となりのとなり
大学時代に書いたギミック系コメディの脚本です。
ちょっと分かりにくい劇ですが、使用したいという奇特な方がいたら使ってみてください。
台詞等の改編可・ご使用の際はご一報いただけると幸いです。
※ 音声は事前に録音して、音響が流す(一人だと手が足りないかも)。
※ 音声は登場人物とは別の役者にする。
※ 三幕では、男、女、野球、サッカーのセリフはすべて録音の音声。
※ 以下、実際の役者のセリフは【】、録音の音声は《》で記載。
<登場人物>
男: 女が好き。告白したい。
女: 天然系。
野球: 野球が大好き。
サッカー: サッカーが大好き。
アニメ: 声の収録中。
<音声>
実況や: 野球の実況
解説や: 野球の解説
実況サ: サッカーの実況
解説サ: サッカーの解説
<一幕>
舞台を三分割し、アパートの部屋に見立てる。客席から見て真ん中に男と女。左にアニメ。右に野球がそれぞれ板付き。
明転
【男】 ついに、ついに憧れの彼女 が俺の部屋に! 告白する。今日こそは告白するぞ!
【女】 いい部屋ですねえ。
【男】 あ、あの、お茶でも飲む?
【女】 いただきます。
【アニメ】 いただきますうー。
【男】【女】 !?
【アニメ】 うーん、アニメ声ってこんな感じかなあ? 中学生の役なんて恥ずかしいけど、やっと声の仕事をもらえたんだし、頑張ろう!
【男】 と、隣の部屋の声みたいだね。
【女】 けっこう筒抜けなんですね。
【男】 うん。ここ、壁が薄くて。テレビの音なんかも結構響くんだ。
《実況や》 さあ、攻守変わって巨人の攻撃。対する中日はピッチャー逢戸。
【野球】 さあ、打てよー、打てよー。打てないなら死ねよー。
【男】 ごめんね。あんまり気にしないで。
【女】 はい。私、こういうの気にならないですから。
【男】 そう、よかった。じゃあ、お茶とってくるね。
男はける。
【アニメ】 えーっと、台本台本。
アニメ、台本を探して手にする。
【アニメ】 あー、あー、あたしは未来から来た魔法の天使、メロリーラシエピーナ、メロって呼んでね。特技はお茶くみ、ちょっとドジで内気だけど、この世界を守るために変身して戦うの! 普段は普通の中学生、天野メロリっていうの。はわわー、今日は憧れの先輩とのデートの日! 大丈夫かなあ、助けて大天使様! いざとなったら魔法少女に変身よー!
サッカー、野球の部屋に入る。
【サッカー】 おじゃましまーす。
【野球】 おー、来たか、いらっしゃい。今野球見てるんだ、入れ入れ。
【サッカー】 野球? そんなのよりサッカー見ようぜ!
【野球】 そんなのだと!? あ、おい、勝手にチャンネルいじるのやめろ!
《実況サ》 前半十二分、初の得点は蹴山だー! 蹴山のシュートにスタジアム中が沸き上がっています、うおおお!!
【野球】 おい、やめろって。
【女】 うーん、はじめて彼の家に来たけど、緊張するなあ。それに話したいことってなんだろう。あ、もしかして私が
【アニメ】 魔法少女
【女】 ってことがばれちゃったのかなあ。
男入ってくる。
【男】 ま、魔法少女!?
【女】 あ、おかえりなさい。
【男】 魔法少女ってなんのこと!?
【女】 何言ってるんですか?
【アニメ】 メロが魔法を使えることは、あたしと猫の姿になった大天使様だけの秘密。いくら先輩にだって話せないの!
【男】 ああ、隣の部屋の声か……。
【女】 どうしたんですか?
【男】 なんでもないよ、あ、お茶どうぞ。
【女】 ありがとうございます。
【男】 そ、それで……。
男、もじもじする。告白しそうな雰囲気。
【男】 君に話があって……。
【女】 話ってなんですか?
