第10話『オムライス』
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ピンポーーン。
「はーい。今開けまーす。」
平常心、平常心…。
服装はジーンズとTシャツでラフにまとめた。
一応、下着は上下揃えた。意味は無い!
「こんばんは。いらっしゃいませ。」
「お、お邪魔します…。」
「あと、最後の仕上げで出来上がるので、
座って待っててくださいね。」
「す、すまない。ありがとう。」
そう言って伊織くんは
キッチンの方に戻って行った。
ウチと間取りは一緒なのだが、広めのリビングに
カウンターキッチンが付いている。
そこが素敵なのも、この物件を決めた理由だったりする。料理しないけどね!
いいじゃん!憧れはあるんだもの!
ウチでは使ってないから綺麗な状態だけど、
伊織くんは料理をするだけあって、
たくさんの道具や調味料、香辛料が置いてある。
本来ならこういう使い方をするのだろう。
カウンターからキッチンの方に目を向けると、
これから玉子を焼く様だ。
チキンライスは出来上がっており、
皿に盛り付けられている。
もう、匂いが美味しそう。
「少し見てても、構わないだろうか?」
「えぇ。大丈夫ですよ。」
ジュワッ〜〜〜〜!
熱されたフライパンに玉子が投入され、
伊織くんは手早くかき混ぜている。
クルッ、トン、トン、トン、
おぉ〜〜!
フワっとしてスゴく綺麗ー!
上手いなぁ〜。サッっと作っちゃったよ。
チキンライスの上に焼いたオムレツを乗せて、
手際いいなー。あれ?
伊織くんはペティナイフを手に取ったよ?
ま、まさか!
スゥ〜ーっと、ナイフでオムレツに
切れ込みを入れると、ふわトロのオムレツが
チキンライスの上広がった。
うわぁ!ふわトロオムライスとか、
お店じゃん!スゴーーイ!
「あはは、美咲さん、大丈夫ですか?
口元からヨダレが…」
「ふぇっ⁉︎」
慌てて口元を拭く。
恥ずかし過ぎる!
うぅ…またカッコ悪いですぅ。
「じゃ、最後にトマトソースですね。
ケチャップの方が好きですか?」
「い、いや、大丈夫だ…。」
「それじゃ、出来ました!
どうぞ、召し上がれ。」
私の目の前には湯気の立った
オムライスが運ばれた。
お、美味しそーー!
艶々のタマゴが輝いてますがな!
「い、いただきます。」
何か食べるの勿体ないなー。い、いざ!
スプーンですくって一口食べると、
タマゴの甘さと、トマトの酸味、
チキンライスの旨味が一体となって…
「美味しい!すごく美味しい!」
「あはっ、ありがとうございます。」
「今まで食べたオムライスで1番かも!」
私は口調を飾る事も忘れてしまった。
食べ進めていくと、あれ?
何か出てきた?玉子の黄身?
「あ、気付きました?
真ん中に温泉玉子が入ってます。
また、一味変わるので食べてみてください。」
言われた通りに食べてみると、
スゴく濃厚になった!コクがあって美味しー!
実は私の実家は群馬の水上温泉で
旅館を経営している。
その影響もあって、小さな頃から
温泉玉子は私の大好物だ。
伊織くんが私の好みを知ってる訳ないけど
なんか、ちょっと嬉しいかも。
「でも、よく温泉玉子なんて作れたな?」
一般家庭で温泉玉子を作るのは、実は難しい。
温泉の温度じゃないと固まってしまうらしい。
お父さんが教えてくれた。
「それはこの秘密兵器ですね。
家庭用スチームコンベクションオーブンです。」
「スチ…ムコン…、え?なに?」
「スチームコンベクションオーブンです。
これはオーブンの機能とスチーマーの機能を
同時に使える機械です。これを70℃で設定して20分蒸すと簡単に温泉玉子が出来るんですよ。」
「そんな便利なのがあるんだな…。」
「まぁ、師匠からの貰い物ですけどね。」
「こんな高価そうな機材をポンとくれるなんて
凄い師匠だね…。」
そして、私はオムライスを完食した。
「ご馳走様でした。本当に美味しかった。」
「いえいえ、お粗末様でした。
あ、珈琲でも飲みますか?」
「あぁ、いただこう。」
伊織くんが珈琲を淹れに行く。
はあぁ…本当に満足した感じだ。
気が抜けてリラックスしている自分がいる。
ふと、気になった事を伊織くんに聞いてみる。
「しかし、オムライスに温泉玉子なんて
珍しいね?何故だい?」
「えーと、師匠に教わった事で、
こんな話があるんですよ。」
いいか、伊織。料理ってのは
10人が10人、必ず満足させる料理は出来ねーんだ。
何故なら皆んな好き嫌いがあり、育ってきた環境が違うからだ。だから、1人1人を良く見て、些細な事に気付き、そいつが何を求めているかを感じるんだ。
俺の料理を食えって言うのは、
あくまで自分の満足で、そいつの満足じゃねぇ。
それがホスピタリティだ。
「へぇー…素晴らしいね。」
「美咲さん、玉子料理好きですよね?」
「え…?す、好きだが、何故わかるんだ?」
伊織くんとはまだ2回目だし、
当然、私の好物の話などしてない。
「昨日、出汁巻玉子を食べてた時に、
喜んでいる感じがしました。 プリンも好きそうだし、
リクエストを聞いたらオムライスでしょ?
だから、玉子料理が好きなんだなって。
それと、昨日着ていたパーカーから
微かに硫黄の香りがしたんですよ。
だから温泉が好きなのかなって。
だから、温泉玉子にしてみたら
美咲さんが喜ぶかなって思って。」
私が…喜ぶ…?
まだ、たった2回しか会ってない人間に?
押し掛けて来たのに?
あ……。
私は昨日、涙を流した理由が解った…。
私は…安心したんだ…。
自分でも気付けない程に、
私は不安になっていたんだ。
自らを律して、鎧に身を包み、
他者を警戒し、緊張していた…。
昨日、伊織くんの料理を食べた時、
家族の元にいる様な温かさを感じて、
心配しなくてもいい空気感に触れ、
私は安心出来たんだ…。
駄目だ。
気付いてしまった。
まだ2回目だけど、
地味な感じだけど、
歳下だけど、
タイプとは全く違うけど、
私は彼に…、
恋をしてしまった………。
この人をもっと知りたい。
この人ともっと一緒にいたい。
この空気を一緒に感じたい。
この人の側にいたい。
同じ時間を過ごしたい。
一緒に歩んでいきたい。
私は意を決して、こう言った。
「ねぇ…伊織って呼んでいい?」
次回は伊織視点。




