第19話『姫と番犬』
ムナクソ展開です。
苦手な人は飛ばして下さい。
その日は急遽、ディナーに出る事になった。
アルバイトの新見さんが風邪で休んだからだ。
「小夜、すまんな。帰りは送るから。」
「ん。近いから平気。走って帰る。」
「いや、そんな訳にはいかんだろ?」
「大丈夫。オーナーも忙しい。」
「いや、しかし…。」
「平気。心配しすぎ。」
私は無理矢理話を切った。
オーナーに迷惑掛けたくないのは本当。
不安が無いと言ったら嘘になる。
でも1日くらい平気なはず。
仕事が終わったら素早く着替えて帰ろう。
「お先に失礼します。」
「おい!小夜待て。送るから。」
「大丈夫。お先に。」
アパートまでは10分くらい。
走って帰ろう。そう思って公園の前を
通り掛かった時だった。
ガバッ‼︎‼︎
「⁉︎⁉︎‼︎ 」
背後から口元を押さえられた⁉︎
誰⁉︎⁇ 嫌‼︎ 公園に連れてかれる⁉︎
公園の林の方に引きずり込まれると、
私の目の前にナイフが向けられる。
えっ…⁉︎コイツは…
「おい、静かにしろよ?
騒いだら殺してやるからよ〜?」
矢崎…‼︎⁉︎
なんでコイツが⁉︎
「ったく、オメーが悪りぃんだぜ?俺の誘いに乗らねーしよ?保科のクソガキとイチャイチャしやがるしよー?オメーは俺が狙ってたんだ、あんな奴に渡すぐらいなら、俺が先に犯してやるからよ〜♪」
あ、頭イかれてるの?
と、とにかく逃げないと…!
「ンーー‼︎ンンーーー‼︎‼︎」
「お〜い?じっとしてろよ。殺すぞ?」
矢崎は厭らしい笑いを浮かべながら
私の口を押さえながら、
ナイフをチラつかしていた。
怖いよ…体が上手く動かない…
「クカカカ…♪ 寝不足だもんなー?
俺のラブレターのお陰だろ?ハハハッ!」
あの、怪文書もコイツの仕業⁉︎
「イヤーっははは‼︎‼︎‼︎
この身体を好きにしたかったんだ、よっ!!」
「い、嫌あーーっ⁉︎⁉︎」
矢崎にTシャツを引き裂かれる。
怖い…い、嫌だ‼︎…誰か…た、助けて‼︎
助け…て‼︎‼︎…伊織っ‼︎‼︎‼︎
ドカッッッ‼︎‼︎‼︎
「グホッオォッ⁉︎」
え……?何が……?
矢崎が吹っ飛んでいった?
ザッ…
「小夜さん、大丈夫ですか?」
伊織が…いた。
なんで?伊織が…?
「もう大丈夫ですよ。とりあえず後ろに隠れていて下さいね。危ないですから。」
そう言うと、伊織は私の前に立った。
「おいおいおい…今、俺を蹴っ飛ばしたのはお前か?保科?覚悟は出来てんだろうなぁ?あ?」
矢崎が立ち上がってナイフを握った。
「おい!聞いてんのか⁉︎小夜は俺のモンなんだよ!
それを邪魔しやがって‼︎あぁ⁉︎」
伊織は無言だ。
でも、なんだろ…もう怖くなくなってる…。
「あ?なんだ?びびって…」
「クズが喋るな。」
「あ…あん?」
「頭だけじゃなくて耳も悪いのか?
クズが喋るなと言っている。」
「テ、テメ〜〜⁉︎」
矢崎は顔を真っ赤にしてナイフを握りしめて、怒り狂っていた。
それに対し、伊織は堂々としていた。
「前髪が邪魔だな…」
伊織はそう言って髪をかきあげると、
そこには王子様がいた…。
え……カッコいい…♡
私はこんな状況なのに見惚れてしまった…。
「殺してやる…殺してやるよーー‼︎‼︎」
矢崎がナイフを持って伊織に襲い掛かって来た!