【男】 実は俺は君の
【サッカー】 サッカーが好きだ!
【女】 私のサッカーが好きなんですか? へえ、私の試合見てくれていたんですね。嬉しいです。
【男】 あ、し、試合中の君の姿は素敵だけど……俺は
【野球】 野球が一番だ!
【女】 サッカーよりも野球の方が好きなんですか? 私、野球も好きですよ。球場に応援に行ったりもするんです。
男、ため息。野球サッカーは喧嘩。アニメは一人芝居。
【男】 いや、あの、そうだね……お茶美味しい?
【女】 はい。
【男】 よかった……はあ。
がっかり。
【女】 本当に、どうしたんですか。今日、少しおかしいですよ。
女、少し笑う。いい雰囲気。
【男】 ああ、あのさ。あっ。
【女】 あっ。
手が重なる。
【アニメ】 はわわわー、憧れの先輩との大接近! メロの心もドッキドキ! ああ、メロの心の声、漏れてないかなあ、不安だなあ。
《実況や》 さー、来ました! 今一番の期待の星、四番、内田! 今日も打ってくれるか、ホームラン!? ファンはみんな、内田のホームランが見たい!
【野球】 さあ、くるか!? こい!
【男】 ……じ、実は俺は、ずっと君のことを。
【アニメ】 はわわわわあ。
【野球】 打て、打て内田! でかいのを打て!
【女】 私のことが?
【男】 君のことを……す、すすす。
野球、サッカーとリモコンの取り合い。アニメははわわ。
【男】 涼しそうな格好をしているなあと思って。
《実況や》 あーっと残念! 三振! 四番、内田、バッターアウト!
【アニメ】 ペッ。先輩っていけてると思ったけど、とんだ軟弱者だったのね。
【野球】 てめえ! このクソ! なんで打てないんだよ!
【サッカー】 だからサッカーにしろって言ったのに!
サッカー、野球からチャンネル権を奪う。
【女】 涼しそうですか。確かに今日は寒いですもんねえ。もう秋ものじゃ駄目ですね。部屋だと暑いかと思って、上着脱いできたの失敗だったかな。
【男】 そう。そうだね。ほんと、風邪には気をつけて……あはは……。
【アニメ】 言い訳まで女々しいのね。温めてあげる、くらい言えないの? メロ、失望……。
【サッカー】 男ならサッカーのように全力で走り抜け。だからお前は駄目なんだよ!
【男】 うるさいなあ!
【女】 きゃっ。
女、驚く。
【女】 え、わ、私うるさかったですか?
【男】 あ、君じゃなくて、隣の声が。
【アニメ】 人のせいにまでするの、最低! 先輩、見損ないました!! メロショック!
【男】 黙れ!
【女】 わ、わかりました。黙ります……。
女しょんぼり。
《実況サ》 おっと、ここでイエローカード! 坂田、あと一枚で退場だ!
《解説サ》 我慢のしどきですね。外野もだいぶやかましいですが、これに負けないように坂田にはプレーしていただきたいですね。
《実況サ》 それにしても今日の坂田、いつもに増して乱暴なプレーですね。どうしたのでしょうか。
【男】 ごめん……こんなこと言いたいわけじゃなくて、ただ俺は
【サッカー】 サッカー大好き!
【男】 ってことだけ、君に伝えたくて。
【アニメ】 そんな!
【野球】 野球が一番に決まっているだろう!?
【女】 さっきからあなた、サッカーと野球と、どっちが好きなんですか。
【男】 俺は、別にサッカーと野球は好きじゃなくて。
【女】 じゃあ、何が好きなんです?
【男】 す、す、好きなのは。
【アニメ】 大天使様!
【女】 天使ですか!
【男】 天使なのは……。
【アニメ】 はわわわ、こんな状況で悪魔たちが!? まさか先輩が、悪魔に操られたからあんな軟弱ゲス野郎になっていたなんて! さあ、魔法少女に変身よ! メロが先輩を救わなければ、誰が救うと言うの!
