映画の告知にきました。byソフィア・フランソワーズ
「ロア君本当にいいの?後悔しない?」
部屋には一つのベッドと私とロア君。
「しませんよ。大好きなソフィアさんなんですから」
そう言うとロア君は白いシャツのボタンを外し始める。脱ぎ始めると少しずつロア君の肌が見えていく。ロア君がシャツを脱ぎ捨てると白い肌が露わになる。
私はその姿を見て生唾を飲み込む。
「下はソフィアさんが脱がしてくれませんか?」
ロア君が足をモジモジさせながら言った。
「い、いいのね。ぬ、脱がすよ?」
緊張で言葉が出にくくなっている。
「はい……」
私はロア君の穿いているショートパンツに手をかけ下着と一緒に脱がす。すると白い光に包まれて私は自宅の天井を眺めていた。
夢だったのだ。
「クソが!」
私はもう一息で夢の中ではあるがロア君と一つになれたというのに窓から差し込む朝日がそれを邪魔した。
夢の中であと十分いや五分あればロア君と結ばれたというのに何という事だ。
「はぁ……」
私は深いため息を付いた。あと五分などと言ってはいるが本当はあの先が解らないから目が覚めたのではないか?何せロア君の下半身を見た事がないのだ。むしろあそこで目が覚めたのは必然といえよう。
そう自分に言い聞かせ、今日の仕事に備えるためベッドを後にする。今日は映画の告知の為色々な番組にゲスト出演する予定で、その中にはロア君と一緒に番組に出演する予定もある。
だからあんな夢を見てしまったのだろう。私は外出の準備を終え今日の収録現場に向かう。
そこにはロア君がスタジオに続く廊下で番組がスタートするのを待っていた。いつぶりだろうか、撮影が終わってからロア君とは会っていなかったので少し懐かしさを感じている。
「ロア君、久しぶり」
私はロア君に話しかける。以前は話しかける時も緊張していたが今では何のストレスも感じずに話しかける事ができる。
「ソフィアさん、お久しぶりです」
ロア君が笑顔で私に返事をする。無邪気な笑顔がたまらない。
「今日は二人で頑張りましょうね」
ロア君の意気込みが伝わってくる。
「うん、今日は映画の告知をいっぱいしなくちゃね」
私はロア君の顔を見るたびに朝の夢を思い出してしまい鼓動が速くなる。それは後ろめたさからくるものだろうか。
今回の出演する番組は30分のトーク番組『マジイズム』毎回別のゲストを招き司会者が『マジ』なトークを展開していくというコンセプトの番組で人気も上々。
番組の司会者はタイミー・タ―キッシュさん。45歳のピンのコメディアン出身で現在はテレビ番組の司会進行の仕事が多い。既婚者でイケメンの夫がいる数少ない恵まれた女性で勝ち組の中の勝ち組と言って差し支えないだろう。容姿は口が大きくたれ目なベリーショートの赤毛で業界の内外から人気の司会者である。私は何度かタイミーさんの番組で何度かゲストで出演した事があるので面識がある。
番組がスタートしタイミーさんがカメラの前に登場し番組お決まりのセリフを言う。
「はい、今日のゲストに登場してもらいましょう。ソフィア・フランソワーズさんとロア・グッドール君です」
セットと向かい合わせのように作られた観覧席に座るお客さんと、スタッフ全員が拍手で私たちを出迎えてくれる。私たちはオシャレなセットの奥の扉から登場する。スタジオのセットは人数分の椅子とダイニングテーブル。
タイミーさんが座る席には番組進行用の台本と私たちが告知する『流浪のエルフ』のパンフレットが置いてある。
大きな拍手の中に私とロア君が並んで登場すると観覧席にいる女性達から黄色い声援が木霊する。その歓声はしばらく落ち着く事はなくスタッフがこれ以上は進行の妨げになると思い大げさなジェスチャーで女性たちを鎮めようとしていた。スタッフ達の懸命なジェスチャーにより場が収まり始めた頃タイミーさんがようやく番組を進行させた。
