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千夜行  作者: 志鷹 見亭
千夜行
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面接(おまけ)

「と…とりあえず終わった」


 心もとない部屋の明かりをつけ、居間に大の字で寝転がって一息つく。

 あの後、なかばヤケクソになってほうきや雑巾、はたき等を使って家中掃除をした。

 幸い水道は通っていたので、水の確保には苦労せず雑巾がけも難無く出来た。

 ただ長い事使われていなかったようで、最初に茶色い水が蛇口から出た時は驚いたが…あるだけで本当に助かる。

 正直井戸水とか覚悟してたし…。

 それと和式だがトイレもあった。そして水道が通っていた…つまり下水道があるという事だ。

 まさか和式トイレに…いや、水道と下水道が通っている事に感動する日が来るとは思わなかった。

 

「でも風呂がなぁ…」


 しかし問題が2つ、それは風呂と台所だ。

 まず生活する上でトイレに並び重要な風呂だが…あるにはあった。

 特別ボロボロという訳でもない。

 今からでも使おうと思えば直ぐに使えるだろう。

 だがここにはボイラーも給湯器も無い。

 つまりだ、蛇口を捻って出るのは水オンリー……風呂を沸かすには自分で火を起こす必要があるのだ。

 そして土間にある台所も同様、ここにはガスが無いため自分で火を起こさねばならない。なんせ釜戸かまどだしな。

 要するに温かい飯と風呂を頂くには、…面倒臭いことにまきをくべなきゃいけないという。


「まぁ…電気と水道があるだけマシだよな」


 ありがたい事にここには電気も通っている。

 勿論テレビなどの娯楽製品は無く、あるのはオレンジ色の光を灯す照明数個と年季の入った冷蔵庫だけ。


「そういや洗濯機も…あと布団も無かったな…」

 

 先程掃除をしている時に家全体を確認したが、家の外にも中にも洗濯機らしきものは無かった。あったのは大きなタライと洗濯板…つまりはそういう事だ。

 そして押し入れの中は空っぽで、布団はどこにも見当たらなかった。


「(というか掃除に夢中で忘れてたが…登校日いつだ?)」

 

 今になって改めて入学についての説明を一切されていない事を思い出した。

 何も知らないのは流石に不味い…とにかく貰った紙の束には一通り目を通しておこう。

 そう思って重い体を起こし、居間のテーブルに置いていた紙の束を手に取った。


「ん?」

 

 紙を持ち上げた時に1枚の封筒が落ちた。


「何だこれ…」

 

 茨木いばらきさんから受け取った時には全く気が付かなかった。恐らく束の中に紛れ込んでいたんだろう。

 拾い上げてみると、そこには葛葉くずはさんの名前が書いてあった。

 早速封筒を開けて内容を確認する。


『布団は明日、お主の実家から送られて来る荷物と一緒に持っていくのじゃ。因みにお主の入学日は明後日なのじゃ。どうせ朝美あさみろくに会話が出来なかったじゃろうから、それだけお主に伝えておくのじゃ』


「へぇ~…で?飯は?」

 

 盛大に腹を鳴らしながら手紙に問いかける。

 しかし返事が返ってくることは無い。


「……」


 とにかく、色々と思うところはあるが明日は休みだと分かった。

 なので俺は手紙をテーブルの上に置き、段ボールに入っていた歯ブラシと歯磨き粉で歯を磨いて、戸を閉め電気を消してそのまま居間で横になった。

 本当は風呂に入りたかったが、もう疲れていて何もやる気が起きない。 

 そもそも今からこの暗闇の中で薪探しとか無理だし。


「……そういや…恵佳けいかどうしてるかな」

 

 目を閉じて浮かんだのは恵佳けいかの顔。

 ここに来る前に『後で居間に行くから』と言ったのに、約束を破って今俺はここにいる。

 怒ってないかな?寂しくて泣いてないかな?まだ幼い妹の事がどうしても気になってしまう。

 だがまぁ親父と夜叉丸やしゃまるが付いているのだ。俺がそんなに心配しなくても大丈夫だろうが…。


「てか…大学の単位とかどうなんだろ…」


 在学中の大学の単位、休学の手続き。置いてきたスマホ、解約の手続き。他にも色々—。

 突然こちらに来たせいで、やり残した多くの事を思い出しモヤモヤがどんどん湧いてくる。


「……(スヤァ~)」


 しかし余程疲れていたのだろう。

 俺は考えている内に眠りに落ちていた。


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