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第29話『墓参り』

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今回は美咲視点です。

それは次の日曜日の事だった。朝ごはんを3人で食べていると、伊織がこんな事を言い出した。


「ごめん。今日ちょっと出掛けて来るね。午後には帰るから。出掛ける様なら連絡して。」

「ん。わかった。どこ行くの?」

「知り合いの所。隣町だからすぐ帰るよ。」

「そう。わかった。気をつけて。」


何故かわからない。伊織が寄せ付け無いような雰囲気を肌で感じた。実際、そんな態度は無い。いつも通りの伊織。少し前の私ならきっと気付けなかったくらいの違い。伊織が出掛けた後に私は小夜にこう言った。


「小夜。伊織の後、追いかけよう。」

「…ストーカー?美咲姉、そう言うのは、」

「ち〜が〜う!小夜は感じなかった?伊織の雰囲気が違うの。」

「それは、ちょっと、思ったけど…」

「別に浮気の心配じゃないよ。伊織にそんな甲斐性無いし。ただ、今行かないといけない気がして。」

「ん。わかった。美咲姉の勘。馬鹿に出来ない。着替えてすぐに追いかけよう。」


私と小夜は着替えてすぐに家を出た。

幸い伊織には駅ですぐに追い付いた。


「隣町って言ってた。どこに行くんだろ?」

「ほらっ小夜!あんまり前に出ないで。見つかっちゃうでしょ!」

「ん。気をつける。」


私達は伊織に気付かれない様に慎重に跡をつけた。伊織は本当に次の駅で降りて、どこかへ歩いて行く。途中、店に寄ったが、


「ん?花屋?」

「うん。花屋だね。用事はここかな?」


伊織はすぐに出てきた。手に持ったのは小さな向日葵の花束。花束?え?まさか、本当に浮気?

誰かにプレゼントするの?


「私、花。貰った事無い。」

「私もだよ!えっ?ホントに浮気?」

「伊織にそれは無い。とにかく行く。」

「わ、わかった。あ、そっち行ったよ。」


小夜はそんな事言ってたけど、若干不安そう。

伊織に限って浮気は無いって私も信じてるけど、胸がざわつくのは隠し切れない。


そうして5分程、伊織が歩いて行った先、

そこは……墓地だった。


閑静な住宅地の中で、昼間なのにとても静かで、

そこだけ切り取って別世界の様な、そんな印象を受けた場所だった。


そして、伊織は一つの墓石の前で立ち止まった。


『保科家之墓』





「久しぶり……母さん。」




か…母さん?伊織…の?

亡くなって、たの…?知らなかった…。

隣で小夜も固まっていた。

そして伊織は母親のお墓に語りかけていた。

ゆっくりと…思い出すように話し始めた。


「なかなか来れなくてゴメンね。ここに来るとあの時の事を思い出しちゃってさ…。足が遠くなるのは許してね。あれから2年経ったけど、だいぶ変わったよ僕も。料理も上手くなったしね。

あ、そうだ。彼女が出来たんだよ、それも2人も。信じられないよね?僕も信じられないもん。

でも、2人とも僕には勿体ないくらい素敵な人なんだ。本当に母さんにも会わせたかったよ…。」


伊織は涙を滲ませながら話し掛けていた。

私はその姿を見て、小夜の制止も振り切って飛び出していた。


「美咲姉っ!」


私は伊織のいる隣に立ち、お墓に正対した。


「…美咲…さん。」


伊織に声を掛けられたが、構わずに言葉を紡ぐ。

地面に正座し、三つ指をついてこう言った。


「初めまして。高峰 美咲と申します。今、伊織さんとお付き合いをさせて貰っています。不束者ですが、よろしくお願いします。」


そう言って頭を下げた。伊織の姿を見て我慢出来なかった。伊織のいる横で挨拶しないといけないと思った。小夜はいつの間にか私の隣に来て正座していた。


「桐野 小夜と申します。私も伊織さんとお付き合いさせて貰っています。どうぞよろしくお願いします。」


そう言って私と同じ様に頭を下げた。


「美咲さん…小夜さん…」


「伊織、ゴメンね?跡をつけて来た事は謝まる。でも、伊織のお母さんにどうしても挨拶したかったの。」

「ん。ゴメンなさい。伊織のお母さんに挨拶出来た。ありがとう。」


伊織は首を横に振って…


「ありがとう。すごく嬉しいよ。」


と笑顔で私達を迎えてくれた。

私達はお互いに笑いあった。


その時に、私達以外の声がした。


「おや?伊織。その人達は誰だい?随分と素敵な台詞が聴こえてきたけどねぇ?」


「ば、婆ちゃん⁉︎」


えっ?伊織のお祖母様?


