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温泉に浸かりたいんです。 byロア・グッドール

温泉て良いものですね。子供の頃は熱い湯船に浸かってられなかったけど大人になるとちょっと熱めの温度じゃないと入った気がしなくなったのは何故だろう……。

永久凍土の大地が広がる北の国。『スワン国』間欠泉や温泉などの観光資源も豊富な国である。

そこをロケ地として選んだ監督。撮影機材や美術セットの運搬をし始める頃、キャストやスタッフはいち早く現地入りし数日の休暇得る事ができた。


ここは温泉が有名だと聞きつけ全員で入りに行く事になった。もちろん水着着用のスパである。

この世界の男子の水着は下だけではなく上半身も着用するのが常識なようで、着用していないと『露出狂』と思われるらしい。だがこの世界は女性の比率が多く男性の裸に餓えているので嫌悪感を抱くものはほとんどいない。

個人的には海パン一丁でも何の抵抗もないのだが、だからと言って着ないとイヤラシイ目で見られてしまう一応僕も芸能人なのでイメージは大事にしていかなくてはならない。


僕は水着を現地で買えばいいと思っていたが、これがまずかった。女性のキャストやスタッフが僕の水着を是非選出したいと言い出してしまい中々水着が決まらない。


店内の男性用水着売り場に女性が目をギラギラさせながら物色している様はさぞかし周りから変に見られているのだろう。他のお客さんに変態の集団だと思われているのではないか不安でもある。


もし僕がこの場を去るとこの人たちはどうなってしまうのだろう。警察までは呼ばれないにしてもお店の事務所に連れて行かれ出入り禁止の宣告を受けてしまったりするのだろうか。

それに、男の水着なんてそんなに選択肢がないと思っていたがこの世界では女性よりも男性の水着のほうが種類が豊富だった。女性の水着売り場を見るとシンプルなデザインのものが多く色合いも似たり寄ったりである。


それに引き換え男性用水着売り場は女性の水着売り場と同等の面積を展開している。女性の人口の方が多いのだから買ってくれる客層は薄いはず、それでもしっかりと用意されるあたり男女平等の理念からきているのだろう。


品ぞろえもブーメランタイプやトランクスタイプ。競泳用のピッタリとしたものなどを基本としながら装飾も施され、なにより全体的に華やかな色調である。


この世界の人口比率から考えても破格の待遇だと思うが、女性より男性の水着姿のほうが注目を集めるのだからこのバリエーションの多さも致し方ないのかもしれない。


僕は一つの水着を手に取る。例えばこの『フリルの付いた鮮やかな紫のブーメランパンツ』はかなり派手なものに分類されるだろう。一体どんな男がこれを着こなせるというのだ。


「ロア君何見てるの?それカワイイね。ロア君にピッタリだと思うなぁ」


ブーメランパンツをまじまじと見つめる僕の背後からソフィアさんが褒めてくる。あまり有り難くはない。


「え!?そうですか?僕はあんまり派手なのはちょっと……」


「えーすごくカワイイよー」


「いやいいです。もっと普通のデザインのものがいいです」


水着は僕の方で決めてしまおう。それが一番いい。


「あっ!僕これにします。」


僕は持っていた水着を元あった場所に返し、青のトランクスタイプの水着と灰色のタンクトップを選ぶ。


「そ、そっか……それにするんだね……」


ソフィアさんも含めた一同が一斉に僕の方を向きガッカリした表情をしていた。仕方ないでしょこのままじゃ埒があかないし僕は早く温泉に浸かりたいんだ。


ソフィアさんは後ろに隠し持っていた『フリル付きの鮮やかなオレンジ色のブーメランパンツ』を売り場に戻しに行く。え?流行ってるの?今年のトレンドなの?








お湯に浸かると少し温く感じるが、そこは長く浸かっていられるようにする為の気遣いなのだろう。それでも僕は少し物足りなさを感じている。

スパは平日という事もありお客さんの数もそれほど多くはない。お客の約八割は僕たち映画に関わるスタッフやキャストで構成されていた。


ソフィアさんとシンディさんも水着を着て浴場に入ってくる。ソフィアさんは最先端の競泳水着なのだろう、表面は魚鱗のような質感で鱗の一つ一つが光沢を放っている。アスリートが身にまとう無駄を徹底的に排除したデザインだ。


かたやシンディさんは布面積を徹底的に排除した紐で結ぶ黒のマイクロビキニ。セクシーさを全面に出していくスタイル。二人とも別の意味で気合が入り過ぎている。


スパで競泳用の水着はどうなんだろう。泳げてもせいぜい十メートルぐらいが良い所なのだが、これしか水着を持っていなかったのだろうか?それともここには競泳ができるだけの大きなプールがあるのだろうか?


それとは打って変わってシンディさんの水着の下の部分はTバックになっているじゃないか。最初見たときは正面からしか見られなかったから気づかなかった。


ここまで露出するのはどうなんだろうか、小さな子供もいるのだからもっと落ち着いた水着でいいのでは?


