天使アイテツのリベンジ(1)
久男「ひどい顔ですね」
一週間後の土曜日、再度アイテツは現れた。
相も変わらず、世間一般では休日だというのに久男は出勤している。
そわかも前と同じように仕事なんてなかったが、何故か来ていた。
職場をレジャー施設か何かと勘違いしているのだろうか。
一方のアイテツは目の下に隈をたたえ、頬は痩せこけて見るからに疲労困憊という様子だった。
本来、天使というのは睡眠を取る必要がなく、疲れるという概念とは無縁である。
にも関わらず、こんな様子なので相当精神的に参っているのだろう。
アイテツ「やあ、君たち……元気かなぁ……? わたしは……元気だよ~………」
久男「本当に大丈夫なんですか? 今にも死にそうって感じですよ……」
アイテツ「正直大丈夫じゃない……だが、安心してくれ! 天使に死という概念はない」
そわか「アイテツちゃんもゾンビメイクですねえ。せんぱいもゾンビメイクですし、わたしもやろうかなあ……ゾンビ」
久男「一緒にするな。アイテツさんは疲れてこうなってるの!俺の顔はデフォルトでもこうだから……」
そわか「デフォルトゾンビですねえ」
久男「何だそれは……」
ア②「まあ、天界の書物庫にある書物を片っ端から、頭に叩き込んだから、オールオッケーだ」
アイテツは一週間、休まずに書物庫の書物を漁り続けた。天界は地上よりも時間の流れが遅いので実際にはもっと長い時間籠っていたことになる。
根気だけは一級品だろう。
久男「本当に大丈夫なのか。ごり押しじゃないか」
アイテツのガリ勉的な思考を察した久男は、アイテツの体調とは別の理由で心配になった。
それはもちろんこれから始まる講座(前回の続き)の内容のことである。
アイテツ「大丈夫だ。泥船にのったつもりでいてくれ」
そわか「なら、安心ですねっ!!」
久男「そんなわけあるか! せめて木の舟を用意してくれ」
今日も久男の突っ込みに鈍さは感じられない。
ボケ倒すそわかに久男が突っかかるという所作を横目で見ながら、前回と同じ様にアイテツは教鞭らしきものを手元に出現させ、教室とそこに繋がる扉を召喚した。
1人と2人はそのまま教室の中へ入る。
そして、アイテツは久男とそわかが席に座ったことを確認しつつ、教壇に立った。
夢とは何か。
アイテツの啓発講座テイク2の始まりである。
アイテツ「ではこれより前回の続き。夢とは何ぞやという話をしようと思います」
アイテツ「長くなりそうなのでとりあえず、話を3つに分けて話していこうと思う」
そわか「ふわあああ~、わたし眠くなってきちゃいましたあ。寝てもいいですかあ?」
久男「おい、まだ始まってすらいないぞ。しゃんとしろって」
そわかがあろうことか、開始三秒で机に突っ伏した。
いつの間にか、目蓋にマジックで目を描いていたそわかを久男は揺すり起こす。
〇その1
アイテツ「1つ目の話。まず、夢を見つける方法についてだが……」
アイテツ「夢を見つけるための方法は三つある、それは何か……」
アイテツ「一つ目の方法はあこがれを持てる何かを偶然みつける」
久男「ふむふむ、なるほどな。まあ当然のことだな」
アイテツ「2つ目の方法は好奇心を満たす何かを偶然みつける」
久男「好奇心は確かに重要そうだ……まあ妥当だな」
アイテツ「3つ目の方法は自分の欲求を満たせるなにかを見つけるだ」
久男「………。」
アイテツ「座して待つ。以上だ……」
久男「全部偶然みつけるじゃねーか!!」
アイテツと久男は質の悪いコントのようなやり取りを展開する。
アイテツのそれは方法というよりも、サルでもわかるような当たり前のことを当たり前のように言っているだけだった。
久男が突っ込むのも無理はないだろう。
アイテツ「すまぬ、結局確実に見つかるような方法なんてなかった。どうしても偶然というものに頼ることになってしまう。 結局、とらえどころのないものになってしまう」
久男「やっぱりか……」
まあ、仕方ないと久男は考えていた
もとよりあまり期待はしていなかった。
確実に夢を見つける方法なんてものは端からない。
夢を見つける方法にマニュアルなんてあった方が不自然であろう。
そのことについては久男も意地の悪いことを言ったなあと一週間前の自分の発言を思い返しながら今になって思った。
アイテツ「まあ、確実な方法はないが、夢を見つけるきっかけになるような運命的なものに出会う確率はあげることができるだろうさ」
アイテツ「その方法はあるにはあるが……」
アイテツは含みを持った言い方で、久男に問いかける。
久男「何ですか? 言ってみてくださいよ」
アイテツ「これも当然のことをただ言うだけなるけどかまわんか?」
久男「ああ」
久男は小さく頷き、そわかはニコニコと大きく頷いた。