逆転世界でいうキュロットはスカートの位置づけ? byロア・グッドール
貞操逆転の別の作品を読んでいると「そういう考え方もあるのか~」という作者それぞれの解釈の仕方が面白いですね。
ロケ撮影も終盤に入り、海の見える綺麗なビーチで撮影を行っている。
綺麗な場所で撮影をしているが、バカンスに来た訳ではないので夜になってもスタッフさんの作業は続けられる。背景セットのセッティングや小道具の仕上げ、撮影機材の配置など撮影現場の雰囲気は終盤に入り疲労と焦燥感で張りつめている。スタッフは全員自分の作業に追われ口数も減りつつあった。
僕はそんな雰囲気を少しでも良くしたいと思い、何かできないだろうかと監督に尋ねたら良い方法があると提案してくれた。
それは僕が夜まで働いているスタッフに夜食を届けるというものだ。そんな事で現場の雰囲気が和らぐだろうか疑問に思うがここは逆転世界だ、己のもつポテンシャルをまずは信じてみよう。
元々夜遅くまで働くスタッフの為に夜食を作る料理人が常駐しているので僕はその夜食を受け取り皆に配るだけなのだが、何故か衣装が用意されていた。
わざわざ衣装まで作ってくれるなんて有り難いとは思うが、忙しいなか衣装班がわざわざ作ってくれたのは申し訳なさもある。
だからこそ皆の思いを背負い僕は衣装に袖を通す、白のキャップにオレンジ色のポロシャツとキュロット。それぞれに映画のタイトルがワンポイントで刺繍されている。
僕は着替え終えると厨房に向かい夜食の入った大きめのショルダーバッグを肩に掛ける。運べない訳ではないが重さを感じる。ちなみに今日の夜食はローストビーフサンドのようだ。
レタスとトマトとローストビ―フが二重にサンドされ一つ一つがラップで巻かれている。
僕一人ではすべての夜食を運べないので監督もお手伝いすると言ってくれました。
作業中のスタッフの所に持っていく途中で僕の存在に気づいた何人かにその場で手渡しすることになった。それがどんどん波及し、ほとんどのスタッフが作業の手を止め僕の周りに集まり始めていた。
貰ったスタッフたちは皆笑顔でローストビーフサンドを頬張っている。これで少しは現場の雰囲気も和らいだ事だろう。一部を除いては……。
「ほら!受け取れよ!1人1個までだぞ。これで8時間は働けるな!わっはっは!……」
監督も僕の隣でスタッフに笑顔で手渡ししているがほとんどのスタッフは進んで受け取ろうとしない、それどころか目を合わせようとしない。
それでも監督はスタッフを強引に捕まえ手渡ししていく、渡されたスタッフも悲しそうな顔をしている。
それもそのはずだ、同じものを手渡しされるなら美少年か中年女性か。働くスタッフのほとんどは女性なのだから美少年から受け取りたいと願うのは当然の事だった。
「おーい!ロア君の方は混んできたから、私から貰ったほうが早いぞー!私も同じもの持っているんだからこっちに並べ―」
僕の周りに出来た人だかりの中で僕からまだ貰っていない人達は監督の言葉を聞いて一瞬体を震わせ硬直させる。監督は好意でやってくれているので文句も言いづらい状況だ。
上司が気を利かせ雑用を買ってでるのは部下たちからすれば本来なら親近感が湧いてくる出来事なのだろう。でも『今は止めて欲しい』という願いは監督には届いていないようだ。
スタッフの皆は監督と視線を合わせない様に目を伏せている。だが監督が一人に注目する、シンディさんだ。
「シンディも貰いに来たのか。ほら、受け取りな!」
シンディさんは夜のシーンを撮影するため衣装に着替えて出番を待っていたのだが、スタッフたちの動きやすい作業服の中で一人撮影用の黒いレザーの衣装を着ている事で非常に目立ってしまった。
それでもシンディさんは監督に気づかれぬように身体を小さくして周りのスタッフ達紛れ込もうとしていた。
「監督……いらないです。私はもう貰ったので……」
「嘘つけ、両手が手ぶらじゃないか。これを食って夜の撮影も頑張れよ」
シンディさんは苦虫を噛み潰したような顔でローストビーフサンドを受け取る。僕もその光景を見て少し可哀想な気がしてきたので監督に提案してみた。