【野球】 いいからチャンネル戻せよ! もう内田の打順終わっちゃってんじゃんか。
【サッカー】 おお、待てよ、坂田のことはどうすんだよ。
【男】 天使なのは…………君だ!
【アニメ】 メロの天使モード! はわわわー! テンションマックスなの!
《実況や》 ツーアウトランナー二、三塁。ここで巨人、ピッチャー投山、渾身の一投! さあどうだ!
【女】 何言っているんですか? ちょっと意味が良く分からないです。
《実況や》 おおーっと残念、フォアボール。
《解説や》 うーん、本人としてはストライクを投げたつもりだったんでしょうけどねえ。
【アニメ】 ぷしゅー、駄目みたい、メロの空回りなの……。
【野球】 おいおい、そんなんで勝てるわけえねーだろうが! 考えろよ、頭使えばわかるだろ!
【サッカー】 いいから変われ、もう諦めて変えろ!
【男】 うるさいなあ!
女、また驚く。
【男】 だ、だってさっきから、隣の部屋の声が茶々を入れて。
【女】 隣の部屋の声ですか……?
耳をすませる。
【アニメ】 はわわ……もうだめなの、世界が終るの。メロが負けて、世界が、先輩が、みんなが……。あたしの大事な人、みんなが……。
【野球】 はやくリモコン返せ!
《実況サ》 さー、これで二点目。浦和の固い守備が崩れ始めてきたか!?
【サッカー】 げ、点数入ってんじゃん。やめろって、チャンネル変えるなって!
【女】 みんな、関係ないこと言っているじゃないですか。
【男】 おかしいんだよ、さっきから。なんか妙なタイミングで会話に割り込んできて。
【女】 ……気にしないでって言ったくせに、一番隣の声を気にしているの、あなたじゃないですか。なんですか? 私、もしかして帰った方がいいんですか?
【男】 そ、そんなことない。待って、待って!
【女】 お邪魔しました。すみません、私、あなたに誘われて浮かれてました。本当はこない方がよかったんですね。
女、立ち上がってゆっくりはける。男、部屋で呆然とする。
【アニメ】 ……でも、メロはあきらめない。あたしが、あたしが頑張らないと……!
【野球】 期待してるぞ、投山。お前ならできる。満塁? それがどうした!
【サッカー】 坂田、お前は確かにラフプレーヤーだ。だけどな、それが持ち味でもあるんだ。逆転するなら、お前だ!
男、立ち上がる。はけた女を追いかける。
《実況サ》 おっと、坂田、ここで一人走る。
《解説サ》 やけになったんでしょうかね。
《実況サ》 なにを目指している、坂田。坂田、一人広いフィールドを駆ける、駆ける! これはまさか――!?
【男】 待って!
男と女、舞台裏にはけたまま会話。
【女】 ……なんです?
【男】 まだ、話があるんだ。
【女】 話?
【男】 ずっと、言いたかったんだ。俺は君のことが……。
間。
【男】 好きだ。
《実況や》 投げたー、投山、満塁をものともせずその名に恥じない好投! スリーアウト!
《実況サ》 坂田ゴ―――――ル!! まさか、ここで坂田が来るとは誰が予想したでしょう。スタジアムが熱気の渦に包まれています!
【野球】 よっしゃー! 信じていたぜ投山!
【サッカー】 坂田ああああ!
【アニメ】 メロの天使の力が奇跡を起こしたんだわ……大天使様! あたし、あたし嬉しいです!
間。
【女】 ……ごめんなさい。
《実況サ》 オフサイドー!!
<二幕>
照明変化。
小道具やセットを持って、右回りに区画を移動する(暗転せず、移動の様子を見せる)。
サッカーはけ。野球は真ん中。右に男女。左にアニメ。
明転
【男】 ついに、ついに憧れの彼女が俺の部屋に! 告白する。今日こそは告白するぞ!
【女】 いい部屋ですねえ。
【男】 あ、あの、お茶でも飲む?
