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映画には互いを尊重しあうのが大事なんです。byリンダ・デニッシュ

前回の続きになります。

泣いているロア君の姿を監督とカロリーヌが同時に気づくが両者の反応は全く違うものであった。

監督はこの時を待っていたかのように笑みをこぼし、カロリーヌは驚き動揺している。


「ど、どうしたの?なにが、え?」


すると監督がゆっくりと立ち上がりカロリーヌを指さした。


「男の子を泣かすなんてどうしようもないヤツだな!男を泣かす女は最低なんだぞ」


「あ、貴方何を言っているの?私は何もしてない」


「何もしてないのに男の子が泣くかよ!」


監督がロア君の頭を優しく撫でる。


「酷いよな、どうしてこんな酷い事が出来るんだろうな私には解らないよ。でも安心してカメラでバッチリ撮っているからこのままでは終わらせないよ」


混乱してきた状況をさらにかき乱す監督。奴らが一番嫌がる事ってこれの事だったのか。


「貴方まさか子供を利用しているの?こんな事許されない」


カロリーヌは慌てている。男の子を泣かしているのだ、これが街中なら理由はどうあれ通報されている事だろう。


「違うんです……僕が全部悪いんです…ううぅ」


ロア君がさらにたたみかける。というかロア君は何を理由に泣いているのか解らない。味方の私ですら解らないのだからカロリーヌには皆目見当もつかないだろうな。


「泣かないで、私は別にあなたの事を悪いだなんて一言も言ってないの」


カロリーヌが内ポケットから綺麗に畳んだハンカチをロア君に渡す。


「でも僕がいたから……この映画の撮影を許可出来ないんですよね。……ぐすっ」


「そうとは言ってないんだよ、男の子の裸はダメですよっていう理由だから」


流石のカロリーヌも優しい口調で話している。


「さっきと言っている事が違うじゃねーかよ!ロア君の身体は卑猥って言ってたじゃねーかよ!」


監督がチャチャを入れる。


「言ってないし!ねつ造をするな!」


カロリーヌが声を荒げる。


「怒らないで……ください……ううぅ……なんでもしますから……」


「ん?今なんでもって」


カロリーヌがロア君の言葉に反応した。一体何を想像しているんだ。


「調査官のカロリーヌ様はどうやら小さな男の子に欲情してしまうようだな!」


「何を言っている!そんなつもりはない!その、少し気になっただけだ」


「歯切れの悪さが本気っぽくて怖いんだよ」


「それよりもこんな幼気な少年を利用して恥ずかしくはないのですか!」


カロリーヌは監督を睨む。


「少しも恥ずかしくないね。私は自分の撮りたい映画の為ならどんな事でもする」


「本気で言っているの?」


カロリーヌが監督の本性を理解し始める。


「もちろん本気だ。今カメラで撮った映像はリアルタイムで編成室に送られ私たちの都合の良いように編集をしている。私が編成室にいるスタッフに電話一本いれればその映像はネットにアップロードされる手筈になっている」


編成室は普段映画の編集を行う場所だ。監督はスマートフォンを取り出す。


「そんな事をして何になるというんだ。公人を脅すつもりなのか?自分から罪人になりたいのか?」


「それはどうかな。世論は『男の子を泣かした女』っていうだけで幾らでも叩いてくるだろうな~しかも泣いてる男の子が可愛いからな~夜道には気を付けろよ」


「ぐっ……こんなの真実じゃない」


「嘘か本当かは問題じゃないんだよ。『男の子を泣かした女』ってだけでお前の信用はガタ落ちになるんだよ。信用のない人間の言葉なんて誰も信じないだろ?ん?」


監督はわざととぼけた様な顔で喋る。


「はたして組織はお前を守ってくれるのかな?切り捨てられるかもしれないな。お前らの組織と繋がりのある団体にもその映像を送ってやるぞ。幼気な少年を泣かす非道な連中だと思われたらどうなるんだろうな?」


「私たち男性映像倫理委員会は……」


「違う!組織ではなくカロリーヌお前自身に訊いている。組織の為に首を切られるかそれとも賢く立ち回るかどっちだ」


監督がテーブルを掌で叩き真っすぐにカロリーヌの目を見ている。


「くっ……」


カロリーヌは奥歯を噛みしめ苦しい表情で考えている。しばらくしてカロリーヌが力なく応える。


「解った。そちらの要望を聞こう」


「こちらの要望は単純だ。口出しするな撮影許可だけを出せ」


監督が単刀直入に言い放つ。


「一つこちらからの条件があります」


カロリーヌも真っすぐに監督の目を見つめる。


「なんだ、言ってみろ」


監督が腕を組んでカロリーヌの言葉を待つ


「男の子には何かしら衣類を着させてくれるなら許可を出します」


「あ?何言ってやがる。ネットにばら撒くぞ!」


「ただし、衣類の布の厚みには関知しません」


「ん?……」


監督が一瞬何かを考えているようだ。


「なるほど……いいだろう。その条件でこちらは構わない」


「感謝します」


監督とカロリーヌの間で何か通じるものがあったようだ。

監督が自分のスマートフォンをしまう。カロリーヌが席から立ちあがり会議室から出ていき会議室には監督と私、ロア君の三人だけになった。


「凄く良かったよ。私の想像どおりの演技だったよ」


監督がロア君を褒める。やっぱりそういう計画だったのか


「ありがとうございます。でもあの人がなんだか可哀想になってきました」


「いいのいいの、あんな奴ら今まで甘い汁を啜ってきてその罰が当たったんだから」


監督は笑いながら話す。


「あの、監督一つ訊いてもいいですか?カメラで撮った映像はリアルタイムで編成室に送られているって本当なんですか?」


私は気になっていた事を質問した。


「あ?そんな訳ないだろ。確かに映像は記録しているが編集やらアップロードはハッタリさ」


「そんな!?もしばれてたら」


「鼻で笑われてこの映画は頓挫して私の監督人生もジ・エンドになっていただろうな」


あっさりと恐ろしい事を言う監督である。それともう一つ気になることが。


「監督、カロリーヌの条件を飲んで良かったんですか?」


「そうだな。確かに制限があるように感じるが実はそうでもない。カロリーヌの条件は言わば『私は仕事しましたアピール』だろうな」


「へ?それってまさか」


「そう、ヤツは黙認したんだ。裸では駄目だが何かしらの衣類を着ていれば良いと。それはどんなに薄いスケスケの服でも良いという事でもある」


「なるほど、監督の要望を聞きつつ自分の仕事の爪痕を残していったという事ですか」


「そういう事さ。奴もなかなかの曲者さ」


「でも映画を公開した後に男性権利団体から非難されたらどうしましょ」


「その時は僕が監督たちは悪くないって言うから大丈夫ですよ」


ロア君が胸を張って笑顔を見せる。


「素晴らしい。何て頼もしいんだ君を選んだ私の目に狂いはないようだな!」


監督がロア君の頭をまた撫でる。撫でたいだけなのだろうな。


「今日は私のおごりで何か食べに行こう。何か食べたいものはあるかい?」


監督がロア君に優しく問いかける。


「僕は監督の行きつけのお店に行ってみたいです」


「了解した!おいリンダいつもの店に予約いれとけ!」


監督が自分のスマートフォンを投げて渡す。私は監督の行きつけの店の電話番号を探す。きっとスマートフォンの中に登録されているはずだから。


「行きつけの店が解りません!」


私は持っていたスマートフォンを監督に投げ返す。

監督と一緒に食事に行った経験が殆どないのだから解らないのは当然である。

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