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ランチタイムと暴走スイッチ

午前中の撮影が終わりシンディさんと共に巨大スタジオの隣に作られたカフェテリアに行く。ここでは専属のシェフが毎日色んなメニューを作りそれをバイキング形式で選んで食べていく。


僕達はそれぞれトレーを手に持ち自分の好きなものを取っていく


「そういえばピクルス嫌いだったよね?」


「え?そうですけど」


「多めに取っておくわ」


シンディさんがピクルスの漬物をソフィアさんのトレーにどんどん乗せていく


「え?何してるんですか?バカなんですか?」


「いや、ソフィアには嫌いなものを克服してもらいたくて……駄目……だった?」


シンディさんが神妙な顔で答える。


「急に?……今すぐ克服できる訳ないでしょ何考えてるんですか!一度取ったら食べないとお行儀が悪いし!」


「ねぇロア君、嫌いなものを克服したソフィアと嫌いなものを食べられないソフィアはどっちが好き?」


「えっと……」


「そうだよね~何でも食べられる女らしいソフィアの方が好きだよね~」


「ちょっと先輩、ロア君何も答えてないでしょ」


「相変わらず野暮な女だな~言わずもがなでしょ。それよりも私たちが座るテーブルを確保してきなさいよ」


「く~この先輩は~」


ソフィアさんはそそくさと料理をトレーに取り、空いているテーブルを探しに行く。僕たちも好きなメニューを取り終えてソフィアさんがいるテーブルに向かう。


「凄く美味しいですね」


僕はチキンを一口頬張り率直な感想を言う。


「美味しいよね~やっぱプロが作るものは違うね~」


シンディさんも素直に賛同する。


「ピクルスも美味しいよね?」


「そ、そうですね」


「あれれ?その割にはあんま減ってないね?どうしたの?具合悪いの?」


シンディさんがソフィアさんを煽っていく


「ぐぬぬ……」


ソフィアさんが少しずつゆっくりと食べ進めていくのを見ていると僕はどんな味か気になってきた。


「僕もそれ食べていいですか?」


「へ?勿論!いいに決まってるよ!どーぞどーぞ」


僕はピクルスをフォークで一刺しし口の中へ入れる。程よい歯ごたえと絶妙な塩加減が口の中に広がる。


「美味しいじゃないですか」


「えー?」


ソフィアさんが疑問の声を上げ僕は次々とピクルスを食べていきあっという間にピクルスを完食する。


「美味しかったです。ごちそう様までした」


「凄いね。私感心しちゃったよ」


「も~ロア君は~ソフィアを甘やかしちゃ駄目だよ~」


「本当に美味しかったですよ?」


ランチを食べ終える頃にプロデューサーのリンダさんが話しかけてきた。


「こんにちは。ロア君」


「こんにちは。リンダさん」


よく見るとリンダさんはビデオカメラを持っていた。確か今日のスケジュールにはリンダさんと撮影をする予定はなかったような気もするのだが一体何のためだろう。


「どうしたんですか?何か撮影でもするんですか?」


「そうなんです。これから映像特典の一つとしてビデオブログを撮ろうと思っていたんです」


「へーそうなんですか」


するとシンディさんが横から茶々を入れてきた。


「そういう口実にしてナンパしにきたんでしょ~リンダさんも中々隅に置けないんだから~」


「違います。あなたと一緒にしないでください」


「テキビシ~」


リンダさんが冷たく言い放つ


「そうですよ。男の子と解ればすぐ声をかける先輩とは違うんですから」


「く~言ってくれるわね~女の本性を隠しまともなフリをして私を発情した犬のように扱うなんて~」


「いや、そこまでは言ってないですよ先輩」


「こ~なったらロア君に女の欲望がどんなものか教え込んでやるわ~この清純ぶった女どもがどんな下劣な妄想をしているか全部ロア君にある事ない事ぶちまけてやら~グヘへ」


「まずい!先輩に変なスイッチが入ってしまった」


シンディさんは椅子から立ち上がり僕に近づいてくる。僕もこの世界の女性の本音を聞けるかもしれないと興味津々ではあるがここで関心を示してしまうのはおかしいのだろう。


するとソフィアさんも立ち上がりシンディさんの肩を叩く。


「何じゃいワレ~!」


「先輩落ち着いてください!」


ソフィアさんがシンディさんの顎を掠めるように素早いジャブを放つ。ソフィアさんの拳は一見空振りしたようにも見えるがそのジャブの効果はすぐにシンディさんの身体に出てくる。


