒達による落書きで埋まっていて、校舎内も当然荒れ果ててしまっている。


 以前までの美しさは完全に皆無だ。


 感じられるのは混沌と現在を夢中で生きてる女生徒達の熱い想いのみ。


 そんなこんなで、今では県内随一のお嬢様学校が一転、不良達が多く通う落ちぶれた女子校として、県内外でも有名になってしまうほどになった。


 そして現在。その学校と生徒達は日本には存在しない。


 この物語は戦いの技術と魔法や能力が跋扈する俗にいう異世界で武器も魔法も使えない、ありがちなチートスキルも存在しないワケあり不良JK達が異世界を好きに、そして自由気ままに自分達なりに生きていくそんなお話。の筈だ……


 そんな彼女達は異世界、バルキュリア王国の外れにある怪しげな森に学校ごと転移していたのであった。


 ------------------------------------------------------------------------------------------



 くたばりぞこないの1人の騎士らしき男が女に問いかける。


「……キサマ、名は?」


 女は去り際に振り返り騎士の元へと歩みを進め、騎士の体を踏みつけ呟いた。


「ハレルヤ女学園 3年 園芸部 威薔薇ノ棘 桐生 遥。別に覚えなくていいから」


 約1時間前

 ハレルヤ女学園 園芸部 部室にて


「どうだった?街に行ってなんか成果あった?」

 ハレルヤ女学園 園芸部(威薔薇ノ棘) 四天王 3年 美津谷 朱美 通称 アシュラ。


「いーや、なにも。これっと言った収穫はなしっ!!」

 同じく園芸部(威薔薇ノ棘) 四天王 3年 加島 友莉亜 通称 エンジェル。


「そ、結局この三日間で分かったのは私達は地球とは違うどこか知らない異世界にいるって事と、何故か日本語が通用するから意思疎通は心配ないって事だけか」

「でも、不思議だよね。明らかに日本人じゃない人ばっかなのに普通に私達の言葉が通じるんだからさ。街に行っても看板とかに書いてある文字の表記も全部日本語なんだよ。これってどうなってんだろうね?」


「そんな事私に聞かれても知るわけないでしょう?ま、でもそのおかげで此処がどんな世界かは分かる事が出来たんだけど」

「……バルキュリアだっけ?この国の名前?」

「あ、いたんだ?サシミ。見当たらないからいないと思ってたわよ」


「……今、来たとこだから」

 園芸部(威薔薇ノ棘) 四天王 3年 緋海 葉月 通称 サシミ。


「アンタはほんと足が早いわよね。いないと思った次の瞬間にはいつの間にいるんだから。そういうのさ、毎回ちょっと心臓に悪いから少しは加減してくれない?」

「……無理。出来たとしても嫌だ」

「そうだよ。アシュラも無理言っちゃダメだよ〜。サシミちゃんは足が早くて可愛いんだから。その旨みが無くなったら可哀想じゃんっ!…サシミだけに。ふふっ、はははっ!」


「アンタも自分で言って笑ってんじゃないわよ。…あのね、私だって本気のつもりでなんか言ってないわよ。しかもそれだって全部部長達が認めた私達の取り柄で個性なんだ。本気でやめてくれなんてそんな事言ってるわけないでしょ!」

「……その部長は今どこに?」

「忘れたの?この時間はお昼寝中。いつもの部屋で寝てらっしゃるわ」


「部長も凄いよね〜。自分のいる世界が変わっちゃったのにいつも通りいられるんだから」

「そのおかげで私達も冷静に事を運べてるんだ。普通ならもうちょっと私達だってパニックになっててもおかしくないんだから」


「それはそうだね。部長がいなければきっと今もこうはしていられないもん」

「……うん」

「あ、そういえばアイツは今どこにいんのよ?最近、異世界に来てから全く見かけないけど…」


「アイツ?ああ、アイツね。アイツなら「異世界転生だーーーーッ」てなんか言いながら街に飛び出したまでは私も知ってるけど、それから帰って来てないなら知らな〜い」

「はぁ〜……アイツって奴は。アイツの事だからこんな異世界でも何があっても死にはしないだろうけど少しくらいは危機感持てって話よ」

「……転移」


「え?なによ、サシミ?」

「異世界転移。…私達、死んでないから正しくは異世界転移だと思う」

「あれ?サシミちゃんもしかしてこういう事詳しかったりするタイプ?」


 サシミは黙って頷く。


「やっぱりそうなんだぁ。じゃあさ、私達も魔法とかって使えたりするのかなぁ?ね、どうなの?」

「……それは、何とも言えない」


「え〜〜。何で〜っ?」

「……この手のタイプも最近は色々多すぎて私にも分からない」


「でも一応、私達が使えるかどうかは別としても想像通りこの世界に魔法自体は存在するみたいよ」

「アシュラ、それってほんと!?」


「うん。多分ね」

「なによ、多分って?ハッキリしてよ!」

「いや、だって私も見た事はないもの。ただ街に行った時にそれらしい話題を耳に挟んだから。なんとなく。でもあるでしょ?異世界なんだから」


「……確かめる方法ならあるかも」

「え?ほんと?サシミちゃん!?何、どうすればいいの?」


 食い気味でサシミに近づくエンジェル。


「……ステータスって叫んでみるとか?」

「ステータス?、そう言えばいいのね?」

「なぁ、サシミ…」


「ステータスッ!!」


 エンジェルが放った声は部室に大きく響き渡った。


「おいっ!!声が大きいって!部長が起きちゃうから。向こうの部屋まで聞こえちゃったらどうすんのよー?…もしも、部長がそれで起きちゃったらさ、私達どうなるか分かったもんじゃないわよ!」

