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名探偵・藤崎誠シリーズ

シンプル イズ …わをん

作者: さきら天悟

「この部屋、…わをん」


今人気の女子高生モデルが、芸人の部屋の映像を見て叫んだ。


「そうしき~」



大御所俳優Uは眉間にシワを作った。

深く、首を少し傾け、カメラに映るように。


「そうしき?総指揮ってなんだ」


Uは高い声を張った。



「モノトーンのことです」


昔スキャンダルを起こした女性タレントがフォローする。


その部屋は白と黒の調度品で統一されていた。



「ああ、葬式の白黒か」


大御所俳優Uは眉間のシワを少し緩めて、二度頷く。

しかし、女子高生モデルに鋭い目で問うた。


「ワヲン?」



外見とは異なり女子高生モデルはバカではなかった。

Uの意図をすぐに読み取った。


「東京オリンピック、…わをん」



Uはカメラに向かって小さく両手を上げ、

お手上げを示した。



「わをん、って」

と女性タレントが解説を買って出る。


「昔でいうなら、『ざんねん』とか『イケてない』です。

もっと前なら『ダサい』という意味も含んでいますね」

女性タレントは納得していないUを見て、続ける。


「…わをん、つまり、もう先がない、終わっている、

という意味です。

東京オリンピック、…わをん、というのは、

実際に東京オリンピックが終わったのと、

最初からケチがついた東京オリンピックがダサかったのをかけてるんです」



女子高生モデルはUに微笑んだ。



Uは首をひねり、また眉間のシワを深くした。


「でも、じゃあなんで、あの部屋が終わってるんだ。

物が無くて、シンプルでいいじゃない?」



「びんぼう~」

女子高生はすぐに返した。





2022年、ある一つの概念が変わったことが定着していた。

それは、『シンプル イズ ベスト』である。

シンプルはお洒落ではない、という意見がメディアに蔓延したのだった。


「お洒落はとがってないと、ダメ」

「沖(置き)にいってる~」

「攻めてない」


とテレビ、雑誌で評された。


逆に、モノがあふれた部屋がお洒落だと言われた。

とは言っても、色彩豊かなモノがぎっしりと整然と壁を埋め尽くしている部屋だった。

その中でも、和モノが置かれた部屋はハイセンスだと評された。

漆モノ、陶磁器などが特にである。

お洒落をアピールする芸能人は、競って自慢の色彩溢れた部屋をネットにアップした。


その動画を見て、総理は微笑んだ。

実は、これは彼が仕掛けたものだったのだ。





6年前の世界恐慌が原因だった。

イギリスのEU離脱は世界に深刻な経済ダメージを与えた。

当時、財務大臣だった太田は、官僚時代の同僚の藤崎誠に相談したのだった。

藤崎誠と言えば、今までいくつものトラブルを解決した名探偵である。


「金をかけない方法がある」

と藤崎は切り出した。


「内需を拡大するんだ」


太田は話を聞き終り、大きく頷いた。




もう分かるだろう。

『シンプル イズ ベスト』の概念の破壊を提案したのは藤崎だった。

これに芸能人が乗ったのだ。

その中に藤崎の世話になった者もいた。

彼らは率先して最近なモノを取り入れ、ネットにアップした。

それに多くのネットユーザーが触発された。

このお蔭か、日本の景気は各国より落ち込まなかった。

なかでも日本の伝統産業はその作戦に救われた。

こうして二年前に、太田は総理大臣に押し上げられたのだった。


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