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天使アイテツ

 この物語はノベルゲーのログ形式で作られた文章を、無理やり小説の文章の形で起こしなおしたものになります。一部、表現が分かりづらいところもありますがご容赦ください。

 時計の針は夜の11時45分を指していた。


 久男は夢から覚めて、辺りを確認しながらおもむろに姿勢を起こす。


 頬には、キーボードの型がくっきりとついている。


久男「やばい!寝てしまってた! 30分も無駄にしてしまったじゃないか!」


そわか「ん……ううん、ふぁああぁぁ……何ですか先輩起こさないでくださいよお」


 広いフロアには久男の他にもう一人、人がいた。いいすいそわかという人物だ。


 そわかは今年会社に就職した新入社員で、久男から見れば後輩にあたる。

 ちょうど、久男の横が自席であり定位置だ。


 そわかも久男同様デスクに突っ伏して、よだれを垂らしながら寝ていたみたいだが、久男の声で起きてしまったようだ。


そわか「あはは先輩なんですか? その顔についてるキーボードの跡わあ! まさか先輩ともあろうものが寝てしまってたんですか勤務中に!」


久男「おまえも今まで寝ていただろ! 出勤した後すぐ寝て起きたと思ったら、昼飯だけ食ってまた寝て。そんなやつに言われたくないわ! あとおまえもキーボードの跡ついてるからな!」


