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人生の目的

アイテツ「というわけで、アイテツのちゃんの人生成功啓発講座が始まったわけであるが……」


アイテツ「まず、そもそも聞きたい。成功者とは何なのかを」


 アイテツは机の上で頬杖している久男と目を輝かせてわくわくしているそわかに向かって問いかける。


そわか「それはもちろん何か一つのこと(分野)に長けていて、社会において高い地位にいるもしくは社会から大いに認められている存在。それでいて変わりがおらず唯一無二性をもった人のことですよねっ。アイテツちゃん、さっき言ってましたよお」


 そわかはさっきアイテツが言っていたことを復唱するかのように答えた。


アイテツ「んん、ああ、さっきのとは少し違うんだよ、すまない。ちょっと言葉足らずだったみたいだ。さきほどの【成功者】というのはあくまで久男の中での【成功者】像だ。ここで問うたのはより広義での【成功者】の意味だよ。【成功者】という言葉が持つ意味そのもの。つまり【成功者】とはどういう言葉なのか。だ」


 ばかそうなそわかがさっきアイテツが言っていたことを一言一句違わずに覚えていたことに驚きつつも 久男は少し考えて、冷静に答える。


久男「そりゃあ、何かに挑戦してその目論見が上手くいった人のことなんじゃないのか? 言葉の意味的には」


アイテツ「久男くん、そのとおりだ。花丸をあげよう!」


そわか「なるほどお。すごいです!せんぱい流石ですっ!」


久男「いらねえ……なんかバカにされてるみたいだ……」


 ノリよくあからさま過剰に誉めるアイテツと、パチパチと手を叩きながら茶化してるのかホントに称賛しているのかよくわからないそわかに不機嫌な顔をする久男。


アイテツ「今言ったとおり、成功とは何かの目的を達成しうることをいう。そして、当たり前だが、成功者とはその目的を達成したもののことなのだ」


アイテツ「つまり、だな。人生において成功者になるためには、どうしても達成したいと思う目的が必要なわけだ。目的があるからこそ挑戦があり、失敗や成功があるというものだ」


 アイテツは、得意そうな顔をしながら、まくしたてた。


久男「なるほど、目的ねえ」


そわか「ですう……」


アイテツ「そうだな。君たちには何かないのか。人生を生きる上でどうしても果たしたい目的とかは?」


 久男は今度は難しい顔をし、ううんと唸るようにして考える。


そわか「わたし、ありますよお! 言っちゃっていいですかあ」


 なかなか思い付かない久男を尻目に、そわかが乗り出す。


アイテツ「ああいいぞ。いってみたまえ」


そわか「それはですねえ……せんぱいとデートしていっぱいおごってもらうことです。ダンプカーとかショベルカーとか、100カラットのダイヤモンドとか!」


 自信満々の笑みでそわかはそう宣言する。

 あまりにぶっ飛んだ回答に久男はため息をつき、アイテツは呆然とする。


久男「おい、おれのこと歩くATMか何かと思ってねえか?」


アイテツ「そわかくん……まじめにやりたまえ」


そわか「いったってわたしはまじめですよお! 100カラットダイアモンド欲しくない人なんていないと思いますっ!」


久男「真面目に俺の残高を枯らさせるつもりか! (百歩譲ってダイヤは解るとして、ダンプカーってなんだよ……)」


 アイテツは久男とそわかの高度な掛け合いに感心しつつも、話をもとに戻すために久男に問いかけた。


アイテツ「次、久男くん、君はもう思い付いたかい? これを達成したいとか、これを完成したいとか、そういうものだが」


久男「ううん、そうですねえ」


 久男は再度考えるような仕草をし、渋々答える。


久男「さっきやってたプレゼンの資料を今日中に終わらせることですかね。そして、明後日のプレゼンを無事乗りきることですね」


そわか「あははは、せんぱい虚しすぎます!笑 お仕事ロボットですねっ!笑」


久男「何が可笑しいんだ。お前のふざけた回答よりはましだろう?」


アイテツ「久男くんもそわかくんと同レベルだ、非常に残念です……」


久男「ガーン……」


 そわかと同レベルと言われ久男は肩をおとす。

 何気なく発言しただけだったが、予想以上に久男がショックを受けているので、フォローの言葉を交えつつ、アイテツは問いかける。


アイテツ「たしかにそれは立派なことだと言える。 極端な話だが、それをやりとげたのなら、きみはその仕事に関して成功者だよ。確かに成功させたのだから」


アイテツ「だが、重要なのは本当にそれがやりたいことなのかということだ」


 久男はその言葉の意味することが分からなかったが、とりあえずといった様相で本心のままに答える。


久男「いや、やりたいことかと言われると全くやりたいことではないが……そもそも仕事自体が嫌なことの筆頭みたいなものだし」


アイテツ「自分の心にもないことをやって、それが成功したとしよう。だが、それは他人のためにはなるかもしれないが、自分のためにはならない。自らがこころから達成したいと思えるような目的を果たしてこそ人生における成功と言えるのではないかな」