「はい。皆さんが静かになるまで五分かかりました~」
タイミーさんが学校の先生みたいな口調で言った。
「今までこんなに歓声が響いた事ないよ。番組史上最長の歓声だよ。可愛いのは確かだけどねー。さあ、どうぞ座って」
タイミーさんがちょっとしたアドリブを入れつつも私たちに座るよう促し番組の台本に沿った進行を始めた。座る位置はタイミーさんの隣が私で、私の隣がロア君という席順になっている。
「ソフィアは久しぶりに会うけど。今気になるのは隣のその子なんだよ一体誰なの?」
タイミーさんがロア君に話を振った。
「今度上映する壮大なエルフの冒険活劇を描いた『流浪のエルフ』でソフィアさんと共演しました。ロア・グッドールです」
ロア君がさらっと自己紹介を兼ねた告知を放り込む。
「うあ~キター!いきなり映画の告知してきた!悪い大人たちにこうしろって言われたのね!可哀想に!」
タイミーさんは大げさにリアクションするがそんな事はない。本番が始まる前にこの段取りを舞台袖で考案し登場の数十分前にロア君に説明していた。
「いえ、違います。本番前にタイミーさんが教えたとおりの事を言ったまでです」
ロア君が笑顔で正直に答えた。
「あちゃ~この子言っちゃったよ~テレビの裏側を全部言っちゃったよ~。もう正直なんだから!ダメだぞ!そう言うのは言わないのが約束でしょ!」
タイミーさんがまた大げさにリアクションしているがここも全部タイミーさんが本番前に仕込んでいた。ゲストを嘘を付けない正直者にし好感度を上げつつ番組を盛り上げようとするタイミーさんの策略である。
「で、ソフィアは何しに来たの?もう本番始まってるけど?」
真顔になったタイミーさんが私に話を振ってきた。
「いや、酷いですよ。私も出てるんです、ロア君が言いましたよ」
タイミーさんとロア君を交互に見て応える。
「何に!?」
解ってないふりをしながら訊き返してくるタイミーさん。
「映画ですよ!」
私はテーブルに置いてあるパンフレットを指さす。
「この映画のどれ!?」
タイミーさんが手元にある映画のパンフレットを見ながらボケる。
「これですよ。一番手前の!」
私は身を乗り出しタイミーさんが持っているパンフレットを直接指さし指摘する。
「主人公みたいじゃん」
タイミーさんが驚きの表情でパンフレットから顔を上げる。パンフレットのレイアウトは私とロア君が一番手前で並んで配置されその後ろに敵役のシンディさんや主要キャストが並びさらに奥に登場する怪物などが配置された王道のレイアウト。
「主人公なんですよ!」
私はタイミーさんが言った言葉を繰り返す。
「え?ロア君が主人公じゃないの?同じくらい手前にいるけど」
タイミーさんが率直な意見を述べる。
「いや、あの……ロア君が主人公でしょ?って訊かれると否定はしにくいです」
確かにパンフレットのレイアウトは私とロア君が同じくらい大きく表紙を飾っているのでそう見えてしまうのは仕方のない事だと思う。
「ヤッバい、映画業界の闇に触れちゃった?」
タイミーさんはすっとぼけた表情で言う。
「触れてないです。あっ……ていうか闇なんてないですよ。やだな~」
私は少し焦ってしまい、いかにも闇があるような感じで応えてしまった。
「ブハハ!闇は闇のまま触れずにほっといてっと……」
タイミーさんが闇の存在を隠そうとする。
「闇はないですからね!」
私は念を押すように否定をするが否定しすぎるのもおかしい。どうやっても怪しさが出てしまうのが難しい所である。それを気にも留めず、タイミーさんがまた番組を進行させる為手元に置いてある台本に視線を落とす。
~映画では銃を乱射しても当たらない事の方が多い。主人公が逃げているのならなおさら・・・~
ワンチャン・ドラム