そわか「ふえええ、ほんとですねえ! まあ、先輩とおそろなんでよしとしますか!」


久男「よくねえ! それと今から集中したいからちょっと黙っててくれないか。明日までに終わらせないといけないんだ」


 そういって、久男はもう一度気合いを入れて、パソコンと向き合う。


 そわかは少しの間じっとしていたが、すぐに堪えきれず喋りだす。


そわか「先輩すごい顔してますよお。まさか! それがいまはやりのゾンビメイクってやつですか!?」


久男「はああ、これは疲れていてこうなってるの! いまはもう自分の仕事終わったんだろ。だったら早く帰ったらどうだ?」


そわか「先輩が帰るまで、わたしもここにいますう。先輩一人だと可哀想なので」


久男「いやさっさと帰れ!お前がいると仕事に集中できん。さっきから、邪魔してばっかじゃないか」


そわか「あ、じゃあ、お茶いれてきてあげますね。緑茶がいいですか? 緑茶でいいですよね? 入れて持ってきてあげますよお!」


バタバタと給湯器の方へ行って戻ってくるそわか。


ひさお「これ麦茶だ……」




 突然光がフロアの窓側がまばゆい光で包まれた。それは、いくつもの光の帯になって、久男とそわかの視界を覆う。


久男「うわっ、なんだ! 何が起こっているんだ。おい、そわかお前、社内に爆発物持ち込んだんじゃねーだろうな」


そわか「うわっ、まぶしっ! そんなわけないじゃないですかっ! 先輩はそわかのことなんだと思ってるんですかあ。確かに、ガスボンベ10本ほど持ち込みましたけどっ」


 ガラッと机の引き出しを開けると、ボンベとコンロ、大きなお鍋が入っていた。


そわか「えへへへ、ここで鍋パしようと思って、持ってきたんですよお。でも、ほらこの通り、そわかのせいじゃないですよ。10本全部無事ですし」


久男「お前は、会社をなんだとおもってんだっ!」


そわか「あ、先輩も参加します? 今のところ参加者は田中さんと山田さんと佐藤さんとゴライアス部長で、ゴライアス部長以外全員女子で女子会のつもりだったんですけど」


久男「参加するわけないだろ……てか、部長参加するのかよ……あの人は何を考えてんだ…」


 光は次第に小さくなっていった。何かの爆発が原因ではなさそうだ。


 じゃあ、何が原因なのか。


 久男は超常現象の発生原である窓の方を見る。


 そこには、淡い光を見にまとった少女がいた。


 その少女はニヤリと笑いながら、今立っている窓の前にある部長席の上から軽やかに飛び降りる。


そわか「先輩見てください!UMAですよお! UMAっ! 光の中から現れちゃいました。ほぇえ、わたしUMAみたの初めてですっ!」


久男「ちょっと黙っといてくれないか。頭がいたくなりそうだ」


 突然の出来事に、パニックになるそわか。


 人がいきなり何にもないところから現れたのだ。無理もないだろう。


 しかし、久男はそわかほど驚くことはなかった。

 度重なる残業で疲れており、思考回路が麻痺していたからだ。


 忙しいのに、また面倒ごとが増えた……くらいの感覚でしかない。


アイテツ「イチャイチャしているところ申し訳ないが……」


 その少女の姿をした何かが久男とそわかに話しかける。

 どうやら日本語は話せるみたいだ。


久男「してない」


アイテツ「おほん、きみ、さきほど夢の中で面白いことを考えていたな」


そわか「えええ、先輩面白い夢みてたんですか!? なんですか、知りたいです!」


 どうやらその存在はさっき久男が見た夢の内容を知っているようだった。


久男「ぐう、なぜそれを知ってるんだ。あとおまえ一体何なんだ!? いきなり現れて、名乗りもしないとは非常識じゃないのか?」


 久男は存在自体が非常識そのものである少女の姿をした何かに素性を問いかける。


アイテツ「わたしは愛と哲学を司る、八百万の天使が一人、アイテツという。悩める人を導くため、とあるお方の命により地上に馳せ参じたのだ」


 その少女(の姿をしている)の名前はアイテツといった。


 本人が言っている通りアイテツは、天界を拠点とし神様に使える御使い……いわゆる天使だ。


 天界の命により、迷える人々を救うべく、地上に派遣されたのである。


久男「という設定なのか……」


そわか「いわゆる中二病というやつですね!」


アイテツ「ち、ちがうわっ。せっかく来てやったのに、ふざけよって!」


 そんなことをいきなり言われて、鵜呑みにできるほどファンタジックな脳の構造をしていない久男は、少女が戯れ言を言っているとしか認識していない。


久男「すまん、すまんつい。なるほど、ようは天使様が自らこんなやつらを救うために下界に降りて来てくださったと」


アイテツ「そうだ! わかれば、いいんだ。(天使という超常的なものが目の前にいるのにあんまり驚かんな……)」


 自らアイテツと名乗ったその天使は久男とそわかの後ろの席に腰かけた。


アイテツ「きみ、夢の中で自分はなんでこうも才能がないんだああって嘆いていたな。世の中の成功者たちを羨み、自分の境遇に不満があり、劣等感を抱いていた」


 アイテツは先ほど中断された発言をもう一度いい直す。


久男「な、なぜ夢の内容を……」


 久男は何故夢の内容を知っているのか、驚きと共に恐怖を感じていた。


 久男としては、あんな恥の塊のような夢は知られたくなかったのである。


 アイテツは天使の超常的な力を使い、広範囲にわたって人々の深層心理から発せられる思考を受信することのできる結界を張っていた。


 なので、久男の夢の内容が分かったというわけだ。


 アイテツはそのことを久男に言わなかったので、知る由もなかったが……


そわか「先輩そんな夢を見てたんですか? 何て言うか小さいひとですね」


久男「うるさい」


アイテツ「そんなきみをわたしが導いてあげよう」


 唐突にアイテツと名乗る天使は、胸に五本指を立ててどや顔でそういいはなった。


 しかし、久男は怪訝な顔をしつつアイテツを見据える。


久男「いいえ、結構です。胡散臭そうなので……」


 いきなりに現れて、訳わからないことをいう自称天使を久男は信じることができなかった。見るからに怪しそうだし、あとあと見返りに何か要求してくるかもしれない。


 うまい話には裏があるもんだ。


アイテツ「ああ!ほんとうだとも! ………へ……今なんて」


久男「怪しいからお引きとり願いたいといったのです。何かの勧誘なら他を当たってください」


久男はてっきりすぐに了承を貰えるとばかりにフライングするアイテツを突き放すようにそれでいて丁寧にことわった。


アイテツ「ちょっと、まってほしい……ほ、ほらわたしに導かれれば、今の現状から救われるかもしれないぞ。きみの言うところの成功者になれるかもしれないんだぞ!」


久男「それが胡散臭いって言っているんだ。そもそもかもしれないっていってる時点で信憑性皆無だ。しかも、あまりにも唐突すぎる。いきなり現れてよくわからないこというやつにはいわかりましたと言うとでも思ったか?」