【女】 いただきます。
《実況や》 投山の好投により三者凡退で終わった八回裏。さあ、攻守変わって巨人の攻撃。対する中日はピッチャー逢戸。
【野球】 さあ、打てよー、打てよー。打てないなら死ねよー。
【アニメ】 はわわー、今日は憧れの先輩とのデートの日! 大丈夫かなあ、助けて大天使様! いざとなったら魔法少女に変身よー!
サッカー、野球の部屋に入る。
【サッカー】 おじゃましまーす。
【野球】 おー、来たか、いらっしゃい。今野球見てるんだ、入れ入れ。
【サッカー】 野球? そんなのよりサッカー見ようぜ!
【野球】 そんなのだと!? あ、おい、勝手にチャンネルいじるのやめろ!
《実況サ》 前半十二分、初の得点は蹴山だー! 蹴山のシュートにスタジアム中が沸き上がっています、うおおお!!
【野球】 おい、やめろって。
【サッカー】 なんだよ、いいじゃんかよ。今日は俺びいきの坂田が試合に出るんだからさ。あ、でも坂田ベンチじゃん!
【野球】 俺だって、投山の試合が見たいんだよ。ベンチならいいだろ、変われよ。
《実況サ》 ここで一点奪われた浦和、選手交代です。おおっと? ここで坂田を出してくるか!
【サッカー】 さっかったああ!
《実況サ》 坂田。少し荒っぽいプレーですが、ここぞという時に強い選手です! この判断はどうですか、解説の白沼さん。
《解説サ》 あー、いい判断だと思いますねえ。なにせ坂田は
【男】 ま、魔法少女!?
《解説サ》 ですから。
《実況サ》 なるほど。ではこれから、浦和の猛追がはじまると考えていいんですね。
《解説サ》 いえ、そうとも限りません。
《実況サ》 えっ。
《解説サ》 なにせ坂田は
【アニメ】 魔法を使えることは、あたしと猫の姿になった大天使様だけの秘密。
《解説サ》 ですからね。
【野球】 お前、いい加減野球に戻せよ!
【サッカー】 ばっかやめろ! やっと坂田が出るんだよ!
野球とサッカー、取っ組み合いのけんか。
【野球】 なんでお前、そんなに俺の観戦を邪魔したいんだよ!
【サッカー】 なんでって決まってるだろ。
【男】 実は俺は君
【サッカー】 が好きだ!
【野球】 なんだと!?
【女】 嬉しいです。
【野球】 だがお前がなんと言おうと、俺は野球が一番だ!
【サッカー】 あっ。
リモコンを取られる。
【野球】 俺の言うことを聞け!
【サッカー】 やめろー! やめろー!
くっつく。
【アニメ】 はわわわー、憧れの先輩との大接近! メロの心もドッキドキ! ああ、メロの心の声、漏れてないかなあ、不安だなあ。
【サッカー】 この分からず屋め! 俺のこの、サッカーに対する情熱をどうして理解できない! 今日こそは分からせてやるぞ、俺はお前と
《実況や》 ホームランが見たい!
【サッカー】 聞けよ!
野球はテレビに夢中。
【サッカー】 こっち向け!
【アニメ】 はわわわわあ。
【サッカー】 俺はサッカーと、それを観戦する
【男】 君のことを
野球、サッカーとリモコンの取り合い。アニメははわわ。
【サッカー】 なにより大事だと思っている!
【野球】 てめえ!
《実況や》 なんという投球! これはたまりません。完全に相手のペースです。
《解説や》 下手な小細工よりも、一投が重い選手ですからね。これは返すのも難しいでしょう。
サッカー、野球からチャンネル権を奪う。ついでに上着も奪う。
【野球】 なにすんだよ!
サッカー、リモコンを手に。
【サッカー】 観念しろ。サッカーの前に全てひれ伏すのだ!
【野球】 返せー!
【女】 寒いです
【野球】 からやめろ! こんな人の部屋で無理やり!
