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Chime~奇蹟と鐘の音~  作者: tora
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一日目 第一節「深夜の駐輪場の少女」

 プロローグ



 露麻つゆあさ町には大きな塔が建っていた。海沿いのどこにでもありそうな町である露麻にとってそれは町のシンボルとして町人たちの記憶に深く刻まれていた。塔の中にはとても大きな鐘があるそうで、戦後復興、高度経済成長期と日本が目まぐるしい変化を遂げる中、片田舎ながら緩やかに発展を遂げた露麻の町人を魅了していたのがその鐘の音であった。


 曰く、鐘の音には特別な力があると。噂の具体的な内容は聞く人聞く人によって異なるが、その趣旨は一貫して人を幸福に導くものだった。鐘は、ある時は、恋人の戦死によって自殺を図った少女の心を静め、またある時は、平々凡々な少年が初恋に落ちたその瞬間に鳴った。


 そんな塔も古びてしまい鐘も鳴らなくなって久しい現在、春も近づく頃。遠くから塔を見つめる少年、朝霧翔太(あさぎりしょうたは、かの噂話の一つをつぶやいた。


「鐘が鳴る時、恋が実る」


 彼にとってそれは何の根拠もない噂話だったけれど、大きな心の支えに間違いはなかった。今でも思い続ける初恋相手、静石綾しずいしあやが彼にはとても手の届かない存在だったから。


 はたして鐘は鳴るのか。

 これは露麻町にいる人々の、塔と鐘、生と死、初恋と片思いをめぐる三日間のお話だ。



 第一節



 橘龍之辰たちばなりゅうのしんは大工仕事を終え家に帰ろうとしていた。時間は深夜一時を回り、夜の露麻町は春の訪れを忘れたかのように冷え込んでいた。閑散とした中、虫の鳴く声だけが町に響いていた。


「あああ。疲れたぜ。さっさと家に帰って寝なきゃ明日遅刻しちまうよ」


 あんまりに町が静かだったので龍之辰は独り言をつぶやいてみた。もちろん誰かからの返事はなく、たまに遠くから犬の鳴き声が聞こえてくるだけだった。


 なんの虫が鳴いてんだ?コオロギか?いや今は春だったけか。たまにはこういう雰囲気も悪くねぇな。


 駐輪場に向かって歩きながら、龍之辰はそのたくましい体つきに似合わない、少し風流めいたことを考えていた。


「おおい!!!ダブルドラゴン!止まれ!」

 その時彼に芽生えかけた風流の心をぶち壊すかのように荒々しい声が響いた。

「なんだ?オマエ」

 突然見ず知らずの男に声をかけられた龍之辰はダルそうにその声の主の方向を見た。そこでは如何にもチンピラのような見た目の男が街頭に照らされ、下品な笑い顔をさらしていた。


