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カフェ『フライングパンケーキ』にて

「私にしっかり掴まってね」


私は美少年ロア・グッドール君になるべく爽やかにいやらしい感じを微塵も出さないように指示するとロア君は「はい!」と元気よく答えてくれる。

私達はバイクにまたがりロア君は後ろから私の腰に何のためらいもなく腕を回してくる。

嗚呼、何て素晴らしいんだ。『男の子とバイクで二人乗り』この背中に伝わる感触、夢のようだ。

なるべく安全運転を心がけゆっくり向かう。

カフェ『フライングパンケーキ』にこのまま一生着かなくてもいいとさえ思えてくる。このもどかしさと密着感が二人乗りの醍醐味なのか。

だが、あまりノロノロ走っているとトロい女と思われてしまう。

カフェ『フライングパンケーキ』の看板が見えてきた。もう目的地に着いてしまう、この感触を私は絶対に忘れないだろう。

カフェの駐車スペースにバイクを止め降りる私とロア君。


「凄く近い所にあるんですね。知りませんでした」


私とロア君の身長差は三十センチ程あるのでどうしても上目遣いになってしまう。

それにしても何て綺麗な瞳なんだ、少しの濁りもなく澄みきっている。


「大通りに面してないからね。意外と皆気づかないんだよね」


私は平静を装いながら会話を続けるが内心興奮している。何せ男の子とカフェでお茶をするなんて今までなかったのだ。

私が先に入店し、ガラス張りの観音扉を開き。扉が勝手に閉まらない様に私が抑えておく。私がエスコートする立場なのだからこれが正解のはず。

店内の落ち着いたクラッシックの音楽が聞こえてくる。

この店の特徴はこの落ち着いた雰囲気と絶品なパンケーキなのだ。すると店員の一人が「いらっしゃいませ。お一人ですか?」と言ってきたので「二人です」とはっきりと言う。

店員も最初は理解できない素振りをしていたが、私の後ろにいる男の子を見てすぐに理解した。

無理もない私はこの店の常連だが今まで一人でしか来たことがないのだ。



店員が奥のテーブル席に案内する。案内され席に着席するまでロア君は首を左右に動かし店内を観察している。好奇心旺盛なところも可愛いらしいな。


着席した私たちに店員が二人分のメニューを渡し「お決まりになりましたら、テーブルの上にあるスイッチを押して呼んでください」と言い店員が戻っていく。ロア君がメニューを開き悩んでいる。


「どれも美味しそうだから悩んじゃいますね」


「ここはねパンケーキがおススメだよ」


「そうなんですね。お店の名前にもなってますからね」


ロア君の声が耳に心地いい。耳元で囁いてほしい。


「それじゃあ、パンケーキとミルクティーにします」


良いねミルクティー。

『我はロア君のミルクが欲しい……』私の中の獣が顔を出してきた。

駄目だ!己を律するのだ。何て最低な女なんだ、幼い男の子を性の対象にしている。


「ソフィアさんは何にしますか?」


ロア君が私に質問してきた。


「へ!?私は……ロア君のミル……じゃなくてパンケーキとエスプレッソにするね」


テーブルの上にある円型のボタンを押し店員を呼ぶ。


「パンケーキ二つとエスプレッソ一つそれとミルクティーを一つ」


私がまとめて店員に注文をし「かしこまりました」と返事をし店員が戻っていく。

すると、ロア君が私に唐突に質問してきた。


「あの、雑誌で見たんですけどいつもスタントなしでアクションシーンを撮っているって本当なんですか?」


そういえばちょっと前に雑誌のインタビューでそんな事質問されたな。


「そうだよ、運動するのは好きだしね。あとこの業界ってさ女優が多くなってきて話題性っていうのかな。皆に見てもらうには他人と違う事が出来ないと注目されないからね」


「凄いです!僕運動とか全然ダメなんです。だから尊敬しちゃうなー」


ロア君が目を輝かせて私を褒めてくれる。とても心地がいい。


「ロア君はそんな運動とかできなくても男の子なんだから気にすることないよ」


これはお世辞でも何でもない。この業界は男子タレントというだけで仕事には困らないのだ。ロア君もデヴューすればあっという間に売れていくだろう。約束された勝利の剣と言っていいだろう。


「え?そうですか?でも話題性はあった方がいいと思うんですけど」


ロア君は話題性なんて考えなくてもいいのに、まだ解らないんだろうなあ……。

男の子なのに全然我儘言わないし、初対面の女性にもほとんど警戒してない。性格は温厚で素直な美少年なんて新聞の一面を飾っても不思議じゃないんだよ。





数十分後、私たちのテーブルに店員がパンケーキと飲み物を運んでくる。「お待たせしました。注文は以上ですね」と言って伝票を置いていく。


「パンケーキ来たから食べてみて?」


「はい」


私はパンケーキを食べるロア君を眺める。

ロア君はナイフとホークでパンケーキを切り分け一口サイズにしてから口の中へ、すると私の中の獣がまた顔を出してきた『嗚呼、パンケーキになりてぇよ……』また私は何を考えているんだ。帰ったらウエイトトレーニングだ。この歪んだ精神を叩き直さねば。