 アイテツは目的の成功は自分のためになることでなければならないと考えていた。そして、自分がこうでありたい、こうなりたいという願望を孕んでいる必要がある。


 目的を達成するためにその過程において嫌なことを我慢してやることは決して悪くない。

 しかし、久男のプレゼンの成功という目的は本人の意思と反しており、なまじっかそれが達成されても久男の心が満たされることはない。

 目的自体が"嫌なこと"であってはならない。

 アイテツの問いかけには前提条件としてそのような意味を含んでいた。アイテツ自らの考えでしかないので久男とそわかは知るよしもない。


アイテツ「嫌なことを嫌々やっている時点で、きみのそれはきみにとっての成功とは言えない。そわかくんが言うとおり虚しすぎる回答だ」


久男「…………。ひどし」


 久男は周りにも分かるくらいあからさまにショックをうけ、白目を向いた。

 久男はこう見えて、非常に繊細なガラスのハートを持っており、傷つきやすい。

 ショックを受けている主な原因はそわかと一緒くたにされているからだ。


そわか「それならせんぱいは今の境遇を嫌がっているので、せんぱいの人生における目的は今の境遇から脱することになるんじゃないですか。つまり、仕事をやめるそれこそせんぱいにとっての成功なのでわ?」


 そんな先輩こと久男の様子など何処吹く風なそわかはアイテツに質問を繰り出す。


アイテツ「ふむ、なるほどね」


アイテツ「確かにその通りだ。だが、それも少し違う。今の境遇から脱するために例えば仕事をやめたとしよう。その時点でその目的自体は達せられたのでそれに関しては成功したと言える。しかし、その後お金が入らなくなって、生活が苦しくなればそれが本当に望んだことだったのか。ということになる。 そうなった場合、その人生は不満だらけなのではないかね」


久男「まあ、そうですねえ。仕事をやめても当然お金を稼がなければ、生きてはいけないわけですから……一時的に目的が達せられても、結局新しい目的を作らざるを得ないですね。嫌な状況を脱するために」


アイテツ「この場合は目的が一時的なものでありすぎる。だからそれもまた、人生の目的を決めるうえで正しいとは言えない」


アイテツ「ここでいう目的とは人生という長いスパンで見たときの最終的な到達点。かつ、もっともなりたいと思う究極の理想の形でなければならない。それを叶えるための過程として、今の仕事をやめるという選択肢はあるかもしれないが、それ自体が目的になってはならないのだよ。 目標ではなく、目的地を決めるんだ」


 アイテツにとって目的の決定とは、あくまで人生、すなわち長い一生の中で最終的にどうなりたいか、どうしたいかを決めるもの。


 最後に自分がどういったことを成し遂げれば、満足できるのか。それが重要だった。

 

 総合すると、アイテツが久男とそわかに決めてほしい目的とは、自分がどうしても叶えたいと思う願望かつ、目先のことではなく人生という長い時間を経て最後にたどり着きたい場所ということになる。


久男「つまり、自らが強く望む理想形で、かつ一時的なものではなくそれが終着点となるような目的をかかげろということか」


アイテツ「そうだ」


 アイテツは短く一言で肯定した。

 その後、考える仕草をし、数秒ばかりの間を置いてから久男とそわかに問いかけた。


アイテツ「まあでも、今まで目的がどうとかこうとかいってきだが、少し伝わりづらかった場面もあったかもしれない」


アイテツ「今まで定義してきた目的のことをもっと簡単に表す言葉がある。そういう言葉を広義では何というか知っているかな」


久男「……わからん……皮算用とかか?」


そわか「んうん……何ですかねえ? ゴリラとか?」


 あほみたいな回答をするふたりを無視し、言葉を続けるように言い放った。


アイテツ「そういう願望をはらんだ目的のことを世間一般には"夢"と呼ぶのだよ」

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