【サッカー】 俺を部屋に入れた時からこうなることは予想できていたはずだ、それをいまさら
【アニメ】 女々しいのね。
【サッカー】 さあ俺が
チャンネルをいじる。野球は転がされている。
【アニメ】 温めてあげる
【野球】 やめろ!
【サッカー】 男ならサッカーのように全力で走り抜け。
サッカーがマウントポジション。
【女】 きゃっ。
【アニメ】 見損ないました!! メロショック!
【男】 黙れ!
《実況サ》 今日の坂田、いつもに増して乱暴なプレーですね。どうしたのでしょうか。解説の白沼さん?
《解説サ》 元々、あまり我慢強い選手ではありませんからね。特に今日の試合は、思い入れの深い相手ですから。興奮してしまっているのでしょう。
《実況サ》 なるほど、確かに今日の対戦相手、坂田は長年
【サッカー】 大好き!
《実況サ》 でしたからね。
《解説サ》 しかしここは、相手のフィールド。坂田のラフプレーは受け入れがたいでしょう。
【野球】 いい加減にしろよ! 文句があるなら出ていけ! 俺はサッカーなんて見ない! だいたいお前
【女】 さっきから
【野球】 俺とサッカー
【女】 どっちが好きなんですか。
【サッカー】 いいからサッカーを見てみろ! 絶対はまるから!
【野球】 ふざけるな! お前こそ一度野球を見ろよ! サッカーなんかよりもずっとおもしろいはずだ!
【サッカー】 なんでそんなに頑固なんだよ!
【野球】 いいからチャンネル戻せよ! もう内田の打順終わっちゃってんじゃんか。
【サッカー】 おお、待てよ、坂田のことはどうすんだよ。
【野球】 坂田なんて興味ねーよ。どうせイエローカード二枚目もらって
【アニメ】 天使モード! はわわわー! テンションマックス
【野球】 にでもなってんだろ!
【女】 何言っているんですか? ちょっと意味が良く分からないです。
【サッカー】 おい、いくらお前でも許さねーぞ!
【野球】 おいやめろよ。
サッカーがちょっかい。
【サッカー】 俺は今日こそは野球狂のお前に
《解説や》 ストライクを投げるつもり。
【サッカー】 なんだよ! なんだよ、これじゃあ
【アニメ】 駄目みたい、メロの空回りなの……。
【野球】 おいおい、そんなんで勝てるわけえねーだろうが! 考えろよ、頭使えばわかるだろ!
【サッカー】 聞けよ!
つかみあい。
【サッカー】 いいから変われ、もう諦めて
【アニメ】 あたしの大事な人
【サッカー】 に変われよ!
リモコン奪う。
《実況サ》 さー、これで二点目。浦和の固い守備が崩れ始めてきたか!?
【野球】 やだよ!
《解説サ》 いいえ、まだ浦和は持ちこたえています。攻めには一手足りない感じですね。
【サッカー】 なんでだよ!
【野球】 お前も男ならわかってくれ。この野球にかける思い。男には譲れない試合がある。譲れない一線がある。それと、あんまりうるさくするとまわりが怒るから。
【サッカー】 まわりの声なんて
【女】 関係ない
【サッカー】 男同士なんて
【女】 気にしないで
【サッカー】 例えお前がなんと言おうと
【アニメ】 あきらめない。
【野球】 お前……。
【サッカー】 俺にも譲れないものがある。わかるな。
野球とサッカー、静かになる。
《実況や》 さあ、次の一投を待って、球場中が静まり返っています。投山のまっすぐで重い球は、果たして届くのか?
女、立ち上がってゆっくりはける。男、部屋で呆然とする。
野球とサッカー、試合に見入る。
【男】 ずっと、言いたかったんだ。俺は君のことが……。
間。
【男】 好きだ。
【野球】 投山!
【サッカー】 坂田ああああ!
