異本始動録
異本冒険録の少女ヨミが主役の物語です
ぜひ楽しんで頂けたら嬉しいです
「う~む、やはり天気が良い日は高い所でティータイムに限るねぇ」
満足気に紅茶を飲む金髪の少女
「コラー!そんな所に乗るんじゃない!」
白い髭を貯えた御老人が上空にいる少女に怒鳴る
「ジル爺さんは頭が固いな~ただデカいトカゲに乗ってるだけじゃないか」
「バカ者!それはドラゴンじゃ!」
少女は耳を塞ぎ気だるそうに
「翼があるトカゲじゃ…ワッ!アブなッ!」
ジルが杖を降った瞬間少女に向かって雷が落ちるが、少女が手をかざすと直前で軌道を変え近くの大木に直撃した
ちょっと機嫌を悪くした少女はドラゴンから飛び降りジルの元に詰め寄った
「危ないじゃないかジル爺!」
「ヨミが悪いんじゃ!それにその程度も避けれんようじゃ話にならんわい」
このジジイ…という怒りを抑え
「そりゃ手厳しいね、で?話って?」
「はぁ…まぁ良いわ、話はな…お主に魔本の管理者になって貰いたいのじゃ」
「爺さん遂にボケたか?魔本なんて私は知らないし、管理なんてごめんだね」
ジルにとって予想通りの反応なのか、やれやれといった様子で説明する
「魔本とはな、魔導書や禁書とは違って危険では無い物が多いが悪用される物もあるんじゃ…勿論危険な物もあるが…」
「ふーん危険って言ってもたかが知れてるんじゃない?一族根絶やしになる程度の危険性なんて珍しく無いじゃないか」
やはり興味が無いのか適当に流そうとする
「はぁ…そうじゃな…一番ヤバいのは世界を終わらせる程度じゃしなぁ……」
「そうそう大したことな…うん?」
「代々受け継がれて来たが…ワシももう歳じゃし、管理者も居なく悪用されるくらいなら燃やして世界を終わらせようか」
「待って!まって!え?なんでそんなヤバイのが?」
混乱するヨミ、それを見逃さずニヤリと笑むジル
「管理者…やってくれるな?」
ニッコリと笑いヨミの肩に手を置くジル
「あ、はい…」
あ、やられた…そう思うヨミだった
「やるのは良いとして、肝心の魔本は何処にあるの?というか持ち歩くの?」
「いや本来は持ち歩く必要はないんじゃが……」
「なんだか含みがある言い方だね…?」
「…見せた方が早いじゃろ…待っておれ」
そういうとジルが家に入るのを見届けると
ヨミは頭を抱えしゃがみこんでしまった
「お主何しとるんじゃ?」
「な、なんでもない!」
突っ込まれつい直立するヨミ
「コレが魔本じゃ…かなり特別で異本ともいうが…扱いには気を付けるんじゃよ」
そう言って手渡した分厚い本、革が少し痛んでかなりの年季が入ったのがわかる
そう見た目だけなら普通の本、しかし本に纏う不気味な気配
「気持ちが悪い…」
その場で嘔吐するヨミ
「お主には才能があるようじゃ……コレには相当な悪意の思念が込められてな…普通の人間が触れば狂気の闇に堕ちるらしい、お主は狂気を拒絶して気分が悪くなっとる」
本を持つ手が異様に汗をかいて、震える
「正直投げつけたいけど…本の中身が気になる…これほど恐ろしい物は…私は知らない…開くよ?」
「ん?出来るなら良いぞ」
「はぁ?何を言って…あ、あれ?なんで?」
力いっぱいに開こうとするヨミ、普通の本なら千切れそうな勢いだが一向に開く気配がない
「ジル爺…」
「これこれ…こんなことで泣きそうになるんじゃない」
若干涙目なヨミを宥めるジル
「この本に認められなければ開けられんのじゃ」
「なるほど…?じゃジル爺開けれるの?」
「出来ん!」
「おい!」
勢いのあまり魔本を投げそうになるが、直前で思いとどまる
「ワシには無理だったが…お主は認められる気がする…ワシの弟子であり、心優しい娘であるヨミならな…」
「はっはっは!ありがとうクソジジイ、お世辞いって誤魔化そうとするんじゃない!」
「むぅ、バレたか」
「まったく…もう…」
爺に呆れる孫と孫をからかう爺のような微笑ましいやり取りだが長くは続かなかった
一ヵ月後
魔本を置き悩むヨミ
「さて…今日もダメ…結局無理なのか…」
そう呟くヨミを頭に乗せたドラゴンがみるみる顔色が悪くなる
「あ、ごめん!」
即座に魔本を手に取りドラゴンから降りる
「大丈夫かい?」