「あの~監督、ちょっと混みあってきたので皆さんに並ぶよう指示を出してくれませんか?」
僕はやんわりと監督のやっている事を止めさせる。
「へ?スタッフ達を?」
「はい、このままだと手渡しするにも効率が悪いですし。お願いします」
僕は上目遣いで監督に頼んだ。
「おっほ!こりゃたまらん……じゃなくて。確かにスタッフたちがロア君を取り囲んで何か良からぬことを仕出かすやもしれんな。すぐに実行しよう」
すると監督は拡声器を取り出しスタッフの皆さんに指示を出し始める。
「お前たち一列に並べー。列を乱すものは私が恥ずかしい制裁を加えてやるぞ。お前たちの持っているハードディスクの中身を全て公表してやる!」
言っていることは過激だが監督から手渡しされる事がなくなった事に安堵すると同時にそんな事されたら社会的に抹殺されてしまう事に対する恐怖で速やかに一本の列が形成されていく。
「ほう、よほど恐ろしいらしいな!このスケベ外道め!」
監督はスタッフ達の列の隣を沿うように歩きながら、新米兵士を罵倒する鬼教官のようだった。
「このクズどもめ!お前らはケツを拭いた紙にも劣る存在だ!男の裸で頭が一杯なのか?ん?どうなんだ?いつでも股間を濡らしているのか?え?どうなんだこのクズが!」
僕は監督がスタッフを口汚く罵っている間にシンディさんに近づきローストビーフサンドを取り上げる。
「さぁ、シンディさんも列に並んでください」
「へ?は、はい!」
シンディさんは最初何が起きたのか解らず硬直していたがすぐに察し、スキップしながら列の最後尾を目指していく。
そこからはまるでアイドルの握手会のような形になってきた。ただ違うのが僕の方からプレゼントするという事だ。
僕が夜食を手渡し一言『夜の作業も大変でしょうが頑張ってください』などの言葉を言い。スタッフが握手を求めればそれに応じ、数十秒経過すると監督が引きはがしに来るといった段取りだ。
スタッフの一人が息を荒げ僕と握手している。
「ロア君とってもキュロットが似合うね。白い足が最高だよ、グヘへへ。それとそれと!ロア君の手はなんて……はぁはぁ……スベスベしているの……はぁはぁ……この手はロア君の身体のいたるところに触れている。それに触れている私はロア君の身体を……」
「はい。そこまでー離れてー」
早口で喋るスタッフを監督が引きはがしに来た。
「いや、あのまだ……貰ってないん……ですけど……」
「ローストビーフサンドの事かい?それなら私から授けよう」
監督はスタッフの手に力強くローストビーフサンドを渡す。
「よし!仕事に戻れ」
何か言いたげな表情をしていたが監督の無言の圧力で何も言い返せず僕達から離れていく、恐らく気が弱い性格のスタッフさんなのだろう。
並ぶスタッフのほとんどに渡し終え監督も本来の仕事に戻るらしく仕事場に帰って行く。その瞬間を見計らったようにシンディさんが僕の前に現れた。
「ロアく~ん一つくださ~い」
シンディさんが両手を差し出しローストビーフサンドをねだっている。
「はーい」
僕も残り少なくなったローストビーフサンドを渡す。
「ねぇ~ロア君、一緒に食べない?まだ残ってるでしょ?」
「え?いいのかな?スタッフさんの為のモノだし」
「ロア君も働いてるんだから大丈夫でしょ」
「そ、そうですね。残してしまうのも勿体ないですし。それじゃあお言葉に甘えて」
僕もこのローストビーフサンドを食べてみたかったのでこの提案は渡りに船である。
僕たちは近くに置いてあった折り畳み式の椅子を取りスタッフさん達の邪魔にならない様に撮影セットから少し離れたところで横並びにしてに座りローストビーフサンドを口に運ぶ。
スタッフさんの声や照明器具などに電力を送る発電機のエンジン音が遠くに聞こえる。
「すごい美味しいですね」
「そうだね~これがあるのと、ないのとではスタッフのモチベーションにも影響するよね~」
僕たちはローストビーフサンドを食べ終え、まったりと会話をし始めた。
