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入所手続きと縄張り

目的地に到着し芸能プロダクション『アンタレス』を見上げると、そこには六階建てのビルが建っていた。ここが今日から僕の活動拠点になるのかと思いワクワクしていた。

まずはロビーに入り、受付のお姉さんに母が入所手続きに来た旨を伝えると受付のお姉さんに応接室に案内された。

そこは大きな長方形のテーブルと椅子が用意されており部屋の隅には観葉植物を配置したシンプルな部屋だった。

椅子に座り待つこと数分。応接室の扉から『コンコン』とノックする音が聞こえ黒髪のショートカットが印象的なパンツスーツの女性が入ってくる。動きは機敏ですぐに僕たちの前に立つ。


「こ、この度ロア・グッドール君の担当マネージャーになりましたカレン・ビーンズです。よろしくお願いします」


深々と頭を下げるカレンさんを見て緊張感が伝わってくる。僕も椅子から立ちあがる。


「ロア・グッドールです。こちらこそよろしくお願いします」


僕も頭を下げる。挨拶は大事だ初顔合わせの時は特にね。


「母のサーシャ・グッドールです」


カレンさんとの挨拶が済み僕たちは椅子に座りテーブルを挟んだ向かいにカレンさんが座る。


「今日は入所手続きに関しての書類がありまして」


テキパキと手続きを進行していく、書類の記入個所を丁寧に指示してくれるので記入し始めて数十分後には書き終えていた。


「これで入所手続きは終了です。ありがとうございました」


書類をファイルに閉まっていくカレンさん。


「終わりだってさ帰ろ?ロア君」


母が席を立ち僕も続いて立ち上がり別れの挨拶を言う。


「はーい。カレンさんこれからよろしくお願いします」


「ふぇっ!?うん、頑張ろうね」


何かとても驚いているがどうしたのか。僕は子供らしく小さく手を振りカレンさんも手を振り返す。するとそのやり取りを見ていた母が「シャーッ」と猫のような威嚇をした。ビクッと驚いたカレンさんが素早く手を引っ込める。

ダメだこの母親早く何とかしないと。


「お母さんやめてよ!それじゃあ変な人だと思われるよ」


僕は母に注意をする。だっておかしいよ手を振り返しただけで敵意むき出しにするのは。


「えー?ううぅ……だって」


僕は母の手を引き歩き出す。母はボソボソ言い訳めいたことを言っているが、ビルから出るまでその事には何も訊かず帰路につく車中で僕は母がなぜカレンさんを威嚇したのか訊いてみた。


「ねぇお母さんどうして『シャー』って言ったの?何かあったの?」


「だってあのカレンって人さロア君の事一瞬いやらしい目で見てたんだもん。ショタコン……かよ…最低だな……」


言葉の最後の方は何かゴニョゴニョ言っていてよく聞き取れなかったが母はカレンさんを変態認定しているのは解った。


「は?真面目そうないい人に見えたけど」


「私には解るの!なんとなくだけどそんな感じがしたの」


「そう思ったなら言えば良かったのに『この変態!』って」


「そこまで言う確信が持てなかったのが悔しいのよ」


そこは正常な判断ができるのかと関心をしてしまう。


「多分お母さんの勘違いだから」


「ううぅ……」





カレン・ビーンズ視点


応接室の扉を二回ノックし扉を開けるとそこには二人の人物。一人はスーツを着たブロンドの女性もう一人は写真で見るよりずっと可愛らしい少年で白いワイシャツにハーフパンツというシンプルな出で立ちもっとこの少年を見ていたいが今はすべきことがある。


「こ、この度ロア・グッドール君の担当マネージャーになりましたカレン・ビーンズですよろしくお願いします」


頭を下げる時に唇が震えていた事に気づく。うまく言えただろうかと不安になるがすぐにグッドール親子も挨拶を返す。少年の透き通った声はとても耳に心地よく可愛らしかった。


その後は緊張もいくらか解れてきて見れば見るほど可愛い少年を何度もチラ見をしてしまう。何だろうすごく良い子そうだ。契約内容が気に入らないと悪態をつかれるかも、と戦々恐々としていたが安心した。

これならうまくやっていけそうだと思い口角が上がる。手続きも順調に進んで行き思いのほかあっさりと済んだ。


「これで入所手続きは終了です。ありがとうございました」


書類をファイルに片付け始める。


「終わりだってさ帰ろ?ロア君」


「はーい。カレンさんこれからよろしくお願いします」


少年が笑顔で言う。何だろうこの感覚は頭が蕩けそうだ……これは『笑顔のドラッグ』だ。

どんな屈強な女でも耐えられない天然の薬物だ。これは頭がバカになってしまう。


「ふぇっ!?うん、頑張ろうね」


変な声が出てしまった。恥ずかしいがロア君は気にせず小さく手を振る『バイバイ』という別れのジェスチャーなのだろうその動作は私をのぼせ上がらせるには十分な威力で気づいたら手を振り返していた。

するとサーシャさんが険しい顔で「シャーッ」っと私をけん制する。ここで私は正気になり手を下げる。


サーシャさんの反応は男の子を持つ母親共通の感情だ。『浮かれるなよ小娘捻り潰すぞ』という意味があり、私も息子が出来ればこうなるだろうと思う。

初対面でしかも母親のいる前でこんな馴れ馴れしい奴がいたらただじゃ置かない。まだサーシャさんの反応は理性的だ。


女には縄張りがある。その縄張りにうかうか入った私が愚かであった。


「お母さんやめてよ!それじゃあ変な人だと思われるよ」


意外だった。ロア君がサーシャさんを止めるなんて。

今のは私が悪かったのに申し訳ない気持ちで一杯になった。後で菓子折りをもって謝りに行こう。


帰る二人の後ろ姿を見送りオフィスに書類を持って帰る。オフィスの扉を開けるとそこには社員全員が待ち構えていた。数十人はいるだろうその中の一人、上司マキが一歩前に出て訊いた。


「どうだった、上手くいったか」


上司マキは真剣な顔で訊ねてきた。


「はい。全て記入して頂きました」


私は書類の入ったファイルを高く上げた。するとみんな「おおぉ!」という歓声を上げる。

今思えば上司マキには感謝せねばなるまいこんな良い子を私に任せてくれた事に。皆が私に駆け寄り握手をしていく今日の英雄は私一人だ。


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