「分からない」


「そ、だから、もうちょっと小さな声で」

「分からないッ!何もならないよ!?ねぇ、どうなってんの?これで良かったんじゃないの?」

「……何も見えたりしない?」


「うん。何も」


「……違ったみたい。テヘッ」

「ええ〜!違うの?!それじゃあ、私達魔法使えないじゃん!なんだよ〜〜」


「……まだ、分からない。ステータス表示が出てこないパターンもあるからまだ、諦めちゃ駄目」

「え、もしかしてまだ私にも可能成があるって事?」


「……うん。可能性はあると思う。可能性は」

「それなら私は諦めない!」

「エンジェル……アンタって人も…」


 すると部室の扉が開く。


「そんなに騒いでどうしたんや?おっきな声が廊下まで聞こえてきで?」

 園芸部(威薔薇ノ棘) 副部長 3年 麻戈 沙莉 通称   エプロン


「あ、エプロンさん。…すみませんっ。ご迷惑おかけしまして」

「ウチは別にいいけど、遥が怒って来ても知らんで?」


「ですよね……。そういえばエプロンさんは今までお一人で何されてたんです?」

「ん?ウチもちょっと街に探索に行ってきたんよ。それで今帰ってきたところや」


「…何か収穫ありました?」

「うん〜。微妙かな?これが果たしていいのか悪いのかは分からんけど」


「一体どうしたんです?」

「いやいや、そんな身構える事ちゃうで。ただな、私達の想像通りこの世界にはやっぱモンスターってのがいるらしくてな…」


「モンスターですか…」

「……これぞ剣と魔法の異世界って感じ」

「なに呑気に言ってんのよ。…でも、確かになんとなく分かってはいたけど本当にいるんですね。モンスター…」

「ねぇ、モンスターってどんなのなの?」

「さあ?」


「……序盤によく出やすいのはゴブリンとかスライムとか?ちょっと強いところだとオークとかが王道かも」

「じゃあさ、もしそれと出会ったとして、喧嘩に自信のある私達なら勝てるかな?」

「いや、どう考えても無理でしょ。私達はただの素人JKなのよ。俗に言う勇者でも無ければ冒険者でもないんだから」

「えぇ。無理かなぁ〜。私はなんとかなる気がするんだけどな〜」


「いやいや、有り得ない事だらけの異世界で武器も持てない魔法を使えるかも分からない私達が常識も通じない異世界の怪物に敵うわけがないでしょ!」

「でもさそれを言っちゃうとさこの世界にとって私達も常識が通じない存在なのは一緒でしょ?」


「まぁ。それは確かにそうだけど、でもそういう問題でもない気が、」

「なら、最初はスライムくらいから試して見ればいいじゃん!スライムなら私だって知ってるし1番何とかなりやすそうじゃない?」


「……スライムをなめないほうがいいよ。最近じゃスライムほど強力なモンスターを私は知らないわ」

「え、そうなの?」


「…うん。スライムが本気出したら一瞬でエンジェルの着てる服なんか溶かされると思う。それで済めばラッキーな方かもね」

「イッヤーーッ!サシミちゃんのエッチィ!そんな話しないでよ。私、そういうの無理だって知ってるでしょ!?ちょっと想像しちゃったじゃん!!」

「……でも本当のことだから」


「とにかく。もしも、私達がそのモンスターに出会ったらまずは逃げる。取り敢えずはそういう事で。いいわね?エプロンさんもそれでいいですよね?」

「ええと思うでそれで。大事になったら取り返しがつかへんからな。でも、その前にちょっと疑問があってな?」


「疑問とは?」

「今日も街からこの森まで戻って来る時にも思ったんやけど、そのモンスターの姿を一度も見たことないな〜って思ってな。だってここ、いかにもって雰囲気がただよう森の中やろ。それなのにモンスターどころか動物らしき生物の姿すら1度も見てないってちょっと変な感じせぇへん?」


「そういえばそうですね……」

「……夜になったらモンスターとかも活発になりやすそうなのに、鳴き声とかも聞こえてこないのは確かにおかしいと思う」


「サシミちゃんもやっぱりそう思う?そうやんなぁ。考えれば考えるほどここが私達にとってなんかここが都合が良過ぎる気がするねん。だって、この森から少し歩いたら大きな街に繋がってるってのも出来過ぎやない?」