喜びに抱き合う。
<三幕>
登場人物変更(魔法少女以外は変更可)
アニメ →魔法少女
男 →先輩
女 →大天使(猫)
サッカー →敵1
野球 →敵2(偽大天使(猫))
照明変化(暗転はしない)
舞台上のものは全部はけ。それぞれの配役に着替え。
着替え中に男女の会話を流す(FOさせる)
《男》 ついに、ついに憧れの彼【女】 が俺の部屋に! 告白する。今日こそは告白するぞ!
《女》 いい部屋ですねえ。
《男》 あ、あの、お茶でも飲む?
《女》 いただきます。
明転
アニメ、舞台中央。敵1は最初のセリフに間に合えば好きに入ってきていい。
【アニメ】 あたしは未来から来た魔法の天使、メロリーラシエピーナ、メロって呼んでね。特技はお茶くみ、ちょっとドジで内気だけど、この世界を守るために変身して戦うの! 普段は普通の中学生、天野メロリっていうの。はわわー、今日は憧れの先輩とのデートの日! 大丈夫かなあ、助けて大天使様! いざとなったら魔法少女に変身よー!
先輩入り。
【先輩】 やあ、メロリちゃん。待たせてごめんね。
【アニメ】 はわわ、大丈夫です。あたしも今
《野球》 野球見てるんだ。入れ入れ。
【先輩】 そう、よかった。
《サッカー》 そんなのよりサッカー見ようぜ!
【敵2】 にゃーん。
【アニメ】 あ、大天使様、だめだめ、先輩は猫アレルギーなの。先輩、猫に触るだけで
《実況サ》 蹴山のシュート
【アニメ】 が無残なことになるんだから。
【敵2】 チッ。
【先輩】 どうしたの?
【アニメ】 なんでもないです、先輩!
【先輩】 そうなの? そんなことよりメロリちゃん、なんか君って最近うわさの魔法少女に似ているよね。
【アニメ】 ま、魔法少女ですか! はわわわわ、そんなことないですー!
【敵2】 にゃーん。
【アニメ】 メロが魔法を使えることは、あたしと猫の姿になった大天使様だけの秘密。いくら先輩にだって話せないの!
【先輩】 じゃあ行こうか。今日は、友だちへの誕生日プレゼントを選ぶんだったね。だけど、一緒に選ぶのが俺でいいのかなあ。
【アニメ】 いいんです! 先輩と一緒で、メロ、めろめろです。
【先輩】 あはは。メロリちゃんは可愛いなあ。それで、今日はどんなものを買うつもりなの?
【アニメ】 あたしの友だち、
《野球》 野球が一番
【アニメ】 なんです。だから
《女》 球場
【アニメ】 が売ってたらいいなあ、って。
【先輩】 そうか、見つけられるといいね。とりあえず近くの店を見てみようね。
手をつなぐ。
【アニメ】 はわわわー、憧れの先輩との大接近! メロの心もドッキドキ! ああ、メロの心の声、漏れてないかなあ、不安だなあ。ああ、だめ、メロもう
《実況や》 内田のホームランが見たい!
【先輩】 メロリちゃん、漏れてる漏れてる。
【アニメ】 はわわわわあ、聞かれてたー!
【先輩】 それじゃあ、どこに行こうか。メロリちゃんの行きたいところで良いよ。
敵2、飛び出してはける。
【アニメ】 あっ。
【敵2】 にゃーん。
【アニメ】 あ、大天使さ……。はっ、先輩の前で呼んじゃ駄目! えと、大天……天……
《野球》 内田!
【アニメ】 どこ行くの!?
【先輩】 コンビニに入って行っちゃった。
【アニメ】 追いかけましょう!
【先輩】 ついでにお昼ごはんも買おうか。
二人追いかけはける。
出てくる。
アニメ、鞄をあさり。
【アニメ】 あっ、大変! 先輩、あたしさっきコンビニでお弁当を温めてもらうの忘れていました。
【先輩】 えっ、そりゃあ大変だ。
【アニメ】 戻りましょう、先輩。
アニメ、先輩、敵2はけ。
コンビニらしい音楽が流れる。
敵1出てきてコンビニの店員をしている。
【敵1】 いらっしゃいませー。
アニメ、先輩、敵2出てくる。
【アニメ】 先輩、どうしたんですか?
