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オーディション~沈黙の控室~

放課後、僕はカレンさんの運転する車に乗りオーディション会場へ向かう。


「本当にごめんね。こんなバタバタして練習する時間も欲しかったでしょ?」


「大丈夫だよ練習とか準備とかすると逆に緊張しちゃうからこれぐらいが丁度いいの」


「本当凄いよロア君は落ち着いてて、私より年上の感じがするもん。私なんかオーディション受けるわけじゃないのに緊張してきちゃったよ。前にもこういう事あったの?でも劇団とかに所属してた訳じゃないし」


カレンさんの質問が痛い所を突いてくる。


「へ!?いや~別にそういう訳じゃ~」


曖昧な返答でお茶を濁す僕


前世で散々失敗してきました。オーディションで落とされるなんて当たり前だったし。

沢山の失敗を経てオーディションで一番大事な事を僕は体得した『自然体でいること』

審査員は素の僕を見たがっている。緊張で凝り固まった僕でもなく、面接の模範解答をスラスラ言う僕でもない。

僕がオーディションで受かった時は自然体でいられた時だけだった。緊張も不安もない訳じゃないけど、気にしたところで何の意味もないという事を僕はよく解っている。



オーディション会場は映画製作会社『ゴールデン・ピクチャーズ・スタジオ』の第一会議室で行われる。

控室は第二会議室にあり、そこに荷物などを置いてオーディションを受ける形式のようだ。


僕はカレンさんと共に控室に入ってみるとそこには数人の子役とマネージャーらしき人達。その中にひと際態度の悪い少年がいた。


少年の名はコリン・ハート。

テレビで見ない日はないという今最も人気の子役。

その人気は舌足らずなしゃべり方と子供らしいリアクション。おかっぱ頭に後ろは刈り上げがトレードマーク。

バラエティ番組やCMで重宝がられており、コリンを出せば簡単に視聴率が獲れると業界人はみんなコリンのスケジュールを確保するのに必死だ。


そんなコリンと数人の子役が同じ控室に集められマネージャー達は会議室の隅の方で軽い挨拶をしている。


「何でオーディションするんだよ面倒くせーな金にもなりゃしねーしよ」


コリンがテーブルに両足を乗せガムを噛みながら携帯ゲームをいじり愚痴をこぼす。

コリンが足を乗せているテーブルはみんなで使う大きな会議室用のテーブルでその周りを子役達が座っている。

他の男の子たちはその様子に委縮しており誰もコリンの態度を注意するものはおらず担当マネージャーも黙ったままである。

僕はそんな彼の隣の席に座る。というか彼の隣しか空いていなかった。


「あ?おめー見ない顔だな新人か?」


ガムと唾液で発せられる耳障りな音を出しながら質問をするコリン。

テレビなどで見る印象と随分違う。


「えっと、最近アンタレスに所属になったロア・グッドールです」


「アンタレス?あーなんかそんな事務所もあったな」


「コリンはどこの事務所なの?」


同じ子役だからフレンドリーに訊いてみた。


「オイ!コリンじゃねーだろ〝コリンさん〟だ。オレの方が先輩だろ、ガキみてーな言葉使ってんじゃねーぞ」


十歳の子役に言葉遣いを注意されたヤツがいるらしい、僕です。

全然舌足らずな口調ではない。すごくしっかりとした不良の口調だ。


「すいません」


「新人だから今回は許してやるよ。あとオレの事務所知らねえとか呆れたぜ『エウロパプロダクション』だ覚えとけよ新人」


「はい……」


とても気まずくなってしまった。こんな態度の子だと思わなかったし、でも会話はしないと余計に気まずいような。


「コリンさんってテレビで見るのと大分印象が違いますね。なんかワイルドですよね」


「あたりめーだろあれはテレビ用だよ。ああいうのが受けがいいんだよ。プライベートでもあんなキャラじゃ疲れちまうだろ」


「おめーもテレビ用のキャラ作っとけよ。女はバカだから媚びるようなキャラがいいぜ」


「そうですね頑張って作ってみます」


何か凄い事言い始めたぞ。この世界の子役って皆態度悪いのかな。


「おい!マネージャー」


急にコリンがマネージャーを呼んだ。


「ちょっと手出せ」


地味なマネージャーがそっと両方の掌を出した。するとそこにコリンが噛んでいたガムを勢いよく吐き出す。


「捨てとけ」


言葉遣いにうるさいくせに大人を顎で使うのか。というかガムに着いてた紙は一体どうしたんだろう。

マネージャーが小さく返事をしてガムを捨てに行く。その姿を見ていたカレンさんは目を見開き空いた口が塞がらない、驚いた顔をしている。

それもそうだろうテレビでよく見る子役がまさかこんな暴君だったとはショックを受けるのも無理はない。

そして沈黙が流れる。時間が長く感じるこんな息苦しい控室は初めてだ。


すると、オーディションの係りの人が控室をノックしオーディションの開始を告げる。

僕はやっとこの沈黙から解放されるのかと係りの人に心の中で感謝した。

オーディションは一人ずつで面接と短い台本が用意されているらしい台本の中身は自分の番になってから解る仕組みだ。

短い台本で演技しその演技を監督やプロデューサーが判断すると思われる。

係の人がオーディションの順番を発表をする。僕は二番目に決定しコリンは最後のようだ。


「あんだよ最後かよさっさと帰りてーのによ面倒くせー」


また何かブツブツ文句を言っているが触らぬ神に祟りなしだ。今は自分の事に集中しよう。


オーディションが始まって一人目の子役が第一会議室に向かう。

三十分位が経ったころで最初の子役が帰ってくる。次はいよいよ僕の番だと思い気合が入る。

係の人が僕を呼びに来て僕は元気よく返事をして第一会議室に入る。

コリン・ハート:芸能界でチヤホヤされ過ぎて完全に調子に乗っている。

        赤ちゃんの頃からCMなどで起用されていたためキャリアは十年目

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