「おいおい~何だその水着は~どうかしてるんじゃないの?今から世界水泳にでも出場するのかしら?」


「先輩の方こそ、そんな水着で露出狂と間違われないでくださいよ。皆の迷惑になりますから」


そんな小競り合いをしながら近づいてくる。僕は温泉に浸かりながらそれを眺めていると二人も僕に気づいたようで声をかけてきた。


「あっ!ロア君だ~」


「どうも、あのお二人とも水着が似合ってますね」


ただし場所をわきまえて欲しい、特にシンディさん。


「ありがとう。ロア君」と二人が声を揃えて言う。


「ちょっとさ~声被ってるんだけど~被せないでくれる?」


「いや先輩の方こそ私の言った後に言えばいいでしょ。何考えてるんですか?」


シンディさんとソフィアさんが小競り合いをしながら僕を間に挟んで入浴する。


「そんな事より~ロア君その水着とってもいいよ~控えめな感じが逆にロア君の魅力を引き立たせてるな~」


「そうですか?」


「うん、そうだよ~よく見せて~」


シンディさんは僕の両肩を掴み正面から向き合いまじまじと眺める。


「うん、うん、やっぱり良いね~最高だね~」


シンディさんは僕を褒めながら肩から二の腕の辺りを撫でまわす。


「シンディさんちょっとくすぐったいですよ」


「え~くすぐったかった?ゴメンゴメン」


撫で回していたシンディさんの手が止まる。


「あのさ~ロア君の後ろから顔を出さないでくれるかな?」


僕は後ろに目を配るとソフィアさんが水面から半分顔を出した状態でシンディさんを睨んでいた。


「そのまま水底に沈んでくれると有り難いかな?」


「先輩、セクハラが過ぎますぞ」


水面から半分顔を出しブクブクと水音を出しながら喋るので聞き取りずらい。


「これは~セクハラじゃなくて~スキンシップってものなの。ね~ロア君」


僕に同意を求めてくるシンディさん。セクハラかどうかの境界線はよく解らないが触られて嫌な気持ちはしないのでセクハラではないと思う。


「そうですね。僕は気にしてませんよ」


「だってさ~」


「ぐぬぬぬ……」


「ソフィアさんもスキンシップします?」


「へ!?」


僕はソフィアさんの方を向き両手でソフィアさんの両頬を挟む。


「お肌がスベスベですね」


「はうっ!ありがと……」


ソフィアさんの頬を触っているとソフィアさんの両腕が僕の背中に回る。


「もう我慢できないー!」


ソフィアさんは僕を抱き寄せ僕の顔がソフィアさんの胸の谷間に埋もれ柔らかい感触に顔が包まれていく。


「静まれ~い」


「ふがっ!」


シンディさんがソフィアさんに何かしたようなので僕は顔を上げると、シンディさんの親指がソフィアさんの鼻を下から押し上げ所謂『ブタ鼻』のようにして押さえていた。


親指はソフィアさんの鼻を捉え他の四本の指はソフィアさんの額へと配置し正確に鼻を押し上げるための支えになっていた。


「や、やめてください……こんな顔見られたくないです……」


「なら腕を解け~この雌豚~」


「解きたくない、でも解かないとブサイクな顔を見られてしまう。ロア君見上げないで!今の私の顔を見ないでー」


いつもより格段に広がった鼻の穴が普段の顔とのギャップでつい笑ってしまいそうになるが、笑ってしまうと見た事になるので笑いを堪える。


「あれ?ロア君?震えてる?笑ってるの?」


シンディさんの親指によって鼻を押し上げられているので顔が下に向かず僕の反応が確認できない為、腕に伝わる感触で僕の反応を推測したようだ。


「いえ、そんな事は……」


僕は笑いを堪えてはいるが肩がどうしても震えてしまう。


「え?笑ってるよね。この感じ絶対笑ってるよ……」


「ロア君!しっかりと見てやって、この愚かなブタを~」


「アハハっ。シンディさん追い打ちしないでください我慢できません」


「やっぱり見てるー」


ようやくソフィアさんが僕を解放する。


「お前ら何やってんの」


後ろから監督が声をかけてくる。監督は紺色のワンピースタイプの水着を着て現れた。


「監督~そんなの見れば解るじゃないですか~ソフィアのブタ鼻を嘲笑ってたんですよ~」


「いや、解んねぇよ。何その新しい遊びは」


監督は距離が開いた僕とソフィアさんの間に入るように入浴した。


「ソフィアが急にロア君に抱き付いたりしたんですよ~だからお仕置きしました」


「え?抱き付いたのかよ。どんな風に?こんな感じか?」


監督はそう言うと自然体のまま僕の身体を包み込む。


「は?いや監督何してんですか?」


「いや私は実況見分をしようとしてだな」


「うらやまし、じゃなくて~離れてください事案発生です」


シンディさんが僕と監督の間に入り込むように手を差し込みそのわずかな隙間に体を滑り込ませる。


「全く油断も隙もあったもんじゃない」


シンディさんが監督を注意しながら僕を抱き寄せる。アンタも抱きしめるんかーいとツッコミを入れる。

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