嫌っ….⁉︎ 伊織が危ない‼︎⁉︎
「嫌ッ!や、やめてーー‼︎⁉︎」
ボキッ‼︎‼︎ 「グギャアーー⁉︎⁉︎」
伊織は何事も無い様にナイフを躱し、矢崎の腕を取ったら、躊躇いも無く腕をへし折った。
そのまま、矢崎の膝に向けて足を上げ、その膝を打ち砕いた。全て一連の流れだった。
え…?何…?スゴく強い…。
伊織ってこんなに強かったの?
「ふぅ…もう大丈夫ですよ。今、警察も呼んでありますから安心してください。」
矢崎は既に気絶しているようだ。
「あ、ありがと…。」
「小夜さんが無事で良かった。あ、今オーナーにも連絡しちゃいますね。心配してたんで。」
伊織は何も無かったように、落ち着いていて…
そして、とても格好良かった…。
その後、矢崎は逮捕された。
私達も事情聴取を受け、
0時過ぎに解放された。
「疲れましたね?小夜さん送りますよ?」
え?嫌だ…1人でいたくない…
伊織が側にいて欲しい…。
「嫌…。1人は嫌。」
「え?困ったな…僕が入る訳いかないし…」
「アパートは嫌。いたくない。」
「え〜〜?じゃ、どうすれば…」
「伊織の部屋。泊めて。」
「うえっ⁉︎……まぁ、しょうがないか。」
伊織は渋々、了承してくれた。
私は思っていた。
助けてくれた伊織にお礼がしたいと…。
でも、私には返せる物が何も無い…
だから、伊織が私の身体を求めてきたら
応えるつもりでいた。
伊織の部屋に来ると、ソファに座らされた。
伊織はキッチンで何かしているようだ。
それにしても、今日は怖かった…
伊織があと少し遅かったら……
私は思い出すと震えが止まらなかった…
私がうつむき、震えていると…、
コトッ。
「え…?」
「飲んで下さい。特製のレモネードです。」
私は少し考えた後、
「い、いただきます。」
「はい。召し上がれ。」
はああぁぁ……。
温かい…優しい味…
震えが止まり、癒された気分になった。
「美味しい。ありがと。」
「どういたしまして。疲れてるでしょうから、
そのまま寝ちゃっていいですよ。」
私はその言葉に甘えて、目を閉じた。
警戒なく眠るなんて久しぶりだ。
寝ている間に伊織に襲われても仕方ない。
私はそのまま、ソファで眠った…。
目が覚めると知らない天井だった…。
どれぐらい熟睡しただろう?
最近、寝れてなかったけど、
こんなに安心して熟睡した事は無かった。
あれ?いつの間にかベッドにいる。
伊織が運んでくれたのかな?
服もそのままだ…何かされた形跡もない?
私は伊織を探してリビングに行った。
伊織はそこにいた。
ソファで毛布を掛けて横になっていた。
なんで?
襲わないの?
2人きりだよ?
今までの男は私を見ると口説いてきたよ?
厭らしい視線で見てきたよ?
……こんな男いるの?
スヤスヤと寝てる伊織は、
天使みたいな寝顔をしていた。
あぁ…伊織は違うんだ。
他の男とは違うんだ…。
私は涙を流した。
悲しかった訳じゃない、嬉しかったから。
私は寝ている伊織の頬にキスをした。
「ありがと。私の番犬さん♡」
伊織には悪いけど、起こさないで行こう。
私は書き置きを残して部屋を出る。
『一度部屋に戻ります。小夜』
私は伊織の側にいる。
いや、居たい。
助けてくれた恩返しだけじゃない。
伊織に惚れてしまった。
だから、必ず惚れさてみせる。
その為の準備をしないと…。
伊織は誰にも譲らない。
いよいよ、小夜が参戦して来ます!
天然小悪魔の本領発揮だ!
ですが、もうお待ちを。
次回『小夜の過去』