「詩織のお墓参りに来たんだね?私にそちらの人を紹介してくれるかい?」


「う、うん。紹介するよ。えっと高峰 美咲さんと桐野 小夜さん。えー、2人は、ね、僕の…」


伊織が言いづらそうにしていると、


「伊吹から聞いとるよ。まぁ、立ち話もなんだね。とりあえずウチにおいで。」


そう言って伊織のお祖母様はスタスタ歩き出した。なんか立ち姿が凛とした人だなぁ。


そうして、お祖母様について歩き、着いた場所は『藤島道場』と看板のある場所だった。


「どうぞ。上がってくださいな。」

「お、お邪魔します。」

「お邪魔します。」


立派な家屋だなぁ…綺麗な道場だし。

私達は居間に通され座った。


「では、改めて。初めまして。伊織の祖母の藤島詩子と申します。」


「よ、よろしくお願いします。」

「お願いします。」


「あら、困ったわね。せっかくお客様がいらしたのにお茶請けが無いわ。伊織、駅前の幸福堂に行って苺大福でも買って来なさい。」


「えーっ?何で今なの?2人もいるし…」


「いいから、行ってらっしゃい!」


「は、はいっ!」


そう言って伊織は飛び出して行った。

そして、3人で残された。

うぅ…緊張する…。


「さて…美咲さんと小夜さんだったかしら?」

「「は、はい。」」


何だろ?怒られるの?

それとも反対されるのかな…。


その心配とは反対に詩子さんは私達に頭を下げてこう言った。


「伊織の事、私の孫の事を、どうぞよろしくお願い致します。」


え?え?何。どう言うこと?

なんでお祖母様に頭を下げられてるの?


「いやいや、頭を上げて下さい!わ、私達の方こそよろしくお願いします!」


私達も正座して頭を下げた。


「ゴメンなさいね突然。でも、一度キチンとお願いしたかったのよ。貴方達…伊織の母親の事はどれぐらい聞いている?」


「どれぐらいと言われても…ほとんど知りませんでした。亡くなっていたのも今日、知ったくらいです。」


「そう…。貴方達には知っておいて貰った方がいいわね。詩織が…伊織の母親が亡くなったのは、今から2年前よ。」


そう言ってお祖母様は語り始めた。正直、衝撃的な内容だった。





「2年前…詩織と伊織は一緒に出掛けていたの。普通に買い物をしに行ってただけ。それなのに、あの不幸な事故は起きたの。暴走車が伊織に向かって突っ込んで来て、詩織はそれを庇って轢かれて亡くなった…。即死だったわ。


相手は運転中に突然、脳梗塞になった老人だったの。意識不明の状態で路上に突っ込んで来たらしいわ。伊織は…今でも母親が死んだのを自分の責任だと思っているの…。


誰の責任でも無いのにね?恨むべき相手は既に亡くなっているし、詩織は愛する息子の、伊織の命を救えて満足なはずよ。だけど、伊織はそうじゃないの。自分を庇ったから母親が死んだと思っている。」


「そんな事が…。」


私も小夜も涙が止まらなかった。


「伊吹にはもう会ったかしら?」


「えっと、お父様ですか?まだお会いしてません。」


「本来なら伊織は伊吹の跡を継いで、院長になる為に医大に進学する予定だったの。だけど、こんな事故があって伊織は塞ぎ込んでしまってね…。


理由は詳しく聞いてないけど、伊吹と約束したらしいのよ?2年間だけ、料理の勉強をして駄目なら医大を受験し直して病院の跡を継ぐらしいわ。2人で話した内容までは私も聞いてないわ?何故、伊織が料理にこだわっているのかは私にも分からないの。