心配するヨミにドラゴンはおどけてみせる
「あぁ良かった…」
元気そうな姿を見て安心する
一方その頃
ジルの家に旅の魔法使いが訪れていた
「おぉよく来たな、若いの」
「その節は大変お世話になりました」
ジルは気恥ずかしそうに頭をかきながら
「そんな大した事はしておらんわい」
「いえいえそんなことはありません!」
「そうか?ところでそんな礼を言いにはるばる来た訳じゃないんじゃろう?用件を言うてみぃ?」
魔法使いはハッとなり、突然ジルに土下座をする
「なんの真似じゃ?」
鋭い眼光が魔法使いに向けられる
「わたくしを!弟子にしてください!」
「断る!ワシは弟子など取らぬ!」
「ならばせめて魔本を譲って下さい!」
ジルの眉がピクリと動く
「キサマ…誰から聞いた?アレは危険な物じゃ、キサマのような小僧が持てば闇に呑まれるだけじゃ!」
「どうしても…ダメですか?」
魔法使いがゆらゆらと近付く
「くどい!!」
ジルと魔法使いの手に光が集まる
その頃ヨミは魔本に飽きてドラゴンの頭に乗り空を飛んでいた
その時ジルの家が爆発する
「新しい魔法研究でも失敗したのか…?懲りない爺さんだなぁ…」
ヨミはあまり気にしてなかった
「え?一応見に行った方が良い?仕方ない…じゃ行こうか」
ドラゴンに説得されジルの家に向かうヨミ
魔法使いと対峙するジル
お互いの魔法がぶつかり家が爆発、ジルは無傷だったが魔法使いは全身ヤケドで一部流血している
「クソゥ…なんでオレサマだけぇ!」
「ほっほ、攻撃魔法だけでなく防御魔法も鍛えておかぬからじゃ」
力の差は歴然、イレギュラーさぇなければ圧勝出来ただろう…
その時、ヨミが来てしまった
「おやぁ?お嬢さんが来ましたねぇ」
魔法使いはヨミに魔法を撃つ
「え?何で…キャ!」
完全に油断していたため反応出来ず思わず目を閉じてしまった
「アナタならそうすると思ってましたよぉ!」
目を開けたヨミが見たのは自分を庇って変わり果てた姿になったジルだった
「なん…で…」
呆然と立ち尽くすヨミに魔法使いが近付く
「なんでこんな事を…」
「なんでって?オレサマに魔本を渡さないからだ」
ワナワナと震える…
「そんな事で…こんな酷い事…」
「ヨミよ…人を…怨むんじゃない…悪意に呑まれるな……すぐににげ…な…さ…」
倒れこむジル
「は…はは…ははは!怨むな?呑まれるな?嗤わせてくれるなクソジジイ!それだけはムリだ!ヤツに報いを…アタエテヤル!」
手に持った魔本から闇が現れヨミの視界を覆った
「なんだこれ!ジャマヲ…スルナァ!!」
「素晴らしい!これが魔本の中でも強力な世界を終わらせる異本のチカラぁ!」
その時開かずの魔本が開く
『汝…世界の終焉を望むか?』
冷静さを欠いたヨミは勢いよく
「望む!こんな下らない世界など要らない!」
『承知した、対価として未来永劫魔本の管理者になってもらう』
「かまわない!」
その瞬間、世界が終わった
生きとし生けるもの総てが消えた
生き物だけではない、文字通り総てが無くなった
『願いは叶った』
「そのようだね…」
忠告は受けていた、闇に呑まれるなと言われた
ジルが一番恐れていた事を知っていた
そして私を信用して託したのに…
私が…壊した…
『では対価を払ってもらおう』
「わかった」
ならば償おう…何千年だろうとかまわない
眩しい光に包まれる
目に移るのは巨大な図書館、ズラリと並んだ本棚に納められてるのは全て魔本か…
だけど所々本がないスペースがある
『管理者として世界を渡り魔本を集めよ』
世界?世界は既に消えたじゃないか…
『世界は魔本の中にある、魔本とは世界そのものである』
何を言ってるんだ…そう言いたかった…
目の前で灰になりつつある魔本を見付ける
直感でかつて暮らしてた世界だと分かる
見ててくれジル爺…私はやるよ…
そして百年の月日が流れた
「まったく…百年経っても見た目が変わらないとか…不老不死とかいうやつかね…いや不死かどうかはわからないか…」
ははは、不老といってもせめて胸くらいは成長してほしかったな…
魔本回収率88%
ここまで読んで下さりありがとうございます
当方、ノリだけで書いておりますのでご意見感想など書いて頂けたらやる気に繋がります