「ロア君、撮影もそろそろ終わるけどどうだった?」
「とても楽しかったです。それに色んな経験も出来たし、僕にとっては何一つ無駄のない日々でした」
「そっか……わたしもこの数か月楽しかったなぁ。こんなに楽しかった現場は今までなかったな……」
珍しく真面目な口調で喋るシンディさんに僕は驚き、真横にいるシンディさんの顔を見つめた。眩しいほどの灯りを浴びる野外セット、それを眺めるシンディさんの横顔は穏やかな表情をしていた。
「ねぇ~ロア君、私の膝に座ってくれない?あの時は邪魔が入って座ってくれなかったでしょ?おねが~い」
あの時とは、出会って間もないころのソフィアさんが邪魔をしてきた『あの時』の事だろう。祈るように僕に頼みごとをするシンディさん
「いいですよ!」
僕は椅子から立ち上がり、すぐ横にいるシンディさんの前まで行きシンディさんの膝の上に腰かける。
「ふふ……キタキタ~」
シンディさんは後ろから僕を抱きかかえて首筋に顔を押し当てる。シンディさんの呼吸音がよく聞こえる。
「シンディさん、首筋はくすぐったいですよ」
シンディさんの息が首筋に当たりとてもこそばゆく感じてしまう。
「う~だってこれで最後かもしれないんだもん。ロアきゅ~ん、離れたくないよ~」
もう撮影が終わってしまえばシンディさんやソフィアさんと会う事も少なくなってしまうのかと思うと急に寂しさが込み上げてきた。
「そうですね。僕もいっぱい甘えちゃおうかな」
「マジで!?それは良いね~どんと来いだよ~」
シンディさんが僕のお腹を後ろから抱きかかえる。
「ロア君さっきは助かったよ~。監督の外道な行為から私を救ってくれてありがと~」
「いつもお世話になってますから。あれぐらい何てことないですよ」
「ロア君は可愛くて~優しくて~その上気が利くなんて~コチョコチョしたくなっちゃう!」
突然僕の脇腹をシンディさんの指が忙しなく動き、くすぐり始める。
「アハハハハ……やめ、やめてください……アハハ」
「ロアきゅ~ん最高だよ~」
僕はシンディさんの指から必死に逃れようと体をよじる。
「あ!?ロア君そんなに暴れたら。あ~」
「ふぇ!?」
僕とシンディさんが腰かけていた椅子が後ろ向きに倒れ砂粒が舞う。僕の身体にそれほど衝撃はなかった。
それは砂浜とシンディさんをクッション代わりにした為である。シンディさんは自分の身体を使い僕を守ったとも言える。
「大丈夫ですか!?」
僕はすぐにシンディさんの上から退く。シンディさんは夜空を見上げゆっくりと体を起こす。
「今気づいたよ。今日は満月だったんだね」
「え?」
「どおりでロア君が綺麗に見える訳だ」
シンディさんはそう言うと目を閉じて口を尖らせている。この展開はまさか僕とキスをしようとしているのだろうか。このタイミングで『行ける!』って判断したのか。
なんてメンタルの強い人だ。でも、こんな綺麗な女優さんとキスできるならどんなシチュエーションでもいいのでは?でもこの事が後々週刊誌とかにリークされたらどうしようか……。
などと逡巡していると僕の顔の横からヤシの実が出てくる。
何事かと思ったら、こっそりと忍び寄っていた監督がその辺に落ちていたヤシの実を拾いシンディさんの唇にあてがっていた。
「あれ?ロア君の唇って何か繊維質だね?」
目をつぶり軽くヤシの実とキスをしたシンディさんがもっともな質問をしてきた。
するとここでシンディさんが目を開け、視界がヤシの実で支配されている事に面を食らっている。
「出番だぞ!この、ショタコン女優!」
シンディさんの目線が監督の顔を確認し、次に移し差し出されたヤシの実を見る事で状況を理解したようだ。
「え~~~ウソでしょ!?」
シンディさんは露骨にがっかりし仰け反る。
「よし!連れて行け!」
すると屈強な女性スタッフがシンディさんの両腕を取り撮影セットに向かい引きずっていく。砂浜にはシンディさんの引きずられた足で作られた二本の筋が残された。
~深いようで浅い事を言うのは私にとってとても大事な事なんだ~
ワンチャン・ドラム




