真実
「犯人は、信子さんあなたです!」
日本を代表する名警部、千津川はこう言って胸を張った。余談ながら彼の活躍は、数々の小説、ドラマとなっている。
「そんな、誤解です。私は何もしていません」
「とぼけるんじゃありません。秘書のあなたは、社長である源三さんに近づける特権を利用して、彼のワイングラスに毒を入れて呑ませたんだ。そして心配して近寄ってきた息子の忠広さんのポケットに、毒の入っていた袋を入れたんだ。そうすれば忠広さんの犯行のように見えますからなあ。
だが被害者の執念でしょううなあ。介抱する振りをしたあなたの服のボタンを、源三さんはしっかりと握りしめていた。犯人はお前だと、示すようにね」
「いやそれは、単に源三さんが苦し紛れに握ってきただけで…」
「まあ、言い訳は署の方で聞きましょうか」
信子の抗弁虚しく、彼女は署に連行された。
しかし犯人は忠広だった。パーティ会場で大企業の社長、源三が毒殺されたと聞いて功名心にかられた千津川が、みんなの前で大見得を切ったのだ。要するに単に千津川の勇み足で、誤認逮捕だった。
千津川は、しまった間違えたかと思ったが今さらそれを言うのはプライドが許さないので黙っていた。なあに気の弱そうな女だったので、部下に因果を含めて厳しく締め上げるように言えば、すぐ落ちるだろう。民衆も警察も、みんなおれの味方だからな。おれの主張の方が通る。事件は無事に解決したと、自分にそう言い聞かせた。
部下もみんな、いやこれは誤認逮捕でしょ。どう見たって犯人は忠広でしょと思っていたが、口には出さなかった。波風を立てるのもバカらしかったからだ。
下手なことをすると、自分たちの出世に響く。千津川の機嫌を損ねると地方に飛ばされるか、閑職に追いやられるかもしれない。そうなると巻き添えを食らう、部下や家族もかわいそうだ。ここもひとつ点数稼ぎといこうと、淡々と信子の取り調べを始めた。
警察の取り調べに、根負けした信子はやってもいない犯行を自供した。起訴され裁判の結果、懲役十二年の刑が確定した。
千津川の名声も保たれ、部下たちも点数を稼ぐことができ、事件も無事に解決できた。
真実とは、そんなものだ。