伊織はあれから多少は明るくなったわ。でも、まだ吹っ切れていないはずなの。だからね、私達は、伊織の側にいた大人達はあの子に多くの選択肢を持って欲しいと考えてるわ。伊吹も楓も、もちろん詩織もそうなはず。


だから貴方達には伊織を支えて欲しいの。

あの子が本当の意味で立ち直れるように。


だから、改めてお願いします。

伊織を、私の孫の事をどうぞよろしくお願い致します。」


私達は無言で、しかし決意を込めて詩子さんに向き合って頷いた。


「ゴメンなさいね。暗い話をしちゃって。」


「いえ、ありがとうございます。話していただいて。伊織の口からは話辛いと思うので。」


「私も聞きたい事。あります。詩織さんて、

伊織のお母様ってどんな方だったんですか?」


小夜がそんな質問をすると詩子さんは気まずそうに言いました。それも口調が砕けた感じで。


「ん〜…シリアスが続いたからいつも通りの話し方でいいかの?イメージを壊してしまうからのぉ、あんまり話したく無いんじゃが。一言で言うとロクデナシじゃったな。」


はい?今までの話からなんで?

口調が180度変わった⁉︎

私も小夜も頭にはてなマークだ。


「簡単に言うとスケ番じゃな。隣町を含めて6校を傘下に収めたとか言っておったなぁ。毎日、毎日喧嘩三昧で、男など相手にしておらんぐらい強かったわい。勉強もロクにせずに遊び呆けておって。小さい頃から柔術を教えておったから向かう所敵無しだったみたいじゃ。」


私も小夜も絶句。


「それがのう。毎日生傷が絶えんで通っておった病院に伊吹が研修医でおってな。一目惚れしたらしいんじゃ。そこからあの子は変わってのぉ。急に真面目になったんじゃ。あんなゴリラ…うほん!強面の男に一目惚れしたと言うんじゃから、世の中わからんもんじゃな。」


詩子さん、ゴリラって…


「それでな、猛アタックして結婚したんじゃ。それで伊織が産まれてな。本当に伊吹に似んで良かったなぁって話してなぁ。」


伊吹さん、ボロクソなんですが…


「伊織は、顔は詩織に似て、温厚な性格と頭脳は伊吹に似て、武術の才能は私に似たのかのう。いいトコ取りで産まれてきて良かったわい!かっかっか!」


先程までのシリアスを返して下さい。

私は思った。この方は間違いなく、

楓さんのお母さんだと。


「素敵なお母様と理解した。」

「お主、今のを聞いてその感想とはやるのう。

気に入ったぞ。私のLINEを教えておこう。」


詩子さん若いですね。


「それにしても、美咲さんじゃったか?あんたは少し似とるのう詩織に。」


「えっ?そうなんですか?」


「なんとなくじゃな。雰囲気がなんとなく似ておるわ。直感で動きそうな所とかのう。かっかっかっ!」


えーと…丁寧な話し方と今の話し方のギャップ!

もう訳わかんなくなって来た。


そうこうしてたら伊織が帰って来た。

伊織!助けて!


「ただいまー。婆ちゃん苺大福買ってきたよ。」


「おーっ!待っとったぞ。みなで食べよう。」


「あ、いつもの話し方に戻ってる。話し終わったの?余計な事言ってないよね?」


「言っとらんぞ?な、美咲。小夜。」


「「は、はい!」」


「おー、そうじゃ菓子代を渡してなかったな。

ほれ、菓子代じゃ。」


「えっ?婆ちゃん多いよ。」


「阿呆っ!それで彼女に美味しい物でも奢らんか!女を喜ばせるのは男の甲斐性じゃ。」


「ん〜、わかったよ。んじゃ、帰りに何か食べて帰ろっか。」



帰りに3人でご飯を食べて帰った。

本当に色々と濃い一日だった。






ノクターンの方も読んでくれた方ありがとうございます!なんか知らない間に日間2位になってました(笑)ありがとうございます!


次回は小夜視点で送ります。

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