「考えてみれば確かに気になる事だらけですけど、そんなの考えたって仕方ないんじゃ?それをはっきりさせる方法なんて今の所何もないんですし…」


 そんな至極当たり前な発言をしたアシュラに全員の視線が集まる。


「…何よ。なんかヤバいこと言っちゃった私?」


「いや、ほんとにそうやなぁって思って。そうなんよな〜。そんなの考えたって仕方ないねん。よし決めた!気にせんでおこうか!ホンマ、アシュラは流石やなー」

「そうそう。難しいこと考えたってしょうがないんだから。どうせ考えるなら楽しい事にしようよ!」

「……例えば?」


「女子高生が話す楽しい事って言ったらひとつしかないでしょ!恋バナよ、恋バナ!実は私ね、この前家の近くのコンビニでね…」

「はいはい。分かったわよ。その話は何度も聞いてるからね〜。誰もそんなの興味ないっていい加減気付きなって…」


「いや、前のとはちょっと違うんだってば。お願い。この話は面白いから。後悔させないから、ね、ちょっとだけ。1分でいいから。話させてよーーー!!」

「はいはい。またあとでね〜…」


 アシュラがエンジェルを豪快に引き摺りながら半ば強引に部室から去っていった。


「……エプロンさん」

「ん?」


「……私達はこの異世界で何をすればいいんでしょうか?ここに来たのもきっと何か目的がある気がしてならないんです」

「さあ?そんなん私に聞かれても困るわー。ウチだって色々手探りで色々と頑張ってる最中なんやから、そんなの最初からそんなん分かってたら苦労してへんよ」


「……そ、そうですよね。すみません、変な事聞いて」

「ええよ。別に。不安な気持ちは多分みんな一緒やからさ。でも、さっきアシュラが言ってたやろ?気になる事を全部考えてたって仕方ないって。だから、ウチらは今を好きに生きればいいんよ。それが暫くのウチらの目的や」


「……エプロンさん」

「それに、ウチらには遥がおるんやから。遥がいればこの世界でも暇する事はなさそうやしな」


「……ですね。部長がいますもんね」

「そう。なんとでもしてくれるわよ。きっとな」


 


 ハレルヤ女学園。一年教室。


「ねぇ、昨日のテレビ見た?」

 1年 茅ヶ崎 静乃 通称 マケガオ


「もちろん。って一緒に見てたじゃん。もう忘れたの?」

 1年 砂岡 瞳 通称 ドヤガオ


「そうだっけ?」

「そうだよ。でも、不思議だよね」


「何が?あ、昨日のテレビに出てたMCのが頭がカツラみたいだったって話?」

「そうじゃないわよ。…でも、あれはカツラね。絶対に」


「でしょ?やっぱそうだよねー」

「うん。じゃなくてさ…私達、異世界にいるんでしょ?それなのになんで当たり前にテレビが映ってるのよ。それって変じゃない?」

「でも、映るよ」


 教室のテレビをいじるマケガオ。


「いや、そうなんだけど」

「あ、」


「なに?…なんか映ってる?」

「…テレ東しか映らない」


「……おいッ。そんな事かよ。びっくりさせんなよ」

「でも変だよ。テレ東しか映らないんだよ。普通逆じゃない?」


「え?なんで?」

「だってよく言うじゃん。テレ東にはローカル局がないから地方ではなかなか見れないって。それなのにテレ東は映って他の局は全く反応しないんだよ。って事はこの世界は、東京!それともテレ東の本社とか?」


「バカ!?何言ってんのよ?そんな大それた事がテレ東なんかに出来るわけないでしょ」

「言い過ぎじゃない?、じゃあ、なんで?」


「そんなの知らないわよ。多分、たまたまなんじゃない?」

「たまたまなの?本当に?」


「本当よ。奇跡が起こってその奇跡にきっとテレ東が答えてくれたのよ」

「奇跡?」


「そうよ。でも良かったじゃない。テレ東だけでも映って。これで、この世界にいても現代の情報が手に入るって事なんだから」

「でも、ZIPはやらないよ」


「バカァ!水卜ちゃんはいないけど、大江さんのいるWBSがあれば十分でしょうが!!それで我慢しなさい」

「ええ〜」


「ええ〜じゃないのよ。いいじゃない。テレ東ならアニメもドラマもバラエティーだって強いんだから暇つぶしくらいには丁度いいでしょ」

「そうだけど〜、。ってかドヤガオってテレ東好きだったんだ?」

「……別に!そんなわけないでしょ…ただ、たまたま好きな番組が多くやってたのがテレ東だっただけよ。好きだってわけじゃないんだからね!」


 何故か頬を赤くして照れているのを必死に隠そうとしている。


「ねぇねえ?」

「何?今度は何が不満なのよ?」


「そうじゃなくて、ほら、アレ」

「ん?」


 教室の窓からは学校の出入り口。つまり校門周辺が見えるのだが、その周辺には学校内でまず見かけないであろう、甲冑姿の人間が大量に並んでいる。


「アレもテレ東が用意したの?やっぱりテレ東って凄いんだね!」

「んなわけあるか!テレビは関係ないからぁっ!…なんなんだ?アレ。どっかの国の兵隊か何か?それとも異世界だからこんなの日常茶飯事だったりするのか!?とにかく、この事を誰かに伝えないとヤバいんじゃ!?」


