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番外編 前世に置き忘れてしまったもの byロア・グッドール

前回がちょっとボケ足りなくて書いた番外編になります。

僕のマネージャー、カレン・ビーンズさんが家に訪ねてきた。

新しい仕事の説明に来たようなので、カレンさんをリビングに招き僕と母でカレンさんの説明を聞く。


「ロア君久しぶり、なんだか二年近く合ってないような気がするね」


カレンさんが何か可笑しな事を言っている。二年だなんてそんな事はない、海外ロケの間だけあってないのでどう考えても一か月弱位だろう。二年という数字がどこから出てきたのか全く謎だ。


「やだなぁ、そんな事ないですよ錯覚じゃないですか?」


僕は小首を傾げながらカレンさんを否定した。


「はわわ……ロア君ちょっと見ない間に小悪魔感でてきちゃってる……」


カレンさんは身震いしているが決して恐怖を感じて震えているわけではないようだ。むしろ喜びを噛みしめている様に見えた。


「そんな事より今度はどんな仕事かしら?」


母は冷静に言った。


「あっハイ!今回はですねコマーシャルのお仕事なんですけど……これに目を通していただきたいんです」


カレンさんが大きめのショルダーバッグから一冊のバインダーを取り出しながら言った。

中を見ると企業が作ったコマーシャルの絵コンテと企画書がプリントしてあった。


その内容は小熊と親熊が手をつなぎ商店街を歩きながら一軒の店に入っていき一つの商品を手に取り購入し山へ帰って行った後に、ナレーションと字幕を入れて『クマも冬ごもりの前には必ず食べる極上のアイス。ハボックック』といったお菓子メーカーのアイスのコマーシャルのようだ。

母はその企画書と絵コンテを交互に見ながら言った。


「あのさ……これ、ロア君がやる仕事かな?」


母は真顔で言い放つ。

僕はどういう事だろうと企画書の方を見ると、クマの親子は着ぐるみ仕様と企画書に記載されていた。

着ぐるみという事は、顔はおろか身体すらテレビには映らないという事だ。これでは中に誰が入っていても一緒である。


「この仕事をやる事でロア君の華々しいキャリアに汚点を残すことにならないか?」


母は少し眉間に皺を寄せ言った。


「そ、それはその……あの何と言いますか、ロア君はまだ子役としての実績がなく演技力が求められるコマーシャルなどはちょっと無理がありまして……」


カレンさんは歯切れの悪い返答をした。


「かー!違うでしょ!売り方が悪いでしょ!あのアンナ・マローン監督を唸らせた逸材だよ?並の子役のマネージメントの仕方をしてるのがもうダメ!意識低すぎ!」


母はカレンさんに無茶な要求をしているようだ。


「ロア君もそう思うでしょ?」


母が僕に話を振ってきた。


「うーん……」


僕は少し考え込み明確な返答が出来なかった。


正直に言えば、今回の仕事の内容は個人的に気が乗らないというか『全身着ぐるみだと僕じゃなくてもいいんだよなぁ……』という結論に至りやる気が出てこない。

このモヤモヤとした感覚は一体何だろう。


「ダメね。この仕事は断るわ、ロア君も気乗りしないみたいだし。というか気乗りしないのも当然だわ、誰がやったって着ぐるみを着てしまえば誰かわからないんだもの。ロア君である必要性がないわ」


母は呆れた口調で言った。


「うぅぅ……確かに誰かは解らないかもしれませんが、これはコマーシャル業界の人たちに顔を知ってもらうチャンスだと思うんです」


カレンさんも負けじと食い下がる。


「顔を知ってもらうって?着ぐるみ着てたら解んないでしょ!?」


母は興奮状態になり自分の言っている事が良く解らなくなっていた。


「いや、一日中着ぐるみを着てるわけではないんですが……」


カレンさんが正論を述べる。


「それも、そうでした!」


母が勢いをそのままにカレンさんの言葉を肯定した。


「フフッ……もうお母さんたら~」


僕は母の切り替えしにふき出してしまった。


「えへへ……お母さんまたうっかりしちゃったよー」


母がヘラヘラしながら言った直後に母が急にキリッと顔を引き締める。


「それとこれとは話が別よ。この仕事は役不足だと言いたいの」


母が本来言いたかったことを言った。

『役不足』か前世では一度も言われたことのない言葉だな。


前世の記憶だとコマーシャルの仕事がきたらとても嬉しかった筈だ。たとえそれが大勢いるエキストラ役の一人でも、15秒の中のたった1秒しか映らなかったとしても俳優業には変わらないと胸を張って仕事をしていた。どんな役でも自分の為になると思い挑戦していこうと決めていたんだ。


今はどうだろう、このモヤモヤとした感覚はここ最近の出来事が大きく関係しているのではないだろうか。

今まで一流の製作会社とスタッフ、キャストの皆に特別扱いをされてきた事で自分を特別な存在だと思い込んでいた?

そう僕は『天狗』になっていたんだ。特別扱いをされる事を当たり前だと思い。本当の自分はまだ何の実績も残せてはいない俳優で、もっと色んな事に挑戦しなくてはいけないんだ。


「お母さん僕やるよ!」


僕は立ち上がり宣言する。


「へ?何を?」


母が僕を見上げて言った。


「このお仕事やってみる」


母とカレンさんの目を交互に見てはっきりと言った。


「ナンデェ!?ロア君無理しなくても……」


母は戸惑っている様子で僕を説得しようとする。


「無理して言ってるわけじゃないんだ。僕が初心を忘れないためにもこれは必要なお仕事なんだ」


母の目を見つめ僕が正直に答える。


「あの……ロア君、デヴュー作も世に出ていないのに初心を思い出すの?」


カレンさんがもっともな疑問を口にした。


「そうです。着ぐるみといえど演じる事に変わりはないんです。表情や声を使わず動きのみで演技をするのは普段の撮影よりずっと難しい、だからこそ今挑戦するべきなんです」


僕は拳を握り前世での初心を心に響かせる。


「立派だわ……ロア君。そこまで考えていたなんて」


母は軽く拍手をするようにしみじみと僕を褒めてくれた。


「でも挑戦する事の大切さを思い出させてくれたのはお母さんだよ」


僕は母の言葉によって初心を思い出すことができた。母が何も言わなかったら今も僕は勘違いをし続けていただろう。


「え!?ワタシ!そんな事……言われたら私……ロア君が天才過ぎてツラいよぉ……」


母は口元をおさえ感激していた。


「カレンさん勝手な事言ってごめんなさい。僕やります!」


カレンさんは開いた口が塞がらないようだ。それもそのはずさっきまで主演を渋っていたのに急にでると言い出したのだから。


「カレン、ロア君のバックアップよろしくね」


母が感激の涙を流しながらカレンさんに言った。


「アッ……ハイ……」


カレンさんがポツリと返事をした。

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