表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おねぇちゃん、どこ?

 目を覚ますと、翔真は”ひとり”だった。


「…おねぇちゃん?」


 まだ眠気が抜けきっていない。重い身体をやっとの思いで持ち上げて、辺りを見回す。


 リビングには、誰もいない。

 暖房の音だけが、ごうんごうんと、大きな部屋の中に響いている。


「…おねぇちゃん」


 ぺた、ぺた、と足を引きずるように歩き出す。

 翔真は、裸足だった。ラグの上は暖かいけれど、フローリングへ足を伸ばした途端、木の冷たさが伝わってきてびっくりする。


 子供部屋の扉を開ける。

 …いない。


 両親の寝室を開ける。

 …いない。


 トイレ、パントリー、廊下、ベランダ…どこを見回しても、翔真は”ひとり”だった。


「…おねぇちゃん…どこにいるの?」


 寂しさが心を覆う。気がつくと頬が涙で濡れていた。


「おねぇちゃん…ぼくを、おいていかないで」


 嗚咽が漏れる。


 「翔真」


 どこからか、声がした。


「…おねぇちゃん?」


 声のした方向はどっちだ。きょろきょろと辺りを探してみても、声の主は見つからない。


「翔真」


 また、声がした。


「おねぇちゃん!どこにいるの!?」


 翔真は泣き叫ぶ。


「翔真!」


 気が付くと、目の前に青ざめた顔をした女性の顔があった。


「翔真、大丈夫?うなされてたよ」

「…母さん?」

「千尋の手術、終わった」


 その言葉に、翔真は目を見開く。全身の血管がぶわっと拡がるような感覚がした。


「千尋は!?」

「…大丈夫、上手くいったって。まだ麻酔が効いてると思うから、話せるかわからないけど」


 混乱した頭で何とか、母の言っている内容を理解しようとした。


「本当に大丈夫?母さん、あんたのことも心配だわ」


 翔真の母が、気遣うように彼の身体をさする。


「母さん…千尋に、会っていいか」



 病室は個室だった。幾つもの管に繋がれた千尋が、ベッドにその身体を横たえている。


 翔真は、自分と同じ顔をした姉の前に立つ。


「…千尋」


 声は掠れていて、独り言のようだった。

 少し間を置いて、その声に応えるように千尋が瞼を重たそうに持ち上げる。


「…しょうま…?」

「…俺のこと、わかるか」


 その言葉に、千尋が微笑む。傷が引きつって痛いのか、一瞬顔が歪んだのが、痛々しかった。


「しょうま…私、のこと、呼んでくれたよね」

「呼んだ?」

「こえ…が、したの…”おねぇちゃん”って言う、しょうまの、声」


 その言葉に、翔真はハッとする。


「…おねぇ、ちゃんなんて…呼ばれたの、いつ、ぶりかな」


 翔真は、震える手で千尋の掌を、そっと包んだ。


「…おかえり。姉ちゃん」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 会話と文章のバランスの良さとか、場面転換のナチュラルな感じ、読みやすいです。 互いを思う優しさが滲み出る。染みる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