久男「大体天使を名乗っているが、天使の振りをして人を騙そうとする悪魔かもしれない。あなたが天使で人を本当に救うことだけが目的であるという証拠もない。言語道断だ!」


アイテツ「えええ………なんか思ってたのと違う……(ああ、天使様なんと神々しい! このあわれな迷える子羊めのわたしをどうかお救いくださいませっ。ってなるはずだったのに…… )」


 予想の通りの反応を得られなかったアイテツは、机からずりおちた。さっきまで威厳というか、神々しさは徐々に失われつつある。


そわか「まあまあ、確かに胡散臭さいですけど。一方的に突き放すのもなんだか可愛そうですよお。それにこの人に導いて貰う展開の方が面白いですし笑」


アイテツ「そ、そうだ。考え直してはくれないかね……」


 アイテツは何とか久男に取り入ろうとする。


 天界の決まりでは、一定期間に迷える人を何人救わなければならないといったノルマがあった。それゆえにアイテツは必死だった。


 そわかに関しては完全に面白全部だ。


久男「このそわかにすら胡散臭いって言われてるんだぞ。残念だがこの話しはなしだ。あとそわか、おれが事件に巻き込まれる展開を面白がるんじゃない」


 久男はそういって、回転椅子に座ったまま、くるりと方向をかえ、自分のパソコンと向き合った。そのまま、さっきまでやりかけていた仕事の続きを続行する。


アイテツ「そこをなんとか頼む!この通りだ! 天界のオーダーにもノルマがあるんだよお。わたし、哲学担当を任されるなんて、初めてで実績もなにもないんだ。だから、早く実績を積まないと降板させられちゃう。せっかく【哲学を司る位】という高位の位を手に入れたんだ。手放すなんてありえない。それにわたしの尊敬するしてんしさまから託された由緒正しき位だ。してんし様の顔に泥を塗るわけにはいかない。たしかにわたしは前は亀の子たわしを司る天使で、こんな高位の仕事をするのは初めてで、能力的に不釣り合いかもしれない。わからないこともたくさんあるかもしれないが、そこはきみとともに歩んで、ともに知っていけたらなあとおもうし……」


 久男の背後で私情を勝手にベラベラと話しだし、仕事の妨害をするアイテツ。

 この天使、実は迷える人を導くという救世の任務についてから間もない、天使見習いといった感じであった。


そわか「あははっ、天上の方々でも仕事にノルマとかあるんだ。世もすえですねっ」


久男「だああ!! もううるさい!! 集中できない!!」


 ばんとデスクに手をつき、勢いよく起立する久男。


 アイテツは仕事の妨害が有効打だとみるやいなや、懐からラッパを取り出した。強行手段にでるつもりだ。


アイテツ「もし、みとめなければここにずっと居座って、ラッパ吹きまくって妨害してやるっ。うるさいぞ、超近所迷惑だぞ! それでもいいのか? ああ?」


 あろうことか天使という存在が、静けさを人質に脅しという暴挙に出る。


久男「はああ、わかった、わかったから、話を聞くから、静かにしてくれ」


 久男はラッパを吹かれて仕事の邪魔をされたくなかったので、しぶしぶ話を聞くことにした。


久男「で、結局何がしたいんだ。最初に言っておくが、見返りとか求められても一切応じることはできないからな」


アイテツ「きみが現状の不満足な人生から抜け出せるようにサポートさせてほしいんだ。見返りなどは求めていない。迷える子羊を導くという義務がわたしにはあって、善意を売るのはこちらの都合だからな」


