第6話『決めごと』
まだまだ先が長いですよ!
あー、ビックリした。
そうだよね。高峰さんみたいな綺麗な人が
俺にプロポーズなんてある訳ないよね。
それにしても、こんな綺麗な人でも苦手な物ってあるんだね。まぁ、僕にしたら自分の作った料理を意見してくれる人は貴重だ。
「それでは、まずは連絡先を交換しよう。LINEのIDを教えてくれないか?」
LINE?LINEってあれだよね?
スマホのやつだよね?
「あー、すみません。実はスマホを持ってないんですよ。持っているのはコレですね。」
「ガ、ガラケー?」
あー、そう言う反応になるよね。
今時持ってないのは珍しいみたいだから。
確かにスマホは便利だけど、情報が多過ぎて何を信じていいか解らないんだよね。
「すみません…確かにスマホは便利だと思います。
でも、情報が多過ぎて、何が正しいか解らなくなるんですよ。だから、自分で見て感じて体験した事の方が身に着くって考えてるんです。
正しいか正しくないか解らない不確かなたくさんの情報よりも、本物を1つ知っておけばいい。
なんて…師匠の受け売りですけどね。」
師匠もスマホは持っていない。ガラケーだ。
実際、師匠の知識は物凄い。
その本物を師匠はたくさん知っている。
世界中を旅して回っていたらしいけど。
話を聞いてるだけでも面白いんだよね。
「なるほど。それは立派な心掛けだな。
わかった。では、私の携帯番号を教えておこう。」
あとは、どうしようかな?
材料は僕の作りたい物を食べて貰う訳だから買い出しは僕でいいよね?
「試食して貰う訳ですから、買い出しは僕がしますね。あ、高峰さんは好き嫌いとかあります?」
「いや、好き嫌いは無いな。それに買い出しを任せきるのは心苦しい。私も手伝おう。私から頼んだ事だしな。なに、学生の頃は剣道部だった。腕力には自信があるぞ。」
そう言って、パーカーの袖をまくり力こぶを作って見せる高峰さん。
「そ、それとだな。これから同じ釜の飯を食う訳だしな…。高峰さん…と言うのも少々堅苦しい。だからだな、…み、美咲と呼んでくれ。」
クスッ。
同じ釜の飯って…
面白い人だな。なんか顔赤いし。
少し母さんに似てるかも。
「わかりました。美咲さん。」
「うむ。あ、それと材料費を渡しておこう。
食費は案外掛かるものだしな。」
「あー、毎回レシートを取っているので、
月末に折半でいいですよ。」
「え、偉いな…。」
「師匠がこう言ってるんですよ。」
いいか、伊織。
料理ってのは高い食材を使えば美味くなるってモンじゃねーんだ。
原価をコントロールしつつ、味を引き出すんだ。
だから、常に原価は把握しておけ。
それに安い食材で美味く作れるのが
料理人の腕の見せ所だろ?まぁ、基礎だな。
「だ、そうです。」
「な、なるほど。面白い師匠だな。」
師匠の言ってる事は尤もだ。
確かに良い物を安く買えると得した気分だよね。
「し…しかし、頼り切りは私の気がすまない。
せめて今日の分だけでも…」
そう言って、美咲さんはポケットをまさぐり始め、ポケットの中の物をテーブルに出していく。
「あ、あれ?おかしいな…。」
ぽとっ。
その時、床に何がが落ちる。
「あ、落ちましたよ?」
僕が拾い上げるとそれは、
ピンク色のブラジャーでした。
慌てて美咲さんが、僕の手から引ったくった。
「み、見た?」
「見ました。」
僕は即答する。
美咲さんは、涙目でプルプルしながら、
「ふ、ふ、ふにゃああああっ〜〜‼︎‼︎‼︎」
と叫びながら頭を抱えてしまった。
その姿を見て僕は、
「あはははははははははははははっ!」
本当に何年か振りに、
腹を抱えて笑ってしまった。
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