「落ち着いてよ。…誰かって、誰に?」

「決まってんでしょ!この学校で1番強いあの人達しかいないじゃない!私達じゃどうにもなんないんだからさ」


「それもそうだね。で、誰が伝えにいくの?」

「誰って、私達しかいないでしょ。ここにいるのは私達しかいないんだから」


「だけど、下っぱの私達じゃ園芸部の部室がある別棟には行けないよ。私達2人とも、顔見知りではあるけど許可は貰ってないんだもん、無理だよ」

「あ、そうだったぁ……」


 この学校の頂点である園芸部はハレルヤ女学園の敷地内に建つ別棟に存在する。その別棟には現在、園芸部の人間しか立ち入りを許されていない。


 別棟に行くために必要な条件はただ1つ。


 園芸部の部員達に決闘を挑み、勝利を掴み認めさせるしかない。


 因みに以前、ドヤガオとマケガオも園芸部入部を賭けて、威薔薇ノ棘、四天王サシミに勝負を挑んだのだが、結果はお察しのとおり。


「あーあ。あの時勝ってたらなぁ、こんな事で悩む事もなかったのになぁーー」

「仕方ないじゃん。あんなのに初見で勝てる訳ないもん。でも、サシミさん、悪い人じゃなかったよ。私達を一瞬でボコボコにした後、一瞬で私達の事を手当してくれたし」


「そうだけどさ。アレはないよー。流石に無理だって」

「うん。で、どうするの?どうやってこの事伝えるの?」


「随分冷静ね。でもそんなこと言ったって直接行くしかないだろ!…緊急時なんだからルールを破ったって怒られはしないでしょ!」

「なら、いってらしゃい〜!」


 他人事の様に手を振ってドヤガオを送り出そうとするマケガオ。


「…アンタも一緒に行くのよ!」


 強引に手を引っ張り無理矢理教室の外に連れ出す。


「えぇ〜。私、怒られたくない〜。もう、あんな思いするのも痛いのもイヤだよ〜」

「駄駄こねないの!いいから行くわよ。それに大丈夫よ。怒られる時は一緒だしきっと一瞬で終わるわよ。あの時みたいにね……」

「それがイヤなのーーー」


 そんな2人のもとに1人の女生徒が声をかけてきた。


「お待ちください!」


「「え、だれ!?」」


「ねぇ、この人ドヤガオの知り合い?」

「いや、マケガオの知り合いじゃないの?」


「違うよ。私、こんな派手な格好の服着た女友達はいないよー」

「でもアレ、ウチの制服だろ?色々と改造はしてあるみたいだけど……」


「私のことご存じありません?」


「「ご存知ありません」」


「なるほど。様子を見るにお二人はまだ一年の様子。それなら私の事を知らないのも無理はないですね。私もお二人とは当然初対面なんですから」


「何なのこの人…」


「自己紹介が遅れました。私、この学校の情報屋、2年の新宿 来夢と申します。これから私の事はカモメで構いません。以降ご贔屓に」

 2年 自称新聞部 部長 新宿 来夢 通称 カモメ


「「はぁ……」」


「いきなりですが今回の件私、新聞部に任せていただけませんか?」

「任せるって……あれ?そういえばこの学校って新聞部なんてありましたっけ?マケガオ知ってた?」

「ううん。知らない〜。だって私新聞部読まないもん」


「ええ。新聞部なんて部活は存在していません。あったとしても部員はきっと私1人だけですから……。ですから先に言ったでしょう?私はただの情報屋だって…」


 先程とは打って変わって少しネガティブな表情を見せるカモメ。


「じゃあ何でそんな無駄なことを?」

「おい、マケガオ。少しは言葉を選びなって。一応は先輩なんだからさ」

「構いませんよ。事実ですから…。新聞部だって言ったのはただのカッコつけと建前です。そう言った方が、よく分からない情報屋で押し切るより何かと話が上手く行きそうな気がして…スミマセン」


「ほら、マケガオのせいで先輩へこんじゃったじゃん!どうすんのよー」

「私、悪くないもん」


「もう…あの、先輩?いや、カモメさん?そんな気にしなくてもいいと思うんで元気出してくださいよ。ね、」

「大丈夫です。こういうのは慣れっこですから。それより、今回のこと私に任せていただけるんですか?」


「任せるのは別に構いませんけど、どうやって伝えに行くんです?園芸部じゃない私達じゃ部室のある別棟に行けませんよね?」

「だからこそ任せて欲しいんです。別棟に行ける許可を持ってる私に」


「え、そうなんですか?!」

「ええ。お二人みたいな1年は知らないかもしれませんが、この学園には私のように園芸部以外の生徒でも別棟の立ち入りを特別に許可されている生徒が僅かながら存在しているんです」