【先輩】 あの、メロリちゃん、本当に行くの?
【アニメ】 だって、温かくないと美味しくないんですよ。
【先輩】 それはそうだけど、わざわざ温めてもらうだけっていうのも……。
【アニメ】 あたしたち、ここでお金払って買ったんですよ。当然の権利です。
【先輩】 でも、頼みに行くのは俺なんだろう?
【アニメ】 だって、あたし恥ずかしいじゃないですか。お願いします、先輩。
先輩、敵1の前に立つ。
【敵1】 いかがいたしましたか?
【先輩】 あ、あの。
【敵1】 なにをお求めでしょう。
【先輩】 そそそその。
【敵1】 お悩みでしたら新発売の
《実況や》 四番、内田
【敵1】 はいかがでしょうか。
【先輩】 あ、い、いえ。失礼しました。
先輩、アニメの元に戻ってくる。
【アニメ】 えー、そのまま戻ってきたんですか!? ペッ。先輩っていけてると思ったけど、とんだ軟弱者だったのね。
【先輩】 いや、ほら、こういうのはメロリちゃん本人が頼んだ方がいいんじゃないかと。相手だってね、かわいい女の子の方が喜んでくれるだろうし。
【アニメ】 言い訳まで女々しいのね。僕が温めてあげる、くらい言えないの? メロ、失望……。
【先輩】 だけど、それを買ったのも、温め忘れたのもメロリちゃんじゃないか。それならメロリちゃんが行くのが筋なんじゃないのか?
【アニメ】 人のせいにまでするの、最低! 先輩、見損ないました!! メロショック!
【敵1】 お客さん、うちの店で騒がないでくださいよ。
【アニメ】 あ、すみません。
【敵1】 まったく、次騒いだら出禁にしますよ。
【アニメ】 えー! それはちょっと横暴なんじゃないですか!?
【先輩】 メロリちゃん、逆らわないで、出禁になっちゃうよ。
【アニメ】 そんなわけないじゃないですか。普通のコンビニじゃ、これくらい騒ぐ人いっぱいいますよ。
【敵1】 よそはよそ。うちはうち。もう、あなたたち二人、二度とここへ来ないでください。
【アニメ】 ええー!
【先輩】 お、俺まで!? メロリちゃん、君が
《サッカー》 サッカー大好き!
【先輩】 のせいだぞ!
【アニメ】 そんな! 先輩
《野球》 野球が一番に決まっているだろう!?
【敵2】 にゃーん。
【アニメ】 大天使様、どうしよう。メロ、先輩と
《女》 サッカーと野球
【アニメ】 に嫌われちゃった……。
【大天使】 メロリ、
《男》 サッカーと野球
【大天使】 から離れなさい!
大天使出てくる。
【アニメ】 ……え!? その声は大天使様! 大天使様が二人!?
怪しげな音楽が流れる。
照明落とす
【大天使】 それは偽物です! あなたをこのコンビニまで呼びだすために、私のふりをして罠にかけたのです。
【アニメ】 な、なんだってー!?
【敵2】 にゃーん、違いますよメロリ。そいつこそが偽の大天使。騙されてはいけません。
【大天使】 メロリ、私を信じるのです。先輩がそんな腑抜けになっているのも、このコンビニのせいなんですよ。さあ、よくあたりを見回して御覧なさい。このコンビニは、妙に静かだと思いませんか?
【アニメ】 ほ、本当です! 人が全然いない!
【敵2】 チッ。
【敵1】 くっくっく。ばれてしまったようだな。
敵1、敵2、正体を現す。
【アニメ】 はわわわ、こんな状況で悪魔たちが!? まさか先輩が、悪魔に操られたからあんな軟弱ゲス野郎になっていたなんて! さあ、魔法少女に変身よ! メロが先輩を救わなければ、誰が救うと言うの!