「お前があの露麻の双龍、橘龍之辰だな!?やっと見つけたぜ!今日でお前の天下も終わりだ!ぶっ飛ばしてやる」

「オラァ!!」

 殴りかかってきたチンピラは、なるほど言うだけのことはある喧嘩の腕であった。フットワークを活かし間合いを見極めながら龍之辰の顎に思いっきりアッパーをかました。


 しかし、龍之辰はそのこぶしをいとも簡単に左手でつかみ、チンピラの腕をひねり上げた。そして右手で。

「グワァ」

 龍之辰のパンチをもろに受け情けない声をあげてチンピラの男は気絶してしまった。

「これで分かっただろ?もう俺にかまうな」

 吐き捨てるように言い残し龍之辰はさっさと駐輪場に向かった。

「チッ。喧嘩も族狩りもやめたってのによ......。なんだってんだ」


 すると先ほどのチンピラとよく似た男たちが5,6人ほどこちらに向かってきた。

「あああああああ!!!!!ヒロシィィィィィ!!!どうしたんだ!?」

「あ!あいつまさかダブルドラゴン!?」

「ヒロシを闇討ちしやがったのか!?卑怯者め!」

 クソ......あんまり大事にしちまうとまた現場クビになっちまうぜ。ここは逃げるか。

 そう考え龍之辰は道沿いにある古屋の塀を上り道を無視して駐輪場の方向に駆け出した。

「逃げたぞ!追え!」



 龍之辰を見失ったチンピラ集団は、周辺に広がり龍之辰を見つけようと必死になっていた。どうにか監視網を潜り抜け、龍之辰はやっと駐輪場についた。バイクにさえ乗ればあとはどうとでもなると思った龍之辰は自分のバイクにまたがるとほっと息をついた。


 鍵を差し込みエンジンをかけようとすると、男のしゃべり声が聞こえてきた。

「おいタカシ!こんなところでパツキンのねーちゃんが寝てるぜ!」

「なんでこんなところで寝てるんだ?なんか変な顔つきだし、どこの族のレディースだぁ?」


 その少女は、柔らかく肌触りの良さそうな生地でフリルのついた白い上着に、薄紅色のスカートをはいていた。線の薄い華奢な体つきながらも背は日本人女性と比べると標準的で、少しカールがかかったきれいな金髪だった。鼻が少し高くて彫りも深めの顔立ちだったがまだあどけなさが残っており、美しい髪と相まってとても可憐で可愛い西洋人の美少女だった。

 静かにくぅくぅとかわいらしい寝息を立てながら無防備な寝顔をさらすその少女は、駐輪場の隅のほうに何のためなのかよくわからないが置かれているベンチの上で横になっていた。


「おい。そこのねーちゃんなにやってんだ?よかったら俺らと遊ばねーか?げへへ」

 龍之辰を探しているチンピラの一味だろうか。ガラの悪そうな男がその少女をゆすって話しかけていた。

「Uh......?Who are... you...?」

「バカ!女に手を出すなってタカヨシが言ってたろ!またシメられんぞ!」

「ひっひ、タカヨシのやつ、ありゃ硬派ぶってるが女が怖いんだよ。あいつ絶対ドー......」


 バコッドコッ!

 突然そんな音がなって片方の男が倒れた。

「なっ!?ダブルドラゴン!いつのまに!?」

「Dragon?......Yeah, that can fly......」

「ちょっとお前らには寝てもらうぜ」

 ガッ!と一撃でもう一人の男を気絶させ、龍之辰はまだ半目しか開けていない寝ぼけた少女に目を移した。


「おいお前。大丈夫か?何やってんだ?族集会の帰りか?」

「I'm gonna sleep......right now......」

「お?この髪、染めてんじゃねぇのか」

「Are you......Dragon?」

「何言ってんだ、こいつ」

「I'm singing......magic dragon......lived by the sea......」

「分かんねぇっての!俺らの言葉で喋れっての!」

「OK OK......you may sit down」

「ったくよ、何も喋れねえくせに一人でいんのかよ何考えてんだ、ここはお前らの国じゃねえっての。ちゃんと喋れるようになってから来いよ」

「......Please let me sleep for a while......then......I......」

「おい!こんなところで寝んなよ!また襲われっぞ!」

「......zzz」

 少女はまた眠りに落ちてしまった。龍之辰は頭をかきながら困り果てた。


 このまま置いとくと俺を探してるチンピラたちにまた見つかっちまう。ポリは......だめだこの前のケンカがばれちまってる。

「仕方ねえ、送ってくか。おい!お前!家どこだ?」

「......Colosseum......zz」

「あ?コロッセオ?おう、うちの近くの板金屋じゃねえか。......あそこ、去年夜逃げして空っぽだぞ」

 風が町を吹き抜けまだまだ寒くなっていっている。どうしてこの少女はこんなところで寝れるのか。


 ううっ、さびい......めんどくせえ、俺ん家に連れてくか。まぁ母ちゃんが何とかするだろ。

「......You have my permission.....to......withdraw......zz」

「何言ってんだ。オラ!いくぞ」

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