 自信満々に問いに答えるカモメ。


「私、そんなの聞いてない…。なんでそんな大事な事を教えてくれなかったの〜!ドヤガオ!……それを知ってればあんな痛い目に会わずに済んだかもしれないのにー」

「私もこんなの初耳なんだから教えられるわけないでしょ!決闘以外にも園芸部に関われる方法があったなんて」

「で、どうします?そろそろ、急いだ方がいいかもしれませんよ。見てください。外にいるあの人たちも手持ち無沙汰でソワソワしていますわ。そろそろ辛抱切らして何か行動を起こすのかもしれませんよ。急がないと」


「…ですね。分かりました。今回の件は全てお任せします。マケガオもそれでいいよね?」

「私は最初から反対なんてしてないよ〜。ただ、ドヤガオが色々と話し出したから私も付き合っただけ。これでもしも、大変な事になっても私のせいじゃないもん」


「いやいや、そうなったらお互いの責任に決まってるでしょ?なんで私だけにしれっと全ての責任を押し付けるの。もしもの時は一緒に道連れよ」

「えぇぇーーー」


「大丈夫です。私がそうなる前にこの事を皆さんにお知らせしますから。それに例えもしもの時が起こったとしてもウチには部長がいますから。きっとなんとかしてくれますよ。では、私はこれで失礼しますね」


 そう言ってカモメは急いで園芸部のある別棟に向かった。


「部長か…私会ったことも見たこともないんだよね〜。入学してからもう直ぐ半年ぐらい経つのに、一度も。」

「私も…ってか、部長って本当にいるんだね。私、都市伝説的なモノだとずっと思ってた。だって、部長って事はさ、園芸部の中で1番強いって事でしょ?」


「まぁ、普通に考えたらそうだね」

「四天王であんなに強かったのにさ、アレよりも強いってこと?」


「そうだね。見た事ないけど」

「そんなのもう、バケモノじゃん…」


「バケモノではないんじゃない?…妖怪かもよ?」

「…どっちも一緒だよ」



 園芸部のドアがノックされ中からの返事を待たずにドアが開く。


「失礼しますっ!ご報告がありまして」

「カモメ。いつも言ってるでしょ?急いでる時でも必ず返事を待ってから開けなさいって」


「すみません、アシュラさん。しかし、今回は大事な報告がありまして……本校内に何者かが侵入しようとしています。この緊急事態速急にお伝えしなければいけないと思ったんです」

「みたいね。知ってる」


「え、そうだったんですか?」

「だってここからも見えるもの」


「あ、そうでしたか……。唯一、園芸部の部室からは学園の敷地内は全て一望できるんですもんね」

「うん。それに、さっきあっちの方からご丁寧に私達に声までかけてきたからね、そりゃあ分かるわよ」


「声?まさか、既に直接接触されたんですか!?」

「違う、違う。私達は声を聞いただけ。文字通りにね」


「でも、どうやって?姿は見えても流石にあそこから声までは届きませんよ」

「それがさ、正直私達も驚いたよ。でも、納得もした。やっぱりここは異世界で、異世界には魔法が存在するんだなぁって現実を突きつけられた気がして」


 カモメが一年と話しているあの時。


 園芸部には異変が起きていた。


 正確に説明するなら部員だけに。


「なんやコレ…」

「ねぇ、ねぇ。こんな感じになってるのって私だけ!?ねぇ、どうなの?ねぇ!?」

「落ち着きなさいよ、エンジェル。大丈夫よ、一人じゃない。多分私も同じだから…」

「……変な感じ。色々なところから音が聴こえる」


「サシミも同じみたいね。…もしかして、エプロンさんも同じだったりします?」

「大正解。……なんかもう、頭がガンガンすんな…」

「はい…。なんなんでしょうコレ?ここにいる全員が同じ目に遭ってるなんて、変ですよ」

「変やけど、仕方ないやろ。現に頭も変になりそうな事が実際起きてるんやから」


「アレ?」

「…なに。どうしたのエンジェル?」


「なんか聞こえてこない?頭も痛く無くなってきたし…」

「はぁ。なにも聞こえないし、頭も痛いままだけど!?」


「ほら、聞こえるじゃん!男の声!」

「男?男なんて部室にいるわけないでしょうが!?こんな時にふざけないでよ!!」

「だって、本当だもん!!」


「……アシュラ。私も聞こえるよ」

「ほら!私だけじゃないじゃん!!だよね、やっぱり聞こえるよね?」

「……うん」


「…アシュラ、エンジェル。2人には何が聞こえてるん?」

「ん〜〜。バルキュリア王国が何かって言ってる。後は分からないや」

「……私も同じ。所々部分的で理解出来ない」

「どうなってるんですか、これ。…あれ?」


「どうしたん?まさか、アシュラもか?」

「はい。頭が痛く無くなって来たと思ったら男の声が聞こえてきます。…ちょっと待ってください。なんか分かってきてる気が。えーっと、バルキュリア王国、大地の騎士団?とかって言ってますよ」