私は自分の中にいる獣を悟られまいとエスプレッソを一口飲む。


「これとっても美味しいです」


ロア君が満面の笑みで私に言う。


「でしょ~私もお気に入りなんだ」


「美味しいから食べ過ぎちゃいますね」


ロア君は早いペースでパンケーキを食べていく。気に入ってくれたようだ。これを次回の布石にしよう。


「そういえばあのマローン監督が私に電話してきて君の魅力をずっと喋ってたよ」


「僕の事を?」


「そう、すごくピッタリな男の子がいたって滅茶苦茶褒めてたよ」


「そんなあ……僕なんて」


ロア君が少し照れた表情で俯く。その姿とっても素晴らしいと思うよ。


「何せ一番大事なキャスティングが決まらないってマローン監督はずっと悩んでたし」


「そうなんですか」


「今回私が主役に選ばれた時から半年は経ってるかな。ロア君以外のキャスティングは全て決まっているのにいつまでも撮影が始められなかったんだよ」


「そんな事が……」


「私も一目見て今回の映画にピッタリだなって思ったよ」


「えへへ……ありがとうございます」


照れ隠しに笑うところは最高だよ鼻血が出ないか心配になってきたぞ。


「僕もこの『流浪のエルフ』の原作を読んでヒロイン役はソフィアさんにとっても合うなって思いました。活発なんだけど冷静なところとか凄くカッコいいと思います」


「やめてやめて……褒められるの慣れてないから困るよ」


私は顔が熱くなるのを感じ、赤くなる顔を誤魔化すためにエスプレッソを飲む。


「あとこの物語って僕とソフィアさんがずっと一緒に旅をするんで、他の人たちよりも仲良くないといけませんよね」


「そうだね、こういうのはお互いの信頼関係が作品にも影響しちゃうと思うし」


私の中の獣が吠える『堪らねぇぜ、この子にむしゃぶりつきてぇよ』冷静を装いエスプレッソをもう一口飲む。こりゃあ駄目だ飛び切りきついトレーニングをしよう。

ロア君はパンケーキを食べながらこれからの映画撮影について質問をしてきた。


「あとどれくらいで撮影って開始されるんですか?」


「うーん多分色々準備して二週間後ぐらいかな、撮影が始まったら忙しい思うけど」


「あ!僕学校どうしよう土日だけじゃ撮影しきれないですよね?」


少し不安そうな顔になるロア君。


「それは大丈夫だと思うよ。製作会社の方から学校に連絡して出席日数に支障が出ないよう調整してくれるから」


「よかったー」


安心したようで何よりだ。それから数時間、私たちは会話を楽しんでいると日が暮れ出しカフェの駐車場にロア君のお母さんが乗っていた車が現れていた。楽しい時間はあっという間に過ぎていくもの。


「ロア君そろそろ日が暮れちゃうから帰ろっか?お母さんも迎えに来てるし」


「ふぇ?あっ本当だいつの間に来たんだろう」


ロア君が椅子から立ち上がる。


「ありがとうございました。色んな話が聞けて楽しかったです」


「うん。私もすごく楽しかったよ」


「そうだ、お会計しないといけませんね」


ロア君は制服のポケットから財布を取り出す。


「ちょっと待ってロア君。君は何を出そうとしているのかな?」


「パンケーキとミルクティーのお金を出そうかと」


不思議そうな『何を解りきった事を言っているのか?』という顔である。


「そんな事しなくていいから!お財布を仕舞って」


危ない所だった。男の子と一緒にカフェに来て割り勘にさせたとなったら世間の笑いものだ。


「私が全部払うからね」


「え?でも悪いですよ僕も払いますよ」


そんなの絶対にさせない。もしここで払わせたらいつかマスメディアにリークされてネットで私は袋叩きにされる。

『ソフィアってダサすぎるわ』

『脳筋だからそこまで頭が回らなかった説』

『小さな男の子と割り勘とか引くレベル』…等々もう取り返しがつかなくなるだろう。


そして、私の印象はどケチな女優になり好感度は間違いなく地に落ちる。


「お願い払わせて!私を社会的に抹殺しないでください」


私の必死さにロア君は驚いていた。


「そこまで言うのなら解りました。お会計はお任せします」


ロア君が笑顔で許可してくれた。よし気が変わらないうちに早く払いに行こう。この子は危険だ。恐ろしい事をしてくる。

私たちはカフェを後にしロア君は駐車場に止めてある車に乗り込み帰って行く。

私はそれを見送った後トレーニングジムに向かう。私の中にいる獣を叩き直すために。


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