『濡れ透け』というフェチズム。byアンナ・マローン監督
更新が遅れて申し訳ございません。
モ○スターハ○ターワールドとか色々出てきて…
映画撮影を始めて4週間が過ぎようとしている。予定は例年どおり遅れている。
映画を撮影し始めるといろんなものが足りなかったりするものだ。良いものを撮ろうと思えば仕方のない事だ。
屋外で作った滝の美術セットも本来なら先週までには完成しているはずなのだが滝の水量がイメージと比べ少なく思い通りの映像が撮れなかった。
単純に水量を増やせばいいと思っていたが水をくみ上げる装置が小さくてこれ以上大量に流せないときたもんだ。それじゃあこの装置を大きなものにしたら今度は滝のセットが水量に耐えられず半壊する羽目になった。お蔭でセットの修復と補強で時間を食ってしまった。
それでもようやく滝に入るシーンが撮影できる。一週間の遅れは手痛いがそれは今後のスケジュールでまだどうにかできる段階だといえる。この滝のセットを利用したシーンは以前シロアリと揉めたシーンでもあり、なるべく妥協はしたくなかった。だってせっかく勝ち取った撮影許可だしな。
そしてこのシーンの主役である少年ロア・グッドール君のお出ましだ。彼が着ている衣装は白いシャツにショートパンツという出で立ちである。なぜ白いシャツか?それは透けやすくするためだ。
濡れて透けた衣服が体に吸い付くことによって生まれるフェティシズムは全世界に通じると思っている。
「監督。今日はよろしくお願いします」
「よろしく~」
私は軽く挨拶をすして彼の姿を下から舐めるように見る。実に素晴らしい、私は最高の素材を見つけ出せたと歓喜に震えている。
「どうしたんですか?寒いんですか?」
小刻みに震えている私を気遣うロア君。こういう所がこの子の魅力なんだよな。
「違うよ、ただの武者震いさ」
わたしは満面の笑みで答えるとロア君も笑顔になる。
「良かった。監督が風邪でも引いたら大変ですから」
女である私の身体を気遣ってくれるなんてなんて良い子なんだ。今すぐ抱きしめて頬と頬を擦り合わせたい。いや贅沢を言うなら粘膜と粘膜を……いやなんでもない。
などと考えているとスタッフたちの撮影準備が整い打ち合わせをする。私はジーンズの裾をまくり上げ水を張ったプールの中に入りプールの中でスタッフとキャストに段取りを説明していくロア君も綺麗な瞳で私の説明を一心に聞いている。
すると視界の端に大きなネズミがいた。いやあれはネズミ色のフード付きパーカーを着たシンディだ。今回のシーンに彼女は関係ないがこそこそと隠れながら私たちとの距離を詰めてきている。恐らくロア君が水にぬれる所を見に来たんだろう。
どうしようもないスケベ根性だな。気持ちは解るがこういう小さなことが人間関係をギクシャクさせる事もあるんだ。
私はキャストとスタッフの輪から一人抜け出しネズミの背後に回り込む。フードを被ったネズミは息を殺し撮影が始まるのを今か今かと待っている。私はゆっくりと近づきネズミの首根っこを押さえる。
「オラ!捕まえたぞこのスケベネズミめ!なにコソコソしてやがる!」
「うあっ!?違います私その……あの……そんなつもりは一切ないんです」
「そんなつもりとは一体何なんだ?あ?」
「この事はロア君には言わないで……お願いします監督……私嫌われちゃう」
「嫌われるような事するからだろ」
「可愛い男の子に嫌われたら私生きていけないんです……ううぅ」
「知るか!ボケ!ロア君に直接訊いていやる。ついて来い!」
「ひぃぃ……勘弁してください」
「いや、駄目だ。こういうのが後々問題になったりするんだ。正直に言った方が傷は浅いんだよ」
私はシンディを引っ張りロア君の前に放り出す。
「どうしたんですか?シンディさんそんな格好で」
「それは……その……決してやましい気持ちじゃないの!ちょっと大変なシーンだから心配になって……見学をしたかっただけなの覗くつもりとかじゃないの」
このネズミこの期に及んでまだ言い逃れしようとしてるな。
「え?覗く?」
「ひぃっ!」
「覗かなくてもいいじゃないですか?共演者なんですから」
「ふぇ?だって水に濡れてなんか色々透けちゃうけどいいの?」
「そりゃあ水の中に入れば濡れるし透けますよ。それが何か問題なんですか?」
するとシンディは立ち上がり被っていたフードをとりロア君に近づく
「このシーンは大事なシーンだから集中していこうね」
「ハイ!」
何だこのネズミ運良すぎだろ。ロア君が気にしていない素振りを見るや否や急に先輩風吹かせやがった。普通の男優だったら軽蔑されるところだぞ。
諸々の準備が整い撮影を始める。滝から大量の水が流れ出し下のプールに流れ落ち水しぶきが上がる。想像通りの滝が出来上がったことに私は一先ず満足する。
水を張ったプールの中にロア君が入り水と戯れる。
このシーンは『長旅の中で久しぶりに見つけた清流にはしゃぐディーノ』という状況である。
なんて素晴らしいんだ水しぶきと少年の笑顔がとても良い。服の透け具合も申し分ないものになっている。肌にピッタリ吸い付いた服が私の身体を熱くさせる。
想像以上の出来栄えになり私は満足している。
「はぁはぁ……何て素晴らしいんだ。エロカワイイよぉ……」
ネズミも濡れて透けた服のフェチズムを理解したようだな。だが遅い!遅いぞ!私はとっくの昔に目覚めていた。
ずっと見ていられる光景だがあまり水に浸かり過ぎると風邪を引いてしまう。ここは一旦休憩を挟もう。
昼間とはいえ体温の低下は病気の原因になるし服は同じものを何着も用意しているのだ。焦ってすべてのカットを撮る必要はない。
私が周りのスタッフに休憩の指示を出す。ロア君もプールから上がりタオルで髪や顔を拭く。
長めにこのシーンを撮り映画本編では編集するがDVDやブルーレイディスク版でノーカットの映像特典を用意しておこう。これで円盤の売り上げを確保できる。
そしてこのシーンが私を伝説へと押し上げ、賛否両論が巻き起こり話題性は他の映画とは一線を画すことになるだろう。
話題性が獲得できればあとはどうとでもなる。大衆を味方にしたものが正義になるのだ。普段マスコミがやっている印象操作みたいなものさ。それを今度は私が牛耳っていくのだ。