「…バルキュリアってこの国の名前やろ。その国の騎士団が何の用?」

「分かりません。なんか言ってる気もするんですけど、やっぱり部分的でよく分からないんです」

「でも、なんか徐々に聞きやすくなってない?」

「……うん。さっきより分かるかも」


「あ!私もようやく聴こえてきたで。でも、なんか変な感じやなぁ。耳からじゃなくて頭から他人の声が聞こえてるって」

「ええ。新感覚過ぎてきっと体が追いついてないんですよ。あ、だから頭も痛くなったんじゃ?」


 園芸部全員の頭の中にハッキリと男の声が聞こえる。


「聞こえるか。我の名はカイゼル。バルキュリア王国、七騎士団の1つ。ダイチノ騎士団、副団長である!聞こえているのなら返事をしろ!城の中にいるのは分かっている。返事をしないか!」


「返事って言われても……ねぇ?」

「……うん」

「私達じゃ返事のしようがあらへんからなぁ」


「ねぇ、もしかしてこれってさ」

「エンジェル?」


「聞こえているのだろう?早くしないか!この森にこんな大きな城で住んでいるのだから念話魔法ぐらい使えるのだろう?でなければ説明がつかん。強者なら強者らしく早く返事をしないか!この無法者が!」


「やっぱり魔法だーーーーッ!!魔法だよ!やっぱり魔法って実在するんだよ!ほら、魔法だ!マ・ホ・ウ!」


 そして現在。


「って、エンジェルが初めての魔法に興奮してたのをようやくさっき落ち着かせたばっかりなのよ。お陰で話が進まなくて大変だったんだから。でもほら、騒ぐだけ騒いで満足したから寝てるでしょう?ほんと、子どもみたいよね」

「……でもちょっとかわいいよ」


「まぁね…そういえばカモメには聞こえなかったの?頭とか痛くならなかった?」

「いえ、全く。その時は一年と一緒にいましたけどその子達もそんな様子ありませんでしたよ」


「そう。…エプロンさん」

「魔法の対象になってたのはどうやら私達だけだったみたいやな」

「でも、なんで?」


 エンジェルが会話に割り込んでくる。


「それは私達がこの学校の中で1番強いからじゃないの?私達がここの頂点なんだからさ」

「……相手の話からもそれはありえるかも。あっちも強い人と話したそうだったし。きっと、代表に会いたいんだよ」

「だとしても、アイツらとは初対面なのに。どうやって私達の事を判別したのよ?」


「さあ?」

「……分からない」


「分からないのは仕方ないやん。それこそ考えても沼にハマるだけや。同じ様なことをこの前自分でも言ってたやんか。そんな無駄なことを考えるより外を見てみ」


 全員が一斉に窓を覗く。


「ようやくウチの代表がお目覚めみたいや。きっと面白い事になるで」

「いつの間に…」



 そこには甲冑を纏った屈強な兵士が20人ほど。


 その1番先頭に立っている男は分かりやすい程の豪華な鎧を身に纏い皆、俺様顔で堂々と立っている。


 そんな彼らの前に1人の少女が現れる。


「貴様がこの城の代表か?」

「……ああ。そうだよ。でも、城じゃないでしょ。ここ学校だしさ」


「何を戯けたことを。中々念話に応じないと思っていれば、ようやく出てきたのは1人の小娘。もう一度聞くぞ。貴様がこの森に住むこの城の主なのか?」

「だから、そうだって。後、ここは学校だから。ま、私たち学生らしい事は何ひとつやってないんだけど」


「……ガハハッ!そうか。なるほどなぁ。この得体の知れない城といいお前、もしかして転移者だな。それなら、全ての事象に説明がつく。念話に応じなかったのはしなかったんじゃなくて出来なかったからだろ」

「……」


「図星みたいだな。たまーにこの国に現れる転移者や転生者。転生者に会った事はあるが転移者に会ったのはこれが初めてだ。でも、どうやら噂通りらしいな。神によって生まれ変わった転生者と違って、転移者は何処からともなく現れる。そして転移者は魔法や能力が全く使えないって話は本当だったらしいな」

「だったらなによ?」


「いや、こんなに大勢で警戒してくる必要はなかったと思ってな。お前らは知らないだろうから1つ教えてやるよ。この森はな、ゲンマノモリと言ってここ周辺では最も危険とされている場所なんだよ。高レベルなモンスターがウヨウヨしていて許可証を持った奴らしか立ち入る事が出来ない危険区域だってことだ」

「説明ありがとう。それなら大勢で来てよかったじゃない。ここ、危険なんでしょ」


「確かにここは危険だが我らにとっては違うのさ。ここにいる者全員は個人で森の立ち入り許可証を手に入れている猛者達だけだ。そんな我らからすればこの森は都合の良い稼ぎ場所でしかないんだよ。だが、何故かここ最近この森でのモンスターの活動が見られなくなった。現にここに来るまで我らは一度もモンスターと接触していない。こんな事は普通あり得ないんだよ」