アニメ、変身(大天使は手伝い)。
変身の音楽。
照明上げる。
【敵1】 貴様が私に勝てるかな!?
【敵2】 我ら二人を相手に、お前に勝機はない!
【アニメ】 いいえ、愛の力がある限りあたしは負けない! メロの天使モード! はわわわー! テンションマックスなの!
アニメの攻撃。二回くらい。どちらも先輩と大天使に当たる。
魔法攻撃っぽい効果音。
【先輩】 うわあっ!
【大天使】 きゃあっ!
【敵1】 くっく、コンビニの魔力にはまったようだな……。
【敵2】 この場において、我らに傷を与えることはできない。戦えば戦うほど、傷つくのはお前と
《実況や》 巨人、ピッチャー
【敵2】 だ。
【アニメ】 ぷしゅー、駄目みたい、メロの空回りなの……。
ピンチの音楽。
【敵1】 貴様をここで殺し、世界を滅ぼす。
【敵2】 くくく、近頃我らの仲間を倒してまわっていると聞いたからどんなものかと思えば……。これでは魔界四天王の
《女》 隣の部屋の
【敵2】 我らが出る幕もなかったわ。
【敵1】 さあ、貴様の死の次は世界の終わりだ!
【アニメ】 はわわ……もうだめなの、世界が終るの。メロが負けて、世界が、先輩が、みんなが……。あたしの大事な人、みんなが……。
【敵1】 死ね!
【敵2】 (必殺技名を叫ぶ)
必殺技の効果音。
先輩と大天使がアニメをかばう。
【先輩】 メロリ……ちゃん。俺が、メロリちゃんを守らないと…………ぐふっ。
【大天使】 メロ、あなたは
《実況サ》 浦和
【大天使】 の希望……。死なせるわけには。
【アニメ】 大天使様! 先輩!
先輩、大天使、倒れる。
【アニメ】 ああ、あああ……。ひどい。こんな敵に、どうやって勝てばいいっていうの……ううん……でも、メロはあきらめない。あたしが、あたしが頑張らないと……!
照明変化。適当に遊んで。
魔法少女っぽい音楽。
【アニメ】 なに? 力が溢れてくる……!
【敵1】 な、なんだと!?
【敵2】 この、コンビニの結界が破られていく!
照明戻す。
【アニメ】 今なら勝てる、(必殺技名を叫ぶ)!!
必殺技の効果音。
【敵1】 ぐわあああああ!
【敵2】 ま、まさかこの我らが!!
【敵1】 しかし、我々は
《実況や》 投山
【敵1】 の中でも最弱。
【敵2】 我らを倒したとて、他の
《実況サ》 坂田
【敵2】 には敵うまい……ぐふっ。
【アニメ】 メロの天使の力が奇跡を起こしたんだわ……大天使様! あたし、あたし嬉しいです!
【大天使】 よくやりました、メロ。あなたこそが真の天使。やはり、世界を救うのはあなたということなのね。
【先輩】 ……メロリちゃん。やっぱり君が、あの魔法少女だったんだね。
【アニメ】 先輩、知っていて……!
【先輩】 大丈夫、誰にも言わないよ。ただ、これからは俺も君の手伝いをさせてほしい。
【アニメ】 先輩……。
【先輩】 可愛い後輩に、一人辛い戦いをさせるわけにはいかないからね。
【アニメ】 嬉しいです!
アニメ、先輩に抱きつく。
次回予告の音楽。
【アニメ】 こうして、あたしたちの本当の戦いははじまったの。だけどこの先には、恐ろしい罠が次々と待ちうけていた。メロをかばって一人四天王に挑む先輩。起死回生の一手は、先輩の窮地を救うのか? 圧倒的な力量差の前でも、絶対にあきらめない! その強い心で勝利をつかみとれ! 次回、先輩死す! お楽しみに!
暗転