「あっふ……」


シンディさんは膝から崩れ、膝をついた瞬間ソフィアさんがシンディさんの身体をこれ以上倒れないように支える。


「ソフィアさん一体何をしたんですか?」


「軽く脳を揺らしたの。先輩の暴走を止めるにはこれしかないと思って……仕方のない事だったの」


ソフィアさんはそう言うと意識のないシンディさんを肩に担ぐ。


「それじゃあ、私はこれから先輩を医務室に運んでいくね」


「あっ……ハイ」


ソフィアさんは人一人を担ぎカフェテリアを後にする。するとリンダさんが改めて僕への要件を何事も無かったように話し出す。


「それでね、ロア君にもこのビデオブログに出て欲しいなって思ってたんです。どうですか?」


「いいですよ。あっ!でも僕もこれから撮影があるので明日とかでもいいですか?」


「勿論!空いた時間で一向に構わないですから」


「そうですか。それじゃあ明日なら比較的空き時間があるので明日から撮りましょうか」


「ありがとう恩に着ます」


「いえいえ、これも映画の為ですから」



昼食の時間が終わり午後の撮影がスタートする。午後の撮影は僕も出演するので緊張するが、セリフはなく僕とソフィアさんが森の中を逃げるというシーンだ。


撮影のプランはソフィアさんが僕の手を引っ張りながら森の中を走り抜けていき、途中カメラのカットが切り替わったところで映画ではお約束の『逃亡中のヒロインが盛大に転ぶ』というシーンになる。


この世界ではヒロインではなくヒーローが盛大に転ぶと言ったほうが正しい。なにせ女性のほうが男性より逞しいというこの世界では危機的状況になれば足手まといになるのは男性でそれを助けるのは女性という構図になったほうが自然だ。


監督は僕たち二人に撮影プランを伝えどういう動きになるかを教えてくれる。カメラの動きや美術セットの配置を考慮し走るルートを決めていき白いテープで印をつけたところが僕の転ぶ位置だ。とにかく自然に転ばなくてはならないのだ。


印をつけた場所には柔らかいマットが敷いてあるのでケガの心配はない。頭の中でどうやったら自然に転ぶことができるのか考え、転ぶ状況を頭の中でイメージする。転ぶ前の動きはソフィアさんに手を引かれながら走っているので身体は伸びきっている。

視線はなるべく遠くを見て地面に体が倒れてから下を見る位が丁度いいだろう。なるべく手を着かず身体から地面に突っ込む。リハーサルで何度か練習を重ね監督のお墨付きを貰ってから本番を始める。


監督がメガホンで「アクション」の掛け声とともにスタッフとキャストが一斉に動き出す。


僕とソフィアさんが手をつないで森のセットの中を走り抜ける。ソフィアさんは僕の走るスピードを考慮し加減をしながら走ってくれている。僕が転倒する印までもうすぐの所でソフィアさんが一気に加速し僕が転びやすいように手を引く。ソフィアさんに引っ張られた力を利用し手を離しマットに倒れ込む。

監督が「カット」の掛け声とともに機材を停止させる。


するとソフィアさんが心配そうに駆け寄ってきた。


「大丈夫?ケガはない?」


「大丈夫ですよ。どこもケガしてませんよ」


「良かった~ちょっと強引に引っ張り過ぎちゃったかな?」


「そんな事ないですよ。あれぐらいで丁度良かったと思います」


監督がすぐに僕の転倒シーンを見返す。


「オッケー!良いこけっぷりだったよ」


良いこけっぷりって何だろう?と思いながら僕は褒められたことを素直に喜ぶことにした。

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