「そうなんだ。だけどそれと私たちは関係ないでしょ」


「かもな。いや、きっと関係ない。我らは最初、この森に突如現れたこの城が今回の異変に関わってると睨んでいた。例えば、魔族や魔物が仕掛けた大かがりな作戦の一部とかな。が、お前のような小娘にそんな大それた事が出来るわけがない。しかもお前達は魔法が使えない転移者。それなら余計に尚更だ。でも一応聞いておくが、どうやってここに来た?」

「さぁね?そんなの知るわけないじゃん。私に聞かないでよ」


「だよな。魔法すら使えない奴がそんな事を知ってるわけがないんだもんな」

「そ。なら終わりでいい?じゃ、用が済んだなら帰ってくれる?私はまだ、寝たりないの」


「だからといってそういうわけにも行かないんだよ。ここまで来て何も分かりませんでした。じゃ済まないんだよ!悪いが一緒に来てもらうぞ」


 カイゼルの気迫が圧倒するが女は動じない。


「イヤだ。それにナンパするならもっと上手いことやりなよ。そんな強引じゃ誰も付いてこないって。ま、どっちにしろ結果は変わらないけど…」

「ナンパ?…よく分からんがさっさとついて来い!後、この城にはお前の他にも女がいるんだろう?いるならそいつらも全員連れて来い。俺達が可愛がってやるから安心しな。抵抗しなければ命は奪わないしこれからの生活に欠かせない仕事も紹介してやるからよ」


 後ろにいる兵士たちから笑い声が聞こえる。


「やっぱりナンパなんじゃん。そんな下心丸見えじゃダメだって。そんなんじゃウチの女達は誰も靡かないわよ」

「…御託はいいんだよ。いいから全員連れて来いって!あ、男はいらないからな。後でこの城を制圧する時に一緒に皆殺しすればいいだけからな。それまでに逃げたなら逃げたで一向に構わないが。ほっといても転移者なんて直ぐに死ぬに決まってるからな」


「安心しなよ。ここにそもそも男はいないから。手間はかからない」

「…マジか。なら、全員歓迎だ!よーし、せっかくだ。気が変わった。特別に我らの方から迎えに行ってやるよ。場合によってはそのまま城の中で…」


 機嫌が良くなったカイゼルが学園の敷地を跨ごうとしたが、あと一歩のところで足が届かない。


 目の前に女が道を塞いでいるからだ。


「退け。邪魔だ」

「横を通ればいいでしょ……」


「手間をかけさせるなよ。男より弱い女のお前が抵抗したところで無駄なんだ。さっさと言うことを聞いた方が後々の自分の為だぞ」

「だから、イ・ヤ・ダ!」


「……もういい。お前には飽きた。だったら消えろ」


 カイゼルが女を手にかけ、強引に敷地を跨ごうとした瞬間。


 女の鞭のように撓った鋭いハイキックがカイゼルの頭を直撃する。


 予想だにしない一撃がカイゼルを見事によろけさせて膝をつかせる。


「なっ……にっ…!」

「あ、…もしかして痛かった?これでも結構手加減したつもりなんだけど。でも、アンタ達は頑丈そうな鎧を着ているんだし、制服の私は少しぐらい本気出したって問題ないよね?…」


 そう。さっきまでカイゼルは頭にもしっかりと兜を被り素顔は見えていなかった。


 だが今は、その兜は衝撃で割れてカイゼルの素顔が丸見えだ。


「キサマ……何をした?何故我は膝をついている?そして何故我の兜が割れているのだ!?」

「そんなの、私がアンタを蹴ったからでしょ?」


「そうじゃない……どうやってただの蹴りで我の黒鉄の兜を壊したかと聞いておるのだ!まさか、魔法を使ったのか?それとも固有スキルか何かか。いや、どちらも転移者なら使用出来ないはず……ならどうやって?」

「そんなの私がどっちも使えるわけないじゃん。バッカじゃないの?仮に使えたとしても使い方なんて知らないし、私にはムリ。さっきも言ったけど私はただアンタを蹴っただけ。そこにタネも仕掛けも存在しないのよ」


「……デタラメを並べおって。ただの蹴りでこの我の鎧が傷つく筈がなかろうが!!それどころか我の膝を地面につけるなどなんて屈辱…。キサマ、転移者でなければ魔族、いや、魔人の類か。そうなんだろ?そうだと言え!そうじゃなきゃ我がこんな目に遭うはずがないのだぁッ!!」


 立ち上がったカイゼルは自らの剣を抜き、懲りずに女のもとへと突っ込む。


「チッ…。さっきから勝手に話進めないでよね!!」


 女がカイゼルの剣捌きを冷静にいなしたあともう一発、さっきより強めの一発を顔面に喰らわせる。


 女の蹴りが見事に直撃したカイゼルは衝撃で部下の側まで軽く吹っ飛んだ。


「「副団長ォッ!!」」


「ねぇ、アンタが言ってたこんな目に遭うってこういう事であってる?」

「……キサマっ。小娘の分際で2度も我を傷つけた事を後悔させてやる。お前達ッ、やってしまえ!!」


「「ウオオッーーー!!」」


 カイゼルの部下、約20名が一斉に女を倒すべく前に駆けていく。部下は各々の武器を手に殺る気満々なのが簡単に伺える。


「話を勝手に進める上に自分じゃ無理なら結局他人任せ…。つまらない。しかもこの中で1番格上っぽいアンタがコテンパンにやられかけてるってのにその部下が私を倒せるって思われてるってのが1番つまらないわ。……でも、来いよ。売られた喧嘩は私が全部買ってあげる」


