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夏と僕

作者: 碧水

ああ。また夏が来た。


あのどうにも形容し難い吐き気のするむさ苦しい夏が。太陽の光が僕の身体を焦がすように突き刺さってくる。汗が全身にまとわりつき不快感を与える。


ああ。だから、夏は嫌いだ。


炎天下の中で立ち止まり僕はため息を吐く。そんな僕とは裏腹に今日も城下町は賑わっている。人々は絶え間なく行き交い止まることを知らない。騒がしくも愛おしいような雑踏。その中に僕は居ない。そしてーーー


僕は酷い疎外感に襲われる。まるで僕だけがあの夏に取り残されてしまったようなそんな孤独。呼吸が荒くなってうまく息が吸えない。喉が渇いて渇いて仕方がなうい。

ああほら西瓜売りの声が聞こえる。喉の渇きを潤すには丁度いいじゃないか。僕は重い足を上げ声の方へ歩いていった。





「いや〜お客さん。酷い顔色ですな。大丈夫かい?今日も暑いからね〜でもうちの西瓜を食べればきっと元気になるよ。」



西瓜を買い僕は渇きをすようにかぶりついた。赤く熟れた実が舌の上に乗れば、程よく冷えたみずみずしく甘い汁が喉を伝い徐々に渇きを潤していく。


そう、キミは僕の潤いだった。

・・・うっ…うっ…

思わず嗚咽が漏れた。日だまりのようなキミを。夏が似合うキミを。暖かいキミの笑顔がチラついて。いつでもキミは僕を癒してくれた。怒っていてもケンカしていてもキミの存在が僕の支えだった。生きる活力だった。


喉は、体は潤ってる筈なのに渇いて渇いて仕方がない。あの日から僕の心は空っぽで、キミとの思い出を思い出す度夏が来る度心が乾く。



「お客さん…!大丈夫かい?!うちの西瓜がどうかしたかい?」


…?

頬に一筋の生暖かい液体が伝った。

相変わらず暑い。また汗が出てきたのだろうか。西瓜の汁でベトベトになった手で拭う。だがそれは拭っても拭っても止まる気配はない。


ああ。僕は泣いているのか。


心は渇いて渇いて仕方ないのに、まだ泣けるだけの水分が身体に残ってる。キミが隣にいなくても僕は此処で生きてる。


涙を吹き飛ばすように僕は西瓜を頬張った。汁が垂れるのも店主が心配そうに見ているのも気にせずかぶりついた。

…甘い。僕の涙で甘さが際立つそんな気さえする位に、嫌味な程に甘い。


もうあれから4年が経つ。

もうキミのことを忘れなければいけないのかもしれない。前を向いて進まなければいけないのかもしれない。


それでも---


それでも僕はこうしてキミを想う


僕の空いた心はキミを求めて


だからもう少しもう少しだけ


此処でキミを待ってる






かなり季節外れですが、夏と城下町と西瓜をテーマに書きました。解釈は皆様にお任せします。拙い文章ご精読いただきありがとうございましたm(_ _)m

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