 なるほどわけわからん。この天使の言っている言葉の意味こそわかったが、この不思議な状況自体については何一つとしてわからない。

 いきなり光ととも現れた天使に人生を導かせてくれと頼まれる。今そんな超常的な出来事の中にいる。それについて、何か説明を乞いたいものだ。


 そんなことを久男は頭の中で自分自身に問いかける 。と同時に、


 でも、どうせ考えても仕方ないだろう。ここで突っぱねて仕事の邪魔をされる方が厄介だ。


 久男はそうも思った。


久男「なるほど、わからん。けど、何となくわかった。それで具体的には、何をしてくれるんだ。超常パワーで俺をお金持ちにしてくれるとか……」


そわか「先輩にお金とか似合わないですよお。先輩には、このわたしの的確なボケがあればじゅうぶんです!」


久男「ちょっと黙っててくれんかね。あと、的確なのは突っ込みであってボケではない」



アイテツ「すまぬが、それはできない。というかそんな能力はない。こちらの世界でのわたしはとても非力なんだ。見た目もこの通り、か弱い少女なんで、人間の少女ができることと同レベル程度のことしかできない」


アイテツ「しかし、天使としての、先導者としての先見の明はある。つまり知識はある程度ある(多分……)ので、きみがきみの言うところの成功者になれるよう必要なことをレクチャーしていこうと思う。ようは人生についてのアドバイスをしてやろうというわけだ。名付けて【アイテツの人生成功講座】だ!」


アイテツ「わたし特製の教室を、宇宙のどこかに時空間をねじ曲げて作ったので、そこで講義を行う。ちなみにこのオフィスにワープゲートを設置したので、このフロアからすぐにその教室に行くことができる」


久男「はあ、なるほど……」


 時空間をねじ曲げたり、ワープゲートを設置したり、そんな能力があれば、ひと一人をお金持ちにするぐらい造作もないのではと久男は思ったが、疲れていたので突っ込む気力はもうなかった。


そわか「あははは、時空間をねじ曲げたり、ワープゲートを設置したりする能力があればひと一人お金持ちにするくらい雑作もないと思うんですけどっ。やっぱり突っ込むのは野暮です?」


アイテツ「ああ、野暮だ」


アイテツ「というわけで、明日またこれくらいの時間に来ようと思う。明日からさっそく講義を始めたいと思うので、楽しみにしているのだ。じゃあ眠くなってきたのでわたしはこれで!」


そわか「そういえば、その教室にはわたしも参加していいですか? 是非面白そうなので参加したいです!」


アイテツ「ああ構わんぞ。むしろ参加してくれ。多い方が話も弾むし」


そわか「やったっ!」


アイテツ「では、これにてさらばだ!」


 アイテツはここへ現れたときと同じように、光に包まれながら姿をけした。


 そわかは、これから縁日の催しに行く子供のような笑顔で跳び跳ねながら、面白いイベントの到来を喜んでいた。


 その様子を死んだ魚のような目で、ボケっと見つめる久男。


久男「はああぁぁ……まずいことになった(そわかひとりでも十分うるさいのに、さらに厄介そうなやつが増えるなんて……)」


そわか「いいじゃないですか。楽しそうですしっ」


久男「明日以降ずっとくるつもりだぞ。あの顔は…… 貴重な仕事の時間が…… 」


 久男は仕事をする時間が削られることを恐れていた。

 もとはといえば、自分があんな夢を見たからだ。そもそも眠らなければ、とっくに明日までの仕事は終わっていたはずだ。


とは言え決まってしまったものは仕方がない。それに………


そわか「大丈夫です! 先輩! わたしがついてます! いざとなったら、先輩を盾にして逃げます!」


久男「何が大丈夫なんだっ? おまえの安全か。俺、盾になってるじゃないか」



 今の何の意味も見いだせない仕事漬けの人生が少しでも変わる可能性があるなら、それほど悪くもないかとほんの少しは期待を持つ久男であった。




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