 腕に自信のある男達は女には負けるものかと、息を合わせ一斉に女を襲った。


 が、さまざまな武器を持っている男達に恐れる様子など見せる事なく側に来た男からボコボコにしていく。


 彼らが全滅するのに時間はかからなかった。


 傷ひとつ、ついていない女の足元には傷だらけのボロボロになった甲冑を着た男達が延びている。辛うじて全員息はあるようだが彼らにとってこれがトラウマになる事は間違いないだろう。


「なっ……我らの部隊が全滅だと…。そんな事があり得る訳がない!!相手はただの小娘なんだぞ…それなのに、どうしてなんだ。おい、お前達立て!立つんだ!!この化け物をなんとかしろぉ!!」

「あのさ……」


 さっきの威勢が嘘のように空回りしているカイゼルの側にゆっくりと近づいてくる女。


「ち、近づくな!来るんじゃない!!この化け物!!ど、どっか行け!!」

「さっきからさ、人の事を魔族とか魔人とか。挙げ句の果てには化け物って…。いい加減にしてよね。……私は、ただの人間よぉっ!!」


 女は楽にカイゼルの片足を抱え込むとそのまま勢いよく見事にカイゼルを地面に叩き落とす。


 それはまるでプロレスの技、バックドロップホールドのようだった。


「……ば、けも、のっ…グハッ」

「あとさ、女の子に化け物は酷いんじゃなくって?しかもJKにその言いぐさはないわよ。そんなデリカシーもないから負けるのよ。これに懲りたらちょっとは勉強した方がいいんじゃない?モテたいなら努力しなきゃね」


 女はこれで気が済んだのかそれだけ言い残すと女は校内に戻ろうとする。


「……こ、殺さないのか?」


 辛うじて意識が残っていたカイゼルの一言が女の歩みを止める。


「……死にたいの?それともアンタは私に殺して欲しいわけ?」

「戦って負けたものは死んでいく。それがこの世界の道理だ。…しかも我はそんな勝負に挑んで相手の真の実力すら分からずあっけなく敗北したんだ。そんな我には惨めに死ぬのが相応しい」


「なに?さっきとは雰囲気全然違うじゃん。…もしかして、これがアンタなりの騎士道?とかってやつ?」

「……そんな大したものじゃない。だが、どうせ死ぬなら最後くらいカッコをつけたかったのだよ。……あんな無様な戦いをして負けた奴が言えたセリフじゃないがな」


「それもカッコつけ?」

「かもな……さぁ、さっさと殺せ。我も騎士として覚悟は出来ている」


「…ないよ」

「?」


「私は殺さないよ」

「…何故だ!」


「そんなに死にたいなら1人で死になよ。あ、でも、どうせ死ぬならここ以外でね。色々と面倒そうだから」

「キサマは我の騎士道すら侮辱するのか?!この外道めが!!ひとでなしっ!」


「煩いわね!そんな大したものじゃないんでしょ?それ。さっき自分で言ってたじゃん。だったらそんなの捨てちゃえばいいのに。命の方がよっぽど大事でしょう」

「そんなワガママ許されるわけないだろうが!」


「だとしても、アンタの勝手なプライドで私を巻き込まないでよ。何を言われても私はアンタを殺す気はないから。そこに転がってるアンタの部下達もね。ちゃんとアンタが責任持ってつれて帰りなさいよ!」

「我らを生かすのか?それも全員!?そんな事したらお前達はいつかきっと後悔するぞ!それでもいいのか?」


「しないよ。後悔なんて。そんな事じゃ全くね」

「キサマは強いんだな…それに甘い…」


「ようやく気づいたの?気づくのが遅過ぎ。……負けて生きる事がアンタ達にとって最大の屈辱だっていうのならそれがアンタ達の罰よ。その方が死ぬよりも辛いんでしょ。だったらちょうどいいじゃん。私に負けた事、後悔しながら苦しみな」

「…………くっ」


「でも、死ぬよりも辛くて後悔する事なんてほんとは無いって知るきっかけにはなるかもね」

「……キサマ、名は?」


 女は一度、園芸部の部室を外から眺めたあと、カイゼルの背中を踏み潰しながら質問に答える。


「ぐっ……」


「ハレルヤ女学園 3年 

 園芸部 威薔薇ノ棘 桐生 遥。別に覚えなくていいから」


 そして女は校内に帰って行く。


「ハレルヤ、エンゲイブ……聞いた事のない言葉ばかりだ。よく分からんが、キリュウハルカ。その名だけは覚えたくなくても忘れる事はなさそうだなぁ…」


 カイゼルは静かに微笑んだ。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります。


次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

勝手に祈ってお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