第3話『涙の理由』
台風凄くて動けないので3話目投稿。
ピンポーーン。
うぅ…。チャイムを押してしまった。
素直に話を聞いてくれるといいが。
「はーい。お待ちください。」
ドアが開くと前髪で目が隠れた男の子が出てきた。
ふむ…、優しそうな感じだし、大丈夫だろう。よく感じる男の厭らしい視線を感じ無い。
男は気付いて無いと思っているかもしれないが、
女性はそういった視線には敏感だ。
特に私は…、む、む、胸が大きいからな。
ラフな格好をしてはいるが、気にしなくて良さそうだ。
「あの…どうかしましたか?」
あ、しまった。考え込んでしまった。
とりあえず答えねば。
「こんな時間に済まない。私は隣に住む者で高峰と言う。実は私の洗濯物が、君の部屋のベランダに落ちてしまったようなのだ。悪いが部屋に上がらせて貰って取らせていただけないだろうか?」
すると彼は警戒するでも無く
「あぁ!そういう事でしたか。構いませんよ。どうぞ上がって下さい。」
……何と言うか、人を疑う事を知らない様な無垢な感じだな。風間の様な汚い男達を見ているせいか眩しく感じてしまう。悪い女に騙されて壺とか買わされそうで心配になるレベルだ。
「助かる。では、お邪魔させていただこう。すぐにお暇する。」
さっさと取って部屋に戻ろう。
間取りはウチと逆なだけだから迷う必要も無い。
リビングを通ってベランダに向かうと、鼻にいい匂いがくすぐる。
「夕飯時だったか。済まないな、邪魔をして」
ベランダに入りブラジャーを回収する。
良かった、見られなくて。
ポケットに仕舞い、リビングに向かう。
それにしてもいい匂いだな。
無性に腹が空いてきた。部屋に戻ってチキン南蛮弁当を食べよう。
「お邪魔しました。それでは。」
「いえいえ、お構いもしませんで。」
若いのに礼儀正しいな。
とにかく部屋に戻ろう。
ふと、テーブルにある煮物が目に入る。
艶々としてて、照りがあって非常に美味そうだ。
見た目もそうだが、この香りが堪らない。
ゴクッ…。
思わず喉が鳴ってしまった。
今日、オカンの煮物の事を考えていたからだろうか?
いや、イカン!ただの隣人なのに図々しいにも程がある!だが、この香り…、この誘惑に逆らえる気がしない。
駄目元で頼んでみるか?変な人だと思われるかな?
えぇーい!女は度胸!
「いや、あのだな…。確か、保科くんだったか?
この料理は君が作ったのか?」
私は何を聞いてるんだ!1人なんだから当たり前だろう。
「はい。そうですよ。」
「何と言うか、見事な腕前だな。匂いだけで美味しそうだ。」
私は何様だ!食いしん坊バンザイか⁉︎
「え?ありがとうございます。良かったら一口いかがですか?」
え⁉︎ 何この子⁉︎ 神なの⁉︎
天使なの?眩し過ぎるんですけど⁉︎
人が良いにも程があるよ!
いや、このチャンスを逃してはいけない!
「いいのか?では、ご相伴に預かろうかな。」
「じゃあ、今、小皿に分けますね。どうぞ座って下さい。」
彼に促され、4人掛けの椅子の一つに座る。
一人暮らしみたいだが、来客が多いのか?
すると私の前に、煮物の乗った小皿が出された。
「どうぞ。召し上がれ。」
「い、いただきます。」
目の前に出されると本当に美味そうだ。
割り箸を割り、煮物を取り、恐る恐る口に入れる。
その瞬間、時が止まった。
美味い‼︎
何だ、この美味さは‼︎‼︎
口の中で美味さが爆発する。
「お、美味しい!」
自然と口にしてしまった。
でも、ホントに美味しい。オカンのより美味い。
ホカ弁のおばちゃんには悪いけど、これを食べると部屋にある弁当を食べたくなくなる。
「ありがとうございます。本当に美味しそうに食べてくれますね。良かったら他のも味見して頂けますか?」
一瞬、何を言われたか分からなくなってしまったが、私は無言でコクコクと首を縦に振る。
「こちらは鰯のつみれ汁で、こっちは出汁巻玉子ですね。良かったらご飯も食べますか?」
何て優しい青年だろう。きっと前世は天使だろう。
つみれ汁を口に含む。
あぁ…何て優しい味なんだ。
何て言うか、心が温まる感じがする。
出汁巻玉子も囓ると、ジュワッと口の中で甘さが広がる。口の中が幸せだと言っている。
ご飯は何か艶々光ってる!光ってるよ!
煮物の後に食べると日本人に生まれて良かった!って細胞が喜んでいる気がする!
気が付けば夢中になっている私が居た。
「気に入って貰えた様で良かった。じゃあ、僕も一緒に食べさせて貰いますね。」
彼の声が聞こえた様な、聞こえない様な…
ガッついていた訳では無いと思う。
懐かしい様な、ぬるま湯に浸かっている様な温かい感覚に包まれて…。
気が付けば私は涙を流していた。
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